メタが1.1万人削減に追い込まれた苦しい懐事情

メタが1.1万人削減に追い込まれた苦しい懐事情

 全従業員の半数にあたる約3700人を解雇したTwitterに続くように、Facebook運営で知られるMeta(メタ)が大規模な人員削減を打ち出した。

 11月9日、メタは全従業員の約13%にあたる1万1000人を解雇すると発表した。

 これに先駆けてメタは従業員に対して、不要不急の旅行を控えるように通知したと報じられていた。従業員が会社からの連絡を受けるためだ。

 今回の解雇対象者は、すぐさま会社の機密情報にアクセスできなくなり、通常の退職金に多少の額が上乗せされたようだ。2023年1~3月期までは新規採用も停止する。この解雇人数は少なくない。影響は大きいだろう。なぜならば解雇された人数だけで大企業の社員数に匹敵するからだ。

 クールにいえば、ビッグテックだから業績が不振だったら従業員は解雇されるものだともいえる。また世界中のメタ社員が一斉に解雇になれば、各国の解雇規制に合致するのかという問題も出てくる。もちろん、それらについては専門の論者が評してくれるだろう。

 メタの株価は年初から70%以上ほど下落している。それは財務状況に表れている。

■メタの財務状況

 メタの財務報告書を見てみよう。直近で開示された2022年第3四半期(7~9月期)業績を見てみよう。

 (外部配信先では業績にかかわる図表やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 収益は277億1400万ドル(約3.8兆円)で、営業利益56億ドル(約7700億円)、純利益44億ドル(約6100億円)としっかり稼いでいる。日本企業で四半期にこれだけ稼いでいる企業はどれくらいあるだろうか。ただ、メタの業績に対してアナリストたちの予想はもっと高かったため、株式市場の期待をやや裏切った印象があったようだ。

 重要なのは、メタの収益と利益の傾向だ。

 ここ2年ほどの四半期決算の推移を見てみると、売上高にあたる収益は2021年第4四半期から下落している。問題は営業利益の下落が大きい点だ。

 この理由はなんだろうか。

 2021年第3四半期をそれぞれ100%として計算してみると、「研究開発費(Research and development)」「一般管理費(General and administrative)」がここ2年で大きく膨れ上がっていることがわかる。これは収益に対してコストが増加する=負担が増えるということだ。したがって利益減の要因になる。

■人件費の塊

 これら研究開発費や一般管理費は、いわゆる人件費の塊だ。人件費をかけたものの、そこまで収益にはつながらなかったように見える。この分析はあくまで短期間を前提としている。短期間であれば人材育成もままならないから、人材が収益に確実に貢献するとも思えない。ただ数字だけを見れば、収益と人材コストが見合わないことになる。

 それゆえに数字上では、メタの今回の大規模な人員削減は企業経営の面で合理的な決断といえるかもしれない。あくまで仮定ではあるものの、より少人数の研究開発費や一般管理費でも同じような収益が期待できるのであれば、少なくとも利益は上がる。さらに、構造改革やビジネスモデルの改善により、少ない人数で収益を戻すことができればさらに飛躍できる。

 とはいえ、一連の解雇によってメタの業績が継続的に上がるかはわからない。フェイスブックはこれからそれほど利用者が爆発的には伸びないような気がする。

 一方、メタは仮想空間のメタバースにシフトした戦略を有している。私もメタのVRゴーグル(Meta Quest)を購入し、有料コンテンツも相当数ダウンロードしている。そんな私であっても、Meta Questが一般的に爆発的に広がるような気はしない。

■アメリカのダイナミクス

 あえて積極的な解釈をしてみよう。メタがどうなるかは不明だが、今回の大規模リストラはアメリカ全体では前向きに捉えることもできるだろう。シリコンバレーではメタのように解雇を躊躇しない。正確にはアメリカでは法律上も解雇を躊躇しない。不謹慎かもしれないがこれこそがアメリカのダイナミクスだろう。そしてその“解雇”が次なる雇用への“機会”になるだろう。

