小型でこだわりの音質、Sonosの新入門サウンドバー「Sonos Ray」を聴く

小型でこだわりの音質、Sonosの新入門サウンドバー「Sonos Ray」を聴く

 Sonos Japanは5月12日、Wi-Fi接続に対応したスピーカー「Sonos Roam」の新色として、Olive、Wave、Sunsetの3色を追加すると発表した。価格は2万3800円。この夏の発売を予定しており、詳細は後日発表する。

 また、米国での発表を受けてコンパクトサイズのサウンドバーである「Sonos Ray」やSonos独自の音声操作機能である「Sonos Voice Assistant」についても発表している。Sonos Rayは今秋の発売を計画しているが、国内価格などは未定。こちらも後日詳細を発表するとしている。米国での参考価格は279ドル(約3万6500円)だ。Sonos Voice Assistantは最初に米国、次のフランスでの展開という点だけアナウンスされている。日本語版が出るかを含めてそれ以外の地域での展開は未定とのことだ。

幅はおよそ55cm、コンパクトながら充実したサウンド

 編集部では発表に先立ち、Sonosの米国本社でオーディオエンジニアリング担当のシニアディレクターを務めるChris Davies氏を取材する機会を得た。同氏は現在、すべてのSonos製品が搭載するオーディオシステムのコンセプト立案、設計、詳細なエンジニアリング、最終的なサウンドチューニングの担当チームを率いている人物とのこと。プロ用機材で有名なQSCではラウドスピーカーの開発や初期ミキサー製品の立ち上げに貢献。2015年の入社後、オーディオシステムのエンジニアリングチームを率いていたこともあるそうだ。

 Davies氏は冒頭、Rayのコンセプトとして全世界で11億人以上の人が最低1つは契約しているとする映像ストリーミングサービスにフォーカスを当てテレビのサウンドをレベルアップしたいとした。Sonosのコンセプトとしては、映像や音楽コンテンツに含まれる音を独自に解釈して再生するのではなく、できるだけ多くの音響制作者と対話し、スタジオの再現は難しいまでもそのエッセンス、つまり制作者の意図をなるべく多く伝えていくことに注力しているのだという。

 新製品のRayではハリウッドスタジオとの協業がアピールされている。他のSonosスピーカーと同様、音楽界や映画界などの第一人者で構成されるSonos Soundboardがチューニングに参加しており、独自技術の「Trueplay」を使って再生環境に合った音に再調整する機能も搭載している。

 Sonosのサウンドバーとしては、これまでも「Sonos Beam」「Sonos Arc」といった製品があったが、その違いとしては主に組み合わせるテレビや再生する部屋のサイズがポイントになっているそうだ。Rayはこの中では幅559×奥行き95×高さ71mm、重量1.95kgと最も小型になる。聴取距離も2.5m程度と比較的近距離で最適なパフォーマンスが出る設計になっているという。Davies氏の説明では幅650mmクラスのBeamの場合は3m程度、Arcはより広い部屋で性能が引き出せる設計だそうだ。

 ユニット構成は中央に2つのミッドレンジウーファー、左右にツィーターを装備する構成となっており、最大5.1chの入力に対応している。BeamやArcとは異なり、すべてのユニットが前方に向けて配置されているのが特徴で、ラックの中に入れた設置でも音質を落とさずに使える。一方で、左右のツィーターから出た音は、ウェーブガイドで横方向に放射される仕組みになっており、壁面反射も活用して広がりを出す仕組みを取っている。ミッドレンジは中央に寄せられているので、ダウンミックス処理によって、一般的なステレオ再生(2.0ch)だけでなく、セリフを中央に割り当てた3.0ch再生も可能となっている。Sonos製品はワイヤレスでスピーカーを追加してシステムアップを図れるが、本機もサブウーファーの「Sonos Sub」やワイヤレススピーカーの「Sonos One」をリアスピーカーとして追加できる。

 なお、信号処理についてはドルビーアトモスに対応したSonos Beam(Gen2)では上方向も意識した処理にしていたが、Rayでは水平方向の広がりや動きを主軸に置いたものになっているという。部屋の大きさに合わせたラインアップという表現の背景には、このあたりも含まれていると思われる。また、Sonosスピーカー同士のマッチングについては非常に細かく調整しており、同じSonos Subとの組み合わせでもArc、Beam、Rayのそれぞれで異なるクロスオーバーを選ぶなど適切な信号処理が加えられた再生になる。

