国交省、日野自動車に立ち入り検査 排ガスや燃費の性能偽装で【日野自動車不正問題】

国交省、日野自動車に立ち入り検査 排ガスや燃費の性能偽装で

 日野自動車がトラックやバス用のエンジンについて排ガスや燃費の性能のデータを偽っていた問題で、国土交通省は7日、本社(東京都日野市)などへの立ち入り検査をした。道路運送車両法に違反する可能性もあるとして、関係者から事情を聴き、行政処分をこれから検討する。

 日野は排ガス性能の耐久試験でマフラーを交換したり、燃費試験で数値を偽ったりしていたことを4日に発表した。問題があったエンジンの搭載車は累計11万台を超え、一部はリコールが必要になるとみられる。

商用車のリーディングカンパニーの失墜! 日野自動車の不正問題の背景にあるもの【日野自動車不正問題】

 日野自動車の排出ガスおよび燃費に関する認証申請における不正行為が発覚した。国土交通省が本社工場に立ち入り調査を行なうなど、社会的にも批判が高まっている。

 今回の不正により日野車の国内販売の約35%が出荷停止となり、使用過程車へのリコールや対応策、燃費の不正では優遇税制の減税額の補填など、今後多大な影響が出ることは間違いない。

 日野自動車は、長らく日本の商用車メーカーのリーディングカンパニーとして自他ともに認める存在だった。しかし、今回の不正はユーザーの信頼を裏切るものであり、トラック業界・バス業界にとっても販売会社や架装メーカーなど多方面に深刻な影響を及ぼす事態となるだろう。

 商用車のリーディングカンパニーは、なぜ自らその地位から失墜するような愚行を犯したのか?日野自動車の心のうちに分け入ってみると、そこには意外な背景が浮かび上がってくる。

 文・写真/フルロード編集部・日野自動車

日野の不正問題の概要と経緯

 まずは、日野自動車の3月4日の発表資料から今回の不正問題の概要と経緯をそのまま転載する。

 日野自動車株式会社は、日本市場向け車両用エンジンの排出ガスおよび燃費に関する認証申請における不正行為を確認しました。

 中型エンジン「A05C(HC-SCR)」は排出ガス性能の劣化耐久試験において、大型エンジン「A09C」および「E13C」は認証試験の燃費測定において、それぞれエンジン性能を偽る不正行為があったことを確認し、エンジン性能に問題があることも判明したため、本日、これら3機種とその搭載車両の出荷停止を決定しました。

 小型エンジン「N04C(尿素 SCR)」についても、不正の有無は判明していないものの燃費性能の問題が判明したことから、これら4機種について、国土交通省および経済産業省に報告いたしました。

 お客様をはじめとするステークホルダーの皆様には、多大なるご迷惑をおかけすることとなりましたことを深くお詫び申し上げます。

 北米市場向け車両用エンジンについて、社内にて排出ガス認証に関する課題を認識したことから、外部弁護士の主導の下、自主的に調査を開始し、現地当局への報告を実施しました。これまでの間に米国司法省からの調査も開始されており、当社は当局の調査に全面的に協力しております。

 いっぽうで、日本市場向けエンジンに調査対象を拡大し、外部弁護士とエンジン認証手続きに関する調査を進め、排出ガスおよび燃費といったエンジン性能の再確認も行なってきました。

 現行規制である平成28年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象エンジンの複数機種において、認証手続き上の不正行為があったことを確認するとともに、エンジン性能に問題があることも判明したため、本日、当該エンジン「A05C(HC-SCR)」「A09C」「E13C」およびその搭載車両の出荷停止を決定しました。

 小型エンジン「N04C(尿素 SCR)」についても、不正の有無は判明していないものの燃費性能の問題が判明したことから、これら4機種について、国土交通省および経済産業省へ報告をいたしました。

 平成28年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象エンジンにおける判明事項および対応は以下の通りです。

 (1)中型エンジン「A05C(HC-SCR)」

 [判明事項]

エンジン認証試験の 1 つである排出ガス性能の劣化耐久試験において、排出ガス浄化性能が劣化し規制値に適合しない可能性を認識した上で、排出ガス後処理装置の第 2 マフラー※を途中で交換し試験を継続した事実を確認しました。

 排出ガス劣化耐久性能の再試験結果から、経年変化により排出ガスの規制値を超過する可能性があることも判明しています。

(※エンジンから排出されたNOxを燃料(HC)と還元反応させ、窒素と水に浄化する装置)

