コロナワクチンで彗星のように現れたモデルナ 日本法人の女性トップ「ワクチンはやがてオーダーメイドになっていく」

コロナワクチンで彗星のように現れたモデルナ 日本法人の女性トップ「ワクチンはやがてオーダーメイドになっていく」

 日本でもコロナワクチンの3回目の接種が始まっている。採用されたワクチンの1つはモデルナが開発したものだ。2010年に米国で創業したこの企業は、日本ではあまり知られていなかった。しかしコロナワクチンの普及によって、一躍有名になったのだ。

 同社はメッセンジャーRNA(mRNA)分野の研究に始まり、多様なワクチン・治療薬・予防薬の製品、臨床開発段階のプログラムを有している。ITmedia ビジネスオンラインは21年11月に日本法人モデルナ・ジャパン(東京都港区)のトップに着任した鈴木蘭美社長(医学博士)に、話を聞くことができた。

 鈴木社長は、同社に入社する前は同じく製薬企業のフェリングファーマCEO兼代表取締役を務めた。それ以前は、ヤンセンファーマのビジネスデベロップメント本部長やメディカルアフェアーズ本部長、エーザイの事業開発担当執行役を歴任したプロ経営者だ。1999年に英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで医学博士号も取得している。

 前編では日本市場での今後の展望を聞いた。(ジャーナリスト武田信晃、アイティメディア今野大一)

●ワクチンはやがてオーダーメイドに

――mRNAを使ったワクチンとは何か、読者に説明をしてください。

 mRNAのワクチンは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の作り方 ”レシピ” であるmRNAを、 “LNP(Lipid-nano-particles)”と呼ばれる脂質にくるませたものです。スパイクタンパク質とは、新型コロナウイルスがヒトの細胞の中へ侵入するために必要なタンパク質で、1273個のアミノ酸基が連なってできています。

 ヒトの細胞は賢くできています。ワクチンを打ってそれが細胞の中に入ると、とりこまれたmRNAを利用してスパイクタンパク質を自ら作り出します。するとヒトの免疫細胞がそのスパイクタンパク質の存在を察知して、免疫が活性化されるという仕組みです。

 私はこれを「体内マスク」と呼んでいます。実際の体内マスクを作っているのは、ヒトが生まれもった細胞の自然な機能です。当社モデルナは、あくまでも作り方 ”レシピ”をワクチンとして提供しているという考えです。

――mRNAのメリットは、どんなところにあるのでしょうか?

 これまでワクチンを製造するにはニワトリの卵を使うなど時間がかかっていました。それに対して、mRNAは製造工程が極めて短くシンプルな点がメリットです。だから、これだけ早くワクチンができました。

 もう少し具体的に言えば、mRNAは「情報」です。スパイクタンパク質のような抗原が定まれば、mRNAの配列は数時間で決まります。

 製造工程がシンプルなので、希少疾患の治療としても応用しやすいです。また米国の上場企業メルクと一緒にガンの個別化ワクチン(1人ひとりに合わせたワクチン)を開発しています。

 これはその人の「正常細胞」と、「ガン細胞」の遺伝子配列を比べて、その違いをワクチンとして注入し、抗ガン細胞の免疫力を高めることを目指しています。個別に作ると、普通であれば、お金がかかり生産性が課題となります。しかしmRNAなら、比較的シンプルに早く作ることが可能です。今年、その第2相試験の結果が出るので楽しみにしています。

――つまり究極的には、将来のワクチンや薬は、患者にあわせたオーダーメイドになっていくのでしょうか?

 少なくともガンに関しては、オーダーメイドのワクチン開発が始まっています。全てを個別化する必要はありませんが、より個人に合ったワクチンや薬があたりまえになる世界は来ると思っています。

●3回目の接種の位置付け

――貴社の公式サイトを見ると新型コロナのみならずインフルエンザ、ジカウイルスなどかなりの種類のワクチンの研究をしていますね。

 20年には23本の新薬候補開発を進めていました。21年には37本まで増え、直近では40以上です。例えば現在、新型コロナウイルス、インフルエンザ、呼吸器系のウイルスであるRSウイルスを1つにした呼吸器系の混合ワクチンの開発を進めています。接種は年に1回で済む製品を目指しています。そうすればウイルス別のワクチンを何度も受ける必要がなく、さまざまな手間も省けます。

――40本のワクチンを研究してきました。日本市場の特徴を考えて、今後どういった商品のニーズがあると思いますか? 日本法人での開発も視野に入れていますか?

 熱帯の国に特有なワクチン以外は、当社の新薬候補は日本においても需要の高いものです。ですから、ほぼ全てを日本でも開発します。

 例えば、先日インフルエンザ用のmRNA-1010の試験データが出たのですが、結果は好調でした。遅延なく商品化して日本の人々に提供したいと考えています。

 mRNA-1647はサイトメガロウイルス(CMV)用のワクチンです。これは妊婦になる前に接種するワクチンです。CMVはあまり知られていませんが、妊娠中に感染すると耳が聞こえない赤ちゃんが生まれるなどのリスクがある一方、明確な対処法がありません。このCMVを予防するためのワクチンを開発していて、第3相まで進んでいます。

 ほかにもアストラゼネカと一緒に、心筋梗塞が起こったときに心臓の筋肉に局所で打つことによって心臓再生を促す新薬候補も開発しています。

――モデルナにとっての3回目の接種の位置付けは?

