バフェットがTSMCに投資した真意-「半導体」は戦略兵器になる

バフェットがTSMCに投資した真意-「半導体」は戦略兵器になる

「産業のコメ」半導体

 TSMC(台湾積体電路製造)が最近世界的な注目を浴びている。deallabの「ファウンドリ・半導体受託生産業界の世界市場シェアの分析」によれば、世界シェア(2021年)は51.3%で、過半を超えるダントツの1位だ。

 2位のサムスン17.5%のほぼ3倍という圧倒的首位の座を維持している。ただ、これまでファンドリというものは、アップルなどの完成品メーカーの下請けとの位置づけで、その事業の巨大さの割には重要視されてこなかったのも事実だ。

 特にデフレ時代には、「大量の製造部品を安価に供給する役割」ばかりが強調され、黒子の役割を果たしてきた。しかし、パンデミックなどをきっかけとする「半導体不足」によってその存在がクローズアップされてきたといえよう。

 直近の供給網の混乱という一時的(地政学、パンデミック・リスクの高まりによっては恒久的になるかもしれない)影響が大きいと思われがちだ。

 しかし、これまでのデフレ時代には、アップルの様な、消費者に直接かかわる「下流」の企業が力を持っていたのが、これからのインフレ時代には、アップルなどの完成品メーカーに部品を供給する「より上流に近い」TSMCの重要度が増す。

 これは、半導体業界に限らずほぼすべての産業にいえることであり、昨年11月8日公開「『プライベートブランド』がこれから『衰退する』と断言できるワケ」の副題「インフレ転換で優位は川下から川上へ」の流れとも並行している。

 また、TSMCだけに限って言えば、5割を超えるダントツのシェアを確保したことが競争力の源泉だ。これだけのシェアを持てば市場を支配する力を獲得できるから、ビジネスの上の交渉でもアップルなどの完成品メーカーに対して優位な交渉が可能だ。

 さらに、「半導体」の「安定的供給」は、国家安全保障上の問題としてもクローズアップされている。

 「与しやすいバイデンがいる間に~習近平の台湾進攻が2023年の理由」で述べたように、2023年にも台湾侵攻が見込まれる中で、TSMC生産基地の日本や米国への移転が急速に進んでいる。

 かつて「鉄」は「産業の米」と呼ばれた時代があった。鉄製品がコメのように我々の日常に不可欠(当時は現在ほどパン食が進んでいなかった)という意味だが、今では半導体が「産業のコメ」であると言っても過言ではないであろう。

 過去を振り返れば半導体ビジネスは市況産業であり、現在の品不足の後には大幅な供給過剰が起こる可能性は否定できない。それでも、長い目で見れば「半導体は産業のコメ」であり続けると考える。

 したがって、11月30日公開「ついにGAFAバブルも『崩壊』か…『IT・インターネット革命』の時代は終わった」、11月14日公開「いよいよGAFAが総崩れ、メタはメタメタ、アマゾンよお前もか!」などで述べたGAFAを始めとするビッグテックとは逆に、TSMCなどの「半導体産業」はこれから長期的に発展すると考える。

台湾有事は当然想定されている

 まず、「安全保障」関連の話だが、少なくとも昨年11月9日朝日新聞「TSMC、8千億円かけて熊本に新工場 ソニーGも570億円出資」と報道された頃から、「台湾有事」が現実の問題として想定されていたと考えられる。なぜかと言えば、約8000億円の約半分にもあたる約4000億円を(外国企業であるTSMCに)日本政府が補助する意向とされるからである。

 この決定の背景には、「米国の安全保障に関わるTSMCの半導体製造工場」を、侵攻が予想される台湾から「米軍基地がある日本へ移す」という戦略が見え隠れするわけである。日米安全保障条約で米国に守ってもらっている日本としては、米国の要望に逆らえず巨額の補助を行うことにしたのであろう。

 実際、米国へのTSMCの工場移転も進んでいる。

 アリゾナ第1工場はすでに建設中だが、Bloomberg12月7日「TSMCが米で3ナノ先端半導体、26年生産開始ーー5.5兆円に投資拡大」で伝えられるように、3ナノ生産用の第2工場を建設すると発表した。さらに、着工済みのフェニックス工場をバイデン大統領が視察した上、式典で工場の建設を歓迎する旨の演説を行った。米政府がかなりの力をいれていることは明らかだ。

