韓国社会が“ブラックアウト”「カカオ」国民的SNSの大規模障害、「起きて当然」だった理由〈目先の利益に目がくらみ…〉

韓国社会が“ブラックアウト”…国民的SNSの大規模障害、「起きて当然」だった理由〈目先の利益に目がくらみ…〉

「たこ足拡張のツケが出た」

 そんな捨て台詞も聞こえた、韓国でモンスタープラットフォーム企業と呼ばれる「カカオ」のサービス障害。10月15日土曜日、カカオのメインデータセンターで火災が発生し、韓国社会はデジタルパニックに陥った。

翌日夕方過ぎまで大混乱

「カカオ」のサービスといえば、日本ではウェブトゥーンアプリ「ピッコマ」が馴染み深いかもしれない。カカオは、時価総額22兆ウォン(約2兆円)、130社近い系列企業を傘下に置くコングロマリット企業だ。

 サービスは、利用者数5000万人に迫るメッセンジャーアプリ「カカオトーク」(日本でいえばLINEに当たる)を筆頭に、金融業のカカオバンクやカカオペイ、コールタクシーの代名詞にもなった「カカオT」の運営からドラマ、ウェブトゥーン制作、配信など多岐にわたる。

 さらに、住民票などの証明書の発行をオンラインで申請し受け取る場合、本人確認として使われる認証サービスのほとんどがカカオによるものを利用しているといわれる。韓国社会では人々の生活に網の目のように入り込んでおり、日常生活には欠かせない存在となっている。

 そのカカオのメインデータセンターで火災が発生したのは週末の土曜日。火災は8時間後、日付けが変わる少し前にようやく鎮火したが、安全のために建物全体の電源供給が中断されたため、翌日もカカオの各種サービスは使用が不可能な状態になった。最初に復旧したのはカカオトークだったが、写真や映像なども送れる通常通りのサービスに戻ったのは翌日夕方過ぎだった。

 カカオトークが早々に復旧した一方で、2014年にカカオと合併した元ダウムコミュニケーション(カカオダウムを経て現在はカカオに社名変更)の電子メールなどの主要サービスは5日経っても使用できない前代未聞の状態が続き、韓国国会でも俎上に。ダウムの電子メールは1997年に韓国初の電子メールとして登場した。

 知り合いの女性は火災が起きた日の夜、友人と食事した後、いつも通り「カカオT」でタクシーを呼ぼうとして初めてシステム障害に気がついたという。「カカオT」はアプリに現在地と行き先を入力し、近くにいるタクシーを呼ぶシステムで、応じたタクシーが到着する時間も分かり、互いに記録が残るため安心して利用できると特に女性には人気のサービスだ。知り合いは、「カカオが使えないなんて想像したこともなかったから、軽いパニックになった」と言っていた。

 カカオのデータセンターは首都圏内に4カ所あり、火災が起きたのはソウル市郊外にあるメインのデータセンターで、およそ3万2000台のサーバーが設置されていた。地上6階建ての建物の2階から6階には韓国最大のポータルサイトを持つNAVERをはじめ他社のデータ室もあった。火元は地下3階にあったバッテリーの保管棚とされているが、詳しいことはまだ分かっていない。ちなみにNAVERはメインデータセンターが別の場所にあったこと、データセンターが分散していたこともあり、カカオよりも復旧は早かった。

起こるべくして起きた事態

 週明けのメディアのトップニュースはカカオ障害一色。新聞の一面には、「日常が途切れた」(中央日報、10月17日)、「ひと部屋にあるプラットフォーム社会」(京郷新聞、同)、「火事ひとつで止まる“カカオネットワーク社会” 怒りを超えて恐怖に」(韓国日報、同)などの見出しがずらり。

 韓国きってのモンスタープラットフォーム企業といわれたカカオの危機管理に非難が集中しているが、当のカカオは、「データセンター火災と電源の供給中断まで予測できなかった」と副社長が釈明し、火に油を注いだ。韓国のIT業界関係者は言う。

「まあ、よりによってメインのデータセンターだったという運の悪さもあったかと思いますが、カカオが自前のデータセンターも持たず、あれだけの規模を誇りながら危機管理がおざなりだったことは業界では知られていた話で、起こるべくして起きた事態といえます。

 カカオは近年になってようやく自前のデータセンター設置に着手し、2023年完成予定といわれていますが、あれだけの企業であればすでに持っていないほうがおかしいんです。データセンターは資金と時間さえあればいつでも造れる。プラットフォームの肝となるものですから、当然、備えなければいけませんが、カカオは事業拡大に盲進しました。

 カカオの事業の拡張ぶりは同業者としては目を見張るものもありましたが、カネの使い方を間違えていたと言われてもしかたありません」

今回のような大規模なサービス障害は前代未聞

 カカオは2010年にカカオトークから始まった。創業者のキム・ボムス氏は、ソウル大学、大学院の産業工学科を卒業し、サムスンSDSに入社。ほどなくして退社しゲーム会社を起業。その後、サムスンSDS時代の仲間と現在のNAVERコーポレーションの前身NHNコーポレーション社を創業するも、ここもしばらくして退社する。2007年にiPhoneが登場するとモバイル時代に突入すると予想し、メッセンジャーアプリ「カカオトーク」を開始したと伝えられている。

 カカオトークから始まった事業はどんどん業種を拡げ、2017年頃には81社だった傘下企業は、現在130社近くに膨らんでいる。

 韓国ではこれまでにもオンラインサービス障害はあったが、今回のような大規模なものは前代未聞。尹錫悦大統領も週明けのぶら下がりで記者から「カカオの市場占有率が大きいためこんな事態になったといわれるが」という質問に、「もし、独占や著しく寡占している状態により市場が歪んでいたり、さらにそれが国家基盤のインフラのようなものならば国民の利益のために当然、制度として国家が必要な対応をとるべき」と言及。

 2年前、通信会社の「KT」で同じようなサービス障害が起きた際、政府は同社を通信災難防止管理対象とした。この時はカカオやNAVERなど他のIT企業は猛反発し、対象から外されたが、今回の事態を受けてあらためて対象とする声が国会で出始めている。

社会がデジタルに翻弄される恐怖

 前出IT業界関係者は、しかし、こう反発する。 

「カカオもNAVERも私企業でKTのような基幹通信事業社ではありません。企業ごとに障害防止をすすめればいい話で、政府の管理、監督下に入るなんてありえない」

 カカオトークのサービス障害により、翌日107万人がLINEやテレグラムへ加入していることが分かっている。

 そういえば、LINEが日本に登場したのは2011年の東日本大震災直後だった。電話もメールも機能しなかった時に電話回線を使わない社会インフラとして登場したのがLINEだ。メッセージが既読になるだけでどれほど安心したことか。

 デジタル社会の脆弱性を見せつけた今回のカカオ障害。そもそもデジタル社会は人々の暮しが便利で快適なものになることが肝だと思うが、安全面がこれほど軽んじられていたことは驚きでもあり、これほど社会がデジタルに翻弄されるのかと恐怖も感じた。

 カカオがあまりにも韓国の人々の生活に入り込んでいるということもあるが、筆者もひとつのプラットフォームに頼るのは危険だとしみじみ。幸い、金融関係はカカオを使っていなかったので支障はなかったが、もしもの時のために韓国語を使うメールはダウムメールからNAVERに変えた。

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