低価格競争に参加するつもりはない

 Sonos Rayは国内市場でも最近増えてきた3万円前後のレンジでありながら、プレミアムなサウンドと機能を提供する製品群の一角を担うことになる。このレンジでは従来から人気のあるソニーやヤマハなどの製品のほかに、デノンやPolk Audioといった新しいブランドが存在感を示すようになっている。こういった機種ではネットワーク機能やHDMIのハブ機能は敢えて外し、テレビ側からHDMI信号の入力と出力の両方ができるARC/eARC接続に絞り込んでいる場合が多い。機能をシンプルにすることで高音質を維持しながら、低価格化を目指す機種が増えてきている。一方で、Sonosの特徴はネットワーク再生にあり、こういった機種よりもコストを掛けた製品になる。

 Davies氏によると「Sonosとしては音質の高さにこだわっていくので、価格競争には加わらない」とのこと。その一方で「テレビのサイズに合わせたベストな体験を提供するための取り組みとしてRayを投入している」とした。この言葉から、Rayは低価格なサウンドバーではなく、プレミアムでコンパクトなサウンドバーとして企画された製品であることがうかがえる。

 すでに述べたように、Sonosのコンセプトは「より製作者の意図を生かした音作り」であり、フォーカスを置いているのは優れたサウンドを届けることだ。Davies氏はプロ用機器と個人用機器の音作りの差はほぼないが、個人向けのほうが小型であるとした。使用時の規模感が異なるため、それにともなうSPL値やカバー率などに違いが出てくるという。また、パートナーシップを重視しているのは、優れたサウンドを届けるためであり、それはパートナーとの意図を、どんなふうにとどければいいかをSonos自身が理解できるようにすると同時に、制作者がコンテンツにこめた目的を明らかにしてもらいたいという意図があるという。コンパクト化することでレコーディングスタジオの音をそのまま届けることは難しいと制作者も理解はしているが、気持ちを届けられること、最終的なゴール感を制作者と共有できる点を重視した開発になっているという。

声の聞こえがよくバランスよい周波数特性、拡張性もある

 短時間であるが、Sonos Rayのサウンドを体験することができた。デモは実際にSonos製品(Arc)が導入されているポニーキャニオンエンタープライズ ピーズスタジオで開催。調音などの処理はされているもののリビングに近い雰囲気を持ったスペースだった。

 音楽のステレオ再生から始まり、セリフを中心とした映画の再生、爆発音などダイナミックスの広い作品の再生、そしてサブウーファーやリアスピーカーを追加した本格的な再生まで約40分のデモを体験したが、小型でありながらしっかりとした低域が感じられ、かつフラットでまとまりのいいバランスとなっていた。音楽再生では明瞭感やビート感の良さが印象的で、広がりや定位感といった空間表現も巧み。映画だけでなくリビングで音楽を楽しむメインスピーカーとしても十分な実力を持っていると感じた。

 一方の映画ではサブウーファーなしでも十分な低音の支えがあり、大音量では迫力ある音、小音量では痩せない音を実現するのに貢献していることを感じられた。低域についてはバスレフ構造を工夫し、歪みを抑える仕組みを取り入れているそうだ。また、映画で非常に重要なセリフに関してもこもり感がなく非常にクリアーだった。

 当然、リアスピーカーを追加すれば、当然広がり感、スケール感ともに圧倒的によくなる。とはいえ、機器の設置スペースがとりにくい日本の住環境であれば、単体設置でシンプルに使うのが現実的だろう。こういう場合でも十分に満足いく再生ができるし、普段見ているテレビドラマやニュース、バラエティなどでもセリフがクリアに聞えるメリットは十分にあると思う。サイズ的には29m2ほどのリビングが最適で、音場補正機能のTrueplayの効果が利くのは18畳ほどのサイズまでとのことだ。

 Sonos Rayを企画するうえで、Sonosが中心としたのはテレビ音声の改善だ。声、空間再現、ベースを明瞭にすることは重視しているが、限られたスペースでの使用に限ればアトモス搭載に敢えてこだわらず、5.1ch入力で十分だという割り切りもしている。機能が劣るように感じるかもしれないが、その結果、上質な音がよりリーズナブルな価格で手に入るというメリットもあるだろう。

 Sonosの開発者がサイズとプライスの枠内でベストを追究したというように、Sonos製品の魅力はこうした使うシーンに合わせた、割り切りと製品に盛り込むべき特徴の優先度がハッキリしている点にあるだろう。

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