追い込まれたプーチンが、ついに「核の先制使用」に踏み切るかもしれない…! 世界中を敵に回しても…
「核の先制不使用」を見直す?
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「核の先制不使用ドクトリン」を見直す可能性を示唆した。これは「いつもの脅し」なのか。私は、12月2日公開コラムで紹介した米国と中国の「秘密合意」が背景にある、とみる。このドクトリンこそが鍵を握っているからだ。
プーチン氏は12月9日、キルギスの首都、ビシュケクで記者会見し、こう語った。
〈米国は「核の予防的使用」を、自分たちの戦略に掲げている。我々は、そうではない。我々の戦略は「報復攻撃」だ。武装解除的な攻撃について考えるなら、米国のベストプラクティス(最善の方法)、つまり、自国の安全保障を確保する彼らのアイデアを採用することを考えてもいいかもしれない。もしも、潜在的な敵が「予防的攻撃」を考えることができて、我々がそうでないなら、我々に脅威が迫ることを考えざるをえない〉
直前の7日にも、核戦争の脅威が増大したと警告する一方、核の先制不使用を約束するのは控える姿勢をにじませて、こう語っていた。
〈ロシアが「どんな状況であれ、そうした武器を最初に使わない」という考えについて言えば、それは「核を使った2番目の反撃もできなくなる」ということを意味する。なぜなら、我々の領土が攻撃されたときに、反撃する可能性は非常に限られてしまうからだ〉
これは、2月の開戦以来、何度も聞かされてきた「脅し」の単なる続きとは、言い切れない。プーチン氏が「核の先制不使用ドクトリン」に言及したのは、これが初めてだ。脅しだったとしても、一段とギアを上げたのは、たしかである。
「長年の伝統」だった
ロシアの核ドクトリンとは、何か。
それは、プーチン氏が2020年6月2日に署名した「核抑止力に関するロシア連邦の基本的原則」という大統領令を指している。5月6日公開コラムに詳しく書いたが、あらためて紹介すると、次のようだ。
〈この基本原則は、防衛を確保する分野における戦略的計画文書を表し、核抑止の本質に関する公式見解を反映し、核抑止の実行と原則、およびロシア連邦が核兵器を使用する条件によって無効化される軍事的リスクと脅威を特定する〉
〈核抑止に関するロシア連邦の国家政策は、連邦とその同盟国に対する侵略を防ぐための力と核抑止手段によって実施され、共通の設計で調整・統一された軍事、軍事技術、外交、経済、情報、その他の一連の措置からなる。核抑止力は、ロシア連邦とその同盟国に対する侵略が発生した場合に、潜在的な敵に対して、報復の必然性を理解させることを目的としている〉
〈核抑止の原則は次のとおり。a)国際的な武器管理コミットメントの遵守。b)核抑止を可能にする活動の継続性。c)軍事的脅威に対する核抑止の適応力。d)核抑止手段と軍事力を発動する規模、時間、場所に関する敵の予測不可能性。e)核抑止の確保に関与する連邦執行機関と組織活動に対する統制の集中化。f)任務達成に十分で、最小レベルの核抑止力維持。g)核抑止力と戦闘使用手段の恒久的準備〉
ここに示されているように、ロシアの核抑止力は「潜在的な敵に対して、報復の必然性を理解させる」ことが目的だ。あくまで報復であって、自分が先に核を使うことはない。そのうえで、実際に核を使う場合には、次のような条件を課している。
〈ロシア連邦は、通常兵器の使用によって連邦が侵略され、国家の存続が危機に瀕するとき、または、連邦とその同盟国に対する核兵器、または他の大量破壊兵器の使用に対応するときは、核兵器を使用する権利を留保する。核兵器の使用は、ロシア連邦大統領が決定する〉
