『うちで事件が起きてもおかしくなかった…』 中1の娘とスマホの使い過ぎを巡って親子ゲンカ  賢くスマホと付き合う方法を子どもに教えるには?

『うちで事件が起きてもおかしくなかった…』 中1の娘とスマホの使い過ぎを巡って親子ゲンカ  賢くスマホと付き合う方法を子どもに教えるには?

先月16日、静岡県牧之原市で40代の母親が刺されて死亡した事件。関与したとみられる13歳の娘は、母親からスマートフォンの使い過ぎを指摘されたことがきっかけで口論となり、その後、娘が突発的に母親が寝ているところを包丁で襲った可能性があることが分かった。

子どもがスマホばかり見ている… そんな悩みを持つ保護者は多いのではないだろうか。言ってもどうせ聞かない、機嫌が悪くなる、逆上される、などの理由で、注意することを諦めた人もいるかもしれない。親や周囲の大人は、子どもにスマホとの賢い付き合い方を、どう伝えていけばいいのだろうか?

「いつまでやってんの!?」スマホをやめられない子どもに母は

静岡県牧之原市の事件を「他人事ではなかった」と振り返る母親がいる。神戸市に住む神木三樹子さんは、娘の希さん(当時13歳)のスマホの使い方に悩んでいた。

小学6年生のとき、希さんは「スマホを買って」と両親にねだった。「夜9時までには使い終えて、スマホはリビングに置いておくから」。そんな使用ルールを申し出たのも希さんだった。だがスマホの購入後、「授業に使うから…」などと言ってルールはどんどん壊されていった。

ある日の夜、希さんが寝ているはずの部屋を母親が見にいったところ、何やら小さな明かりが枕元に…。部屋の電気をつけると、ベッドでスマホをさわっていた。

母親 「希、何してんの?」

希さん 「友達としゃべってんの」

母親 「時間みてごらん? ルールは?」

希さん 「30分ちょいだけやん!」

穏やかな会話では済まないこともある。母親は冷静さを失わないように心がけていても、いつの間にか次第にヒートアップしていく。「なにやってんの!?」、「いつまでやってんの!?」 言葉はだんだんきつくなる。売り言葉に買い言葉。希さんも「友達のところ(家)はもっと緩いのに!」と反論する。そんな日々の繰り返しに母親はうんざりしていった。

やめたくてもやめられない…子どもを変える「脱スマホ依存キャンプ」

そんな時、母親が地元紙で見つけたのは、兵庫県などが主催する「脱スマホ依存キャンプ」の記事だった。夏休みの5日間を、瀬戸内海に浮かぶネット環境が極めて悪い島で、スマホ依存などに悩む子どもたち20人と過ごし、ネットとの付き合い方を見直すというものだった。

希さんも、母親の提案に同意した。実は、スマホをやめたくてもやめられない状況に疲れ始めていたという。

「夜、何時何分になったら友達に事情を言ってLINEを抜けようと思っていても、その時間になったら、あと何分、あと何分ってどんどん伸びていく感じがする。抜けづらいから。やばいっていう気持ちと楽しいっていう気持ちが混ざるから、どんどん疲れていくかなと思う」

このキャンプが、希さんのスマホとの付き合い方を大きく変えることになる。希さんは、一体、キャンプで何を掴んだのだろうか。

すぐ真似できる「鬼ばば作戦」「フロリダ作戦」

脱スマホ依存キャンプを企画したのは、若者のネット環境に詳しい兵庫県立大学の竹内和雄准教授だ。キャンプが始まると、参加者は毎日2回、竹内准教授と個人面談を行う。希さんは、友人関係もあってなかなかLINEが止められないことを相談した。実はこの悩みは多くの子どもに共通しているという。子どもにとってスマホは面白いだけでなく、学校生活における連絡や人間関係構築のためにも欠かせないツールになっている。竹内准教授は希さんに2つの方法を提案した。

一つは「鬼ばば作戦」。夜、決められた時間になったら、LINEで友達に「ごめん。1時間たったからお母さんが怒ってきた~」と書き込んで会話から抜け出す方法だ。

もう一つは「フロリダ作戦」。アメリカのフロリダではない。「ごめん。お風呂に入らなきゃいけないから」と表明して会話から抜ける(離脱する)「風呂離脱」作戦だという。

自分を見つめなおし、自分で決める「ネットとリアルの目標」

キャンプで習得するのは、もちろんこうした小手先のテクニックだけではない。スマホ依存からの脱却には、生活の根本から変わる必要があり、2つのポイントが強調されていた。

一つは、「リアルの楽しみを知る」こと。キャンプでは料理・釣り・カヌーなど、ネットの世界にはない楽しみを体感できる機会がたくさん用意されている。キャンプ場にはWi-Fiが設置された通称「スマホ部屋」があり一日1時間、自由に使える。だが希さんが訪れたのは初日だけ。LINEをしたくなる気持ちと葛藤しながらも、リアルの楽しさに目がひらかれていったようだ。

