トランプ氏「政治的迫害」と民主党に矛先 「しっぺ返し食う」
トランプ前米大統領(共和党)は30日、ニューヨーク・マンハッタン地区の大陪審がトランプ氏の起訴を決めたとの報道を受けて、「政治的な迫害であり、歴史上最も大きな選挙干渉だ」と批判する声明を発表した。「米大統領経験者であり、(2024年の)大統領選の共和党の最有力候補でもある政敵を罰するため、司法制度を武器として使うなど過去に一度も起きたことはない」と民主党に批判の矛先を向けた。
今回の起訴内容は明らかになっていないが、トランプ氏は捜査を主導した民主党の地区検事(公選職)が「ジョー・バイデン(大統領)のための汚れ役」を担ったと指摘した。さらに「魔女狩りをしたことで、ジョー・バイデンは大きなしっぺ返しを食らうと信じる。米国民は極左の民主党がしていることを正確に認識しただろう」と主張した。
◇大統領選出馬は撤回しない考え
トランプ氏は、20年大統領選の結果を覆すために違法な干渉をしたり、公文書を私邸に違法に持ち出したりした疑惑でも捜査を受けている。しかし、仮に起訴されても、24年の大統領選への出馬は撤回しない考えを示している。法律上は、刑事事件の被告の大統領選出馬を制限する条項はない。
トランプ氏を起訴、米大統領経験者で史上初-4月4日にも法廷召喚へ
トランプ前米大統領は30日、2016年大統領選期間中の元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんへの口止め料支払い指示を巡り、ニューヨーク州の大陪審に起訴された。事情に詳しい関係者2人が非公開情報であることを理由に匿名で明らかにした。トランプ氏の弁護士は、同氏が4月4日にも法廷に召喚される見通しだとしている。
トランプ氏の起訴は米国の司法および政治において歴史的な出来事であり、既に二極化している社会と有権者のさらなる分断につながるのは必至の情勢だ。
米大統領を務めた人物が起訴されるのは初めて。トランプ氏はダニエルズさんへの口止め料支払いを隠蔽(いんぺい)するのに果たした役割について捜査対象となってきており、ニューヨーク州マンハッタン地区のブラッグ検事の下で検察が立件に向けた作業を進めていた。
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トランプ氏(76)は起訴を受けた声明で、「これは歴史上、最高レベルでの政治的迫害と選挙介入だ」と主張した。同氏は自身に対する過去2回の弾劾訴追に今回の件をなぞらえ、「米国を再び偉大にする運動」を破壊しようとする民主党による新たな試みだと論じた。
トランプ氏の弁護士、ジョー・タコピナ氏は前大統領起訴については30日午後にブラッグ検事の事務所から通知を受けたと説明。タコピナ氏は「もちろんわれわれは失望しているが、今回の起訴に速やかかつ激しく闘い、この件で正義を追求する」と述べた。
ブラッグ検事の報道官、ダニエル・フィルソン氏にトランプ氏起訴に関するコメントを求め、ボイスメールにメッセージを残し電子メールも送ったが、返答は得られていない。ホワイトハウスはコメントを控えた。
ブラッグ検事の事務所は、未公表の起訴内容を巡り、罪状認否手続きを調整するため、トランプ氏の弁護士と連絡を取り合っているとする声明をツイートした。
トランプ氏がマンハッタンにあるニューヨーク州地裁を訪れる際には、他の刑事被告人と同様に指紋を採られ、顔写真を撮られることになるだろうと、裁判所の当局者はコメントした。
トランプ氏はこのほか、20年大統領選で敗北したジョージア州での投票結果を覆そうしたとされる問題について、アトランタ地区検事の捜査を受けているのに加え、大統領任期終了後にホワイトハウスの機密文書をどう取り扱ったかなどに関し、連邦の独立した特別検察官が監督する刑事捜査の対象ともなっている。同氏はこれら3つの捜査を党派的な復讐(ふくしゅう)だと批判している。
ニューヨークでの起訴では、ダニエルズさんへの支払いの記録をトランプ氏と同氏の会社が改ざんしたとされている。前大統領の元顧問弁護士として「フィクサー」とも呼ばれたマイケル・コーエン元受刑者が、トランプ氏と不倫関係にあったとされるダニエルズさんに口止め料として13万ドル(現行レートで約1730万円)を支払い、トランプ・オーガニゼーションの払い戻しを受けたという内容だが、前大統領は不倫関係の存在と支払いへの関与を否定している。
トランプ氏は既に24年大統領選への出馬を正式表明している。今回のような刑事事件での起訴によっても、また仮に有罪の評決となったとしても、出馬したり大統領選に勝利した場合に職務を遂行したりする資格を失うことにはならない。
トランプ氏は先に、自分が起訴されれば「死と破壊」を招くと警告していた。
ペンス前副大統領はCNNとのインタビューで、トランプ氏の起訴に「憤り」を感じるとし、多くの人々が政治的迫害と見なすであろうとの考えを示した。
トランプ氏の「口止め料」疑惑とは 「有罪とは限らない」の指摘も
トランプ前米大統領が、ニューヨーク州でマンハッタン地区検察官の捜査の末に起訴された。焦点となる元ポルノ女優への「口止め料」をめぐる疑惑とは何か。大統領経験者が刑事被告人になるという前代未聞の裁判は今後、どう進展するのか。
検察側は、トランプ氏と不倫関係にあったとされる元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ(本名=ステファニー・クリフォード)氏に対する13万ドル(1700万円)の「口止め料」をめぐって捜査を続けてきた。2016年の大統領選の途中で、トランプ氏の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が払い、さらにトランプ氏がコーエン氏の支払い分を補塡(ほてん)した構図だ。これが違法な選挙献金だった可能性が指摘されている。
「口止め料」の存在は、18年には明らかになっていた。トランプ氏とたもとを分かったコーエン氏は連邦捜査当局との司法取引に応じ、選挙資金法違反のほか脱税などの罪を認め、18年12月に禁錮3年の実刑判決を言い渡された。この際、検察側は「トランプ氏の指示によって支払われた」という趣旨の書面を裁判所に提出しており、実質的な「共犯」だと主張した。
ただ、トランプ氏の刑事責任が問われることはなかった。米司法省には「現職大統領は訴追しない」という内規があり、トランプ氏が21年に任期を終えてからも、連邦検察当局が捜査をした様子はうかがえない。
今回、マンハッタン地区検察官はコーエン氏が有罪を認めた連邦法ではなく、ニューヨーク州法に違反したとしてトランプ氏の起訴に踏み切った。どのような形で違法性を立証するかは不明だが、現在は刑期を終え、トランプ氏を批判する立場のコーエン氏の供述が重要になるのは確実だ。
コーエン氏は過去にも「ウソをついてきた」と認めた経緯があり、トランプ氏側が証言の信用性をめぐって争うのは必至だ。また、複雑な法解釈が必要になるため、米メディアからも「有罪になるとは限らない」と指摘が出ている。
トランプ氏をめぐっては、主要なものだけでもほかに三つの疑惑がある。21年1月6日に支持者が連邦議会議事堂を襲撃した事件への関与と、大統領から退任後にフロリダ州の私宅に機密文書を持ち出したことについては、司法省が指名した特別検察官が捜査を続けている。さらに、ジョージア州では地元の地区検察官が、20年の大統領選の選挙結果を覆そうとした事件について捜査している。
これらの捜査がいつごろまでかかるかは、明らかでない。ただ、大統領在任中の行動に直接関わっているだけに、影響が「口止め料」をめぐる事件より重大だとの見方がある。