安倍氏銃撃「真犯人は別にいる」…ネットでいまだくすぶる陰謀論、背景を探る

安倍氏銃撃「真犯人は別にいる」…ネットでいまだくすぶる陰謀論、背景を探る

 安倍晋三・元首相(当時67歳)が昨年7月、奈良市で銃撃されて死亡した事件を巡り、根拠のない言説がネット上でくすぶっている。無職山上徹也被告(42)が殺人罪などで起訴されているが、「真犯人は別にいる」と唱えるもので、現場にいた人を「怪しい」と名指しする動画も拡散する。背景に何があるのか。

断片情報から憶測

 <暗殺の首謀者判明>

 ユーチューブで公開され、10万回以上再生されている動画のタイトルだ。

 安倍氏が演説中、大きな発砲音が響き、背後で白煙が上がる映像はネット上に多数残っている。

 この発信者は、こうした映像を編集し、「現場近くの建物の上に別のスナイパーがいた」と繰り返している。

 また、山上被告による発砲について、「音声を調べると空砲だった」という別の人物の投稿も拡散した。

 山上被告はおとりで、真の狙撃犯は外国の諜報(ちょうほう)組織の手下だ。その真実を警察が隠している――と主張するのが特徴で、賛同のコメントが無数に付いている。

 現場で映っていた聴衆や地元議員らを不審者扱いしたり、議員の名を挙げて「諜報組織の協力者で、証拠隠滅をしている」と非難したりする動画もある。この議員は読売新聞の取材に「事実無根で許しがたい」と憤る。

 発端は、事件直後の断片的な情報からSNSなどで広がった臆測だった。

 安倍氏の搬送先の病院では医師が記者会見し、首の銃創の位置に言及している。司法解剖の実施前で、正確な状況が確認されていない段階だったが、「弾の方向と合わないのでは」との疑問もSNSで拡散した。

認知のゆがみ

 それがなぜ、飛躍した見方につながるのか。

 東京女子大の橋元良明教授(情報社会心理学)は、誰もが持つ価値観や固定観念などによる「認知のゆがみ」が関係しているとみる。

 人間は、怒りや悲しみなどの感情を刺激される事象があり、強い関心を持っているにもかかわらず、不明確だと感じる部分があると落ち着かない。その部分を埋め合わせようと極端な解釈をすることがあるという。

 銃撃事件後は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏との関係が背景として指摘された。橋元教授は「安倍氏が批判されるのを好ましく思わなかった人の一部に、『別の真相がある』というストーリーが受け入れられやすかった可能性がある」と話す。

情報開示のあり方課題

 重大事件を巡る刑事司法の情報開示のあり方も課題として浮かぶ。

 過去にも歴史に残る事件事故では陰謀論が生まれており、米国では1963年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件にCIA(米中央情報局)などが関与したとする説を支持する人が今も少なくない。

 日本でも、97年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件では「真犯人が別にいる」という話を強く信じる人がいた。85年の日航ジャンボ機墜落事故を巡っては「米軍が撃墜した」とする説が、今でも語られ続けている。

 安倍氏銃撃事件の場合、捜査関係者によると、山上被告が撃った弾丸が安倍氏の首に命中したことは複数の防犯カメラ映像の解析で確認されているという。3D映像による再現実験もしており、「第三者の関与」は否定されている。

 だが、こうした詳しい内容を捜査当局が公判前に発表することはほとんどない。「捜査への支障」が理由で、今回の奈良県警や奈良地検も同様だった。裁判員裁判が始まっても全ての証拠が開示されるわけではない。争点を整理し、審理する証拠を絞る公判前整理手続きも通常は非公開だ。

 米国では事件直後や容疑者の起訴後、防犯カメラ映像や詳細な捜査資料がウェブサイトなどで公開されることが珍しくない。

 刑事司法の情報公開のあり方に詳しい塚原英治弁護士は「事実がブラックボックスになっている期間が長いと、陰謀論が広がりやすい。SNSが普及した現代は、司法への不信を招くリスクが高まっている。捜査への支障との兼ね合いはあるだろうが、国民的議論になるような重大事件はできる限り事実を明らかにし、裁判過程も透明性を高めるべきだ」と指摘する。

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