BMW、ステランティス、ソニー・ホンダがCESで提示したクルマの未来
CASE(注1)の時代、クルマは「スマートフォン化」すると言われ出して久しい。スマートフォンは通信を使ってOSやアプリをアップデートする。ユーザー個人の好みでカスタマイズも可能だ。クルマの近未来もスマートフォンのようにソフトウェアファーストになると予想されている。
(注1)自動車産業の今後の動向を示すキーワード。Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)の頭文字を繋げた造語。
昨年(2022年)、世界で約131万台ものEVを販売したテスラを例に取ってみてみよう。テスラは、FSD(フルセルフドライビング)という自動運転ソフトウェア、操作系をつかさどる各種ソフトウェア、エンタテインメントや高精度地図などを定期的にWiFi経由で受信し、ダッシュボード上のタッチスクリーンを操作して簡単に実行できる。さらに新たな機能を追加したり、現在の機能を強化したりする「ワイヤレスアップデート」という仕組みもある。テスラは言うなれば「走るスマートフォン」なのだ。
多くの企業がサステナビリティ戦略上の1つのマイルストーンと位置付ける2025年。この期限が間近に迫った「CES 2023」では、自動車メーカー各社が2025年めがけて現実の市場導入を見据えたEVの試作車(プロトタイプ)を投入したことで大いに注目された。
実際にCES 2023会場に足を運び、各社の記者会見、基調講演や展示ブースをつぶさにチェックしてみると、サステナビリティ時代のクルマづくりは、デザインの領域(エクステリア・インテリア)や新たなユーザーインターフェイス(UI)の提案を中核にした顧客体験(CX)デザインの領域にまで及ぶことが見えてきた。
CES 2023レポート後編では、BMW、ステランティス、ソニー・ホンダモビリティの3社の動向を詳しく紹介していきたい。
■ BMW~クルマはユーザーにとっての「究極の相棒」
BMWは一般開催日の前日の1月4日の夜、ラスベガス中心部から西側に少し離れたパームホテルのパールシアターを借り切って豪華な基調講演を行った。2019年夏以来、BMWの経営トップとしてサステナビリティ戦略とデジタル化を強力に推進しているオリバー・ティプセ会長(以下、ティプセ会長)は、これからのクルマづくりは 「ELECTRIC」「CIRCULAR」「DIGITAL」の3つの要素が重要になると述べた上で、BMWは個別のハードやソフトという機能レベルではなく、トータルなユーザーエクスペリエンスのレベルで解決を目指す、ときっぱりと宣言した。
そして2025年に登場する「ノイエ・クラッセ」(新しいクラス:BMWでは中型スポーツセダンを表現する言葉)へと続く、重要なマイルストーンとなる次世代モデル(おそらくは次期BMW 3シリーズ)として、「究極の相棒(The Ultimate Companion)」(注2)であり、ユーザーに寄り添うAIを搭載した「BMW i Vision Dee(ディー)」をお披露目した。
(注2)他でもなく、BMWが北米で使用しているブランドスローガン「The Ultimate Driving Machine」(究極のドライビングマシーン)に引っ掛けた表現である。
「『Dee』は『Digital emotional experience(デジタル・エモーショナル・エクスペリエンス)』を意味し、あなたの感性と対話しながら現実世界と仮想現実をつなぐ、デジタルの相棒(コンパニオン)としての役割を果たします」
「彼女(BMW i Vision Deeを指す)は、ハードウェアとソフトウェアを結びつけることによって何ができるかを体現したモデルです。デジタル化の可能性を最大限に引き出し、クルマを極めて知的で有能な相棒(コンパニオン)へと変身させることができます。バーチャルな体験と真のドライビングプレジャーの融合こそ、BMWをはじめとする自動車メーカーが目指す未来なのです」
基調講演の演出は、BMWらしく、ユーモアとウィットに富んだエンタテインメントショーのような内容で、パールシアターをぎっしり埋めた観客(記者、出展社、BMWの関係者)を大いに魅了した。
筆者が感銘を受けたのは俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏(注3)を狂言回し(物語の進行の理解を助けるために登場する役割)として巧みに起用したショートムービーの完成度の高さである。
