トヨタ社長も入れ込む「東京オートサロン」 これからどうなる?
2023年もクルマ関連のイベントが北米のSEMAショー、そして東京オートサロンと続けて開催された。
以前は北米のデトロイトモーターショーが皮切りだったが、コロナ禍で開催が中止されたことから従来の開催時期、街では凍死者が出るほどの寒さだったこともあり、22年からは9月に秋のイベントとして開催されることになった。
これによりSEMAショー、東京オートサロンとアフターマーケットが主体のイベントが年明けに続くようになったのだ。海外では1月1日から始まる暦を重視していないこともあるが、SEMAショーと並んで東京オートサロンは国際的にも認知度が高いクルマのイベントとなっている。
東京オートサロンはモーターショーとは異なるクルマのカスタムイベントではないか、という指摘の声も聞こえてきそうだが、そんな認識はそろそろ改める必要があるだろう。
なにしろ国内の自動車メーカーはさまざまな形で出展し、新型車やコンセプトモデルを発表し、海外メーカーの新型車も東京オートサロンで初披露することが珍しくなくなっている。
今回も自動車メーカーやタイヤメーカーなど日本を代表する自動車関連企業が大々的にブースを展開し、それぞれ魅力的な内容で来場者を楽しませようという姿勢が感じ取れた。
筆者はこの東京オートサロンを取材し始めてすでに30年くらいになるが、晴海の国際見本市会場から東京ビッグサイト、そして幕張メッセと会場の規模を拡大しながら開催を続け、発展してきた成長ぶりを見てきた。
回を追うごとに日本のクルマによるさまざまな楽しみが集まり、影響を与え受け合い、新たなトレンドやアイテム、サービスが誕生するなどの広がりを見せている。人気が高まり規模が拡大されるにつれて、その集客能力にあやかるようにさらにさまざまな業態の自動車関連業が出展するようになって、幕張メッセの会場施設をフルに利用した巨大イベントに成長したのである。
自分らしさを表現するヒントを求めて
自動車メーカーを巻き込み始めたのは、道路運送車両法が改正され、車検制度が緩和されたころからだ。自動車ディーラーでもアフターパーツを積極的に扱うようになって、カスタム界は一気に広がりを見せた。
しかし品質や安全性の確保を最優先するディーラーでは、その後経営方針や地域性などにより姿勢が別れた印象がある。ディーラーではカスタマイズに関して積極派と堅実派に二極化しているのだ。これは経営母体や地域性、ビジョンや需要などが複雑に絡み合っていて、必ずしも単純化できるものではない。
クルマ自体、ディーラー任せで単なる移動の足として利用する層と、自分らしさをクルマに込めたい層にも二極化しつつある。そして後者のようなユーザーは東京オートサロンに自分らしさを表現するヒントを求めて、会場を訪れ展示車両や各ブースのアイテムをつぶさに見て回るのだ。
東京モーターショーとの違いが希薄化?
筆者の記憶によれば、東京オートサロンで自動車メーカーが新型車をお披露目したのは、トヨタbBが最初だった。それまでにないようなスタイルの2ボックス車は、狙い通り若年層を中心に大ヒットとなった。
その後もハイエースやフェアレディZ、シビック TYPE Rなど、さまざまなクルマが東京オートサロンを新型車の情報発信に利用している。今年も日産GT-Rの24年モデルが早々と発表されたほか、三菱からはデリカミニが披露されるなど、東京オートサロンを発表の機会にするブランドが少なくない。
アフターマーケットのためのトレードショーであり、チューニングカーの祭典ではあるものの、国際化の影響もあって道路運送車両法で定められている保安基準が緩和されたことから、普通のクルマ好きもモディファイ(カスタム)を楽しみやすくなった環境になったこともあり、自分らしさを楽しむユーザーが増えつつある。
特に近年はアウトドアブーム、キャンプ人気とあって、アウトドアのイメージを打ち出したモディファイや、利用するシーンをイメージさせる展示も増えている。さらにコンセプトカーなどを展示するメーカーもあり、市場の反応を確かめようという目的も強くなっている。
こうなってくると東京モーターショーとの棲(す)み分けが、いよいよ難しくなってくるという印象もある。モーターショーは自動車メーカーが主体となった近未来のカーライフを想像させるショーであり、サプライヤーは自社の技術や製品をアピールする見本市という性格が強い。
それに対して、東京オートサロンはすでに存在するクルマをどう楽しむかという提案が主だ。したがって旧車あり新型車あり、パーツやサービスなど、カスタマー向けのプレミアムなサービスまで、ありとあらゆる自動車関連企業に出展の機会がある。
