500万と1000万の高級時計、なぜそんなに価格差が出るのか…? 時計選びの「極意」を山田五郎が伝授する
より正確で安価なクォーツ式が普及したにもかかわらず、高価な機械式腕時計の虜になる人が後を立たないのはなぜなのか。
コロナの渦中も、むしろ売上を伸ばした高級時計人気の秘密と歴史、その本当の価値、選び方、買い方や心得について、時計マニアの評論家・山田五郎さんが、独特の視点で鮮やかに解説する。
名画をおもしろわかりやすく解説したYouTubeチャンネル『山田五郎 オトナの教養講座』も、あっと言う間にフォロワー48万人超え。評論・解説の確かさに定評のある評論家・山田五郎さんは、じつはAHS(イギリス古時計協会)、GPHG(ジュネーヴ時計グランプリ)アカデミー会員であるほど時計の知見も非常に高い。
そんな五郎さんが、小学生時代以来、愛してやまない時計人生の集大成をまとめたのが、『』(講談社選書メチエ)。この記事は、その本からの抜粋で構成したものです。
雄大なる「時計」の歴史
人は空間を目で見ることはできますが、時間は直接知覚できません。だから時間の経過を目に見える空間上の変化に置き換えて計る道具、つまり時計を作りました。人類が文明を築く上で、時計は空間を測る物差しと同じくらい重要な発明だったといっても過言ではありません。
最初に作られたのはおそらく 日時計でしょう。人は太陽が作る影の変化で時間の経過を知り、そこに目盛を刻むことで時間を単位で計れるようになりました。けれども日時計は夜や雨天には使えず、緯度や季節で時間の尺度が変わります。
そこで次に 水時計が登場し、自然条件に左右されない普遍的な時間の概念と、水の重さを動力にしたメカニズムが育まれました。すでに古代ギリシャ時代には、時報や天体表示を歯車機構で動かす水時計が作られていたようです。
その他にも 砂時計や蠟燭時計などさまざまな時計が考案されてきましたが、中でも画期的だったのが13世紀のヨーロッパで発明された機械式時計です。
人類は機械式時計のおかげでいつでもどこでも秒単位の時刻を知り、社会で共有できるようになりました。今日でも日常的に使われている腕時計の大半は、機械式かクオーツ式のどちらかです。
機械式か、クオーツか。簡単に言えば、半永久的に使える自動巻か、電池式かということになりますが、山田さんがここで解説するのは、より高価な機械式時計のこと。値がはるだけに、せっかく手に入れるなら、相応の知識を持って長く使える納得の1本を手に入れたいもの。山田五郎さんの指南第一歩は、まず、何を選ぶか。どこに行けばいいのかから始まります。
自分に興味のないブランドも一通りみることが大事
時計選びの第一歩は、なんといっても情報収集。各ブランドのカタログや時計専門誌に加え、現在はインターネットを通じて驚くほど大量かつ詳細な情報が手に入ります。
とはいえ、時計に限らずどんな物でも、やはり自分の目で見て肌で触れてみなければ本当のよさはわからず、見る目を養うこともできません。まずはできるだけ多くの情報と現物に触れてみることから始めましょう。
その際に心がけていただきたいのは、自分に興味や縁がなさそうなブランドやモデルにも、一通りは目を通しておくこと。世の中にはどんな時計があって、いくらくらいで売られているか。
全体像を大まかにでも把握しておいた方が、時計を選びやすくなります。そうした「相場感覚」を養うには、百貨店の時計売り場を回るのがいちばん。さまざまなブランドと価格帯の商品が一堂に会しているからです。
高いからいいとは限らない
腕時計を「正確な時刻を知る装置」としての機能性だけから見た場合、価格と性能は正比例するとは限りません。今や、機能性とコストパフォーマンスでは、より安価なクオーツ式の方が優れています。
機械式に限っても、 価格と性能が比例するのはある一定のラインまで 。そこから先はトゥールビヨンなど複雑な補正機構が搭載されるようになって一気に値段が跳ね上がり、日差を1秒向上させるごとに加速度的に価格が上昇していきます。
機械式のもうひとつの魅力である装飾性に関しても同じです。部品の磨きや鳴り物の音質の差が、価格に比例するのはある程度まで。そこを超えると価格が上がれば上がるほど差が小さくなり、好みの問題に入っていきます。
要するに、10万円の時計が5万円の時計の2倍いいからといって、1000万円の時計が500万円の時計の2倍いいとは限らないということです。
ならば機能性と装飾性の双方において価格と品質が比例するギリギリのラインはどこかというと、これが時代や為替によって常に変動しますし、人によって意見が違いもするので、一概には申せません。日頃からできるだけ多くの時計を見たり触れたりする中で養った、自分自身の「相場感覚」に従うのがいちばんでしょう。
ちなみに、異論覚悟であくまで大まかな目安として私見を述べさせていただくと、2020年時点において、特別な複雑機構や宝飾を伴わない機械式腕時計で、スポーツウォッチなら50万円、ドレスウォッチなら100万円といったあたりでしょうか。一般にこのラインを超えていれば、機能的にも装飾的にも「高級時計」と呼ばれる水準を満たしているはずです。
「見た目が気に入って買ったけどパワーリザーブが少なくて毎日巻かなければならないのが面倒」とか、「ネットで調べたら自分が持っているモデルに搭載されたキャリバーはハズレらしくてがっかり」
とかいった嘆きを、実によく耳にします。モデルチェンジの有無を問わず、旧来品でも新製品でも、機械式腕時計を選ぶ際には必ず ムーヴメントの種類と性能と評判を事前にチェック しておくことをおすすめします。
山田五郎さんならではの確かな知見、深い時計愛がビッシリ詰まった『』。実はこの本、偏愛できる趣味を持つことが、どれほど幸せなことかをたっぷり教えてくれる、生き方指南書ともいえるかもしれません。