(注3)アーノルド・シュワルツェネッガー氏はBMWが昨年2月のNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」で放映したBMW iX(電気自動車)の長尺TV広告に出演していた。その後、シュワルツェネッガー氏がモーションキャプチャースーツを着ている映像がSNS上で流れ、何らかの続編があるのでは、と噂になっていた。
ストーリーはこうだ。モーションキャプチャースーツに嫌々着替えさせられたシュワルツェネッガー氏(デジタル時代の映画づくりに適応できない80年代ヒーロー)が「映画の撮影スタジオの暗がりの中にいる謎の女性」=「実はBMW i Vision Deeに搭載されているAI」(「ELECTRIC」「CIRCULAR」「DIGITAL」の時代にBMWが考えるクルマのあるべき姿)と会話をする。
その会話の主題はBMWファンの若い女性の恋愛の途上で起きがちな、さまざまなすれ違いやトラブルを題材にした劇中劇についてなのだが、これは他でもなくBMWが格闘する地球温暖化対策へのメタファーであろう。
複雑な要因が絡み合って一筋縄ではいかない、しかも昔からのやり方ではうまく解決できない社会規模の課題に対して、しかめっ面をするのではなく、もっと柔軟に、クリエイティブに対応していきませんか、というBMWからの提案のように筆者は受け取った。
(参考)BMW基調講演のショートムービー
(アーノルド・シュワルツェネッガー氏だけでなく、電子頭脳「K.I.T.T.」を搭載するナイト2000や俳優のデビッド・ハッセルホフ氏も登場する、ひねりの効いたムービーである
ユーザーに寄り添う「究極の相棒(The Ultimate Companion)」としてのAI以外にもBMW i Vision Deeにはバーチャルな体験と真のドライビングプレジャーの融合を増幅する仕掛けが3つある。1つ目は横方向に大きく拡大したキドニーグリルを使って表示される、人間の目のような表情の変化だ。そして2つ目は変幻自在に変わるボディカラーだ。
(参考動画)車体の色やタイヤのホイール部分の色が変化する「iXフロー」(BMWブースにて筆者撮影)
3つ目はセンターコンソール付近にある「ミックスド・リアリティ・スライダー(Mixed Reality Slider)」というインジケーター兼スイッチだ。スライダーを指で操作すれば、ユーザーが必要とする情報はヘッドアップディスプレイとしてフロントウィンドウ下部の横方向に投影される。表示項目は「ミックスド・リアリティ・スライダー」のレベルによって任意に切り替えることができる。レベル4はエンタメモードでVR画像や映画・映像コンテンツなどを車内すべてのウィンドウに投影して楽しむことができるというものだ。
読者の皆さんもすでにお気づきと思うが、彼女(BMW i Vision Dee)のデザインは、現行のBMW車と比較するとエクステリアもインテリアもかなりシンプルだ。スマートフォンのデザインが板のようなミニマルな造形に収斂して行ったのは、アップル(当時)のスティーブ・ジョブスとジョナサン・アイブの卓越したデザインセンスの賜物だが、BMWの場合はiPhone誕生の事情とはちょっと違う。ティプセ会長が掲げる「エネルギー要件からサプライチェーン、生産・使用・処理リサイクルに至るまで、2050年までに完全なカーボンニュートラルの達成を目指す」「BMWグループでのリサイクル材料の使用率を現在の30%から50%にまで高める」というサステナブル目標。これをクリアするためには、実用ではない装飾のための部品を極力増やさない、リサイクルの障害となる接着剤などは使用できないという、止むに止まれぬ事情がその背景にあることは容易に推察できる。
■ ステランティス~インスピレーションを与えるクリエーションのための空間を提供
ステランティスはプジョー、フィアット、クライスラー、ラムトラックなど14のブランドと2つのモビリティサービスを傘下に抱える自動車企業グループである。一般公開日初日の1月5日午後2時からカルロス・タヴァレスCEOが登壇、午前中のジョンディアに続き、再び満席となったパラッツォ・ボールルームの会場で基調講演を行った。
