日本車離れ加速か、世界的なEVシフトに乗り遅れ「衰退のリスクも」

日本車離れ加速か、世界的なEVシフトに乗り遅れ「衰退のリスクも」

「エキサイティングなことを望むなら電気自動車に乗れ、退屈したいならトヨタに乗れ」。昨年11月、こう書かれたバナーを掲げ、米非営利団体「パブリック・シチズン」がスポンサーする飛行機が「NASCARカップシリーズ」レース会場の「フェニックス・レースウェイ」の上空を通過した。

この低空飛行に先立ち、パブリック・シチズンを含む複数の団体は、電気自動車(EV)事業で後れを取っているトヨタ自動車を批判する公開書簡を同社の豊田章男社長宛てに送った。「バッテリー電気自動車に対する消費者需要の急増に追い付けている自動車メーカーはないが、トヨタはそれを満たそうとの試みすらしていない」と主張。「トヨタが迅速にEVに移行することは可能であり、そうしなければならない。さもなければ衰退のリスクにさらされる」とした。

各団体の動機は環境問題だが、2兆2500億ドル(約300兆円)規模の世界の自動車産業がこの数十年間で最大の転換期にある中で、EVへのシフトで出遅れているトヨタなど日本のメーカーがその主導的地位を失うことへの懸念もメッセージに反映されている。

ブルームバーグ・インテリジェンスによると、販売台数ベースで世界トップのEVメーカーは米テスラ。中国の比亜迪(BYD)、ドイツのフォルクスワーゲンなどがそれに続く。日本のメーカーは上位20社に入っていない。ブルームバーグのデータによれば、2022年1-9月に自動車全体の販売台数が前年同期比で約4%減少したのに対し、バッテリー駆動車の販売台数は約80%増加した。

ブルームバーグNEFのアナリスト、コリン・マッケラチャー氏は、EVが「業界の大きな部分になりつつあるが、今のところ日本勢は乗り遅れている」と話す。

約四半世紀前にハイブリッド車「プリウス」を投入したトヨタなどの日本のメーカーが、環境に優しい自動車の開発に早い時期から取り組み始めたことを踏まえると、EV分野における日本勢の存在感の欠如は特に不可解だ。日産自動車は09年に世界初の量産EV「リーフ」を発表した。同年に三菱自動車もEVを投入。トヨタは10年にテスラに出資した。

ただ、低調な販売を背景にEVモデルに対する熱意は急速にしぼんだ。EV革命はすぐには起きないとの考え方から、日本勢はハイブリッド車を重視する戦略を取ってきた。また、日本政府の掲げる目標に沿って、環境面でEVに勝り得る水素燃料電池自動車も手掛けている。

豊田社長は昨年9月、バッテリー電気自動車の普及にはメディアで報じられているような期間よりも「長い時間を要するだろう」と発言していた。同社は、二酸化炭素(CO2)削減の使命を帯びているとしながらも、完全電気自動車だけに照準を絞ることは望んでいないと説明している。

「この多様化する世界で何が正解かわからない時代に、一つの選択肢だけで全ての人を満足させることは困難だ」と資料でコメントした。

日本勢がこれまでに投入したEVは失望される結果となっている。トヨタは昨年5月、EVのスポーツタイプ多目的車(SUV)「bZ4X」を投入したが、車輪が脱落する不具合のため6月に販売を停止した。その後、販売を再開したが、数量は限られている。

かつて日産のプロダクト・チーフ・デザイナーとして同社初のEV「リーフ」のデザインを担当し、現在はイタリア・トリノにあるヨーロッパ・デザイン学院で教える井上真人氏は、「日本の自動車産業はキャッチアップする必要がある」と話す一方、「既に遅過ぎる可能性もある」とも指摘した。

井上氏のかつての上司である日産のカルロス・ゴーン元会長も「日産は先駆者としての強みを失った」と指摘。同社を含む日本勢は中国のBYDなどのライバルに追い付くのに苦戦する公算が大きいと語った。現在の電動化投資の発表は「少な過ぎで遅過ぎる」とした。

日本の半導体業界や家電業界は、イノベーションを通じて自社製品のコモディティー化を回避することに失敗し衰退していったが、日本の自動車メーカーが同じ轍(てつ)を踏むのではないかと懸念する声もある。

ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「すでに周回遅れで、主導的立場になるのはかなり難しくなっているようにみえる」と指摘した。

