セクハラや不祥事「SNSで告発」 なぜ内部の相談窓口は信用されないのか
ハラスメント被害や企業の不祥事が交流サイト(SNS)に投稿され、組織が大きなダメージを負うケースが相次いでいる。直近では、帝京大の男子学生が男性教授から差別的な対応を受けたとする内容がTwitterに投稿され、大学側は事実関係の調査を始めた。多くの組織が内部の相談窓口を設置している一方で、SNSに情報が晒(さら)されるのはなぜなのか。背景を探ると、内部窓口への不信感が浮かんでくる。
「女子学生さんですよね? たまに女子みたいな男子もいますので、念のため」
「男子には内緒ですが、女子は基本的には応募=採用です」
11月21日にTwitterに発信された投稿。ゼミの学生募集に関し、男性教授から届いた返信内容が画像で公開された。教授は男子学生の名前から女子だと勘違いしたという。
投稿には、返信内容とともに、この学生と教授のやりとりが録音された音声データも添付されており、教授の一方的な発言が収められていた。
「あなたが女だったら、優先的に採るつもりだよと。それだけだよ」
「最後は決める人(採用者)が権限持ってるわけでさ。四の五の言われる筋合いじゃないのよ」
「機会は与える。結果の平等はないよ」
この投稿内容を把握した帝京大は22日、この教授のゼミの学生募集を中止したと発表し「教員の立場を利用した学生へのハラスメント行為(アカデミックハラスメント)や差別的行為を許容しておらず、決して許されるべきものではない」とのメッセージを発信。24日には、内部調査委員会を発足したと発表した。
弱い立場の人に「抗う力」与えたSNS
「SNSの浸透により身の回りで起きるエモーショナルな出来事が総じてネタ化される時代となり、その結果、人々が泣き寝入り体質から脱却しつつあることを象徴しているように感じる」
こう話すのは、経営管理や人事責任者などを経験し、企業の内部事情に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎氏だ。
川上氏は、告発内容が捏造や名誉棄損に該当する可能性など、発信時に注意すべきこともあるとした上で「これまで弱い立場で泣き寝入りを強いられてきた人に、SNSは抗う力を与えた。ハラスメントの加害者側は、力でねじ伏せるという発想を捨てなければならなくなった」と指摘する。
「幼い子どもが防犯ブザーを持つことで一定の犯罪抑止効果があるように、誰もがオープンに発信し警鐘を鳴らすことができる力を持つことは、パワハラ・アカハラに限らずあらゆるハラスメント対策として大いに有効」(川上氏)
実際、今回のケースに限らず、ハラスメント被害や企業内部の不祥事が内部関係者からSNSで暴露されるケースは近年、頻発している。
今年7月、中華料理チェーンを展開する大阪王将の店舗で「厨房にナメクジが大量にいる」などといった書き込みがSNSに投稿された。投稿したのは、大阪王将のフランチャイズ加盟会社の社員。何度も上司に改善を求めたが対応されず、SNSでの告発に至ったという。
その後、大阪王将は運営元とのフランチャイズ契約を解除し、2店舗を閉店した。
個人の判断でSNSに告発することには、会社側から損害賠償を請求されるなど、さまざまなリスクも伴う。多くの組織がハラスメント相談窓口や内部通報窓口を設置する一方で、それでもなお、情報がSNSを通じて公にさらされるケースが頻発するのはなぜか。背景を探ると、内部の相談窓口への不信感が浮かび上がる。