アップルがiPhoneをインドで生産、それでも「中国の代わり」になれない理由

アップルがiPhoneをインドで生産、それでも「中国の代わり」になれない理由

● 半導体製造に 本格参入するインド

 インド屈指の財閥系コングロマリット企業であるタタ・グループは2022年12月、今後数年以内に半導体製造に乗り出して、インド内で半導体サプライチェーンを構築すると発表した。

 タタの主力産業は自動車やIT、製鉄などであるが、特に自動車部門のタタ・モーターズは名門のジャガー・ランドローバーを傘下に収めており、多様なラインナップを持ち、中古車にも強みを持っている。ただ、ガソリン車ではこれまで先行してきたマルチ・スズキに大きく水をあけられており、EVなどの次世代自動車でなんとか先行しようとしている最中だ。

 コロナ禍で起こった半導体不足で赤字を続けており、その教訓から半導体を安定的に調達することが大きな課題になっている。

 インドはもともとIT分野で傑出した人材を数多く輩出しており、ソフトウェアに関して強みを持っているので、自動車事業ではEVにとどまらず、半導体が大量に必要な自動運転を見据えている。

 だが、現在は半導体の多くを輸入に頼っている。そのため、まずはインド政府と共同で半導体製造に乗り出して安定供給を実現し、ゆくゆくは製造業における「世界の工場」の地位を中国から奪取する算段なのだろう。

 タタは数年以内に半導体チップの後工程(仕上げ工程)の参入を目指しており、さらに将来的には回路作り(前工程)を担うつもりだ。この野心を実現するために、向こう5年で900億ドル(約12兆2000億円)もの巨額投資を計画する。

 もちろん、インドの半導体製造はまだ未成熟であり、ライバル国である中国からは大きく後れを取っている。そこで、日本のルネサスエレクトロニクスなどと設計・開発で協力して、一気にこれまでの後れを解消するつもりだ。

 先端半導体の量産には1兆円単位の巨額投資が必要であり、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)にせよ、韓国のサムスンにせよ、政府のバックアップが必要不可欠になっている。インド政府の支援の下、タタが半導体製造に乗り出すことは、中国とのデカップリング(分断)を図ろうとしている企業が急速に増えている中で、まさに時宜を得た政策であるといえる。

● iPhone製造工場の インド移転の衝撃

 タタが半導体参入を発表する直前に、インド投資に関して注目される報道があった。それはアメリカのAppleが同社のiPhone14をインドで製造すると発表したことだ。アップルが最新製品をインドで生産するのは今回が初めてのこと。AppleからiPhone製造を請け負っている台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)が、インド南部のタミル・ナドゥ州チェンナイ近郊に工場を建設して製造を始めるという計画だ。

 Appleの主力製品である最新型iPhoneを製造することは、世界の代表的IT企業から高い水準の技術力を認められたことを意味する。脱中国の避難先としてインドが有力な選択肢になった証左とみることもできるだろう。

 その陰に、モディ政権の製造業復興政策である「メイド・イン・インディア」の取り組みがある。製造業拡大のためのモディ政権の地道な努力が、ようやく実を結び始めたのである。

 ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、JPモルガンは2025年までにiPhoneの4分の1がインドで生産される可能性があり、また、2027年までにインドが世界第3位の経済大国になると予想しているという。Appleやフォックスコンがインドは重要な製造拠点となり得るとみていることは確かだろう。

 IT大国インドはもともとIT分野で多くの優秀な人材を生みだしており、アメリカのシリコンバレーを拠点とするIT企業でもインド系幹部がかなりの割合を占めるようになっている。ソフトウエアに強みがあるゆえに、新型iPhoneのような先端ハードの製造を呼び込めたことは、一つの大きな成果である。

 Appleの試みが成功すれば、日欧米において中国とのデカップリングが進む中で、インドが「脱中国」における有力な選択肢として浮上するきっかけとなり得るだろう。

 ただし、ウォールストリート・ジャーナル紙によると、インドにおけるIT分野の就業者数は510万人にすぎず、全人口約14億人の主要産業とは言い難い存在である。そのため、インド経済が飛躍するためには、ソフトウエアのみならず、製造業を呼び込むことが不可欠になる。

 インドが世界第3位の経済大国になるには、西側のサプライチェーン拠点の地位を中国から奪い取り、中国との経済的な依存関係を脱却できるかどうかが一つのポイントとなるだろう。

 また、2023年に中国を抜いて人口世界一になるのが確実なインドは、投資家にとって魅力的なマーケットだ。特に中国市場が西側と切り離されることになれば、「次に狙うべきなのはインド」という認識は、ほとんどの企業が共通して持っているのではないだろうか。

 中国が製造拠点としての信用を失ったきっかけは、トランプ大統領が中国の製品開発の姿勢を「アメリカの技術を盗んでいる」「アメリカの知的財産にただ乗りしている」として、貿易制裁に走ったことだった。その後も、それらの技術が安全保障上の脅威になり得るとして、アメリカによる制裁はさらに強まった。

 こうした中、中国側は日米にキャッチアップするために、中国に投資した外国企業への締め付けを強めたことで評判を落とした。そして、それに拍車をかけたのがゼロコロナ政策だった。中国政府は2022年11月末に起こった「白紙革命」をきっかけにコロナ規制を緩めたが、だからといって、脱中国の動きが緩まるとは考えにくい。