 [対応]

「日野レンジャー」の同エンジン搭載車型の出荷を停止します。今後、再発防止策を講じた上で、出荷再開に向けた対応を至急進めてまいります。あわせて、経年変化による排出ガス規制値超過の可能性に対し、使用過程車へのリコール等の対応準備を可及的速やかに進めてまいります。

 (2)大型エンジン「A09C」「E13C」

 [判明事項]

認証試験の燃費測定において、測定装置の操作パネルから、燃料流量校正値を燃費に有利に働くような数値に設定し、実際よりも良い燃費値を燃費計に表示させるようにして試験を実施した事実を確認しました。技術検証により、実際の燃費性能が諸元値に満たないことも判明しています。

 [対応]

同エンジンを搭載する大型トラック「日野プロフィア」および大型観光バス「日野セレガ」の出荷を停止します。今後、再発防止策を講じた上で、出荷再開に向けた対応を至急進めてまいります。あわせて、使用過程車に対しては、正しい諸元値を確認した上で必要な対応を行ないます。

(※同エンジン2機種はいすゞ自動車株式会社 大型観光バス「ガーラ」にも搭載)

 (3)小型エンジン「N04C(尿素SCR)」

 [判明事項]

現在調査中であり、不正行為の有無については判明しておりませんが、技術検証により実際の燃費性能が諸元値に満たないことが判明しています。

 [対応]

使用過程車に対して、正しい諸元値を確認した上で必要な対応を行ないます。なお、同エンジンを搭載する小型バス「日野リエッセ」は、モデル切り替えのため現時点で新規出荷はありません。

(※同エンジンはトヨタ自動車株式会社 小型バス「コースター」にも搭載)

 また、これらのエンジン機種の搭載車について、排出ガスおよび燃費に関する税制優遇への影響を精査し、追加納付が必要な場合は当社が負担してまいります。

 なお、上記以外の機種については、現時点では、排出ガス規制値超過の可能性および燃費諸元値に関する問題は見つかっておりません。

ディーゼル不正のリコール対応は「不正と同じことするしか…」日野自の性能試験不正に困惑の声

厳しい環境対応に“息切れ” 起きた不正

 日野自動車は2022年3月4日、ディーゼルエンジンの排出ガス試験と燃費性能試験における改ざんを公表。ユーザーへの対応と国土交通省が求める再発防止対策を同日から開始しました。対象車両は日野ブランドだけで11万5526台、新車は出荷停止に。不正行為は同社の経営にも大きなダメージを与えそうです。

 

 しかし、その影響以上に広がるのは「一連の規制に本当に対応できるのか」というトラック・バスユーザーの声です。2016年に起きたメーカー不正の“亡霊”が、再び現れたともいえます。

【高速バスのド定番も…】出荷停止になる車種 画像で見る

 道路運送車両法違反に触れる疑いがある不正行為は、中型、大型、小型エンジンの3種類すべてに及んでいます。この記事では同社が公表した不正の中でも中型エンジンにフォーカスします。

 日野の中型エンジン「A05C」は不正発覚後の自社調査で「性能にも問題がある」ことが判明しましたが、最も大きな不正は、排出ガスの後処理装置「HC-SCR」の長距離耐久試験中に起きました。

 乗用車のような小排気量のディーゼルではエンジンの改良を主軸にした清浄化で乗り切ることが可能ですが、トラック・バスのように排気量が大きくなるほど、その負荷も高くなり、後処理装置が必要になります。出荷時には規制値をクリアしていても、経年劣化で規制値を上回ることが想定され、市場投入のための認証を受ける段階で、長距離耐久試験が義務付けられています。

 試験は実走と、走行をもとにした推定値から、出荷時0kmと45万km走行後の排ガスを比較し、規制値内に収まっているかどうかを調べます。そのため結果を得られるまでには数か月が必要です。不正は、この長い試験期間中に検査員が「規制値に適合しない可能性を認識」し、「排出ガス後処理装置の第2マフラーを途中で交換し試験を継続」したというもので、いわば途中退出の身代わり受験でした。

 一連の不正は、少なくとも2016年ごろから始まり、小木曽 聡社長は不正の原因について「現場における数値目標達成やスケジュール厳守へのプレッシャー等への対応がとられてこなかったことが問題の背景にある」と話しましたが、この後処理装置「HC-SCR」は、まさにその象徴だったと言えます。

