リコーがPFUを子会社化、サイボウズとも提携、一気通貫のデジタル化へ

リコーがPFUを子会社化、サイボウズとも提携、一気通貫のデジタル化へ

「リコーは、RSI(RICOH Smart Integration)を業務改革プラットフォームへと進化させている。その主役になるのがリコーブランド版kintone。そして、PFUの子会社化により、ワークフローのデジタル化をより強化できる」

リコーブランド版kintone

 リコーが、相次いで大型発表を行った。

 ひとつめは、4月27日に発表したデジタルサービス事業におけるサイボウズとの業務提携だ。

 サイボウズのkintoneをベースに、両社が共同で開発した「リコーブランド版kintone(仮称)」を、2022年10月から、国内市場向けに提供を開始。2022年中には北米市場での提供を開始し、1年以内に欧州でテストマーケティングを開始する。

 kintoneは、データベースとプロセス管理、コミュニケーション機能を持ち、プログラミングの専門知識がなくても容易にシステムが構築できるローコード・ノーコードを実現しているのが特徴だ。業務アプリ開発プラットフォームと位置づけられており、様々な用途にあわせた業務アプリケーションの開発が可能だ。

 現在は、月平均550社が新規に採用。2万4000社への導入実績を持つ。

 中小企業への導入が主力だが、東証プライム企業においても3社に1社が導入しており、大手企業からも高い評価を得ている。サイボウズの青野慶久社長は、「kintone導入担当者の93%が非IT部門。業種を問わずに導入されているのが特徴」だとする。

 今回の提携によって開発するリコーブランド版kintoneは、リコーのクラウド基盤「RICOH Smart Integration(RSI)」で動作するアプリケーションとの連携や、リコー製MFPとの連携などを強化。プリント機能の強化やスキャン連携などの機能を、プライグインとして提供することになる。

 実は、リコーはこれまでにもkintoneを取り扱ってきた経緯があり、全都道府県に拠点を持つリコージャパンでは、社内にkintone支援センターを設置するほどの注力ぶりだ。

 リコーの山下良則社長は、「リコーブランド版kintoneを活用することで、ユーザー企業の現場を理解した人が、直接、システムを構築できるようになる。また、それらをRSIの上で、ひとつのワークフローとして展開することで、すべてをデジタルで完結するプロセスへと進化できる。リコーは、RSIを、業務ワークフローを変革する業務改革プラットフォームへと進化させる考えであり、その主役になるのがリコーブランド版kintoneである。ドキュメント領域からデジタルプロセス領域までをカバーしたソフトウェアポートフォリオが完成する」と語る。

 一方、サイボウズは、この提携によって、海外事業を大きく加速することができる。

 kintoneは、北米では720社、アジアでは1030社、中華圏では1200社への導入実績がある。日本に比べるとまだ実績は少ないが、「日系企業ではなく、現地の企業が導入しているという点に手応えを感じている」(サイボウズの青野社長)とする。そうした流れを、リコーの海外リソースを活用して、さらに加速することになる。

 サイボウズは、今回の提携を通じて、北米だけでも1万社への導入を目指すという高い目標を打ち出したが、それに対して、リコーでは北米に30万社の顧客基盤を持つことを示し、高い目標に対しても強力な支援ができることを強調する。また、サイボウズが手つかずだった欧州は、リコーにとっては成長市場のひとつ。ここでも両社の協業の成果が期待できる。

 サイボウズでは、kintoneの売上高を2025年までに3倍にしたいと意欲をみせ、リコーでも2025年度に100億円規模のビジネス創出を目指すと語る。

 リコーにとってはデジタルサービスの会社への変革に向けた重要なピースが揃い、サイボウズにとっては、kintoneの事業拡大に向けて、ギアを入れ替えて、トップスピードに乗る体制が整うことになる。

ScanSnapのPFUもリコーの子会社に

 もうひとつは、サイボウズとの提携発表の翌日となる4月28日に発表したPFUの子会社化だ。実は、これもデジタルサービス事業の強化という点で、同じ文脈で捉えることができる。

 発表によると、リコーは、富士通の100%子会社であるPFUの80%の株式を取得し、連結子会社化。取得金額は840億円となる。一方で富士通は20%の株式を保有することになる。

 PFUの社名はそのまま残し、世界トップシェアを持つイメージスキャナーを中心としたドキュメントイメージング事業、国内IT サービスを提供するインフラカスタマサービス事業、産業用コンピュータによるコンピュータプロダクト事業のすべてを継続する。

 リコーの山下社長は、「今回のPFUの子会社化によって、ワークフローのデジタル化、ITインフラの構築、現場のデジタル化の領域を強化できる。また、富士通とは、以前から連携した形で顧客価値提供のビジネスを行ってきた経緯があり、これまで以上の関係強化が期待できる」とする。