 解雇になった社員の状況はさまざまで、中には路頭に迷う人もいるだろう。ただ、現在のアメリカではIT人材が不足している状況にある。「元メタ」という経歴は弱くないだろう。解雇された社員たちはWeb3.0のサービスを掲げる新たな企業に流れていくかもしれない。さらに人材のマーケットにはTwitterの元社員たちもいる。次なる革新的なサービスが生まれ、育つ土壌になりうる。これらの点は雇用が硬直化しがちな日本とは事情が異なるのだ。

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Twitter大量解雇直後にマスク氏が通達した「真っ当な経営方針」の中身

今年の春からIT業界やSNS界隈の話題を賑わしてきた、イーロン・マスク氏によるTwitter買収。途中、Twitter側が受け入れた提案をマスク氏が一方的に撤回するなどの紆余曲折があったものの、先ごろ総買収金額440億ドル(約6兆1600億円)で決着した。その直後にマスク氏が3700人に及ぶリストラを敢行し、残った社員のリモート勤務を原則撤廃するなど、強権的ともいえる組織&意識改革に乗り出したことが、新たな物議をかもしている。果たして、今回の買収劇は、Twitterにとって飛躍のきっかけとなるのか。あるいは、倒産に至る第一歩なのだろうか? 

知名度とユーザー数規模の割に、収益性が低いTwitter

 Twitterに限らず、企業が買収されるときには、当然ながら相応の事情がある。一般に、売り手側企業の理由としては、不振な事業の継続や、事業の選択と集中による業績の維持・拡大、創業者利益の確保などが挙げられる。また、買い手側企業の理由には、事業の多角化、スケールメリットによるコストダウン、同一業界内におけるシェアの拡大、知的財産・技術・人材の獲得などが考えられる。

 ただし、今回の買収はイーロン・マスク氏個人によるものなので、事業の多角化や拡大を図ろうとする一般的な企業の論理とは異なる。氏によれば、買収の理由は「非上場化して、言論の自由を実現する」ということだが、後述するように、企業である以上は収益性を上げて持続可能な事業にすることが大前提だ。

 一方で、買収される側のTwitterには、明らかなビジネス上の問題点があった。Twitterは、広告収入のほか、検索エンジンサイトに対してツイートのリアルタイムインデックス化を認める契約によって売り上げを立てている。そして、経営陣は過去に「自社のビジネスが有益なサービスであり、収入を得ることは難しくない」という趣旨のことを繰り返し発言していたにもかかわらず、実際に行ったビジネス拡大の施策は結果を伴わなかった。

 Twitterの財務リポートによれば、2022年Q2時点で世界の収益可能な日間アクティブユーザー数は2億3780万人(増加傾向にあるが、新興のTikTokより少ないことも事実)。知名度の高さやユーザー数に対して収益性が低く、マスク氏のツイートによれば1日あたり400万ドル(約5億6000万円)の赤字を出しているとのことだ。

赤字の最大の要因は人件費

 赤字の最大の要因は人件費である。たとえば2021年12月期の売上高は50億7748万ドル(約7000億円)もあったが、純損失は2億2141万ドル(約310億円)の赤字だった。人件費の内訳は、運営チームへの報酬を含む「売上原価」=17億9751万ドル(約2517億円)、エンジニアへの報酬を意味する「研究開発費」=12億4670万ドル(約1745億円)、セールスやマーケティング部門の報酬である「販売費」=11億7597万ドル(約1646億円)、役員や管理部門の報酬が大半を占める「一般管理費」=5億8434万ドル(約818億円)であり、これが収益性の足かせとなっていた。