〈ロシア連邦による核兵器使用の可能性を特定する条件は、次のとおり。a)ロシア連邦とその同盟国の領土を攻撃する弾道ミサイルの発射に関する信頼できるデータの入手。b)ロシア連邦とその同盟国に対する敵の核兵器、またはその他の大量破壊兵器の使用。c)ロシア連邦の重要な政府、または軍事拠点に対する敵の攻撃、核兵器軍の対応を損なうような破壊活動。d)国家の存在そのものが危険にさらされるような通常兵器によるロシア連邦に対する攻撃〉
プーチン氏が文書に署名したのは2020年6月だったが、実は、それよりずっと前の2000年4月21日、ほぼ同じ内容の軍事ドクトリンに署名している。したがって「核の先制不使用」という概念は、昨日今日になって突然、出てきたものではない。「長年の伝統」と言ってもいい。
プーチン氏は9月30日、ウクライナ東部と南部4州の併合を一方的に宣言した。その大きな理由の1つは、このドクトリンに照らせば、併合した東部と南部に対する攻撃も、ロシア連邦に対する攻撃とみなして、いざとなれば、核で反撃することが可能になるからだ。
プーチンが恐れているもの
プーチン氏は今回、ドクトリンを見直して、先制攻撃を可能にする考えをほのめかした。このタイミングで、見直しに言及したのは、なぜか。私は、12月2日公開コラムで紹介した「米中密約」が背景にあるのではないか、とみる。
それは、どんな合意だったか。米国は「ポーランドがウクライナにミグ戦闘機を提供するのを阻止する」代わりに、中国は「プーチン氏が核使用を命じても、ロシア軍が応じないよう、人民解放軍は全力で説得する」という内容である。
この米中密約は、英国のジャーナリスト、オーウェン・マシューズ氏が、英誌「スペクテーター」(11月26日付)に寄稿して、明らかになった。ハイライトは次の部分だ。
〈もしも核を使う政治決定があったとしても、ロシア軍は「ロシアの領土に対する攻撃によって挑発されたときのみ、核を使う」という長年の核ドクトリンを厳守する。北京の目的は、それを確実にすることだった〉
〈非公式な「トラック2」の接触を通じて、ワシントンと中国人民解放軍は「米国がミグの取引を止めるなら、中国の将軍たちは『プーチンの核の脅し』を実務レベルで無効化するために、最善の努力をする」という合意に達した。ドナルド・トランプ前大統領時代の関係悪化を考えれば、まったく異例な出来事だった。中国の情報筋は「うまくいった」「米国は戦闘機を提供する計画を退けた」と語った〉
プーチン氏は、ここにある「長年の核ドクトリン」の修正に言及したのだ。肝心要のドクトリンを修正してしまえば、軍は命令に従って、核を使用せざるを得なくなるからだろう。逆に言えば、プーチン氏はそれほど「軍人が反乱する可能性」を深刻に受け止めていたのだ。
中国との対立が深まる…
ちなみに、中国もロシアと同じように「核の先制不使用」を掲げている。
5月14日付「夕刊フジ」のコラムに書いたが、中国の駐日大使館が公表している「中国の核兵器と核軍縮政策」という文書によれば、「中国は先に核兵器を使用せず、非核兵器保有国に対し核兵器を使用しないか、または核兵器を使用すると威嚇しないことを約束している」と明確に掲げている。だからこそ、中国はロシアを説得できたという側面もある。
もしも、プーチン氏が核の先制不使用を掲げたドクトリンを修正すれば、中国との立場の違いが鮮明になる。中ロに一定の緊張が走るのは、避けられない。もちろんプーチン氏は、それも承知の上だ。
それでも見直しに言及したのは、それほど追い詰められているからだろう。ドクトリン見直しを語ることで、ウクライナや米国はもちろん、中国と自分の手駒であるロシア軍をも、けん制してみせたのだ。
12月8日、クレムリンでロシア軍幹部たちに金星章のメダルを授与したプーチン氏は、シャンペングラスを手に「千鳥足」だった。機嫌の良さとは裏腹に、腹の中では、軍と習近平総書記(国家主席)に怒り狂っていたかもしれない。とりわけ習氏だ。「オレの頭越しにロシア軍に手を突っ込むとは、許せない。いまに見ていろ」。そんな風に逆上しているとしたら、次に何が起きるのか。私は楽観していない。
