オンキヨー破産の反響に“大きな誤解” オーディオは「ノスタルジックなビジネスではない」と言えるワケ
オンキヨーホームエンターテイメント(以下、オンキヨー)が、5月13日に自己破産を発表した。これにより、かつてのオーディオブームと、ブームに乗って業績を伸ばした日本発のブランドに“ノスタルジックな論調”が見られた。
しかし、多くの読者が承知の通り、破産したオンキヨーは“かつてのオンキヨー”とは名前こそ同じだが、すでにオーディオ&ビジュアル事業は売却済みだった。
この辺りは以前の記事を参照いただけると幸いだが、簡単にいえばオンキヨーというメーカーは、伝統的な高級オーディオのビジネスモデルをかたくなに守り続けてきた企業ではなく、また“ハイエンドオーディオ”メーカーでもない。
オンキヨーは、「趣味としてのオーディオ」という視点を守りつつも、時代に合わせてどのように生き残るかを模索してきたブランドだった。ハイレゾ楽曲のダウンロード販売にいち早く取り組んだり、結果的には成功しなかったもののギターメーカーのギブソンと資本関係を結び、音楽アーティストとの関係性を生かしたグローバルでのビジネス展開を図ろうとしたり、“伝統的なハイエンドオーディオ”という保守的なイメージからは遠い存在だ。
時代に適合するため、さまざまな手を尽くし、事業の刷新を試みた中で手詰まりになっていったのがオンキヨーだった。
ただし、そんな話題もシャープ+VOXXへのオーディオ&ビジュアル事業売却が完了した2021年9月に終わっていることだ。
オーディオの本質は“大好きな音楽を心地よく楽しむ”こと
一方で、“伝統的なハイエンドオーディオ”メーカーは、確かに市場が小さくなる中で縮小均衡にはあるものの、コロナ禍での在宅需要に加えてオーディオショーなどの中止が相次ぎ、さらに商談もオンラインが増えたことで経費が削減され、むしろ利益が出ているメーカーの方が多い。
このように書いていると、「では日常が戻れば元通り、さらには世代交代が進むにつれて市場そのものが失われる」という意見が出てくるだろう。全くその通りではあるが、では高品質なオーディオが求められないかといえば、そんなことはない。
そもそも、音楽を聴くだけならばもっと安価な方法がたくさんあるにもかかわらず、数百万円はおろか数千万円クラスのオーディオ製品まで存在するのはななぜなのか。それはオーディオ製品が機能ではなく、感性に訴える“質”の部分に訴える製品だからだ。
先日、米ニューヨークに出張した際、現地で“1パック8粒で50ドルのイチゴ”が話題になってた。その背景はともかく、そんな高級イチゴが商品として成立するのは、“おいしさ”という個人の欲望や感性に訴える部分で違いを出せば、そこに価格の上限はないことを示している。
もう少し身近なところで言えば、単純な計算を行う場合、電卓は100円ショップでも購入できる。そして、電卓は100円で買いながら、100円よりも高価な水を購入する人もいる。日本ならば、蛇口をひねれば飲める水が出てくるというのに。計算の“機能”はなるべく安価に入手できる方がいいが、“おいしい水”が飲みたいと思えば、そこに別の価値が生まれるということだ。
ではオーディオの本質は何なのかと言えば、大好きな音楽を心地よく楽しむために他ならない。もっと心地よく聴ける環境が自宅に欲しい。そんな欲望を満たすために、音質追求のためオーディオ専用電源(変圧トランス)を求めて自宅にマイ電柱を立てる人だっている。
あるテレビ番組で“マイ電柱オーナー”として登場した江崎友淑氏は、かつては奏者として、現在はプロデューサーとして、レーベル主宰者としてクラシックの名盤を生み出し続けている「ホンモノの音を知ってる人」であることを付け加えておきたい。
江崎氏は、ピアニスト金子三勇士氏のアルバム制作に際して、一緒に仕事をしたことがあり、“本物(リアル)”を追求する姿勢をよく知っている。オーディオ製品の価値は本物を追求する熱量に比例する。
絶対に消えない”音の質”へのニーズ ラックスマン、サエクに学ぶ
製品の“どのような部分”に消費者が反応するかは、時代によって変化がある。しかし、音の質を追求していれば、事業規模が小さくなっても事業ニーズはゼロにはならない。
例えば、筆者が学生時代、小遣い稼ぎにキット製品の委託組み立てをしていたラックスマンは1925年創業という、業界でも最も古いメーカーだ。