 ただし、半導体製造には、熊本工場でも生産開始は2024年12月の見込みであるように、工場建設から始まってかなりの時間がかかる。したがって、もし来年台湾侵攻が起これば混乱は避けられない。

 それでも、何もしないよりははるかにましである。また、前記「与しやすいバイデンがいる間に~習近平の台湾進攻が2023年の理由」でも述べたように、民進党が惨敗していることから、今後台湾における中国の影響力がさらに増大することが予想される。したがって、台湾侵攻がある無しに関わらず、TSMCの「台湾脱出」は急務であるといえよう。

 はっきり言えば、TSMCの先端技術が共産主義中国に流れる危険性が色々な意味で今後増大するから、台湾に技術を残すのは危険であるということだ。

実は、首根っこを押さえているのは日本!?

 前記「ファウンドリ・半導体受託生産業界の世界市場シェアの分析」を見ても、日本勢は全く振るわない。

 だが、心配する必要はない。3月28日のTech(マイナビ)ニュース「2021年の半導体製造装置メーカー売上高トップ15、日本企業は7社がランクイン」という状況なのだ。

 つまり、半導体(完成品)製造そのものでの日本勢の存在感は薄いが、その半導体を製造するための「製造装置」分野で日本は圧倒的力を見せつけているのである。

 さらに、2019年に韓国に対して「輸出管理強化」を行った化学製品3品目は「フッ化ポリイミド」「レジスト」「フッ化水素」である。たったこれだけで韓国が大慌てしたのだから、ファンドリよりもさらに「上流」の材料・素材分野での日本の強力なパワーがよくわかる。

 アップルなどの完成品メーカーから、より「上流」のファンドリ、さらにはその川上の「製造装置」や「素材・材料」へと向かってより重要度が増しているのである。

 現在のところ、日本の製造装置や素材・材料の「安全保障問題」は議論されないが、それは高度製品の多くが日本で製造され、日本本土には米軍基地がすでに存在するからである。(ただし、「尖閣諸島」は米国の視点では(防衛すべき)日本に含まれていないと考える)。

バフェットはなぜTSMCに投資?

 Bloomberg11月21日「バフェット氏のTSMC株50億ドル相当取得、投資開始の好機示唆」と報道されている。

 投資はあくまで自己責任だが、好不況の波が激しい半導体業界の短期的将来はともかく、長期的将来について、バフェットが「強気」であると判断しても間違いが無いのではないだろうか。

 なお、バフェット自身は投資をした理由についてコメントはしていない。そのため、はっきりとした意図は不明だが、彼も半導体を「産業のコメ」と考えているのではないだろうか。

 バフェットが好んで投資するのは「必需品」である。たとえば ,(ジレットの)髭剃りのように、髭剃りをする習慣が無くならない限り、確実に更新需要がある製品だ。「永久保有」を目指すバフェットにとって「需要が途切れずに繰り返し消費者が購入する」製品はまさに「お宝」なのだ。

 ちなみに、現在ジレットはP&Gの一部になっているが、バフェットはその持ち分をP&Gの株式として保有している。P&Gも消費者が繰り返して購入する日用品のメーカーである。

 また、業界ナンバーワン企業に投資をするのがバフェット流だ。コカ・コーラ(ザ・コカ・コーラカンパニー)が典型だ。ペプシ・コーラ(ペプシコ社)も魅力的企業だが、バフェットが選択するのは業界ナンバーワンのコカ・コーラである。ちなみに子供のころからバフェットはペプシ・コーラを愛飲していたが、コカ・コーラに投資を始めてからはそちらに切り替えている。

バフェットの見る地政学リスクは?

 バフェットは地政学リスクに無頓着なわけではない。だが、そのような「地政学リスクを乗り越えていくだろう企業」に投資を行うスタンスだ。

 例えば、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行で世界中が大騒ぎをしている特に共産主義中国のペトロチャイナに投資を始めた。この時は「共産主義中国の企業」に投資をしたというよりも、「世界の大手石油会社」の中で割安であるということが大きな理由であった。

 原油などの天然資源を採掘する大手企業の一角であれば、世界の混乱を乗り越えて成長していくと判断したのだと思われる。

 今回のTSMCへの投資も、世界市場の過半を握るトップ企業であれば、たとえ台湾侵攻があっても、「長期的に」発展していくとの判断を行ったのであろう。つまり、台湾の企業というよりも、「(これから)世界に広がる半導体企業」として見ているのだ。

 TSMCを始めとする世界の半導体産業の動向からは、これからも目が離せない。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