丸亀製麺の店長、新入社員に4カ月で「いきなり任せ」、パートからも道。育成は現場から
コロナ禍で世界的に不安定な情勢の中で、日本から世界への扉を開き続けたのが丸亀製麺です。2021年7月には、英国ロンドンに1号店をオープンし、欧州展開の本格化を発表。同年の英国の飲食メディア『Big Hospitality』のトレンドトップ10にランクインし、「うどんは必ず英国に根づく」と絶賛されました。
一方、国内でも2020年の緊急事態宣言下でうどんのテイクアウトを開始。翌年4月には、店外飲食に適した「丸亀うどん弁当」を販売し、緊急事態宣言下の人々を食で支 え、発売後9カ月で累計1700万食を超える大ヒットをしました。
コロナ禍で外食の存在意義や産業構造を変えてしまうほどの打撃があった中、丸亀製麺のバリュー(行動指針)である「食の感動体験を届ける」ことにまっすぐでいられたのはなぜか――。キーパーソンたちの言葉をもとに、丸亀製麺の進化と「企業の生き様」を探ります。
充実した研修制度で人材を育てる
丸亀製麺には、顧客の小さな幸せのため、感動体験のために、自ら考えて動ける社員を教育し、育てるしくみがあります。営業支援統括部の統括部長である宇治川智大氏に聞きました。
宇治川 「社員になるとまず4カ月間、研修を行います。当社の熱い思いを伝えるのはそのうち2日くらいで終わり、そこからは各地の教育店舗で、丸亀製麺とは何なのか、バリューをどう現場で体現していくのかを伝え、現場のマネジメントの仕方を習得していただいています」
マネジメント力をつけるのも、この4カ月。
「実際にマネジメント経験を研修の中で積んでもらっています。たとえば、研修3カ月目の人が1カ月目の人を教える場を作ることで、インプットとアウトプットを同時にできます。インプットしたことを自分の中に根付かせながら、マネジメント経験を積み重ねることができるようになっています」
4カ月後には店長試験があり、パスすれば店長として各店舗に配属になります。当然、店をマネジメントしていくことになるのですが、あえて「いきなり任せる」ことで、自ら考えて行動する人材が育ちます。その羅針盤になっているのがバリューであり、本部のサポート体制です。
店舗の隅々にまで染み渡るバリュー
店舗で働くパートナースタッフ(店舗で働くアルバイトやパート)の人材育成にも力を入れているという丸亀製麺。アルバイトやパートの求人は本部で一括管理し、丸亀製麺のバリューに共感し体現してくれる人のみを採用しているといいます。
「面接の際には『効率重視ではなく、お客様のために手間ひまをかけることを大切にしているから、現場は本当に楽ではないし、大変ですよ』としっかり話します。お互いの価値観に開きがあると、それはお互いにとってマイナスになりますから。楽な仕事だと誇張はしません」
本部だけでなく、1店舗1店舗が意思を持ち、顧客のために行動していくために、社員だけでなくパートナースタッフにもバリューの浸透に力をいれているといいます。
「まだまだ共有できていないと思うことのほうが多いです。できるだけ、現地に行ってOJTを行いつつも、WEB上で1on1ミーティングの機会を設けるなど常に工夫を続けています。店舗にはベテランさんがいて、新人さんがいて、外国人の方もいる。多様化する店舗の中に、どう浸透させていくのかが課題です」
地元を知るスタッフが地域に根付く店をつくる
この課題をクリアするために必要なのが、パートナースタッフが「この店で働けて嬉しい」と生きがいに感じてもらえる店舗づくりと、制度だといいます。
小野 「丸亀製麺のオープンキッチンで働く多くの方は、中高年の『おじちゃん』『おばちゃん』と呼びたくなるようなパートナーさんたちです。特に40歳以上の地域の方に活躍していただいています」
そう語るのは丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスの総務部長兼企画室IR担当の小野正誉氏。
丸亀製麺を創業した社長の粟田貴也氏には「地域の店舗は、その地域の人に守ってもらいたい」という強い思いがあり、特に、中高年のスタッフの存在とスキルを、昔から、非常に大切にしているといいます。
「割烹着を着た、地元の中高年パートナーさんだからこそ、気づくことができる地域の情報があります。『来週あの学校の運動会があるからお客さんが増えるよ』『お祭りがあるから、たぶん今日は暇やで』というような具合です。常連のお客様の体調の変化にもすぐに気づいてくれます」
地元の人に店を任せることが結果的に地元の方々へのホスピタリティにつながる。さらに、中高年のパートナーが積んできた人生経験やビジネスの経験がそのまま現場に活きていきます。
中高年スタッフがやりがいに出合う場所
「私自身も、店に配属されたときに熟練のパートナーさんに調理を指導していただきました。長年主婦をされている方の天ぷらやおむすびの握り方は絶妙ですし、年配の男性の製麺する姿は力強い。まさに職人技でしたし、誇らしげに仕事をされている姿が店に活気を生んでいました」
中高年のスキルを高く評価し、登用していくことで地元の雇用も確保でき、地域の元気を生み出しています。その中心にはいつも、ゆでたてのうどんとおいしい天ぷらがあるわけです。
昔は、地域に根付く食の行事は、その地域のおじちゃん、おばちゃんたちが担っていました。丸亀製麺の店舗に足を踏み入れたときに感じる安心感は、地域の中に自分の居場所を体感できるからなのかもしれません。
店舗スタッフに用意されたキャリアパス
宇治川 「我々が人材を育成する中で、最初の2年が重要だと考えています。これまでの統計では、2年以上勤めた人は、その後長く勤めてくれる傾向があるのがわかっています。2年のうちに、仲間意識が芽生えて、やりがいのある仕事と愛着、居場所ができていっているのだと思います」
必然的に、これからの人材育成のターゲットは2年未満でやめてしまうスタッフさんになるわけですが、やる気の持続とやりがいを見つけてもらうしくみについても整備が進んでいるといいます。
その一つがPS制度です。PS=パートナースタッフが各ポジションの資格取得者、トレーナー、時間帯の責任者などに昇格、昇給することができ、最終ゴールがPS店長となるのだそうです。
「丸亀製麺の特徴として、パートナー店長が活躍する店舗がいくつもあります。雇用形態としてはパートですが、一つの店舗の長として店を切り盛りし、スタッフの指導に当たってくれています。また、エリアや店舗限定で正社員になれるキャリアパスも整っています」
今期だけでも、30人のパートナー店長が誕生し、さらに店舗限定の正社員登用は52人にも上っているそうです。