マスク着ける?外す?…「周囲の目」ではなく、多様な意見に触れ「自分で判断」

マスク着ける?外す?…「周囲の目」ではなく、多様な意見に触れ「自分で判断」

 新型コロナウイルス禍でマスク生活が始まって3年余り。政府は3月13日、マスクの着用は「個人の判断に委ねる」と目安を緩和しました。しかし、1か月たってもマスクを外して街中を歩く人は多くありません。皆さんは外出時、マスクを着けますか? 外しますか?

 A論か、B論か。多様な意見に触れて「情報的健康」を保ちましょう。

[A論]マスク「続ける」…同調圧力に負けて

 マスクを着け続けている人には「周囲の目」が気になる人が多いようです。

 埼玉県春日部市の会社員(62)は「マスクは息苦しいから外したいけど、同調圧力に負けて外せない」と話します。散歩の時は外しますが、マスク姿の買い物客が多いスーパーでは着けています。「ノーマスクで注意された人を見たわけではないけど、何か言われても嫌だから」

 日本で脱マスクが進まないのは、集団内で多数派に合わせて行動するよう強制する「同調圧力」の強さが指摘されています。読売新聞社が1~2月に行った全国世論調査では、周囲の人がマスクを着けていれば自分も着けなければと「感じる」人は、「どちらかといえば」を含めて83%に上りました。

 中谷内一也・同志社大教授(社会心理学)は「新型コロナは、他人にうつしたり、自分がうつされたりするため、他人の行動が余計に気になってしまう」と説明します。着用の明確な目安がなくなったことで、「他人の行動」を判断のよりどころにするケースが目立ちます。中谷内教授は「逆に言えば、外す人が一定割合を超えれば、脱マスクが一気に進むのでは」とみています。

 とはいえ、「感染が心配」という人も少なくありません。昨年末に感染したという東京都台東区の福祉施設職員(25)は「39度の高熱が出て、1か月くらい体がだるくてつらかった。二度と感染したくないので、これからもマスクを着け続ける」と強調します。

 脱マスクが一気に進んだ欧米との違いをコミュニケーション面から分析するのは中央大の山口真美教授(認知心理学)。日本人は「目元」で、欧米人は「口元」で相手の表情を読み取る傾向が強いそうです。日本人は、マスクで口が隠れていても「コミュニケーションをとる上での違和感は小さい」と指摘します。

「素顔隠す」依存恐れ

 思春期の子どもの中には、素顔を見せることに抵抗を感じる子も少なくないようです。学校現場では今月から着用を求めないことが基本となりましたが、着け続ける子の姿が目立ちます。「友達に素顔を見られるのが恥ずかしい」という声も聞かれます。

 精神科医の反田(そりた)克彦さんによると、マスクへの依存度が高まると、自分の容姿が醜いと思い込む「醜形(しゅうけい)恐怖症」につながる恐れもあるそうです。反田さんは「マスクを外そうかどうか迷っている人もいると思うが、時間がたつほど外しにくくなる。今のうちに外す場面を増やしていったほうがいい」と話しています。

[B論]マスク「外す」…酸素増えて集中力

 脱マスクが進む教育現場や職場からは「息苦しさがなくなり、集中力が上がった」と歓迎の声が上がっています。

 法政大4年生(21)は「マスクは息苦しく、耳が痛いし、眼鏡は曇るし、散々だったけど、ようやく授業にも集中できる」と話しています。

 マスクの内側は、酸素の量が少なくなりがちです。着けていない時と比べて酸素は13%減り、二酸化炭素が30倍に増えるとの海外の研究結果もあります。

 東京女子医科大の清水俊彦客員教授(脳神経外科)は「マスク内にたまった二酸化炭素を吸い続けると、脳内の血管が広がり、頭痛や集中力の低下につながる」と話します。

 脱マスクは、コミュニケーションを円滑にするメリットもあります。

 着用を社員の判断に委ねた大手商社「伊藤忠商事」(東京)では、ノーマスクの社員が増えています。社員(26)は「職場では、会話する時もマスクを外している。同僚の声が聞き取りやすく、表情も見えるので、チームワークも向上した」と言います。

