アサリの「熊本産」偽装疑惑 産地ルール「実態に合わぬ」 東京海洋大客員教授・鳥羽光晴さん

アサリの「熊本産」偽装疑惑 産地ルール「実態に合わぬ」 東京海洋大客員教授・鳥羽光晴さん

 中国産などの輸入アサリを熊本県産と偽った産地偽装疑惑を巡り、原産国より県内での蓄養(成育)期間が長ければ「熊本産」とできる産地表示の仕組みが問題視されている。通称「長いところルール」と呼ばれ、東京海洋大の鳥羽光晴客員教授(67)=水産増養殖学=は「アサリの生態から見て実態に合わない」と指摘する。(聞き手・福山聡一郎)

 -今回の産地偽装疑惑をどう受け止めましたか。

 「海外産を国産と偽る行為は、消費者の根強い国産信仰が背景にある。中国から日本に輸入される食品は近年増えており、中国産を敬遠する消費者心理は弱まっていると思っていた」

 -日本に輸入されるアサリはどんな状態ですか。

 「水温など環境によって異なるが、アサリは長さ約3センチの出荷に適したサイズに成長するまでに2年ほどかかる。中国と韓国のいずれからも多くが『食用』として輸入されており、(これから育てる)稚貝などではなく既に2年以上育ったものがほとんどだろう」

 -食品表示法に基づく「長いところルール」では、輸入アサリでも県内の蓄養期間の方が長ければ「熊本産」を名乗れることになっています。

 「実際のアサリの蓄養は、市場価格を見ながら出荷調整したり、砂抜きをしたりするのが目的だ。一般には水槽を使い、熊本県などでは海辺にまいて行われている。業者はアサリを大きく育てたり、肉質を改善したりするなど、仕入れ時より良い状態にして出荷することを想定していない」

 「アサリが死なない程度に保存できればよいという考え方なので、長く置くほど弱っていく。また、長期間だと波に流されて散らばったり、エイに食べられたりするので、仮置きであることに変わりはない」

 -実態は、海外で長く育ったアサリを短期間保管しただけということですか。

 「アサリの生態を知る私たちの常識からして、長期間の蓄養を前提とした『長いところルール』はおかしいと言わざるを得ない。生物学や生態学とは別の世界で決まったルールだろう」

 -熊本県は、同ルールの対象からアサリを除外するよう国に求めています。県内での蓄養期間が長いか短いかを大きさで判別できないから、としています。

 「アサリは成長差が生じやすく、大きさにばらつきがある。例えば、同時に生まれたアサリの中で、最も成長が遅い個体が早い個体に追いつくまでに1年を要することもある。サイズで成育の期間を判断するには無理があるので、熊本県の主張は妥当だ」

 -産地偽装をなくすにはどんな方策がありますか。

 「漁獲から流通、販売の過程を把握できるトレーサビリティー(生産流通履歴)制度をつくることだ。その上で消費者らの意向を踏まえながら、生まれた場所や育った地域など何を重視して産地表示するのかを考えていけば良い」

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なぜ「アサリ偽装」は逮捕されず、「ワカメ偽装」は逮捕されたのか

中国産などの大量の輸入アサリが熊本県産と偽装された問題は、多くのメディアで大々的に取り上げられている。だが、2月20日現在、誰一人逮捕されていない。一方15日には、外国産ワカメを鳴門産と偽装していた疑いで、食品表示法及び不正競争防止法違反として、静岡県の水産会社の社長含め3人の容疑者が逮捕されている。これだけ世間を騒がせ、しかも消費者の不安や怒りが高まっているのに、どうしてアサリ偽装は、誰も逮捕されないのか。(消費者問題研究所代表 垣田達哉)

大量のアサリ偽装を行った

水産会社に「注意処分」

 農林水産省は昨年12月8日、アサリ偽装を行っていた熊本県の水産会社に対し「生鮮水産物の不適正表示に対する措置」をしている。「生鮮水産物アサリの原産地について、中国産又は福岡県産であるにもかかわらず、熊本県産と事実と異なる表示をし、販売していたことを確認した」ので「食品表示法に基づき、表示の是正と併せて、原因の究明・分析の徹底、再発防止策の実施について指示を行った」のだ。