 マスク氏が社員の約半分をいきなり解雇したことが議論を呼んでいるものの、即効性のある経営改善策としては致し方なかったともいえる。今回の一件で、ファイザー、アウディ、フォルクスワーゲン、ゼネラルミルズなど一部の大手企業が広告出稿を見合わせる決定を行った。これはTwitterにとっては無視できない不安材料だが、もし従来の半数の社員で今後同等または多少の減少で売上高を確保できれば、短期間で黒字経営を実現できる可能性は十分にあるからだ。

イーロン・マスク氏が目指す「理想のTwitter」とは

 440億ドルという買収金額は、マスク氏が個人で賄ったものだ。総資産額が2510億ドル(約35兆円)という全米1位の億万長者とはいえ、今回の買収にあたってテスラの株も一部売却するなど、それなりの覚悟をもって臨んだことは明らかである。

 毎日のようにTwitterを通じてメッセージやコメントを連投しているマスク氏が、他のサービスよりも公共性と拡散性があるこのSNSを気に入っていることも確かで、自分が過激な発言をしてもアカウントを停止されることがないように手中に収めたという勘ぐった見方もできなくはない。莫大な資産あっての行動だが、マスク氏は買収提案以前から「Twitterは言論の自由を守っているか?」「ツイートの編集ボタンは必要か?」などの問いをTwitter上で発して、自らの理想を吐露するかのような動きに出ていた。ちなみにこの件に対しては、Twitter上のアンケートで数百万人が反応した。前者(200万人が回答)は7割以上が「いいえ」、後者(400万人が回答)は7割以上が「はい」と答えている。

 マスク氏はさらに、各種イベントの席上で「法律の範囲内で自由に発言できることが重要である」とか、「運営側がツイートに変更を加えたり、何らかのアクションを起こしたりする場合には、そのプロセスの明示が必要」といった発言もしており、Twitterのアルゴリズムをオープンソース化することも念頭に置いている。そうすることで、アルゴリズム自体の問題点を指摘したり、疑義を申し立てたりできるようにするということだが、現実に運用するとなると煩雑な作業が必要になると予想され、これは理想論にとどまるかもしれない。

 さらにマスク氏は、最優先事項が「スパムや詐欺のボットを排除すること」だとも語っており、一時は「広告はなしにしたい」ともツイートしたが、その後、後者は撤回した。さすがのマスク氏も、基本的に無料のサービスを広告なしに運営することは不可能と判断したようだ。

 まとめると、マスク氏はTwitterを言論の自由が守られる場にするつもりで、そのためにも運用プロセスの明示が不可欠と考えている。その一方で、ネット犯罪の温床にはしたくないということは、高度なAIによる監視やサービスの有償化などを通じて、スパムや詐欺ボットを排除する方針と思われる。言うは易くとも実行が難しいことではあるが、テスラ・モーターズやスペースX、スターリンクでも、一見、不可能と思えるプロジェクトを成功させてきたマスク氏ゆえに、それなりの目算があって取り組むつもりなのだろう。

大量解雇のあと、スタッフにした話は「至極真っ当」だった

 その一つの証しが、大量解雇の1週間後、解雇されなかったTwitter社員との最初のミーティングで明かされた、マスク氏の運営方針である。ザ・バージの記事によれば、このミーティングでマスク氏は以下のようなことをスタッフへ通達したという。

・街の広場のような役割を果たすために、ユーザー数10億人を目指す

 Twitterを本当の意味で世界的にインパクトをもたらすプラットフォームに成長させるには、そのくらいのユーザーベースが必要。

・会社が破産宣告を受けるような状況とは?