ステランティスの事業戦略のプレゼンテーションの後、2台のEVコンセプトカーのお披露目、「モビリサイツ」(Mobilisignts)という車両データを活用した新規のデータサービスの紹介などが淡々と行われた。
冒頭でタヴァレスCEOは、お客さまはシンプルであること(Simplicity)を望んでいると述べ、「すでに自動車をハードウェアとして開発する時代は終わった。これからは自動車をアプリケーションであり、プラットホームであると考えて開発していく必要がある」と宣言した。
さらに、カーボンニュートラルの2030年までの実現、カーボンネットゼロの2038年の実現というステランティスが目指す野心的な目標を実現するために、「専用ソフトウェア(SDV)の開発」「自動運転化」「電動化」の3つの戦略を推し進めていくと説明した。
公開されたコンセプトカーは「プジョー・インセプション・コンセプト」(Peugeot Inception Concept)と呼ばれる4ドアタイプのEV、「ラム 1500 BEV コンセプト(Ram 1500 BEV Concept)」というピックアップ・トラックのEVの2台であったが、特に重要なのは、ソフトウェアの追求による顧客体験(CX)の進化を象徴し、2026年に市場に投入されるプジョーの次世代EVにつながる前者の方である。
プジョー・インセプション・コンセプトは外観的にはシャープな直線が特徴的で、スポーティな4ドアセダンないしはハッチバックのような形状になっている。
インテリアにはこのクルマのセールスポイントがたくさん詰まっている。造形的には白を基調とした非常にシンプルでSF映画の宇宙船の船内のようなイメージだ。日本人的な感覚だと落ち着かない印象だが、ユーザーにインスピレーションを与えるクリエーションための空間と解説された。
またコクピットにはプジョーが開発中の新しいユーザーインターフェース「ハイパースクエア(HYPERSQUARE)」が採用されており、従来のハンドルのような使い方が可能なほか、ジェスチャーなどで操作することができる。この「ハイパースクエア」はレベル4やレベル5の自動運転時には収納することが可能になっており、ディスプレイで動画などを楽しみながら移動することが可能になること、ボディの両サイドにある細長いディスプレイに文字を表示させられることなどが紹介された。
ステランティス傘下プジョーのリンダ・ジャクソンCEOは「車名の『インセプション(知覚)』という言葉には意味がある。単なるコンセプトカーではなく、われわれの次世代のEVにつながるものだ。プジョーの次世代のBEVは2026年に市場に登場するだろう」と語り、プジョー・インセプション・コンセプトがプジョーの次世代EVの試作車であることをほのめかした。
ステランティスには企業として新規ビジネスへの取り組みもある。「モビリサイツ」(Mobilisignts)はステランティス製のコネクテッドカーの車両データを収集、統合し、顧客から同意を得て匿名化によってプライバシーに配慮したうえで、第三者にデータとして情報を供与するサービスだという。タヴァレスCEOは「パーソナライズされた保険から道路の危険検出や交通管理に至るまで、ユーザーにとって魅力的でメリットをもたらす幅広いサービスとアプリケーションが可能になる」と言及したが、おそらくテスラが展開している「テスラ保険」のようなユーザーの走行データを活用した独自の保険サービスの構築を検討しているのではないかと直感した。
またステランティスでは「モビリティの自由」を移動のオプションとして提供し、電動の垂直離着陸機(eVTOL)を手がける米国のスタートアップ・アーチャー(ARCHER)と提携して「空飛ぶタクシー」を開発しているという。
■ ソニー・ホンダモビリティ~賛否両論のデザイン、ブランド名、センサー技術
世界のメディア(プレス)が集うメディアルームで最も賛否両論が熱く渦巻いていたのが、スマートフォン「Xperia」を出しているソニーと、EV分野では米ゼネラルモーターズ(GM)と提携関係にあるホンダの合弁会社ソニー・ホンダモビリティ(SHM)が発表した新ブランド「アフィーラ(AFFELA)」の試作車だ。
話題となったのは、多い順に「試作車のデザイン > ブランド名 > センサー技術」という印象だった。SHMは、ホンダの名前があるものの、成熟した自動車会社であるBMWやステランティスとは違って業界の垣根を超えてやってきた新規参入組に映る。
