「昔より世の中は悪くなっている」 SNSの見過ぎでゆがむ認知、抜け出す方法は【科学で明かす身近ななぜ】
深まる一方のように見える世界の危機にとりつかれないために
ウクライナの戦争は収まる気配もなく、新型コロナの死者はますます増え、物価は上がり続ける一方だ。世界はこれからもっと悪くなるに違いない。そんなふうに思えて過剰に気分が沈んでいるとしたら、一因はソーシャルメディアの見過ぎなのかもしれない。
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こうした私たちの反応には進化的な起源がある。恐怖や危険についての話は不安をあおり、不安は脳を厳戒態勢にする。この特性はかつて私たちの祖先を捕食者や災害から守ったが、今日ではソーシャルメディアやウェブニュースを絶え間なくチェックし続け、危機に乗り遅れないようにするという行為につながっている。そして、とめどなく情報を取り入れる私たちの認知はゆがみ、不健全な思い込みを抱きやすくなる。
こんなふうに、深まる一方のように見える世界の危機にとりつかれないようにするにはどうしたらいいのだろうか? その科学的な理由と対処法を専門家に聞いてみた。専門家によれば、デジタル機器から完全に離れる必要はない。ネガティブな思い込みや過去を美化する癖から抜け出せれば、ストレスから解放される道はあるという。
若い人は他人と比べてしまう罠にはまりがち
ニュースに触れすぎることはストレスになる。米国心理学会が行った2017年の調査によれば、ニュースを常にチェックする人は、睡眠不足、ストレス、不安、疲労などの症状を訴えた。また、20%の人は定期的にソーシャルメディアの更新をチェックしており、10%の人は1時間に1回という頻度でチェックしていることがわかった。
その一方で、ソーシャルメディアのポジティブな側面としては、ユーザーの感情や人とのつながりのサポートになり得る点が挙げられる。特にパンデミックのさなかでは、新型コロナで大切な人を失った1万4000人が参加するフェイスブック・グループ「COVID-19 Loss Support for Families & Friends(家族と友人のための、新型コロナウイルス感染症による喪失体験のサポート)」のように、ソーシャルメディアでのつながりが不可欠だったと言う人もいる。毎週金曜日の夜には、オンラインで数十人のメンバーが集まり、死について語り合った。コロナで父親を亡くしたサビラ・カーンさんは、画面を閉じると、体中で生きていることを実感したという。「そんなとき、悲しみという大きな山のなかから何か良いものを掘り起こしているような気分になります。それが、心の痛みを癒やしてくれるのです」
それでも、ソーシャルメディアには中毒的な要素がある。画面を開くたび、心理的な罠にはまる機会がふんだんにもたらされる。自分はチャンスを逃すのではと心配になりやすい人は、ソーシャルメディアに接する時間が長く、疲弊したり、最終的には燃え尽きたりしてしまう。
「若い人は他者と比較する機会が多くなり、自分は不十分だという気持ちや自尊心の低さにつながりがちです」と、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院で、ソーシャルメディアと公衆衛生の関係を調査するメスフィン・アウォーク・ベカル氏は言う。
「バラ色の回顧」から抜け出そう
心理学者に言わせれば、私たちは永久に現在を完璧とみなすようにはならないかもしれない。だが、悲観バイアスを是正することなら可能だ。
その第一歩は、メディアが私たちの認識にどのような影響をもたらしているのかを自覚することだ。メディアはネガティブな情報などストレスを感じる理由をより多くもたらし、美化された過去と並べつつ現在の事例を提示する。その際、私たちが自らの思考の癖を意識できれば、その癖をコントロールして、現実を客観的に見通せるようになると、米ボストン大学教授でマーケティングが専門のキャリー・モアウェッジ氏は言う。
モアウェッジ氏によると、私たちにはそもそも過去を美化しがちな傾向がある。これは時に「バラ色の回顧」と呼ばれる。バラ色の回顧から抜け出すには、より現実的な歴史を知って現在と比べてみることだ。
私たちが今手にしているものを見直し、現在を客観的に見つめてみよう。社会的にも科学的にも私たちは進歩している。たとえば、パンデミックから2年と経たないうちに私たちは新型コロナウイルスのワクチンを開発した。100年前なら考えられなかったことだ。
ベカル氏はまた、ソーシャルメディアにどれだけの時間を費やしたかよりも、その時間をどのように使ったかのほうが重要だと指摘する。家族や友人とポジティブなやり取りを交わせば、精神状態が良くなることもある。対して、友人や知らない人の投稿を漫然と見続けると、ネガティブな影響があるという。
「自分がどのようなソーシャルネットワークに属しているのか、どのような人々と接しているのか、どういった情報を取り入れているのかを認識しなければなりません」と、ベカル氏は言う。「ソーシャルメディアによって私たちは、現在が過去と比較して悪くなっていると思いがちですが、誰にとっても悪くなっているわけではないのです」
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。
