ブルース・ウィリスが発症した「前頭側頭型認知症」とは?50代後半からの人格や行動の激変に注意【医師の解説】

ブルース・ウィリスが発症した「前頭側頭型認知症」とは?50代後半からの人格や行動の激変に注意【医師の解説】

多くのヒット映画への出演で知られる、米俳優のブルース・ウィリスさん。先日、「前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう)と診断された」と家族が公表しました。前頭側頭型認知症とは、どのような病気なのでしょうか。また、私たちがよく知る「アルツハイマー型認知症」との違いは? 山田悠史医師に聞きました。

教えていただいたのは…

山田 悠史

米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビライブニュースαレギュラーコメンテーター、NewsPicksの公式コメンテーター(プロピッカー)、コロナワクチンの正しい知識の普及を行うコロワくんサポーターズの代表。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。

編集:「前頭側頭型認知症」について知人と話す機会があったのですが、私を含め、「認知症」をしっかりと理解されている方は多くないのでは? と感じました。今回は、まず「認知症とはなにか」から教えていただけますか?

山田:どんな病気でも、まずは定義を理解することが大切なポイントですよね。認知症には、はっきりとした定義があります。まずは、後天的であるということ。生まれ持ったものではない、「後天的な障害」ということです。そして、どこに障害が起こるかといえば、「認知機能」です。

編集:認知機能……。記憶力、などでしょうか?

山田:そうですね。認知機能はとても幅の広い言葉なのですが、言語能力、記憶力、何かを遂行する能力、注意力を維持する能力など、様々な機能を指します。こうした様々な認知機能の中で、その中のどれか一つでも障害があり、社会的な生活機能に支障が出ている状態を、認知症と呼ぶのです。

前頭側頭型認知症とは、どんな症状? アルツハイマー型認知症との違いは?

山田:認知機能の障害があるものの、日常生活に支障がない場合は、「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と呼び、分類をしています。

編集:なるほど! 認知症の定義をきちんと知ることで、むやみに不安になることが減りそうです。

山田:「認知症とはなにか」を理解したら、次は「何が原因で起こっているか」を考えるステップが大切です。最も多いのは、アルツハイマー型認知症ですね。

編集:認知症といえば、アルツハイマー型認知症が思い浮かびます。

山田:その他にも、「レビー小体型認知症」や、今回話題になった「前頭側頭型認知症」、脳の血管の問題で起こる「脳血管性認知症」などがあります。また、治療可能な認知症として、「甲状腺機能認低下症」や、「ビタミンB12欠乏症」による認知症などが知られています。治療をすれば治る認知症もありますので、原因を丁寧に追求するというのは、大切なアプローチです。

編集:「前頭側頭型認知症」は、どのような認知症なのでしょうか?

山田:では、「アルツハイマー型認知症」と比較しながら、説明していきますね。「アルツハイマー型認知症」の場合、特徴的な症状は、記憶力の低下です。記憶には、言われたことをすぐに思い出す「即時記憶」と、数分後に思い出す「近時記憶」、昔のことを思い出す「長期記憶」がありますが、アルツハイマー型認知症の場合には、近時記憶が失われやすくなります。また、「○月○日にどこで何をした」というエピソードを思い出すのも難しくなる、と言われています。

一方で、昔の記憶はよく覚えていたり、車の運転や絵を描く、といったことは普通にできることもあるのです。

編集:「認知症」に対して、私が持っているイメージ通りの症状でした。

山田:一方、「前頭側頭型認知症」は、前頭葉や側頭葉が委縮して起こる認知症です。前頭葉は、主に脳みそのブレーキとして働いているのですが、ここが働かなくなると、ブレーキが効かず、アクセルばかり踏んでしまう、という状態になります。たとえば、性的な問題行動や人格の変化、突然甘いもの、もしくは炭水化物ばかりを食べだす、お酒を大量に飲みだす、など行動の変化がみられます。

「前頭側頭型認知症」について、知っておきたいこと。原因は? 治療法は?

山田:「前頭側頭型認知症」の場合、人格の変化や問題行動が増えるものの、記憶力低下が起こるわけではないので、病気ではないと捉えられてしまうこともあります。その結果、社会的孤立を生むこともあります。

編集:なるほど……。たしかに、急にお酒を大量に飲みだした人を見ても、ストレスかな? と思うだけで、「認知症」と認識するのは難しいかもしれません。

 山田:行動障害の他には、失語症を先に発症し、その後記憶力の障害が起こるパターンもありますね。

編集:ブルース・ウィリスさんが失語症が原因で引退された時、「医者のいらないラジオ」でも解説いただきましたよね。それにしても、行動障害や失語症は、認知症と結びつきにくい症状だと感じました。

山田:この病気の発症のピークは、50代後半と少し早く、その年代だと、余計に認知症と結びつきにくいかもしれません。実は病気の症状にも関わらず、場合によっては家族に見放されてしまう、離婚をされてしまう、といった状況になることがあります。

ですので、やはりこの病気に対する社会的な認知の広がりは、病気を発症される方を守る上で非常に大切なことです。ブルース・ウィリスさんのご家族は、この病名を広めるために診断の公表を決断されたそうですが、称賛に値する行動だと感じました。私たちも、できる範囲でこの病気の情報を届けたいですね。

編集:原因や治療法について、わかっていることはありますか?

山田:この病気の原因は、遺伝子異常などを含め、多岐にわたると考えられています。また、予防法や、有効な治療法は現時点では見つかっていません。運動や理学療法など、様々な方法で症状をなだらかにする、という管理がされています。有効な治療法の開発が望まれている病気の一つですね。

編集:なるほど……。私たちにできることは、身近な家族や友人が、急にお酒や甘いものを大量に摂取しだしたりした場合などに、「前頭側頭型認知症」である可能性を知っている、ということですよね。

山田:そうですね。高齢になって、突然そのような状態になることはやはり珍しいですし、ご本人は、病気であるという意識を欠く場合が多いことが知られています。そうした症状が「生活に支障をきたしている」という場合、やはり医療機関にご相談いただいた方がよいですね。

編集:わかりました。「前頭側頭型認知症」だけでなく、「認知症」全体への理解が、より深まりました。本日も、ありがとうございました!

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