 「青鳩ともだち保育園」(東京都葛飾区)では3月13日以降、子どもだけでなく、保育士も「マスク不要」としました。園長(29)は「子どもたちが保育士の口元を見るようになり、表情が豊かになった」と手応えを感じています。

 京都大の明和政子教授(発達科学)は「視覚や聴覚に関係する脳の場所が大きく発達するのは、生後すぐから小学校に入る頃まで。相手の表情や声をまねしながら社会生活に必要な能力を育んでいく大切な時期だが、マスク姿では難しい」と、着用による発育への影響を心配しています。

感染状況に要注意

 マスクを外す人が増えれば、感染者数の増加も見込まれます。感染症に詳しい東京医科大の浜田篤郎・特任教授(渡航医学)は「一定程度の感染は社会として受け入れていく必要がある」と話します。

 感染するとコロナに対する免疫が高まり、しばらくの間は再び感染する可能性が低くなるとされています。厚生労働省が今年2月、献血で採取した血液を調べたところ、4割の人が感染による抗体を持っていました。浜田特任教授は「コロナ禍当初と比べれば、大きな流行が起きにくくなっている」と話します。

 ただ、感染すれば重症化しやすい高齢者が人口の3割を占めていることを忘れてはいけません。浜田特任教授は「感染が急拡大した時はマスクを着けるなど、周囲を気遣いながら個人で判断する力が求められます」と話しています。

着用、今も6割近く

 国内では、今回のコロナ禍で、マスクの着用が法律で義務づけられたことはありません。政府は、着用の「目安」を国民に示して呼びかけてきました。

 昨年5月には、政府は「屋外は原則不要」などとマスクを外せる場面を明確にしました。さらに今年3月13日には、目安を大きく緩和して着用を「個人の判断」に委ねました。5月8日に新型コロナの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げることを見据え、マスクだけ先行して緩和した形です。

 今の目安で着用を推奨するのは▽医療機関や高齢者施設の訪問時▽混雑した電車やバスの乗車時――などに限っています。

 しかし、街中では今もマスク姿の人が多数を占めています。

 仲田泰祐・東京大准教授と高久玲音(れお)・一橋大准教授が20~79歳の男女1000人を対象に行っている調査では、人通りの少ない街中でマスクを「常にしている」「おおむねしている」人の割合は、目安の緩和前は6割を超えていました。緩和後は少し減りましたが、それでも今月上旬の時点でまだ6割近くに上っています。

 高久准教授は「外したいけれど感染状況や周囲の目が気になる人が多いのでは」と分析しています。

 コロナ禍では、マスクを着けていない人を過剰に責め立てる「マスク警察」と呼ばれる動きもありました。マスクに対する感じ方や考え方は人それぞれです。幅広い情報を得て「他者の判断」を尊重する姿勢が求められます。(社会部 伊藤崇、矢野誠)

[情報的健康とは?]偽情報に「免疫」

 インターネットには膨大な情報が流れていますが、利用者はその全てに触れることはできません。SNSでは、利用者に関心のありそうな話題や同じ意見ばかりが表示され、知らぬ間に考え方が極端に偏ってしまうことが心配されています。

 極端に偏った食事や暴飲暴食をしていては、健康が損なわれてしまいます。同じように情報もバランスよく摂取しなければ、フェイクニュース(偽情報)などの悪影響を受ける恐れがあります。

 多様な意見に触れ、偽情報への「免疫」を得た状態を〈情報的健康〉と呼びます。鳥海不二夫・東京大教授(46)と山本龍彦・慶応大教授(46)が提唱した考え方です。

 「The論点」では次回から、情報的健康に役立つ関連のキーワードを紹介していきます。

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