もう一つは、「ネットとリアルの目標設定」だ。ネットの目標では、例えば「夜10時にスマホは止める」などを自分で決める。またリアルでも学校生活や将来など、何らかの目標を決める。リアルの目標が何かあれば、ネット依存から脱却しやすくなると竹内准教授はアドバイスする。

こうしたネットやリアルの目標は、似た境遇の子どもたちとの話し合いや、メンター役の大学生スタッフや竹内准教授との個人面談を重ねながら検討していく。面談では、大学生が「LINEかぁ。楽しいもんね~。私も…」などと共感しながら話す姿が印象的だった。

似た悩みを持つ子どもたち、そして、ついこの前まで似た悩みに向き合っていた“お兄さん”“お姉さん”の大学生たちとの話し合いは“自分を見直す”ために有効だとキャンプの運営にも協力する神戸大学の曽良一郎教授(精神科医)は言う。

「こうして集まってお互い相手の中に自分を見るような機会は貴重です。自分の行動や考え、感じていることを、ちょっと離れたところから客観的に冷静に見られるようになる。集団精神療法の発想です」

参加者が自らを見つめ直しながら自分で設定したリアルとネットの目標は、キャンプの最終日、ゲストとして離島に呼ばれた保護者たちの前で一人ずつ発表する。

「ありのままの自分で話せる」キャンプで得られた自信

希さんの場合、キャンプをきっかけにスマホ依存からの脱却に成功した。キャンプでは魚釣りなどでリアルの世界の楽しみを実感。スマホの使用時間もコントロールできるようになったという。

さらに、キャンプで話し合いを重ねるうちに、積極的に発言できるようになり、“ありのままの自分で話せる”自信もついたという。

キャンプを終えた後、希さんの自宅を訪ねた。すると、確かに目標通り、夜10時までにスマホを終わらせていた。友人たちには「お風呂に入るね」と自分からLINEで伝えられるようになった。夜はスマホを母親に預け、母親の寝室で充電してもらう。生活習慣は劇的に改善された。キャンプの最終日に母親や仲間の前で発表した将来のリアルの目標「薬剤師」に向かって、勉強にも力が入るようになった。

竹内准教授は言う。「キャンプは万能ではありません。希さんのように何かのきっかけをつかめれば成功しますが、目標が高すぎて失敗し、キャンプから2カ月後の日帰りデイキャンプで目標の修正を余儀なくされる子もいます。何度も夏のキャンプに参加して、ようやく脱却できた子どももいます。ネット依存からの脱却は簡単ではありません」。

家でどう対策?スマホ購入時に、その後に、親子ですべきこと

竹内准教授は、キャンプに参加しなくても、できる対策はあるという。まずはスマホ購入時の「スマホルール」の設定だ。親子でルールを決める。その際、親からルールを押しつけるのではなく、丁寧に話し合い、親子で一緒に決める必要があるという。押しつけたルールは破られがちになるからだ。

その後、ルールを変更する際にも話し合いが必要だ。子どもはスマホで、一体、どんなアプリを使い、どんなゲームをやっているのか。親もだいたいは理解しておきたい。子どもにも言い分がある。頭ごなしに叱るのではなく、聞く耳を持つ姿勢が大事だという。

例えば、子どもたちがよくやるゲームは一試合20~30分かかり、時間が来ても急にはやめられないことが多い。そこで「最終ゲーム」を始めてもいい時間を家族と決めておくことを勧めるという。

保護者の言うことをなかなか聞かなくなる高校生などでは、友達同士や各学校の生徒会などでの話し合いを経て、共通のルール作りが効果的だという。

過半数が小学生でスマホ所持の現実 子どもだけで制御は無理

今、スマホ開始の低年齢化もすすんでいる。MMD研究所によると、2022年以降に子どもに初めてスマホを持たせた親への調査で、過半数(51%)が「小学生」のうちにスマホを初めて持たせたという。

竹内准教授は最初のトレーニングや習慣づけが大事だと強調する。

「母親と30分、一緒にLINEやメールも使ってみる。風呂に入ったらもう使わない。スマホを寝室にもっていかない。そういう習慣づけが最初の段階でできると、中学生や高校生になっても、子どもはスマホと適度な距離をとってコントロールできるようになる。

例えば、自転車に乗るには、まず三輪車、そして補助輪つきだ。いきなり大型バイクは無理。子どもは制御できず、夢中になって長時間使い続けてしまう。子どもは次々と勝手に自動表示される関連動画をやめられない。つきあい方のトレーニングや学習が重要だ。保護者は子どもに根気強く向き合い、使用時間を守ったら『頑張ったね』などとほめながらスマホと賢く付き合う方法を共に探ってほしい」。

竹内准教授は、これからも専門家だけでなく、子どもたちや大学生たちと一緒に、スマホとの賢い付き合い方を考えつづけていきたいという。

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