 オミクロン株ですが、ウイルスの働きを抑える「中和抗体値」が、3回目のワクチン接種によって接種前と比較して50マイクログラムで37倍、100マイクログラムで83倍になったデータがあります。これだけパワフルなワクチンであれば、多くの方に貢献できると思っています。

――異なるワクチンを接種する「交差接種」についてはどのように考えていますか?

 厚生労働省のWebサイトにも明記されておりますが、1・2回目接種でファイザー社ワクチンを受けた人が、3回目でファイザー社ワクチンを受けた場合と、武田/モデルナ社ワクチンを受けた場合のいずれにおいても、抗体価が十分上昇することが分かっています。

 最近はシンガポール、米国、英国などから、交差接種のリアルワールドエビデンス(実際の医療現場などにおける証拠)が次々と発表されており、コロナ感染による重症化、入院率、致死率などにおいて、強い効果が確認できています。

●医療情報の共有は難しい

――オミクロン株用のワクチンも開発中だと聞いています。

 今、オミクロン用に特化したワクチンの開発を進めています。あらゆることに関して、できるだけAIなどのデジタルを活用するようにしています。そうすることで、変異を予測するといった先手を打つ取り組みができ、短い期間で開発できるのです。

 1月26日にオミクロン株に特化した追加接種ワクチン候補(mRNA-1273.529)の第2相試験の最初の被験者への接種を実施しました。

――世界のどの国、地域でもワクチンを打ちたくない人は一定数、存在します。mRNAを使った技術は新しいもので、安全を強く求める日本の国民性を含めワクチン忌避については、どう捉え、この課題を克服しようと考えていますか?

 ワクチンは「体内マスク」、自らの命を守るため、そしてコミュニティーを守るためにも極めて重要です。ただmRNAは新しい技術ですから、まだ分からない部分は当然あります。丁寧に解明そして説明していく必要があります。

 実際の医療現場などにおける証拠を「リアルワールドエビデンス(RWE)」と呼んでいます。海外では何十万人もの規模で、ワクチンを打った後どうであったか、長期間時系列で、安全性、感染率、入院率、致死率などを「定量的に見える化」しています。

 このようなRWEデータは、個人、家族、コミュニティー、医療従事者、自治体、国が適切な判断をするために必須だと考えており、日本でも産学官民が力を合わせてRWEデータを創出できるシステムを構築することができたらいいなと思います。

――日本では個人情報の観点から医療情報の共有は難しい事情がありますね。

 私は、安心安全に医療情報をシェアできる仕組みを確立したほうがいいと思っています。25歳以下のいわゆるZ世代は、日常のオンライン活動においても、「自分の情報を共有する代わりに、ちゃんとパーソナライズした情報をくださいね」「適切な目的に使うことが大前提」と考えているという話を聞きました。

 医療情報において私が強く感じるのは、「シェアすることによって救える命がある」ということです。私は乳がんの研究者をしてきたのですが、いろいろなことを見てきた中で「もし情報が共有できたら、救える命がこんなにたくさんあるのに……」という事例を目の当たりにしてきました。

 一般論として、分かりやすい例を説明させてください。もし私の妹が、珍しい遺伝子変異を有した乳ガンにかかったとします。幸い良い先生に診てもらい、なんと完治した。その際に「効果のあった薬はこれだった」という情報は、妹だけ、または親族は知ることでしょう。しかしご近所レベルになると、相当仲が良くないとシェアするまでに至りません。

 ましてや知らない人や遠い所に住んでいる人には、シェアしたくてもそうすることのできる術はないというのが現状です。しかしこの瞬間にでも、その珍しい遺伝子変異を有した乳ガンに苦しむ人がいて、効果のある薬を求めているかもしれません。また、一人の医療情報では不十分でも、多くの人の医療情報が集まればさまざまな現象や事実が見えてきます。

●データに基づかない医療が課題

――コロナにおいても成功事例や失敗事例が適切に共有されているとは言い難い状況ですね。

 新型コロナの後遺症を指す「Long Covid」という言葉があります。Long Covidの段階までいくと、働けないという雇用の課題や介護の話にもなるのですが、実はそれらの情報が分断されていて、医療情報やワクチンの接種履歴とひもづいていないのです。

 また、コロナ患者が入院した場合、無事に完治するまで実際にはいくらぐらいの治療費がかかっているのかが不明です。国全体として、このような費用は明確に把握できると良いと思います。

 何が言いたいのかというと、ワクチンを打てば入院のリスクが下がります。つまり「入院をしないで済んだ人の数 × 1人当たりの治療費」を出せば、ワクチンによって入院費がどこまで削減できたのかが可視化されるわけです。今はこのようなデータが不透明なので、海外の発表を参考にしています。

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