 つまり、農水省は産地偽装をしていた水産会社に対し、「これからは正しい表示をしてください」という注意をしただけである。

 この水産会社は2019年1月2日から2月10日までの間、約611トンの中国産アサリを熊本県産に偽装した。さらに、同期間に約2トンの福岡県産アサリも熊本県産に偽装している。仮に、1kg200円で仕入れた中国産アサリ611トンを600円で販売したとすると、差し引きで約2億4000万円のもうけとなる。

 農水省は、この水産会社に19年8月22日から21年11月24日まで立ち入り調査をしている。2年3カ月間にわたる調査をしたにもかかわらず、偽装と認定できた期間は約1カ月だけであり、しかも、これだけ大量の偽装をしているのに、注意処分しかできなかったのだ。

韓国産アナゴ2パックを

国産と偽った会社社長は逮捕

 この水産会社は、食品表示法違反と認定されているが、不正競争防止法違反には問われていない。ここが刑事事件として処罰できるかどうかの分かれ道になる。

 食品表示法も「原産地を偽装して販売した者に2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処す」ことができるが、表示違反だけで逮捕、起訴されることはまずない。

 消費者庁が所管している食品表示法は、消費者に対して正しい表示をすることが目的なので、偽装したからといって、消費者がどの程度(金額)の被害を受けたのかを判別することが難しい。しかも、だまされた金額が少額なので、個々の消費者(被害者)にすると、大きな被害とはならない。

 一方、経済産業省が所管している不正競争防止法は、正直に商売している人および業界を守ることが目的なので、偽装の規模にかかわらず罰することができる法律なのだ。偽装した場合、個人は5年以下の懲役または500万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金と、食品表示法よりかなり重い罰則になっている。

 13年に不正競争防止法違反で逮捕された水産会社社長の場合、逮捕理由は「韓国産アナゴを『焼アナゴ(国産朝焼き)』と偽って2パック計1160円販売した疑い」だった。

 同じように、16年に、中国産アナゴの加工品を国内産と偽って、社長等が逮捕された水産会社の場合は、「約886㎏を計300万円で不正に販売した」というものだった。

 一方、前述のアサリ偽装を行った水産会社の場合、偽装した量は600トン以上なのに、誰も逮捕されていない。同じ産地偽装といっても、罰則の適用には天と地ほどの違いがある。

 今回も、ワカメの偽装は不正競争防止法を適用したが、アサリの偽装にはなぜか不正競争防止法を適用していない。なぜなのだろうか。

 あくまで筆者の推測の域を出ないが、アサリの偽装の場合は「証拠が不十分なので刑事事件として裁判で勝てない」と判断したのか、もしくは、偽装したのは水産会社1社だけではない可能性が高く「すべての会社を調べて立件すると業界や地元に与える影響が大きいことを懸念した」からではないだろうか。

アサリ偽装を許した

行政の責任

 アサリ偽装疑惑では、熊本県の驚くべき対応も明らかになった。「県が毎年作成している水産統計にも、漁獲量を大きく上回る県産アサリの市場流通が記録されており、偽装の疑いが長年見過ごされてきた可能性がある」(2月12日配信・熊本日日新聞)、「統計に残されていた状況証拠、熊本県は『データを見落としていた』」(2月17日配信・西日本新聞)というのだ。

 熊本県が毎年作成している水産に関わる統計などをまとめた資料「熊本県の水産」には、熊本県産のアサリの漁獲量と大阪府内の中央卸売市場の取扱量が記載されている。

 例えば、19年に中央市場で取引された量は、すべての産地で1568トン、うち熊本県産が1349トン。ところが、この年に出荷された熊本県産のアサリは339トンしかなかった。19年だけでなく、少なくとも15年以降はこうした実態だったことが、熊本県の統計資料からわかるのだ。こうした失態について県は「蓄養の実態を把握していなかった」という言い訳をしている。