現在はIAGという台湾系中国人オーナーが所有するオーディオブランドのホールディングカンパニー傘下だが、一方で独立したブランド、事業体としての体制を維持している。主な出荷市場は日本だが、米国・欧州でもきちんと売れ、規模は小さいながらもしっかり利益も出している。
創業から100年近く事業継続できてきた背景は何かといえば、ラックスマンには“音質追求”と顧客との強いエンゲージメントしかない。言い換えれば、それさえしっかりしていればブランドとして失われないという証左ではないだろうか。
一世を風靡(ふうび)しながら、はかなく散っていったサンスイやアカイといったブランドもあるが、ラックスマンに限らず、音質に向き合ってきた伝統的なオーディオメーカーは生き残り、オーディオメーカーとしての役目を果たし続けている。
そして時代の変化によって、本質を追求してきたブランドが再びその輝きを取り戻すこともある。
昨今、ハイエンドのオーディオ業界はアナログレコードによって活性化されていた面も大きい。決して小さな市場ではないことは、パナソニックのオーディオブランドであるテクニクスが、アナログターンテーブルに力を入れているところからも分かるのではないだろうか。
結局のところ音というのはアナログなので、アナログ記録・再生を突き詰めた方が心地よい音楽が楽しめるのがその理由だが、一方でアナログであるが故に実に繊細な面がある。
サエクというブランドは、アナログレコードを再生するための高音質トーンアームで知られたメーカーだった。職人が手仕上げしていたダブルナイフエッジ構造のアームは生産性が低く継続不能に。同社はメンテナンスのための職人を確保しつつ、主に高品質ケーブルのメーカーに転じて事業を継続していた。
しかし世界的なアナログブームと、高精度な金属加工技術を駆使することで、トーンアーム1台で130万9000円という価格設定ながら、2019年に製品として復活することができた。これも“本質”を追求してきたからに他ならない。
その“本質”をどう生かすか オーディオテクニカに学ぶ挑戦
もっとも、オーディオの本質は音質にあるのだから、ジタバタせずにじっと耐えるべきなどと言うつもりはもちろんない。サエクの事例は彼らが40年前の価値を現在も引き継ぎ、メンテナンスを切らさずに来たからこそ製品として復活できたとも言えるが、一方で時代の巡り合わせでもあった。
しかし、オーディオメーカーとしての足場をしっかりと持ちながらも、時代に合った変貌を遂げてきたブランドも少なくない。
オーディオテクニカはオーディオ製品の中でも、得意分野を絞り込むことで、そのブランド価値を維持してきたメーカーだ。
シニアのオーディオファンはコストパフォーマンスの良いアナログプレーヤー向けカートリッジのブランドとして、昔懐かしいAT-150EGなどの製品を思い出す人もいるだろう。
現在はアナログディスクブームもあって、より高価格のカートリッジやアナログディスク関連製品も販売しているが、主軸となっているのはカートリッジ売上減少後に進出したヘッドフォンだ。ケーブル接続のヘッドフォンとしては、常にトップメーカーであり続けている。
快適な装着感を目指して独自のメカ構造を採用したり、業界に先駆けてUSB端子にダイレクト接続可能な製品を出したり、高級イヤホン市場が花開き始めと力を入れた製品をラインアップするなど、音質というオーディオ製品に求められる本質部分と向き合いながらも、きめ細かく市場ニーズにアジャストしてきた。
1962年創業という老舗らしく、ヘッドフォン、イヤホンの開発者に取材すると、そのこだわりに驚かされるが、市場へのアジャスト能力の高さが60年続いてきた理由でもあるのだろう。
そんなオーディオテクニカは60周年の今年、AUTEC CAMPというアウトドア向けオーディオブランドを立ち上げるという(関連記事)。AUTECといえば、同社の業務用製品のブランドなのだが、こちらはコンシューマー向けブランドだ。
バッテリー技術の進歩やワイヤレススピーカーのトレンド、コロナ禍でのアウトドアブームなどもあり、アウトドア向けオーディオ製品のニーズは高まっている。前回のコラムで取り上げた米ソノスが昨年、SONOS Roamという小型のアウトドア向けスピーカーをヒットさせたことは記憶に新しい。
技術トレンドと市場ニーズを招致した上で、オーディオメーカーとしての本質を失わない。そんなところが、彼らの強みと言えるだろう。
