ExcelマクロとRPAの合わせ技で受注の自動化を実現したベジテック

ExcelマクロとRPAの合わせ技で受注の自動化を実現したベジテック

 ユーザックシステム主催によるオンラインセミナー「第8回 RPA研究会~RPAの成功、活用拡大のためのヒント~」の事例講演で、ベジテック 業務統括部 係長の坪川真氏が講演した。同社は2022年4月にAutoジョブ名人ユーザーになったばかり。しかも今回の自動化シナリオはトライアル期間中に「学びながら作成した」という。さまざまな工夫をし、初めてのRPAロボットを稼働させたノウハウや成果を披露した。

青果の商社が直面した「夜受注」の問題

 ベジテックは野菜や果物の商社である。産地から作物を仕入れて、それを食品スーパーや外食店に販売するのが主業だ。箱で仕入れて、箱でそのまま出す仲卸事業、仕入れた商品を刻んでカット野菜、カットフルーツにして販売する加工製造事業、そしてキャベツを2分の1玉にして出荷するような、仕入れた商品を小分けにするプロセスセンター事業の3つの事業に分かれている。

 坪川氏は、同社の仕入れ・販売管理システムと、受注システムという2つの基幹システムの運用管理を担当している。これまでRPAの作成経験はなく、HTMLの知識もなし。ただ、Excel関数とVBAの作成経験はあったという。

 仲卸事業部門では、受注が昼と夜の2回ある。問題となっていたのは、夜の受注。産地から直接顧客に届ける直送商品は、夜に受注して翌朝までに仕入れ先にFAXを送信する作業を行なわなければならないことだ。「夜の受注までに他の業務は終わっているので、この夜受注のために勤務時間の調整と、待ち時間が発生していた」と坪川氏は説明する。

 夜の受注に対応するため、受注担当は「早番・遅番」の2グループに分けて業務を行なっていた。具体的には早番は朝11時30分出社で19時45分退勤、遅番は13時30分出勤で21時45分退勤というシフトを組んでいた。昼受注の締切は15時、夜受注は21時30分となっており、夜受注の最終締切から15分で注文処理を終わらせ、退勤しなければならない。「最終バスが22時25分発のため、遅番の退勤時間を後ろにずらすことはできなかった。そのため遅番の仕事は時間が遅い上に非常にタイトなスケジュールで進める必要があった」

 調べてみると、受注集計と注文のFAX送信の業務は非常にシンプルなため、この業務の自動化は可能だと坪川氏は判断した。ただ、この業務は特定の取引先に限定した手順で進められるため、汎用性はなかった。「そのため、受注システムを改修するのはコスト的にも負担が大きいので、RPAを使うことにした」(坪川氏)

 RPAによる自動化をする場合に壁となったのが、最後にFAXで注文を送ることだった。そこでまず取引先に働きかけて、メールに変更してもらった。加えて、ロボットが動かないときに備え、外部からリモートで注文を出せる仕組みも構築した。RPAが動作しているかの確認は、Autoジョブ名人のメール配信機能を活用し、メールの送信履歴を確認するようにした。

Excelのマクロを使うことで、RPAは極力シンプルに

 自動化の準備ができたところで、RPAに実際に乗せる工程の検討に入った。まず、このプロセスの「開始」と「終了」を定義した。開始は受注システムからCSVファイルを入手してシステムに取り込み、終了は発注書をメールに添付して仕入れ先に送付することだ。そして、その間にどんな作業が発生し、それが正しく自動化できるのかを検証する。作業は、下記の5つに区切ることができた。

①受注システムから受注をダウンロードする

②Excelに貼り付ける

③Excel上で発注書に加工する

④発注書をPDF形式で保存する

⑤PDFにした発注書をメール送信する

 この5つが全て自動化できるのかを確認した結果、①については、ブラウザの操作になるため、RPAで対応可能だ。また②~④のプロセスは、Excelのマクロ機能と関数で対応可能だった。特に②は、RPAでもただ貼り付けるだけなら可能だが、前回データの続きに貼り付けるようにしたかったため、マクロを使用する。そして⑤については、Autoジョブ名人のメール配信機能を利用することとした。

 実際のロボット作成手順はこうだ。まず受注システムにログインしてメニューを選び、コードと納品日を入力、出てきた一覧をダウンロード、ファイル名を指定してPCに保存する。次にExcelを開き、受注システムからダウンロードしたファイル名のファイルを指定し、マクロを起動する。

 マクロは受注ファイルを取り込み、発注書に加工してファイル名を変えずにPDF形式で保存する。そしてRPAがメール機能を使い、指定した宛先リストに対して先ほど保存したPDFファイルを添付して送信する。この一連のプロセスを自動実行させることにした。送信者リストには取引先の他、営業担当者やこの作業を従来行なっていた受注担当者も入っており、各関係者に一斉送信する。