今回、賛否両論が起きたのは、EVで差別化の最大となるべき顧客体験(CX)の提示レベルが、言葉による方向性の提示にとどまり、BMWやステランティスがエモーショナルな映像を駆使してプレゼンした世界観と比較すると詰め切れていないと多くの人に受け取られたからだろう。
リアルとバーチャルの世界を融合していくことで、ソニーグループらしいエンタテインメントあふれる感動的な顧客体験(CX)とは具体的にはどんなものになるのであろうか。
CESに長く通った筆者の経験から言えば、企業の評価は「無視」→「賞賛」→「非難」の3段階で試される。「非難」が多いのはソニーとホンダというプレイヤーに対して世間の期待が尋常ではなく高いからだろう。「非難」が「期待」や「注目」の裏返しであることは、先日のFIFAワールドカップの日本代表を思い返せば納得がいく。
開催日前日の1月4日18時からソニーの展示ブースで行われた記者会見では、ソニーグループ株式会社の吉田健一郎 代表執行役会長兼社長CEOが昨年同様、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーグループのパーパスを丁寧に説明することからスタートした。
45分の記者会見の持ち時間の残り15分あたりでSHMの水野泰秀会長兼CEOが登壇、満を辞して新ブランド「アフィーラ」を発表、開発中の新EVの試作車を初お披露目した。
クルマとしての筆者の第一印象は試作車が紡錘形を基調とした極めてシンプルなフォルムであるということだ。余計な装飾性を極限まで削ぎ落としたことを潔いと感じるか、素っ気なくプレミアム感に欠けると感じるかは評価が分かれるだろう。
CES 2021とCES 2022でソニーが発表した「SONY VISION-S」「VISION-S 02」の車両はメルセデスベンツEクラスやBMW X3で実績のあるマグナ・シュタイヤ社(オーストリア)の製造によるもので、どこかポルシェを彷彿とさせるボリューム感のあるデザインが特徴だったからだろうか。
アフィーラの試作車(プロトタイプ)は「人とモビリティの新たな関係を創る」というSHMのパーパスを反映したもので、ハードウェアとしてのクルマの製造は当然のことながらホンダが担当していて、デザインの流れがこれまでとは大きく変わったと感じた。
水野泰秀 会長兼CEOは限られた時間の中で、重要なポイントをいくつか矢継ぎ早にプレゼンした。ボリュームが多いので以下、箇条書きで示す。
【ブランド名】「AFEELA」は造語。SHMの提供価値を示す3つのコンセプト「Autonomy(進化する自律性)」「Augmentation(身体・時空間の拡張)」「Affinity(人との協調、社会との共生)」の共通の頭文字「A」で「FEEL(感じる)」が中心に挟み込まれた形。
【エクステリア】クルマと人がインタラクティブなコミュニケーションを行うため、インテリジェンスを持ったクルマが文字とアイコンを使って語りかける「Media Bar」を搭載。今後、さまざまなパートナー、クリエイターとともに、活用の可能性を幅広く模索していく。
【インテリア】繭に包まれたような無垢でやさしいラウンド基調のデザインを意図的に採用。心地が良いだけでなく、ドライバーの注意をそらす装飾性を極力無くし、カラーリングも白を基調にシンプルさを徹底した。
【自動運転機能】一定の条件下で運転が不要になる「レベル3」の自動運転機能を搭載する。自動運転のハードウェアには、最大800TOPS(注4)の演算性能を持つクアルコム(注5)スナップドラゴンデジタルチャーシー(Qualcomm Snapdragon Digital Chassis)のSoCを採用予定。
(注4)消費電力1Wあたりの処理速度(TOPS; tera operations per second)として電力効率を表す単位。 この数値が大きいほど、ある問題をある速度で処理する際の消費電力が小さいため、高効率である。
(注5)記者発表の最後に吉田健一郎 代表執行役会長兼社長CEOが再登壇し、クアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOをサプライズで登場させる演出があった。ソニーはスマートフォン「Xperia」向けのSoCだけでなく、犬型ロボット「aibo」やドローン「Airpeak S1」においてもクアルコム製品を使ってきたという経緯がある。