ブルームバーグがまとめたデータによると、米国では21年の日本の大手自動車メーカー6社の乗用車市場シェアが約40%と、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前とほぼ同水準だったが、22年4-6月(第2四半期)には34%に低下。7-9月(第3四半期)は32%だった。

米ゼネラル・モーターズ(GM)は22年の米自動車販売でトヨタから首位の座を奪った。トヨタの昨年の米自動車販売台数は9.6%減少した。

S&Pグローバル・モビリティーは昨年11月のリポートで、「22年に電気自動車に移行している消費者の多くは、トヨタとホンダからの乗り換えだ」と指摘した。

最も大きな問題の一つは、一部の市場でEVへのシフトが大方の予想よりもかなり速く進んでいることだ。ブルームバーグのデータによると、22年1-9月に販売された新車に占めるEVの比率は、ドイツと英国が約15%、中国は20%余りだった。北米は同期間に5%にとどまったが、8月にバイデン米大統領の署名で成立した「インフレ抑制法」にEV向け税制優遇措置が盛り込まれたことで米国で需要が急増すると予想されている。12月半ばまでに発表された北米でのEV関連製造への投資は280億ドル近くに上った。

トヨタの北米EV戦略には「かなりの誤算があった」とジェフリーズ証券のアナリスト、中西孝樹氏らはリポートで指摘した。

カニバリゼーション懸念

日本の経済産業省は50年までのネットゼロエミッション達成で水素が鍵を握るとの考え方から、トヨタによる水素燃料電池車の追求を支持している。政府は35年までに乗用車新車販売でハイブリッド車を含む電動車100%を実現するとの目標を掲げている。

日本の自動車メーカーや政府指導者が完全電気自動車への移行を推進することに消極的だったのは、既存の自動車の売り上げを奪うカニバリゼーションが起き、部品メーカーや下請け業者の幅広いネットワークにも打撃を与えると恐れたためだ。EVは一般的に従来の自動車ほど多くの部品を必要としない。

環境関連団体のクライメート・グループの報告書によると、自動車産業は日本の全製造業の20%近くを占め、雇用の8%を占めている。トヨタは雇用と競争力を維持するため、日本国内で約300万台の自動車を生産し続ける方針を示している。これは同社の全生産台数の約3分の1に相当する。

トヨタは30年までに30車種のEVを投入するため4兆円を投じる計画を発表している。他の日本勢もEVがもはやニッチ商品ではないと認識し、投資計画を強化している。

ただ、同業他社もEV強化のペースを上げている。GMは特に迅速に動いており、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリスト、ジョン・マーフィー氏はGMが25年にEV販売でテスラを抜く可能性があると指摘する。

トヨタの幹部は、多くの市場、とりわけ途上国では充電インフラが不足しているため、完全バッテリー駆動の自動車はまだ高価過ぎるか実現不可能だと指摘する。12月のケリー・ブルーブックのリポートによると、米国のEV平均価格は約6万5000ドル。これに対し全新車の平均価格は4万8000ドル余りだ。

トヨタのチーフサイエンティスト、ギル・プラット氏は、多くの国でEVブームを支える充電インフラが整っていないと指摘。これら市場ではEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)、水素自動車(HEV)の組み合わせが最も現実的な選択肢だと述べた。

「このような地域や、充電インフラへのアクセスが容易でない顧客にとって、PHEVやHEVは二酸化炭素(CO2)排出量を削減する上で最も効果的な方法だ。正味のCO2排出量をできるだけ早期にできるだけ多く減らす上で最良の方法でもある」とプラット氏は話した。

それでも日本の主要自動車メーカーにはなお多くの強みがある。数十年にわたって消費者の要求に応じてきたことで強力なブランドを確立し、新興メーカーが到底及ばないような流通・サービス網も備えている。

日本勢を「決して無視できない。まだ勝負は終わっていない」とコックス・オートモーティブのエグゼクティブ・アナリスト、ミッシェル・クレブス氏は語る。

それでも日本勢が追い付くのは容易ではないとアナリストらは話す。EVを巡る競争は従来の機械工学からソフトウエアやサービスへと移行しているためだ。スタートが遅れた日本勢は、ライバルより先にEVのサプライヤーや顧客を知る機会を逃していると、自動車やディーラーを格付けするiSeeCars.comのエグゼクティブ・アナリスト、カール・ブラウアー氏は指摘する。

「トヨタのようなリソースと能力を持ち、準備が整った時にEVを生産できるとしても、習得には時間を要する。今それをやっている他の自動車メーカーが先を行っている」とブラウアー氏は話した。

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