「なんだこの記事は!」岸田首相が怒った、歴史的低支持率とは別の理由
「なんだ、この記事は!誰がこんなことを言っているんだ」。自民党総裁選に勝利し、党役員人事を終えた岸田文雄首相は、ある新聞記事を目にして珍しく怒りをにじませた。全国紙各紙の世論調査で歴史的に低調な内閣支持率が続出する前の出来事だ。岸田首相が怒った理由とは?(イトモス研究所所長 小倉健一)
「なんだこの記事は!」
岸田首相の怒りの理由とは?
第100代首相に就いた岸田文雄首相は10月8日、就任後初となる所信表明演説で新しい資本主義を実現して「成長と分配の好循環」を目指すとした上で、「日本の絆の力を呼び起こす。それが私の使命だ」と力説した。
喫緊の課題である新型コロナウイルス対策から外交・安全保障までを網羅し、与党内の評価は「自民党の保守派にも、リベラル派にも目を向けた内容」と上々。首相には安堵感が漂う。
だが、山積する課題を「ホッチキスで止めただけの『八方美人』演説」(無派閥議員)との印象も拭えず、新味に欠ける政策メニューには厳しい声も目立つ。今月末には自身が断行した衆議院解散・総選挙が控える中、「岸田カラー」はいまだ見えない。
「なんだ、この記事は!誰がこんなことを言っているんだ」。9月末の自民党総裁選で勝利し、党役員人事を終えた岸田首相は10月2日、珍しく怒りをにじませた。
岸田首相の怒りの理由は、この日の読売新聞朝刊が「14日解散来月7日総選挙」「岸田氏、意向固める」と1面トップで報じたことだった。
党幹事長に甘利明氏、副総裁に麻生太郎氏を配置したのに加え、政調会長には総裁選で安倍晋三元首相の全面支援を受けた高市早苗氏を起用。党内人事は実力者の「3A」に配慮して見せたはずだった。
だが、2日後に迫る組閣人事を巡ってもその大きな影響力に苦慮していた。そこに、「首相の専権事項」である解散権にまで踏み込んだ報道が自身の考えとは別に出たことを岸田首相は不快に感じたようだ。
最低レベルの支持率で船出の岸田内閣
衆院選を控えた自民党議員には衝撃
「安倍・麻生傀儡政権」「3A内閣」――。新首相の持ち前の生真面目さで清新なイメージをアピールしたい岸田内閣だが、安倍・麻生・甘利3氏の存在感が強いあまりに各種世論調査の支持率は低調だ。
朝日新聞の調査では内閣支持率45%(不支持率は20%)と、発足直後の支持率としては最低を記録。毎日新聞でも過去20年間で2番目に低い49%(同40%)、最も高かった日本経済新聞の59%(同25%)も政権発足時としては過去3番目の低さだった。衆院選を間近に控える自民党議員には「衝撃」といえる。
「総裁選での勝因と党内基盤を考えれば『3A』を立てるのはやむを得ない。これから徐々に上昇させていけばいいだけだ」。岸田氏の周辺は、低調な船出が必然だったとの見方を示す。「傀儡」色がにじむことに加えて、「政治とカネ」問題が再びクローズアップされるようになったからだ。
党幹事長に起用した甘利氏は経済再生相を務めていた2016年、都市再生機構(UR)への口利きを巡り建設業者からの金銭受領疑惑で引責辞任。新しく党組織運動本部長に就いた小渕優子氏も14年、関連政治団体が主催した観劇ツアーを巡る政治資金規制法違反疑惑で経済産業相を辞任した。
甘利氏は10月5日の記者会見で「私としては説明責任を含めて、責務を果たし終えたと考えている」と説明したが、立憲民主党をはじめとする野党は国会招致を求めるなど攻勢を強めている。
参院選の選挙資金を巡る疑惑で
板挟みに遭う岸田首相
加えて、19年の参議院選挙における河井案里元参院議員による広島選挙区の買収事件を巡る板挟み問題も浮上している。
党本部から河井陣営への1億5000万円の選挙資金投入については、岸田首相の地元・広島の事件であることから「経緯や資金の流れを解明し、首相のクリーンなイメージを売り出したい」(岸田派中堅)と期待の声も上がっていた。しかし、当時の党選対委員長だった甘利氏が再調査を否定。党広島県連の会長代理を務める中本隆志県議会議長からは「自民党として国民に謝罪し、二度と起きないようルールを決めて適切に運用することが必要だ」と突き上げを食らう始末である。
自身の特技に「聞く力」を挙げる岸田氏は所信表明で、これまで書きためてきたという「岸田ノート」に触れた上で、国民の切実な声を踏まえて政策を断行していくと宣言した。政治不信、政治離れが進む中で岸田氏の寄り添う姿勢に好感を抱く人々は多い。だが、安全運転を重視して人事面でも政策面でも「岸田カラー」が見えないのも事実だ。
政権内で影響力を増す「3A」の存在には、霞が関内からも「国民ではなく、『3A』の方ばかりを見るようになれば支持率はさらに下がる」(環境省幹部)と先行きを懸念する声もあがる。「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」とのことわざを引用し、明るい未来を築こうと呼びかけた岸田首相。「八方美人」「優柔不断」との評も上がる政界で、「諸説紛紛」の道へ迷い込まないかとの懸念も尽きない。