日野独自開発 アドブルー不要で理想のシステムだったはずが

「HC-SCR」は中小型ディーゼル車用に日野が独自開発し、機械振興協会から2013年度経済産業大臣賞を授与されました。

 現在主流の後処理装置は、排ガスをクリーンにするために後処理装置内で尿素水(欧州商品名アドブルー)を使いますが、「HC-SCR」はディーゼル燃料そのものを尿素水の代わりに使います。尿素水を使わないので、液体をためるタンクなど新たな装置の搭載も、尿素水を供給するディーゼルスタンドのようなインフラも不要です。

 中小型商用車は、限られたエリアでの配送が中心なので、わざわざ尿素水のため遠方のスタンドに行く手間が省けます。荷物の積載量を環境のために犠牲にする必要もありません。まさに待望のシステムでしたし、昨年末に尿素水が不足し価格が高騰した際にも注目されました。

 もともと「HC-SCR」は平成21年(2009年)排出ガス規制に対応するため、日野が独自開発しました。優れた技術が評価され、機械振興協会から2013年度経済産業大臣賞を授与されています。しかしその後、環境規制はさらに厳しくなり、現行の平成28年(2016年)排出ガス規制に対応することが迫られます。中型エンジン「A05C」+「HC-SCR」の不正は、この規制への対応途上で起きました。

リコール作業は部品交換。つまり、試験の不正と同じこと?

「A05C」と「HC-SCR」を組み合わせたパワートレインが法律の規制値を満たさないことが判明し、日野は4万3000台を自主回収。無償修理を実施します。「今月中にはお客様へご案内できるよう、原因究明およびリコール等の対策検討を急いでおります。リコール内容の詳細については検討中です」と、日野は話します。

 ユーザーである輸送事業者は、どう感じているのか。自らも運転し、首都圏に本社を置く経営者はこう話します。

「発表を聞いて、ディーゼルエンジンの環境規制はもう限界。にっちもさっちも行かないのではないかという危機感を持ってます」

 事業者は日常業務で車体の点検を行うほか、整備も実施する場合があります。トラック・バスメーカーの技術や国土交通省の規制に精通する事業者がユーザー目線でこのリコール対応について説明します。

「中型エンジンの不正は法律違反の車両を走行させていることになるから、すぐにでも対応してもらうしかない。それはどういうことかというと、開発時間はかけられない。長期の耐久性に欠ける部品であっても、新品に交換することで次の車検、またその次の車検まで延ばすしかない。それでも実際に規制値を上回ることがあるかどうか。車検で調べるというのが現実的な対応でしょう。つまり、やれることは不正と同じでしかないと、我々は受け止めています」

型式認証を返上する日野 今後の対応は

 高耐久の装置を開発できなかったのか。それともしなかったのか。日野に「規制値が適合しない可能性」について質しましたが「原因究明と対策立案を検討しています」とだけ回答しました。

 日野は今後、取得している型式を返上し、新しい型式認証を取り直す方向で対応をしていくことになりそうです。その場合、ユーザーは当面をリコール対応でしのぎ、車検時に新型式の車検証と差し替えて実績値と型式を一致させ、新しいメンテナンスで運行することになります。

 規制を達成するための日野の息切れ。今回、中型エンジンとともに発覚した大型エンジンの燃費性能不正では、それがさらに顕著になっています。別稿でお伝えします。

尿素フリーに固執したことが遠因か? 排ガスレベル未達が誇り高きエンジニア達を狂わせた!! 【日野自動車不正問題】

 さあ、日野自動車の不正問題の核心に迫ろう!注目しなければならないのがHC-SCRという排ガスの後処理装置だ。

 尿素を使わないので、定期的に尿素水を補給する手間も費用も要らず、装置も軽量コンパクトでリーズナブル。まるで良いことづくめの日野独自の開発技術は、数々の技術賞に輝き、エンジニアの誇りとなった。

 しかし、どうしても平成28年排ガス規制のレベルを達成することができない!ここからすべての歯車が狂い出したのだ。

 以下、日野の不正問題を時系列で追うと見えてくるものの実態に迫りたい。

 文/フルロード編集部写真/フルロード編集部・多賀まりお・日野自動車

発端は北米の排ガスの認証試験

 今回の不正発覚の経緯だが、これは2020年12月23日に発表された日野の北米2工場の生産停止に端を発している。

 北米向けのA09C、J08E、J05E型の3つの新しいモデルイヤーのエンジンに関して、米国法定エンジン認証試験の排出ガスの認証が取れず、北2工場が2021年9月まで生産停止に追い込まれていたのだ。

 ちなみに日野は自社のエンジンを供給することを断念。現在では米国カミンズ社からエンジンの供給を受け、工場の生産を再開している。

 日野は、北米での認証試験の問題と今回の不正問題とは直接的な関係はないとしているが、これをきっかけに日本でもエンジンの認証に関わる手続きの総点検を実施。2021年4月より劣化耐久試験を中心にすべてのエンジンの再確認を開始したという。

 劣化耐久試験は、中型エンジンで7カ月間、大型エンジンで9カ月間かかるが、その結果、今年2月の時点で不正を確認したという。

不正の手口とチェック機能は?

