世界で認知症が増加傾向に 食い止める方法は?
認知症や記憶喪失は2020年以前、世界の医療分野における議論で大きな部分を占めていた。認知症は現在、世界中で7番目に多い死因で、新型コロナウイルス感染症の登場によりその認知症への影響に光が当てられたものの、認知症の症例数は密かに増加し世界的に広まっている。
英医学誌ランセットのザ・ランセット・パブリック・ヘルス(The Lancet Public Health)に発表された新たな調査によると、各国がリスク要因に対処しない限り、世界中で認知症を抱える成人(40歳以上)の数は2019年の推定約5700万人から、2050年には3倍近くに当たる約1億5300万人まで増加することが見込まれている。
認知症の症例数は全ての国で増加するだろう。推定増加率が最も小さいのは収入が高いアジア太平洋地域(53%)と西欧(74%)で、最も高いのは北アフリカと中東(367%)やサハラ以南のアフリカ東部(357%)だ。
世界の認知症数が大幅に増加している背景にある主な理由は、人口の成長と高齢化だ。世界人口は2030年に約85億人に達し、2050年には約97億人、2100年には約112億人になると予測されている。また、65歳以上の人口は世界のほぼ全域で、全人口の増加率を上回る速度で増えている。とはいえ、認知症は主に高齢者に見られるものの、高齢化に通常伴うものではない。
ランセットの研究は世界の195カ国における認知症のまん延を分析し、喫煙や肥満、高血糖、教育水準の低さの4つのリスク要因が将来の動向にもたらす影響を示した。同調査では、世界における教育の機会を改善することにより、2050年までに世界の認知症の数を約620万件減らせると予測されている。
しかし、肥満や高血糖、喫煙の傾向が増えると予想されていることから、認知症の数はさらに約680万件増えると予測され、先述の認知症の減少は相殺されるだろう。私たちは本当に、リスク要因に焦点を当てるなど簡単なことで認知症の危機を解決できるのだろうか?
研究からは、たとえ認知症の家系であっても健康的な生活様式により認知症のリスクを軽減できることが示されている。しかし、ハーバード・メディカル・スクール生物医学情報学部の助教であるチラグ・パテル博士は、次のように述べている。
「遺伝子的なリスクが高い人口が生活様式を変え、その生活様式がアルツハイマー病を引き起こすことで知られていたら(これは大きな仮定だ)、10年のうちに認知症121件のうち1件を予防できるだろう。これは重要なことだが、10人や50人、さらには120人の間でアルツハイマー病を予防するには一体いくつ生活様式を変えなければならないだろう? 遺伝子さえ、本当に重要なのだろうか?」
研究からは、年を重ねた際の認知症発現のリスクを健康的な生活様式により減らせることも示されている一方で、全ての種類の認知症を防止する確実な方法は存在しない。
新型コロナウイルス感染症の長期的な後遺症やその他の病気が示してきたように、家族で発症した人がいないような病気を発症しないとは確実に言い切れない。健康をギャンブルのように扱う人ではなく、健康志向の人が病気を診断される理解不能な状況も時に存在する。
しかし、人体は複雑で、医学はその進歩にもかかわらずいまだに社会的な影響を無視している。例えば、ストレスは認知症の発現において重要な役割を果たすことで知られる免疫系に影響を与えている。
当然のことながら、健康を達成する鍵は、医療を受ける機会以上に地理的な位置や教育水準、収入、民族性、仕事、コミュニティー内の社会的つながりに依存している。こうした要因はまとめて、健康の社会的決定要因(SDoH)として知られ、世界保健機関(WHO)は健康の社会的決定要因を「人々が生まれ、成長し、生活し、働き、老いる条件」と説明している。
私たちは今こそ、認知症を健康の社会的決定要因と公衆衛生の視点から考えるべきだ。
健康の社会的決定要因と生活の質との間に正の相関関係があることは、これまで複数の調査から示されてきた。そのため医師らは、体の健康のみに焦点を当てるのではなく、個人に焦点を当てた統合的な手法を採用する必要がある。健康の社会的決定要因に焦点を当てることで、病気を防いだり反転したりでき、長期的にはコスト削減が見込める。
認知症に効果的に対処するにはあらゆる面での協調が必要だが、科学や医療面でのコミュニケーションの重要性や認知症研究への投資を過小評価することはできない。
認知症の兆候に対する認識を高め、より早期の診断に向けたステップをよりうまく伝えることを優先事項としなければならない。収入が低・中程度の国は今こそ、教育や健康的な生活様式の優先など、将来の認知症のリスク要因を減らせる政策を導入すべきだ。
世界的には男性よりも女性の方が認知症の数が多いことから、認知症研究では性・ジェンダーの差に焦点を当てることができる。世界中の認知症・アルツハイマー病の研究、特に脳の機能に関する研究にはさらなる資金提供も必要だ。
アルツハイマー病は生命を脅かす病気の中で最も恐れられていて、認知症の最も一般的な種類だ。現在の高齢者や将来高齢者になる人の生活の質を改善したければ、認知症に関する議論を行動やアイデア、強みに焦点を当てるよう見直さなければならない。
