メタとアマゾンも“大量解雇”で崩壊寸前!「メタバース事業」「アレクサ」で巨額赤字を垂れ流し…
前編『「月収250万円、48歳のTwitter元従業員が激怒「イーロン・マスクのせいでクリスマスプレゼントも買えません」』では、イーロン・マスク氏が買収したツイッター社の惨状を見てきた。だが、苦境に陥っている巨大IT企業はツイッターだけではない。
メタは「めためた」
巨大IT企業が国家を超えるほどの力をつけ、世界を支配するようになって久しい。だが、声を大にして言う人はほとんどいないが、こうした企業はすでに衰退を始めている。もっとも深刻な状態なのが「メタ」(旧フェイスブック)だ。
11月11日、オンラインで開催された全社集会に、マーク・ザッカーバーグCEO(38歳)は青白い顔で登場した。9日に全従業員の13%にあたる1万1000人の人員削減を発表したばかり。「さらなる解雇はあるのか」という質問に、ザッカーバーグ氏はこう答えることしかできなかった。
「何も約束はできない」
ザッカーバーグ氏がフェイスブックを立ち上げたのは'04年。実名を基本にしたSNSは発展を続け、今や約29億人が利用している。'12年には、現在約12億人が利用する写真投稿が中心の「インスタグラム」を買収した。
だが、事件が起きる。'16年の大統領選挙でトランプ氏が有利になるよう、ロシアの工作員がフェイスブックの広告を大量に買っていたことが判明。さらに8700万人の個人情報の不正利用まで見つかってしまう。
「(サイトの)悪用について十分な手を打てていなかった。私の過ちだ」
'18年、ザッカーバーグ氏は米上院で謝罪をした。すでにフェイスブックは「めためた」だったが、'21年10月、社名を「メタ」に変更して会社の建て直しを計る。コロナ禍が追い風になり、メタは復活を果たしたかのように見えた。時価総額1兆ドル(約140兆円)を突破し、'19年に約4万5000人だった従業員は、'22年9月末には約8万7000人まで増えた。
メタバースで一発逆転?
だが、空前の好調は「バブル」に過ぎなかった。'22年7~9月の最終利益は前年同期比から半減し、時価総額は4分の1まで落ちてしまった。
「メタは収益の約98%を広告が占めており、景気が後退すれば広告費が一気に減って業績が悪化するという『弱点』を抱えています。しかも肝心のフェイスブックは利用者の高年齢化が進み、インスタグラムの若い利用者も中国発のTikTokなどに食われているのです」(百年コンサルティング代表・鈴木貴博氏)
広告収入頼みの経営から脱するために、ザッカーバーグ氏は起死回生の一手……「メタバース」に懸けている。専用のVRグラスを着ければ仮想空間で遊んだり買い物ができるという代物で、すでに「ホライズン・ワールズ」というメタバースサービスを開始している。
といってもクオリティは低く、'22年8月にザッカーバーグ氏が投稿した画像は、あまりの「ショボさ」で逆に話題になった。
それにもかかわらず、この事業だけで年初から94億ドル(約1.3兆円)の損失を出しており、「なぜここまでカネがかかるのか」と訝む株主も出てきている。株価下落にも繋がり、メタは確実に厳しい状況に追い込まれている。
佐川急便&ヤマト運輸にも勝ち目あり
SNSを運営する企業だけではない。物流を支配する「アマゾン」も苦境に立たされている。'22年1~3月期決算で7年ぶりの赤字に転じた。この期の売上高は約116億ドル(約16兆円)だが、約38億ドル(約5320億円)の赤字だ。
'19年末に約80万人だった従業員は、'22年9月には約154万人に増えていた。しかし業績悪化を受けて、手始めに約1万人の解雇を決断した。
「何でも買える」をスローガンに、アマゾンは新規製品の開発に手を広げてきた。たとえば「アレクサ、音楽をかけて」と話しかけると曲を流してくれるスマートスピーカーや、家庭用ドローンなどだ。だが、商品を製造・開発するハードウェア事業は年約50億ドル(約7000億円)の損失を垂れ流しており、アマゾンの経営を直撃している。
「アマゾンの中核であるネット通販(EC)事業も安泰とはいえません。日本でも優れた物流網を持っている佐川急便やヤマト運輸がEC事業を始めれば、アマゾンを逆転できる可能性があるでしょう」(前出・大原氏)
創業者ジェフ・ベゾス氏(58歳)であれば、アマゾンを復活に導くことも不可能ではないかもしれない。だがベゾス氏は'21年に会長職に退き、その後は宇宙旅行をしたり、気ままに投資をしたりしている。米CNNによる最新のインタビューでは、こんな発言をしていた。
――(17兆円の)資産の大半を寄付するつもりはありますか?
「はい。このおカネを有効に寄付できる受け皿を作っているところです。いま世の中で嫌なのは多くの分断が起きていることです……」
恋人である女優ローレン・サンチェス(52歳)を隣に座らせ「人類を結束させたい」と語るベゾス氏は、アマゾンには興味がないのかもしれない。
「アマゾンは倒産するだろう」
'18年には、社内会議でこんな発言をしている。
「アマゾンは倒産するだろう。大企業を見ると、その平均寿命は30年程度。100年ではない」
アマゾンは'94年、シアトル東部にあるベルビューという街で誕生した。創業30年が迫る中、アマゾンの成長が限界を迎えつつあることにベゾス氏も気づいているはずだ。
栄華を極めた巨大IT企業が躓き、下り坂に入りつつある。これは避けられない運命だと言うのは、慶應義塾大学大学院の小幡績准教授だ。
「'90年代に始まったIT革命は私たちの生活や仕事を一変させました。しかしすでに成長は限界に達している。今のIT企業はSNSに余計な手を加えたり、必要のない最新機器を売りつけたりすることで、技術革新が起きたかのように見せかけているだけなのです」
巨大IT企業が弱っていく一方、中国やインドを中心に同じようなサービスを展開する新興企業が次々に生まれている。ムダな事業と人材を抱えていない分、彼らは高い収益率を叩き出せる。メタやアマゾンも体力があるうちは企業買収で「ライバルの芽」を摘んでいたが、いつまでもそれを続けられるわけではない。『the four GAFA』の著者、スコット・ギャロウェイ氏は言う。
「強者の崩壊は、けっして悪いことではありません。ツイッターを例にとれば、イーロン・マスクの元を去った超優秀なエンジニアがたくさんいます。彼らが新たな企業に移り、ツイッターより優れたサービスを開発するかもしれません」
ツイッター共同創業者、ジャック・ドーシー元CEOは'22年8月、こんなツイートをしていた。
〈最大の問題にして、私の最大の後悔はツイッターを企業化したことだ〉
創業者のたった一つのアイデアは、驚くほどのスピードで巨大な事業に成長を遂げた。だが拡大が止まれば、やがて必ず若い企業に追い抜かれ、消えていく「末路」を辿る。それこそが、IT企業の宿命なのだ。