 では、不正はどのように行なわれたのか?

 まず排出ガス規制に関わる中型車用A05C型エンジンの不正では、規定では45万km走行しても平成28年排出ガス規制の数値をクリアしなければならないことになっているが、劣化耐久試験の途中で、データが悪化していることが判明。

 このままだと規制値に入らないと認識し、排ガスの後処理装置であるHC-SCRを新品に交換したのだという。

 また、燃費に関わる大型車用A09C型およびE13C型エンジンの不正では、排出ガスの確認をしている中で燃費も確認したが、新しい重量車燃費基準の目標に届かないことが判明。

 優遇税制を受けられないことになるので、測定装置の燃料流量計のキャリブレーションを実際の燃費より向上するよう意図的に設定したという。

 では、なぜチェック機能が働かなかったのか?

 当時は、エンジンの開発をする部門と認証のデータを取る部門の計約370名が1つの部署の中で一緒に仕事をしており、チェック機能が働きにくかった側面があるのではないと推測される。いわゆる「なあなあ」の関係だ。

 ちなみに平成28年排出ガス規制に適合した日野プロフィア、日野レンジャーの発売は2017年5月である。2016年~2017年にかけてスバルや三菱自動車の燃費不正が発覚し、大きな社会問題になっていたのに、その鈍感さには驚くばかりだ。

 なお、日野によると、現在では認証に携わる部署は、エンジン開発などとは切り離された完全に独立した部署に組織変更をしているという。

不正問題の背景にある「HC-SCR」という革新技術

 さて、ここまで事実関係を元にお伝えしてきたが、ここからは私見を交えて今回の不正問題の背景に迫ってみよう思う。

 今回の不正問題は「排ガス不正」と「燃費不正」の2つになるが、時系列で見ていけばHC-SCRを採用したエンジンの排ガスレベルの未達が今回の不正問題のそもそもの発端である。

 技術的なことなので「不正問題」の報道では完全にスルーされてしまっているが、この「HC-SCR」にはもっと着目すべきではないかと思っている。

 いささか推理が過ぎるかもしれないが、今回の「不正問題」の遠因として浮かび上がるのが日野のHC-SCRへのこだわりで、あまりにもHC-SCRに執着しすぎたため、エンジニアたちは引っ込みがつかなくなり、最後は不正に手を染めてしまったのではないかと思えるのだ。

 あらためて解説すると、HC-SCRとは、低馬力仕様の日野レンジャーや日野デュトロ(N04C型エンジン)に採用されている尿素を使用しないNOx還元触媒のことだ。

 ご存知のようにディーゼル車の排出ガス低減システムとしては「尿素SCRシステム」が世界の主流になっているが、HC-SCRは尿素を使わず燃料(軽油)を還元剤としてNOxを低減するというもの。

 尿素SCRシステムは、尿素水からアンモニアを発生させ、アンモニアがNOxと化学反応することで無害な窒素と水に還元させるが、HC-SCRは、軽油から分解生成したHC(ハイドロカーボン)や排ガス中の未燃焼HCを還元剤としてNOxを無害化する。

 こうしたNOx還元触媒と、PMをフィルターで集積させ燃焼を行なうDPF(日野はDPRと呼ぶ)を組み合わせた排ガス後処理装置が近年のディーゼル車には搭載され、クリーンな排気ガスを排出するものとなっている。

 HC-SCRは、2014年には「第11回新機械振興賞 経済産業大臣賞」「2013年度日本機械学会賞(技術)」「第64回自動車技術会 技術開発賞」「平成25年石油学会 学会賞(工業的)」を立て続けに受賞。技術的に高い評価を受けていたことがわかる。

 日野は、2010年4月に発表された日野レンジャーにポスト新長期排ガス規制(平成22年規制)適合への対応技術の切り札としてこのHC-SCRを初採用(新DPRと呼称)。さらにポスト・ポスト新長期排ガス規制(平成28年規制)に際しても、新DPRを改善したDPR-として継続採用している。