 富士通の時田隆仁社長も「リコーは、デジタルサービスを中核とした会社であり、エッジ領域でプロダクトやサービスを持ち、PFUとの親和性は高いと考えている。PFUにとってもいい組み合わせであり、富士通にとってもエッジの領域に力を持つリコーと協業していくことで、エンド・トゥ・エンドでソリューションを提供し、顧客に新たな価値を届けられる。PFUのリコーグループへの参画を機に、リコーとの国内での協業も進めたい」と語る。

 リコーにとって、PFUの子会社化による最大のポイントは、やはりイメージスキャナーである。デジタル化の実現においては、その入口となる部分で、紙をデータ化する必要がある。リコーには複合機(MFP)があり、それがこれまでデータ化の役割を担っていたが、ここにイメージスキャナーが加わることで、デジタル化が加速する環境が整う。

 リコー コーポレート上席執行役員 リコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントの中田克典氏は、「MFPは、一度紙をターンしてスキャンすることになる。もし、ジャムりそうになった場合には止めるという動作を行う。だが、PFUのスキャナーは、直線で動作し、読めなかった場合には一度流してしまう構造であり、納品書などのオリジナルの原稿を傷つけずにスキャンできるように、ハードウェアやソフトウェアを設計している。A8~A3判までのサイズを、上下左右バラバラにスキャンしても読み込める。その点では、MFPにはない能力を発揮できる。リコーのMFPでは扱い切れなかったドキュメントを読み取ることが可能な新たなエッジデバイスが加わることで、RSIの活用領域が拡大する」と語る。

 サイズが不揃いな伝票や帳票、ノンカーボン紙の申込書、免許証やID などのカード類といった既存の複合機では対応が難しい特殊なドキュメントについても、イメージスキャナーではスキャンが可能になり、オフィスでの業務処理に留まらず、医療機関や公的機関の窓口業務、金融機関などにおける各種書類の処理業務の効率化が図れるという。

 複合機とイメージスキャナーでは競合する部分が多いと見られていたが、むしろ補完関係があるというわけだ。

 さらに、「リコーはMFPで全世界に約400万台の顧客基盤があり、PFUのイメージスキャナーも全世界400万台の顧客基盤がある。両社の顧客ベースは、多少は重なっているものの、オフィスを中心に顧客を持つリコーと、業務現場とホームの顧客が多いPFUでは顧客基盤が異なる。リコーのデジタルサービスを提供できる領域が広がることになる」(リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニットプレジデントの大山晃氏)という補完関係も見逃せない。

一気通貫のデジタルサービスの提供へ

 そして、サイボウズとの提携、PFUの子会社化によって、リコーは、デジタルサービスを一気通貫で提供できる体制を整えることができる。

 リコーの山下社長は、次のような例をあげる。

 たとえば、手書きの契約書や納品書を起点としたワークフローを構築する場合、多様なサイズや紙種を、一度に正確に読み取ることのできるPFUのイメージスキャナーで、紙の情報をデータ化。納品書や契約書データの作成、ワークフローによる社内承認、契約書ファイルの作成およびアップロードといった業務プロセスにおいては、リコーブランド版kintoneで、ローコード・ノーコードツールとしての特徴を生かして、現場の社員が構築したシステムを運用。これを社内の購買システムなどと連携したり、納品書の自動保存をDocuWareと連携させたり、より複雑な業務はAxon Ivyによる自動化を行い、これと連携させたりできる。これらをRSIプラットフォーム上で統合し、デジタルサービスとして稼働させることができるというわけだ。

 DocuWareは2019年7月に、Axon Ivyは2022年2月に、それぞれリコーが買収した企業であり、まさにデジタルサービスの実現に向けたピースがひとつずつ揃ってきたことを裏づける。そうした流れを捉えると、今回の2つの発表は、リコーのデジタルサービスの強化において、重要な発表であることがわかる。

 リコーでは、ワークフローのデジタル化において、2025年度に500億円のビジネス創出を計画しているほか、グローバルのITサポート&サービスの事業規模を、2025年度に2000 億円規模に拡大する計画を打ち出しており、ここでも、PFUの子会社化、サイボウズとの連携が重要な意味を持つ。

 リコーは、OAメーカーから脱却し、デジタルサービスの会社へと変貌することを目指している。

 この言葉において、「OAメーカーから脱却し」という「前の句」があることは、実は重要な意味がある。それは、OA(オフィスオートメーション)という言葉は、1977年に初めてリコーが提唱した言葉であり、言い換えれば、リコー自らがその言葉を捨て、新たな企業に生まれ変わるという意思を込めているからだ。だからこそ、あえて、「OAメーカーから脱却し」という言葉をつけているのだろう。

 リコーは、創立100周年となる2036年に向けたビジョンとして「“はたらく”に歓びを」を掲げている。「人がより人間的な創造性のある仕事に注力し、はたらく歓びを支える企業になることを目指す」という。

 2022年4月の2つの発表は、その実現の加速に向けた大きな転換点になりそうだ。

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