【安全装備】車内外に計45個のカメラ、センサー等(注6)を搭載。室内のインキャビンカメラや、対象物までの距離計測を行うToF(Time of Flight)センサーにより、ドライバーの運転状況や走行状態をモニタリングし、交通事故を防止する。
(注6)カメラ・センサー否定論者の主張は消費電力があまりにも多く、走行距離が犠牲になるはずだという点である。
【顧客体験(CX)】クラウドサービスと連携する新たなヒューマンマシンインターフェース(HMI)により、パーソナライズされた車内環境を実現し、運転以外の楽しみを提供する。モビリティ空間はリアルとバーチャルの世界を融合していくことで、ソニーグループらしいエンタテインメントあふれる感動を創出する。センシング技術を活用して拡張現実(AR)による直観的なナビゲーションの提供も目指す。
【メタバースなどデジタル活用】新しいエンタテインメントの可能性も追求する。人気ゲーム「フォートナイト」を開発した米国エピックゲーム(Epic Games)社とモビリティにおける新しい価値観やコンセプトの検討を開始。人の感性や行動へ働きかけていくことでモビリティの革新を目指していく。
SHMではこの試作車(プロトタイプ)をベースに開発を進め、量産車については2025年前半からの先行受注を開始し、同年中に発売を予定。デリバリーは2026年春に北米から開始することのことだ。
当面はホンダジェットと同様、北米にフォーカスしたビジネスになるだろうが、2年という残された期間は、ソフトウェア(ブランド体験価値構築)の点でBMWやステランティスと比較すると必ずしも十分ではないのではないか、と一抹の不安を感じたのも事実である。
■ 砂漠の街、ラスベガスで本降りの雨は何を意味するのか
「ヒューマンセキュリティ」(人間の安全保障)がイベント全体のテーマとして強く打ち出されたCES 2023。奇しくも一般向け開幕日の1月5日は朝から夕方まで砂漠の街・ラスベガスでは珍しく本降りの雨に見舞われた。筆者の記憶が間違いでなければ、ここ10年でCES開催期間中に水溜りができるほど強い雨が降ったのは2018年の開幕日の1日だけである。CO2排出量増加による地球温暖化と気候変動は、もはや否定し難い現実となっている。
CES 2023では「テクノロジーを使って物事を楽しく便利にするだけではなく、食糧や水の安全保障、気候変動、エネルギーさらには医療や人権・ダイバーシティに至るまで、地球規模の問題に対処する」(CTAのプレジデント&CEOのゲイリー・シャピロ)という価値観の転換が参加企業や来場者に強く求められた。
人間には2つの選択肢がある。これまで通り「テクノロジーを使って物事を楽しく便利にする」ことに重きを置いた生活をするのか、「食糧や水の安全保障、気候変動、エネルギーさらには医療や人権・ダイバーシティに至るまで、地球規模の問題に対処するためにテクノロジーを使い」生活様式の変化を甘んじて受け入れる生活をするか、だ。多くの人、特に筆者のようにバブル経済時代の1980年代後半をリアルに体験した世代は、左脳では後者を選択すべきだと考えていても、右脳では前者への愛着も捨て切れないというジレンマに苦しんでいるのかもしれない。
EVの欠点(重量の重さ、航続距離の短さ、充電ステーションの少なさ)や電気の供給体制の矛盾(化石燃料を燃やして発電)を理由に、持続可能な社会の実現のために必要とされる変化自体を否定してしまう人も日本にはまだ少なからずいるだろう。そういう場合、BMW基調講演のショートムービーの冒頭、ギリシア神話の神・ゼウスに扮したアーノルド・シュワルツネッガーが、モーションキャプチャースーツに着替えてバーチャルリアリティスタジオに行くよう演出スタッフから促されるシーンを思い起こしてほしい。そのシーンでのアーノルド・シュワルツェネッガー氏のセリフがアイロニカルで印象的だ。
「こんなものは知らないし、着られない。なぜ昔ながらのやり方がだめなのだ? 俺はリアリティが好きだし、ゼウスの衣装を気に入っている。こっちの方が良いはずだ!」
「ELECTRIC」「CIRCULAR」「DIGITAL」の時代に適応できない80年代のオールドヒーローは、もはや負け犬の遠吠えと共に市場から退場するほかないのである。