 尿素を使用しないHC-SCRには、さまざまなメリットがある。まず、アドブルーと呼ばれる尿素水を定期的に供給しなくてもいいので、アドブルー代も省けるし、その手間も不要。インフラが未整備な発展途上国の車両にも採用できる。

 また、尿素SCRシステムより安価で軽量・コンパクトに搭載できることも大きなメリットだ。

 ただし、ポスト新長期排ガス規制の時点でも、尿素SCRに比べて、NOxの削減率は30~40%と低く、触媒の耐久性にも課題があり、燃料経済性も若干劣るとされてきた。

尿素SCRの優位とHC-SCRの真実

 ここで、中型トラックを運転し九州一円で集配業務に携わっているベテランドライバーの理絵さんの話をご紹介する。

 「去年の4月から新型日野レンジャーの4tに乗っているのですが、これがまた馬力がないというのかなんというのか……。低馬力仕様はアドブルーを入れなくて良いので手間はかからないのですが、何せ荷物を積むと走らない(泣)。峠はもちろん、皆様に多大なるご迷惑をお掛けして走行しております。

 その前に乗っていたいすゞのフォワードは、たしか現在乗っているレンジャーと数字上の馬力は同じだったと記憶しているのですが、メーカーが違うとこうまで走りも違うのかと試行錯誤しながら乗りこなそうと頑張っています(笑)。

 馬力が同じでも燃費は随分と違って、フォワードの時はトラックの燃費計でデジタコを気にして走っていれば、1リッター当り7km後半から8km前半くらいは普通に出ていました。

 レンジャーはというと、5~6km半ばという、アドブルーのぶんを差し引いても屈辱的な数字を表示してきます。私は事務方もしているので、月間の燃費などの集計もしているのですが、やはり大体の数字は合っているようです」。

 理絵さんの話は、もはや市場ではHC-SCRが競争力のない技術になっていることを物語っていないか。ちなみに日野は、2017年5月に発売したポスト・ポスト新長期規制対応の日野レンジャーに際して、A05C型エンジンに尿素レスのHC-SCRとともに尿素SCRも用意している。

 普通、こんなことは考えられないことで、日野自身もHC-SCRが時代遅れになってきていることを認識していたのではないか。

 正直に言えば、2017年のフルモデルチェンジの時点でHC-SCRは継続採用されるべきではなかったのではないかと思う。定期的にアドブルーを供給しなくてはならないとしても、尿素SCRの優位は今日では決定的だからだ。

エンジニアの誇りと驕り

 では、どうしてこんなことになってしまったのだろう?

 私見なので、こんな見方が正しいのかどうかわからないが、日野自動車はエンジニア主導のメーカーという印象がある。それに対して、たとえばいすゞ自動車はマーケティング主導の会社という印象だ。

 日野のエンジニアは、非常に頭がよく真面目な人が多い。自分たちが確立した技術に誇りを持っているはずで、それは素晴らしいことである。

 HC-SCRは立派な賞までもらっている優れた技術であり、尿素SCRには真似できないメリットもある……。しかし、その誇りがいつしか驕りになり、できないことまでできると過信して、切羽詰まってしまい、耐久劣化試験中の触媒コンバーターごと交換してしまった、そんな絵が見えてくるのである。

 エンジニア主導のメーカーだから、なかなか他部署の人間が口をはさめない空気があり、エンジニアもプライドがあるから「無理」とは言えない。

 「継続は力なり」という言葉があるが、技術を大切に育てていくことは大事だが、自分たちの技術を過信することで物事を見誤ることもある。余談だが、日野のもう一つの革新技術であるハイブリッドも、もう一度見直すべき時にきているのかもしれない。

ユーザーとしっかり向き合うことの意味

 以前、日野のエンジニアと話した際、新型車の開発にあたってユーザーやドライバーと話をする機会はどれくらいあるかを尋ねたところ、「一度もありません。市場のニーズの状況は調査会社からデータが入りますし、販売会社を通じてユーザーの要望もわかりますから……」との返事で、非常に驚いたことがある。

 そのほうが効率的という判断なのだろうが、クルマづくりは本当にそんなことでいいのだろうか。

 今回の不正問題により、日野車の出荷停止は国内販売の約35%、年間約2万2000台におよぶ。

 台数を稼ぐ小型トラックが含まれていないので約35%という数値にとどまっているが、出荷停止は主力の普通トラックが大半であり、その期間が相当長引きそうなことを考えれば、そのダメージは計り知れないものがある。

