JR大阪駅「性的広告」炎上に見る、日本で広告炎上が続いてしまう真の理由

JR大阪駅「性的広告」炎上に見る、日本で広告炎上が続いてしまう真の理由

 JR大阪駅に掲示された、対戦型麻雀ゲーム「雀魂(じゃんたま)」とテレビアニメ「咲-Saki-全国編」とのコラボ・ポスターが物議を醸し、論争に発展している。

【写真】2022年4月4日に日経新聞朝刊の全面広告で炎上した漫画『月曜日のたわわ』など、広告の炎上が後を絶たない

 きっかけとなったのは、立憲民主党の前衆議院議員・尾辻かな子氏が、本広告の「性的な表現」に関して、Twitterで批判的な投稿を行ったことだ。駅構内に掲出された広告には、バニーガールや水着などの衣装姿の女性キャラクターが描かれている。

 その後、SNS上では賛否両論の議論が巻き起こったが、尾辻氏に対しても批判のみでなく、誹謗中傷や脅迫のメッセージまで送られるに至っている。

 二次元キャラクターを活用した広告の性的表現は、過去に何度も問題になり、論争が起きている。しかしながら、依然として明確な結論は出ていないし、メディアやSNS上の論調を見ても賛否両論出ており、落としどころは見いだせていないのが現状だ。

 近年、ジェンダー表現に関しては、世界的にセンシティブになっており、広告表現もその例外ではない。

 そうした中、日本で何度も繰り返しこのような問題が起き、議論が巻き起こるのはなぜなのだろうか。

■何度も起きる二次元キャラクター広告の「性的」論争

 今年に限ってみても、同様の議論はいくつか巻き起こっている。

 2022年4月4日に日経新聞朝刊に掲載された、漫画『月曜日のたわわ』の全面広告においては、女子高校生の胸や足(ミニスカートを着用)を強調したイラストが物議を醸した。

 これの広告に対して、国連女性機関が抗議の意を表明したが、国連の抗議にスポーツコメンテーターの為末大氏、人気漫画家の赤松健氏が反論するなど、一般消費者を越えて、論争に発展している。

 一方では、同年2月4日に新宿駅に掲示された『鬼滅の刃 遊郭編』の広告に関しては、露出の激しい女性キャラクター堕姫の胸元などの露出部分を「隠す」ように、図形のエフェクトが施されていることが、SNS上で話題になった。

 上記の2事例と比べても、JR大阪駅の広告は肌の露出度が高く、より「性的」な表現が強いとも言える。

昨年になるが、千葉県警が松戸市のご当地女性バーチャルユーチューバー(VTuber)・戸定梨香(とじょうりんか)とコラボして、交通安全啓発動画を制作・公開したが、露出度の高さを問題視した「全国フェミニスト議員連盟」から「女児を性的な対象として描いている」と抗議を受け、動画は削除されるに至っている。

■女性は二次元の「性的表現」を不快に思うのか

 『月曜日のたわわ』の論争が起きたときに、大学の私の授業でこの話題を取り上げ、受講者に対して、「この広告は問題だと思うか否か」を挙手してもらったところ、7~8割の学生が「問題はない」というほうに挙手をしていた。

 当該授業は、女子学生が半数以上は受講していたが、女子学生も含めて、「問題ない」とする意見が優勢だった。

 この結果は、著者にとっては意外ではあったが、改めて考えてみると、日常的にアニメや漫画で同様の表現を見慣れている学生にとっては、広告の「性的表現」もさほど問題視するほどのことではない――と考えたのかもしれない。

 実際、このたびのJR大阪駅の広告に関して、担当広告代理店のJR西日本コミュニケーションズは、女性社員も含めて複数の担当者で検討し、何度かの修正を加えたことを表明している。

 女性だからといって、必ずしも性的な表現を不快に思うとは限らないし、『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴氏にせよ、『うる星やつら』の高橋留美子氏にせよ、そうした表現を行う漫画家自身が女性であることも少なくない。

 ある表現を不快と思うか否かについては、個人によって大きく異なるし、文化や慣習、あるいは時代による違いも大きく、一律に判断することは困難だ。

 だからこそ、上記のような複数のチェックプロセスを経ても、問題化してしまうことが十分ありうるというのが実態だろう。

■広告におけるジェンダー問題、2つの論点

 広告におけるジェンダー表現に関しては、さまさまな論点がありうるが、究極においては、下記の2点に集約できると考える。

1. そもそも「表現自体」が適切か否か

2. 多くの人の目に触れる「広告」という形式での表現として適切か否か

 1に関して、ジェンダー表現に関する規制が年々強まっていく中、企業側も学習し、実際に配慮もするようになっている。

 しかし、二次元キャラクターを使った広告は、依然として問題になり続けている。その背景には、「原典」となる二次元キャラクター自体の露出度が高く、そこを参照点として、広告制作を行っていることがある。

 日本のアニメ作品の女性キャラクターには、過度に女性の身体的特徴が強調されていたり、露出度が高かったりするものが多いが、その中には未成年と思しきキャラクターも少なからずいる。

 海外の基準からは「児童ポルノ」と見なされてしまうことも多く、そうした基準に照らすと、「表現上問題あり」とされることになる。

 「表現の自由は守るべき」「見たくない人は見なければよい」という主張も当然あるのだが、広告に関しては、2の“到達範囲”の問題がある。

 漫画なら読者、アニメなら視聴者が自主的に見るものだが、広告については、ターゲットが厳密に絞り込まれたものでない限り、否応なしに不特定多数の目に触れるものであり、「見たくない人も見てしまう」という状況は必然的に出てきてしまう。

 東京大学教授の瀬地山角氏は、炎上広告を下図のような4象限で整理しているが、右側の性役割に関する表現で炎上することは、以前と比べると大きく減っている。

 【炎上広告の4象限】

 (外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 最近よく問題になるのは、左下の「外見・容姿」に関する、「男性」を訴求対象にしたものである。しかも、この象限で問題になるものの大半はキャラクターに関する表現であり、その多くは「二次元キャラクター」である。

■「適正さ」の落としどころはどこに? 

 二次元キャラクター広告の性的表現が問題になる背景には、日本の漫画やアニメが「オタク文化」として成長しつつ、いまや世界的なコンテンツにまで発展しているということがある。

 性的な表現も含めて、現在の漫画やアニメの表現形式は「日本の文化」ともいえるし、「表現の自由」として尊重するべき点もある。

 一方で、グローバルの文脈、時代の流れの文脈に寄り添っていかなければならない段階にも来ており、「広告」という不特定多数の人の目に触れるメディアにおいて、先行して問題視されてきていると言ってよいだろう。

 歌舞伎においても、庶民のアングラ文化から出発し、日本の伝統芸能として生き残るに至るまでには、多くの規制と洗練を経ている。

 性的表現に関しても、「表現の自由」は尊重しつつも、時代の流れに沿いながら、訴求する人たちへの十分な配慮を行いながら、適正な水準に落ち着かせることが重要だ。

 特に、適正水準を測るうえで、広告は「炭鉱のカナリア」としての役割も担っているといえる。つまり、広告より到達範囲の狭い表現においても、それが適正かどうかを考えるうえでの指標となりうるのだ。そうした点でも今後ますます十分な検討と配慮が必要ではないだろうか。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