そのためどちらもそれなりの規模となれば、本来の周辺領域までカバーするようになるため、被ってしまう部分が発生するのは否めない。むしろ毎年開催される東京オートサロンは、より頻度も高く密接にユーザーの反応を知れる機会だけに、自動車メーカーにとっても貴重なイベントなのだろう。
自動車業界の若手育成にも貢献する東京オートサロン
東京オートサロンは、整備士学校の生徒による作品の展示会でもある。NATSの略称で知られる日本自動車大学校は、その代表的な存在だ。今回もトヨタ・アルファードの後ろをピックアップトラックに改造したクルマや、マツダ・ロードスターをサバンナRX-3仕様に仕立てた大胆なモデルなど、刺激的な作品が並べられていた。
当日、説明員を務めていた同校の関係者に話を聞いたところ「これらの作品は、生徒が入学時からアイデアを温めて、グループごとに予算(1台100万円)からベース車やパーツの購入費用を捻出して仕上げています」と語っていた。
学生たちはネットの情報を駆使して車体や部品をかき集め、製作に勤(いそ)しむ。車両は地元のディーラーから提供してもらうこともあるそうだが、驚くべきはド派手な改造車にしか見えない車両でも、展示後にしっかりと改造申請を行ない、ナンバーを取得して伊豆まで卒業ツーリングに行くのだ。強度計算や試験まで行なって、申請書類も作成することで、卒業後はその経験がスキルと自信につながるのだろう。
これも東京オートサロンに出展するんだという目標があるからこそ、課外授業となる車両制作も一生懸命になるのだ。こうした整備士学校の学生たちにとって、東京オートサロンは晴れの舞台であり、プロのメカニックへと巣立っていく儀式の一部なのだ。
国際的な認知度の上昇から感じる変化
また、今回の東京オートサロンには、日本以外の自動車メーカーも出展していた。中国のEV大手「BYD」が北ホールの建物内にも通常のブースを出展する以外に、併催された東京アウトドアショーにもEVならではの給電機能をアピールしたブースを展開したのだ。
これはアウトドアユーザーというより、東京オートサロン来場者にさらにアピールするのが狙いだろう。中国メーカーと言えど日本法人は日本人スタッフは多く、さらに東京オートサロンの人気ぶりは中国にも響き渡っている。
主催した事務局の発表によれば、今回の東京オートサロンは3日間でおよそ18万人の来場者を数えたという。コロナ禍以前は30万人規模となっていただけに、海外からの旅行者が減少していることを考えれば、国内での人気は衰えを知らず、海外からの関心も依然として高い。
豊田章男社長は「クルマ好きを誰一人置いていきたくない」と発言した。これは言い換えれば、自動車関係者を巻き込んで、日本のクルマ社会を盛り上げていくことを意味している。
そのためだけに2台のAE86(90年代のカローラレビン/スプリンタートレノ)を2、3カ月でEVと水素エンジン化して、今回の東京オートサロンに間に合わせたのだから、その本気ぶりが伝わってくる。
豊田社長が東京オートサロンに入れ込みのは、今の世論を変えていくには、クルマ好きのほとんどを味方につける必要があると思っているからだろう。普通のユーザーはクルマにおける発言力、発信力はそれほど高くないから、世論を動かす力はクルマ好きの方がポテンシャルが高い。
自動車産業が生き残るために
だが果たして、クルマをモディファイしたり、チューニングして走りを楽しんだり、そうした行為がいつまで続くのか、大転換期の現在では予測が難しい部分ではある。かつてCASE(※)が唱えられ出したころには、マイカーなどなくなり、クルマ趣味もほとんど絶えるような予測も出現した。
しかしモータースポーツではエンジンが使われ続けようとしているように、EVが主流になってもEVでモディファイを楽しむ層も増えていくだろうが、エンジンが絶えることはおそらくないだろう。
自動運転が実用化されても、自らパワフルなマシンを操ることで得られる興奮や緊張感は、何物にも代え難い魅力なのである。これからも時代を反映して徐々に変化していく部分もあるのだろうが、東京オートサロンは観光資源ともなり得るだけでなく、日本のクルマ需要を支え盛り立て、自動車産業の新たな活力になりつつある。
日本から特別なアイテムをアジア圏のクルマ好きに向けて送り出す、そんなビジネスはすでに行われているし、これからますます盛んになるだろう。そう、農作物や漁業などと同じく、日本からプレミアムなサービスを提供することは、自動車産業生き残りの大きな武器になるに違いないのだ。