 ユーザーが10億人いても赤字では意味がないので、優れたサービスによって課金を促す。

・有償の認証制度によって詐欺ボットなどを駆逐

 現状では無料で無数のボットを作れてしまうことがサイバー犯罪を招いているので、課金によって悪意のあるユーザーには割が合わない状況を作り出す。

・Twitterを介したバンキングサービス

 決済ビジネスは重要で、Twitter経由でのリアルタイム送金の全世界展開を実現したい。

・リモートワークについて

 特別優秀な人間以外、リモートワークは禁止。オフィス勤務のほうが、良いコミュニケーションができ、生産性も上がる。(筆者注:シリコンバレーでオフィス勤務を推奨しているのはマスク氏だけではない。例えばAppleのティム・クックCEOも、「偶然の出会いを大切にし、アイデアを出し合い、自分のアイデアを他の誰かに譲ることで、より大きなアイデアになることを知っている」ため、最低週3日のオフィス勤務を義務付けている)

・TikTok並みに容易なオンボーディングの実現

 アカウント登録なしでもユーザーの興味をひくような情報が表示されることで、利用開始時のハードルを下げる。その結果からユーザーの好みを分析し、それに合ったツイートが表示されるようにする。

・動画クリエーターに対するTikTok+YouTube的なプラットフォームの可能性

 Twitter内の動画の長さ制限をなくし、かつ、マネタイズできるようにする。そのために、ユーチューバーに対してYouTubeよりも良い条件でTwitterへのコンテンツ投稿を促すことも検討。

・優れた機能の告知の徹底

 Twitterにおける動画のフルスクリーン再生機能を気に入っているが、一般にはあまり知られていない。それは告知に問題があるためなので、これを改善する。

・広告のレベニューシェアと同時にサブスクリプションも充実させる

 有償サブスクリプションのユーチューブ・プレミアムとユーチューブ・ミュージックは、ビジネス的には成功していない(YouTubeの全ユーザー26億人に対して、登録者は8000万人のみ)ので、それを超えることを目指す。

・レコメンドエンジンと広告エンジンの統合化

 今は、ツイートのレコメンドと広告表示を別々のエンジンで行っているが、両者の関係性は高いので、エンジンも統合すべきだ。

・エンジニア・ドリブンな企業文化の重要性

 技術を発展させていくうえで、Twitterにおいてもエンジニア中心の企業文化を浸透させることが大切。ただし、管理部やデザイン部門よりもエンジニアリング部門が上なのではなく、それらの部門すべてがイーロン・マスク氏直下となるような組織をイメージ。

アップル並みの復活劇を遂げられるか?

 これらを見る限り、マスク氏は経営者として、至極真っ当なことを言っていると感じる。もっとも実現できるかどうかはまた別の話だが。とはいえ、前述したようにマスク氏の過去の実績や時に強権的な指導力からすると、向こう半年から1年程度で、かなりの改革を実現していきそうな予感もする。その結果次第で、一度は離れた広告主たちが戻ることもあるだろう。

 もちろん予断は許さないが、現在のTwitterとイーロン・マスク氏の関係は、かつてどん底にあった頃のアップルとスティーブ・ジョブズ氏のそれに似た状況ともいえる。アップルのときには、当時のギル・アメリオCEOがリストラの大鉈を振るったので、その点では直接手を下したマスク氏のほうが分の悪いところもあるものの、こうした状況下では合議制ではなく1人のリーダーの判断で物事を進めるほうが効果的な場合も多い。

 何より、6兆円といえば日本の防衛費と同等の金額だ。それほどの大金を私費でTwitterに注ぎ込んだイーロン・マスク氏が、そう簡単に引き下がるとは考え難い。テスラ・モーターズが危機に陥ったときにも、自身の資産の大半を費やして窮地を脱したマスク氏は、大きなリスクを取ることを厭わず、リスクを取るからこそ成功があると信じている。

 問題は、分刻みのスケジュールで仕事をこなし、CEOを務める各社を日ごとに回って執務している彼に、もう1社を割り込ませる余裕があるかどうかだが、最新の情報によれば、マスク氏はテスラ・モーターズとともにTwitterのCEOもいずれは誰かに任せたいと考えているとのこと。しばらくは新生Twitterを軌道に乗せることに尽力し、さらに別のビジネスを立ち上げる気でいるのかもしれない。

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