中国も食指伸ばす中、ベトナムが日本に支援要請した「高速鉄道計画」

中国も食指伸ばす中、ベトナムが日本に支援要請した「高速鉄道計画」

 ベトナム政府が国民の長年の夢である北部の首都ハノイと南部の主要都市ホーチミンを結ぶ高速鉄道計画に関して、日本に支援を要請したとのニュースがベトナムで大きく伝えられた。

 南北に約1650キロと細長く続く国土は、東側が南シナ海に面し、西側はラオス、カンボジアに接しており東西は広い所で約600キロ、狭い所で約50キロとなっている。計画されている高速鉄道はその国土を南北に縦断することになる。

■ 在来線ではハノイ-ホーチミン間が29時間

 すでにベトナムには国土を縦断する「在来線」が存在する。その中のメイン路線となるのがハノイとホーチミンを結ぶ南北線、通称「統一鉄道」だ。ベトナム戦争で一時分断されていたこともあるこの鉄道は、ベトナム人の南北往来を支えてきた。もちろん国内線の航空便もあるが一般市民にはやはり鉄道が馴染みの「移動の足」として利用されてきた。

 しかし非電化で単線の統一鉄道では、ハノイからホーチミンまで29時間もかかるという不便さがあり、高速で走る新たな鉄道の建設が早くから国民の念願となっていた。

■ ベトナム首相が鈴木財務相に支援要請

 ベトナム・ハノイを訪問していた鈴木俊一財務相は1月13日、ベトナムのファム・ミン・チン首相と会談し、その中で高速鉄道計画への支援を要請された。

 ベトナムは2022年7月にも日本の「国際協力銀行(JBIC)」に対しても高速鉄道計画への財政的支援を求めており、今回の鈴木財務相への支援要請は「同計画の実現のためにはなんとしても日本の支援が必要である」とのベトナム政府の強い姿勢を改めて印象付ける形となった。

 建設に関わる費用総額は最大で648億ドル(約8兆3000億円)に上るとされる。高速鉄道計画では、現在ある在来線の南北線が狭軌であることや老朽化していることなどから、新たに高速走行が安定する標準軌で全路線を新設することが計画されている。

 この新たな高速鉄道は旅客専用の路線とし、在来線は改良を加えながら貨物専用の路線として残し、活用する計画だという。

■ 日本との関係深いベトナム鉄道

 在来線の南北線は1935年に全線が開通し、その後ベトナム戦争などで北ベトナム側と南ベトナム側に分断された。しかし戦後の1976年に再び南北が開通し「統一鉄道」として南北の大動脈の役割を果たすようになった。

 この在来線の南北線にも日本は協力しており、1993年には南北線橋梁のリハビリ計画を円借款で行い2004年までに19の橋梁を整備している。

 このようにベトナムの鉄道と日本の関係は深く、こうした経緯から高速鉄道計画も「一帯一路」構想により鉄道建設でもベトナム進出を狙っている中国を差し置いて日本に「秋波」を送っているのだ。

■ 中国が手がけるインドネシアの高速鉄道建設には問題がボロボロ

 ベトナム南北を縦断する高速鉄道計画では車両基地を5カ所設け、全区間の60%を高架区間として高速走行を可能にし、30%が地上走行区間、残る10%がトンネル区間となる計画だ。

 この高速鉄道計画には中国も強い関心を抱いているとされる。ただ、中国が受注して現在建設途上にあるインドネシアの首都ジャカルタから西ジャワ州の州都バンドンを結ぶ約150キロの高速鉄道建設は、費用の膨大化、完工時期の遅れ、死者も出る事故などで、中国への風当たりが強くなっている。

 こうしたことからベトナム政府はこの高速鉄道計画への中国の関与を極力排除し、日本の支援を頼みとしているという。

■ ベトナムは中国の鉄道乗り入れを警戒

 また中国はベトナムとは2つの路線で結ばれている。ひとつは、中国雲南省の昆明から同省・河口を経て、ベトナムのラオカイ、ハノイ、港湾都市ハイフォンに至る路線だ。この路線は、もともと仏領インドシナ時代に建設された滇越鉄道で、レール幅は1000ミリ、いわゆるメーターゲージの路線。ただ老朽化も進んでいるため、現在は中国-ベトナム間の運行はほぼ行われていない模様で、中国側は1435ミリの標準軌へのリニューアルを進めている。

 もうひとつは、中国の広西チワン族自治区南寧市とハノイ市のザーラム駅を結ぶ路線である。こちらは中国側は標準軌、ベトナム側はメーターゲージだったが、ベトナム側が1000ミリの列車にも1435ミリの列車にも対応できるよう、レールを3本設置する三線軌条にすることで、中国からの乗り入れを可能にしている。

 こうしたこともあり、中国はメーターゲージが主流のベトナムに、1435ミリの標準軌に変更するようたびたび求めている。

 昨年秋、中国の習近平主席とベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は北京で会談しているが、会談後に発表された「中越の全面的な戦略的協力パートナーシップのさらなる強化と深化に関する共同声明」にも、<ラオカイ-ハノイ-ハイフォンの標準軌鉄道計画の見直しをできるだけ早く完了する>と明記されていた。

 中国は、ベトナム最大の港湾都市ハイフォンへ続く鉄路を確保したがっているのだ。しかしそのためには、手前にある首都ハノイを通過することになる。ベトナム政府にとってみれば、これは安全保障上の大きな問題になる。

 共産党の一党支配にあるベトナムは、1979年に勃発した中越戦争を経て、その後は年々、中国共産党との共産党同士の関係を深めており、現在、経済的には中国に大きく依存している。一方で、南シナ海では中国との間に領有権問題を抱え、経済での蜜月ぶりとは異なり、安全保障分野ではしばしば対立している。

 そうした中国に対する警戒感から、ベトナム政府は1435ミリの標準軌への転換をためらってきた経緯がある。

 そのために、今回再浮上した高速鉄道計画では、中国ではなく、日本に対して協力を要請したということなのだろう。

■ ベトナムからの支援要請に日本は……

 では日本政府はこの要請にどう応じるのか。

 ベトナムの高速鉄道計画は、2010年に閣議決定されたものの、その後の国会で「建設費用が巨額である」として否決されている。近年のベトナム経済の急成長ぶりからして、資金面では当時よりも余力があると見られるが、国会の同意をどう取り付けるかも大きな問題だ。

 そして何より、日本は要請に応じるのか、そして協力するとしたらどこまで協力するのか、も大きなテーマとなる。かつてインドネシアの高速鉄道計画の入札で、日本にほぼ決まりかけていたににもかかわらず、インドネシア政府に裏切られるような形で、土壇場で中国にさらわれるという事態が発生した。

 そのような事態は論外だが、だからと言って採算度外視で建設や運営にまで携わるのも問題だ。また一方では、経済的に昔からかかわりが深いベトナムとの関係や、一帯一路の拡充を目指す中国の存在を考えれば、ここは日本が積極的にかかわりベトナムのインフラ整備を推進すべきという考え方にも大いに理がある。

 ファム・ミン・チン首相との会談で、鈴木俊一財務相がどのような反応を示したのかまでは伝わってきていないが、日本としては熟考が必要な案件になるだろう。

 2030年までに一部区間の工事を終え、2045年までに全線の開通を目指すというベトナムの高速鉄道計画。ベトナム国民の夢はどのような形で帰結するのだろうか。

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