 また、近年は中国政府が台湾併合の野心を隠さなくなり、中国への地政学的リスクが多くの西側企業で意識されるようになっている。ロシアのウクライナ軍事侵攻で明らかになったように、一方が「侵略行為をした」と認識されれば、「侵略国」への投資資金を回収する前であっても撤退を余儀なくされることが避けられない。

 「中国を中心に構築したサプライチェーン」を再構築することが、グローバル企業の課題になるのはほぼ確実である。したがって、民主国家でありながら中国に匹敵する人口を要するインドに注目が集まるのは当然だといえる。

● 外国企業のインド参入が 難しい数々の理由

 インド経済は中国にかなり依存している。インド商工省によると、2020年のインドの貿易額は、トップが中国で863億ドル(約11兆7000億円)であり、2019年までトップだったアメリカを抜いている。インドと中国は国境地域でたびたび紛争を起こしており、インド国内で中国製品の排斥運動が起こるほど関係が悪化したことがあるが、中国への経済依存は深まる一方にある。

 中国とのデカップリングを考えてインドに工場を移転させたとしても、中印の経済的なつながりが強いうちは、インドを全面的に信頼していいかどうかは不透明だ。

 また、インドは環太平洋連携協定(TPP)に参加しなかったほか、地域的な包括的経済連携(RCEP)の交渉からも離脱しており、多国間貿易協定を避けている。インドを国際的なサプライチェーンに組み入れたくても、他国との連携が難しいので、国際的なサプライチェーンの構築を目指す企業には理想的な国とは言い難いのである。

 さらにインドの信頼度を損ねているのが、「ライセンス・ラジ」の伝統だ。

 ライセンス・ラジとは、インドが国内産業を守るために企業活動を許認可制にしたことを指す。ライセンス・ラジでインド当局が大きな裁量を持ったことで、官僚に対する賄賂が横行した上に、事実上の「技術鎖国」によって技術開発競争に大きく後れを取る原因となっている。

 ライセンス・ラジ自体は、1991年にインド政府が産業参入の自由化を実施したことで表向きは廃止されているものの、実際はいまだにその伝統が色濃く残っているといわれている。

 確かにIT大国らしくデジタルインフラは整いつつあり、デジタル決済サービスの普及度は国際水準から見ても群を抜いている。都市部に関しては、デジタル環境は整っているといえる。また、旧イギリス植民地で英語が得意な人材が多いことも、国際ビジネス投資の上では特筆すべき強みである。

 さらに、中国と違ってインドは純然たる民主国家であることから、「中国より信頼できる」と考えるのが自然な流れだ。

 ところが、実情を見ると、外国企業からの投資は全体的に低調であり、「次はインド」と派手に宣伝していたAmazonも苦戦を強いられて、参入した産業のいくつかから早くも撤退せざるを得なくなっている。

 「次はインド」のかけ声から外国企業のインド参入は恒常的に続いているものの、その多くが成功したとはいえない状況に甘んじている。

 その原因の一つが制度の不安定さだ。インドでは上述したようにライセンス・ラジの伝統がまだ根強く残っており、当局の裁量権が大きいままである。そのため投資時点と制度が変わり、結局採算が取れなくなる事態に追い込まれるケースが散見される。

 それを避けるためにインド企業と提携するという方法もとり得るが、その場合、今度はインド企業側が自分たちだけがもうけようとして、失敗するというケースも少なくない。

 結局、タタのような自国の大企業が制度上も補助金などでも優遇される環境は温存されており、外国企業は最初から不利に置かれる。Appleにしてもインド政府がお墨付きを与え優遇してくれるからこそインド移転ができるのであり、投資環境は中国よりはるかに劣っている。

 さらにインドで最も致命的なのが中流層の薄さだろう。インドにおいて、国際水準で「中間層」と見なしていいのは全人口の15%にすぎないとみられている。また、GDPのかなりの割合を占めるとみられる富裕層が貯金する傾向が強いために、消費が伸びにくいと分析している研究がある。(参照https://www.foreignaffairs.com/india/why-india-cant-replace-china

 全人口における若年層の割合が高いので、市場のポテンシャル自体は高いものの、中間層がまだまだ育っていないことは、インドでのビジネスを難しくする原因となっている。国際的なサプライチェーンにおいて脱中国が進むにしても、その代替国としてインドが第一候補になることはまだ期待できないだろう。

 高い技術が必要な分野で中国の代替ができるとすれば、日本、韓国、台湾の3カ国に絞られるが、そのうち韓国はストが頻発しておりオペレーションにおいて安定しているとは言い難い。また、台湾は言うまでもなく地政学的リスクが高く、むしろTSMCをはじめとする台湾の半導体技術を中国からいかに守るかが喫緊の課題になっている。

 したがって、脱中国の動きで最も恩恵を受ける可能性があるのは日本になるだろう。

 インドは確かにポテンシャルの高い国であるが、まだそれを生かせる環境にはないと考える。投資環境として中国には遠く及ばず、制度面をはじめ、官僚や労働者の職業倫理まで整えるとなると、かなりの時間を要すると考えられる。

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