 一方で国に対しては「アサリの産地表示に関するルールが問題だから法律を変えろ」と迫っている(詳しくは『アサリ偽装が「産地表示ルールの変更」では防げない理由とは』参照)。自分たちが熊本県の浜で何が起きていたのかを調査もせずに、ルールが悪いという。実は、ここに根本的な問題がある。

 偽装表示で、不正競争防止法違反で摘発された案件の多くは、県や市などの地方自治体が、警察や農水省に対し「悪質な偽装をしているので検挙してほしい」と依頼することから始まっている。

 もちろん、事前に農水省や警察、都道府県や地元自治体が協議をした結果、摘発に動く。地方自治体が動くキッカケとなるのは、多くの場合、地元の同業者からの通報だ。同業者から「俺たちは正直に商売しているのに、不正をしてもうけている業者がいる」という声に動かされて行政が動く。

 ところが熊本県のアサリの場合、これだけの大規模な偽装を1社だけがしていたとは思えない。1社を不正競争防止法で摘発すれば、当然、同じ不正を働いていた業者を見逃すわけにはいかない。

 もちろん、今後の展開次第で逮捕者が出る可能性はあるが、まさに「皆で偽装すれば怖くない」という状況で終わる可能性もある。

 熊本県知事も、自分たちの失態を棚に上げて「ルールを改正すべきだ」と主張しているが、偽装という不正行為を行う輩は、どんなルールを作ろうが網の目をくぐって、消費者をだまし、もうけようとするだろう。

 アサリ偽装が起きたのは、ルールが悪かったからではない。偽装を防止するための最善策を怠り、長期間にわたって偽装を許してきた行政の責任である。

産地表示の実態調査結果を

農水省が発表した理由

 前述のように、農水省が、アサリの不適切表示を指摘した熊本県の水産会社の調査に入ったのが、19年8月22日から21年11月24日である。

 一方、農水省はこの間の20年10月から12月にかけて、全国の広域小売店1005店舗で産地表示の調査を行い、販売されているアサリのDNA鑑定を行っている。そして、今年2月1日に、「熊本県産と表示されたアサリのほとんどが中国産だった可能性が高い」と発表した(詳しくは『「中国産アサリの産地偽装」で、熊本県の次に狙われるのが愛知県といえる理由』参照)。

 冒頭で書いた通り、農水省は水産会社の調査に2年3カ月を費やしたものの、刑事責任を問うことができず、実質注意処分となった。何らかの理由で不正競争防止法違反では摘発できないと判断したのだろう。

 だが、国産アサリの漁獲量と流通量の違いについて、農水省は疑念を抱いたはずだ。しかも、偽装の舞台となったのは熊本県である。熊本県がどうして実態を把握していなかったのか(あるいは把握したくなかったのか)、不信感を抱いたのではなかろうか。

 そこで偽装の調査も終了する時期に、DNA鑑定で分析までして公表することで、全国民にアサリ偽装の実態を知らせるとともに、熊本県にも「これ以上の偽装を許すな」とくぎを刺したのではないだろうか。

 農水省は、刑事事件として摘発できなかった無念さもあったはずだ。熊本県の水産関連業者を不正競争防止法違反で摘発できないのなら、別の方法で国民や地方自治体に真実を知らせようとしたのではないだろうか。

 1社を不正競争防止法違反で摘発しても、マスコミの取り扱いは小さくなる。ところが「熊本県産のアサリは、ほとんど中国産だったと科学的な証拠で公表すれば、世間は『皆だまされていた』と驚くはずだ。摘発よりも偽装防止効果は高い」と農水省は考えたのではないだろうか。さらに、もっと早く偽装の実態を把握できたはずの熊本県や地元の業者への警告にもなる。

 まだ、アサリ偽装事件に幕が下ろされたわけではないが、逮捕者を出すことができないなら、熊本県および偽装業者をこうして懲らしめるしか方法はなかったのかもしれない。

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