 また、すでに出荷済みの対象となる使用過程車は11万5526台で、このうち排ガス不正のHC-SCR採用の日野レンジャー4万3044台はリコールの対象となる。

 日野の経営陣は記者会見の席上、「お客様にご迷惑をお掛けしたことをしっかりお詫びし、今後の対応をご相談させていただくつもりです。

 お客様に直接向き合っていくのは販売会社の人間なので、今後のことも1つ1つしっかりとお答えできるよう我々もバックアップしていきたい」と語っている。

 しかし、これは筋が違うのではないか。不正を犯したのはメーカーの開発部門の人間なのだから、詫びるのは不始末をしでかした人間であるべきだろう。彼らが直接ユーザーのもとに出向き、しっかりお詫びするのが筋というものだ。

 怒鳴られることもあるだろうし返事に窮することもあるだろう。しかし、開発部門の人間が直接詫びなければ、本当に謝罪したことにはならない。

 トラック・バスのユーザーの経営環境は押し並べて苦しい。車両を購入するのも大変だし燃料の高騰も深刻だし、故障やリコールによる車両のダウンタイムも減らしたい。そんなユーザーの声にしっかり耳を傾けてほしい。

 ただ単にお詫びするだけではなく、とことん話をして、自分たちのつくっているトラックやバスがどんな人にどんなふうに使われているか、しっかり把握してほしい。そして最後はユーザーと仲良くなって会社に戻ればいいのだ。

 どうせ日野の開発部門は今回の問題で、しばらくは暗く沈んだ空気が漂っていることだろう。ユーザーのもとにお詫びに出向くことで、少しは気分も晴れるだろうし、ユーザーと直接話すことによって次の開発のヒントをもらえることだってある。

 火の消えたような開発部門に灯をともすのは、小さくてもいい、次の目標とやりがいである。

日野自動車への提言もっと人間味のある開かれた企業に

 日野を除く大型車メーカーは、これまで3社とも非常に厳しい時代を生き抜いてきた。社内の同僚が一人去り二人去り、いつかは自分の番と悩んでいた人を何人も知っている。

 幸いにして日野自動車はこれまでそんな経験もなく、他社からは「親方トヨタでいいよな~」と羨ましがられてきたが、おかしなことにそんな日野が大型四社の中で社風が一番閉鎖的に感じる。

 以前、日野のエンジニアと話した際、新型車の開発にあたってユーザーやドライバーと話をする機会はどれくらいあるかを尋ねたところ、「一度もありません。市場の状況は調査会社からデータが入りますし、販売会社を通じてユーザーの要望もわかりますから……」との返事で、非常に驚いたことがある。

 そのほうが効率的という判断なのだろうが、クルマづくりは本当にそんなことでいいのだろうか。

 日野が閉鎖的と感じるのは、逆に言えば人間味が薄いということである。なんでも効率一辺倒で、そんな組織づくりに血道をあげている印象がある。

 今回の不正問題に対しても、外部有識者による特別調査委員会を設置し、原因の追求と組織の在り方や開発プロセスにまで踏み込んだ再発防止策を立てたいとしているが、不正を抑え込む組織づくりだけでいいのだろうか?もっと働いている社員の一人一人の心のうちに響くような対応が必要ではないか。

 たとえば、自分たちが誰のためにどんな目的でクルマづくりをしているか、それが見えなければ目標もやりがいもなくルーティンワークで仕事をこなすだけになってしまう。

 ノルマや上司や同僚の顔だけで見ているような開発の現場が今回の不正を生んだとは言えないか。

 日野はもっと開かれたメーカーになるべきである。その第一弾が開発陣のお詫び行脚でいいのではないか。ユーザーと直に対面し、生の声を聞くことによって、お詫びをする以上に得るものは多いはず。

 第一、困り切ったユーザーの顔が思い浮かべば、不正などしようとは思わないのが人情というもの。再発防止は人間味を取り戻すことだ。

 今回の不正問題は、日野ひとりにとどまらず、販売会社やサプライヤー、架装メーカー、OEM先などなど、トラック・バス業界に多大な影響を及ぼす大変な事態である。

 今や地に墜ちた感のあるかつてのリーディングカンパニーだが、復活の道は長く険しいとしても、必ずや新生・日野としてよみがえるはず。その日を楽しみに待ちたい。

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