お酒を飲まない人の肝臓病「NASH」には糖尿病薬が有効との報告が
日本で圧倒的に多い肝臓病が、お酒をほとんど飲まない人にみられる「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD=ナッフルド)」だ。成人の約25%を占める。このうち、進行性で肝硬変や肝臓がんに進展しやすいものをNASH(ナッシュ)と呼ぶ。NASHについて最近2つの大きなトピックスを発表したNASH治療・研究の国内第一人者、大阪府済生会吹田病院名誉院長の岡上武医師に話を聞いた。
NASHは、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などを背景に肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化を伴い、やがて肝硬変や肝臓がんを引き起こす病気だ。原因となる病気の治療に加え、肥満解消が重要。それで良くならない場合、薬物治療となるが、NASHの治療薬として認可されているものはなかった。
しかし、今後は変わるかもしれない。それが1つ目のトピックスだ。
■16カ国143施設での比較試験で糖尿病治療薬に改善効果
「2型糖尿病治療薬GLP-1受容体作動薬を週1回皮下投与した試験で、NASHの脂肪肝、炎症が改善し、線維化もやや改善しました」
これは、日本を含む16カ国143施設で行われたプラセボ(偽薬)との比較試験の結果。使われたGLP-1受容体作動薬は、日本で2020年に2型糖尿病患者に対して承認された週1回皮下注射するセマグルチドだ。
NASHの改善は、セマグルチド0.1ミリグラム投与群で40.4%、0.2ミリ群で35.6%、0.4ミリ群で58.9%と、プラセボ群の17.2%に対し、いずれも有意差が見られた。
線維化を伴うNASHでは線維化の改善は見られたが、プラセボ群との間に有意差はなかった。しかし、線維化が進んだ患者の「悪化を防ぐ」点についてはGLP-1受容体作動薬の有効性が認められ、繊維化のバイオマーカーも改善した。
「今回の試験は投与期間が1年半。線維化の改善には時間がかかるので、2年や3年と長期的に投与すると線維化の改善が期待できる。早ければ2年半先にはNASHの治療薬として承認申請が行われる可能性がある」
となると、NASHの初の承認治療薬となる。
■肝生検なしで確定診断が可能に
NASHが厄介なのは、確定診断には肝生検が必要な点だ。患者の負担が大きく、NAFLD全員を対象には行えない。
そこで岡上医師が開発したのが、人工知能(AI)を用いたNASHのスクリーニング「NASHスコープ」と線維化診断法「フィブロスコープ」。これが2つ目のトピックスだ。
「通常の検査で分かる11項目をNASHスコープに入れると、1分でNASHかどうかが分かる。それに線維化マーカーを加えた12項目をフィブロスコープにかけると、線維化がどれほど進んでいるかがすぐ判明します」
約3年半かけ、岡上医師がこれまで肝生検で診断したNAFLD324例のデータを用いてAIシステムを構築した。肝生検での組織診断は、病理医の診断能力や、採取した組織の部位の病変で差が出る。吹田病院は国内トップクラスのNASH治療病院ゆえに全国から多数の患者が集まり、肝組織診断を岡上医師がひとりで行うため、肝生検の結果に診断医間の差がない。だからこそ肝生検に少しも劣らない精度の高いAI診断システムが構築できた。
「患者さんの負担が全くない。AIでNASHを調べられるようになれば、今までNASHとされていなかった人にも、NASHが見つかる可能性が高い。早期発見、早期治療となれば、肝硬変、肝臓がんの患者数減少が期待できます」
このAIの検査は、岡上医師の病院以外でも使用可能で、すでに一部の病院で使用されている。