 坪川氏は、ロボット作成についての基本的な考え方について、次のように語る。

「とにかく詰まるまで作ってみようという考えでスタートした。私自身もHTMLの知識がない状態だったので、最初はブラウザのボタンを1つ押すという動作を試しながらの開発だった。わからないことは、その都度ユーザックシステムに相談して、基本的な操作を教えてもらった。また、使いたい機能の有無や、解決方法も全て教わりながら進めた」

 また、Autoジョブ名人にあまり複雑な操作をさせず、Excelのマクロと作業を分担することにした。「Autoジョブ名人にはたくさんの機能があるが、複雑なことをさせてしまうと自分がついていけなくなるため、Excelと分担することでロボットの動きを極力シンプルにした」(坪川氏)

RPAを知らない人でも最低限の更新ができる工夫を盛り込む

 今回のプロセスでは、作業対象プログラムのログイン情報や、呼び出すページのURLなどは全て決まっていて、ロボットの中に直接書き込むことができた。しかし坪川氏は、これらの項目をExcelシートに記録し、ロボットが起動したときに都度読みにいく設定とした。「こうすることで、設定を変更したいときにRPAのことをわからない人でも最低限の変更はできる状態になっている」(坪川氏)

 さらに坪川氏は、RPAの開発中に突き当たったポイントと、それをユーザックシステムに相談しながらどう解決したかについて説明した。

 まず、ブラウザ上のボタンのクリックが安定しない問題があった。RPAはPC画面を操作して自動処理を進めるため、ボタンが押せなければ止まってしまう。同社の受注システムは自社開発ということもあり、押しにくいボタンが存在した。

「テストではうまくいっても、本番時に数回に1回失敗することがあった。この対策としては、余計なブラウザやExcelなどが画面に出ていないようにした上で、画面が切り替わる際に、押したいボタンのウィンドウのタイトルを都度検索し、ウィンドウをアクティブな状態に保つことにした。さらに、それでも不安定な場合に備えて、オブジェクト認識と画像認識のスクリプトを併用してボタンを特定した。これらの対策によって、動作は安定した」(坪川氏)

 次に、ファイルがダウンロードできていない(ファイルがない)ことが、ごくたまに発生した。これを調べると、ネット回線の速度が遅いときがあり、ダウンロードを終える前にブラウザを閉じてしまっていたからだと判明した。対策としては、回線速度にかかわらずダウンロードが完了できるよう、ファイルの存在チェックをしてからブラウザを閉じるようにプログラムを修正した。

 また、今回の自動化プロセスは、Autoジョブ名人のプログラムの実行中に3回Excelのマクロを実行してデータをつないでいくが、Excelの処理とAutoジョブ名人の動作がうまく連携しないという問題が生じた。これに対しては、Excelのマクロの処理が終わるごとに、シートにジョブの終了という書き込みを行ない、その終了が書き込まれるまでAutoジョブ名人の動作を待機させることで、処理がつながるように改修した。

 これらの調整によって、ロボットが順調に動くようになってから、本番の処理で手作業と平行稼働させることにした。平行稼働ではまず、発注書のメール送信から、仕入れ先のメールアドレスを除いて社内の関係者のみに送信し、毎日処理を実行することにした。最初から仕入れ先に自動化したメールを送ると、混乱する恐れがあったため、平行稼働時は人による処理も同時に行なった。そして、人の手による帳票と、RPAが作った帳票を毎日突き合わせ、正しいかを毎回確認した。

 自動化した内容が問題なくなったところで、次に仕入れ先にRPAによるメールを送り、人の手によるFAXも同時に送った。それを1週間続けて問題ないことを確認した後、FAXを廃止して自動化に完全移行した。

時差勤務が解消し、社員の一体感が生まれる

 本番稼働を開始したRPAは、毎日21時30分に自動集計・自動発注の処理を実行している。これによって受注担当者は勤務時間をずらす必要がなくなり、会社は全社員を11時30分出勤、19時45分退勤に統一することができた。遅番、早番の区別がなくなったので、社員が勤務日、休暇日を決めることが容易になり、社内の全体会議も開催しやすくなった。

「RPAはすでに、受注担当者にとっては欠かせないツールとなっている。社員の勤務時間が揃ったため、意思疎通が進み業務の効率もよくなった」(坪川氏)

 今後は、同様の業務があれば横展開を図っていくと同時に、社内のヒアリングによって他の問題の洗い出しも行ない、RPA化する業務を探していく。

 今回のロボットの開発にはおよそ2ヵ月かかった。坪川氏は、今後も2ヵ月に1本の新規開発と、既存ロボットの横展開を進め、今年度中には10本のロボットを動かしたいと意欲を語った。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