30歳未満、特に女性はアストラゼネカ製ワクチン接種には細心の注意を 血栓症・血小板減少のリスク
<接種者100万人に4人弱の血栓症、なかでも20代では深刻な副反応が11人に増える>
[ロンドン発]血栓症を誘発する恐れが指摘されている英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカの新型コロナウイルス・ワクチン(AZワクチン)について、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は7日、血栓症が発生する割合は接種者100万人に4人弱だとしてAZワクチン接種のベネフィットはリスクをはるかに上回るとの立場を維持した。
しかし20~29歳では深刻な副反応は約11人に増えるため、感染が収まっている状況ではリスクがベネフィットを上回ると指摘。英予防接種合同委員会(JCVI)は同日、30歳未満に対しては可能な限り、AZワクチンの代わりにm(メッセンジャー)RNAテクノロジーを利用する米ファイザー製、モデルナ製ワクチンを使用するよう勧告した。
すでに欧州連合(EU)加盟国ではAZワクチンの安全性や有効性に対する懐疑論が強まっているため、今回の30歳未満への接種制限はワクチン接種をさらに滞らせる恐れがある。
イギリスではコロナ感染者は436万人を超え、14万9千人以上が死亡。このため3170万人がワクチン接種を受け、このうち373万9千人が2回目の接種も済ませた。ワクチンはコロナ感染による重症化と入院リスクを劇的に減らすため、イングランド公衆衛生サービス(PHE)は今年1~3月だけで少なくとも6千人の命がワクチン接種により救われたと評価する。
しかしAZワクチンの1回目接種直後、血栓症と血小板減少が同時に発生するという極めてまれな有害事象が相次いだ。このためMHRAは血小板減少を伴う脳静脈洞血栓症(CVST)の症例を徹底検証。その結果、3月末までにAZワクチンは2020万回接種され、血栓症79例を確認、うち44例が血小板減少を伴うCVST、35例が血小板減少を伴う他の主要静脈の血栓症だった。
79例のうち19人が死亡(女性13人、男性6人)、11人は50歳未満で、うち3人は30歳未満だった。19人のうち14人は血小板減少を伴うCVSTで、5人は血小板減少を伴う血栓症だった。性別では女性51人、男性28人(18~79歳)。男性よりも女性の方がAZワクチンの接種を受けた直後、血栓症と血小板減少が同時発生するリスクが大きくなっていた。
ファイザー製やモデルナ製に血栓症・血小板減少の兆候なし
これに対してファイザー製、モデルナ製ワクチンでは血栓症と血小板減少が同時に起きる兆候はこれまで報告されていない。MHRAが記者会見で使ったスライドを見ておこう。コロナ感染が落ち着いている状況では10万人当たりのAZワクチン接種による深刻な副反応は20~29歳で1.1人と、集中治療室(ICU)で治療を受ける割合(0.8人)を上回ってしまう。
しかし、それ以外の年齢層ではいずれもベネフィットがリスクを上回る。感染の広がりが中程度や感染が拡大している状況ではすべての年齢層でベネフィットがリスクを上回っている。
AZワクチンは重症化と入院リスクを劇的に減らすため、高齢になればなるほど接種を受けるベネフィットが大きいことが一目瞭然だ。
欧州全体では脳静脈洞血栓症169症例、内蔵静脈血栓症53例
欧州連合(EU)の欧州医薬品庁(EMA)もMHRAと同時に記者会見し、「血栓症と血小板減少の同時発生はAZワクチンのごくまれな副反応としてリストアップすべきだ」と指摘した。欧州経済領域 (EEA)とイギリスでは3月22日時点で約2500万人が接種を受け、CVSTが62例、内蔵静脈血栓症24例が確認された。ほとんどが60歳未満の女性だった。また18人が死亡した。
4月4日時点では3400万人が接種を受け、CVSTが169症例、内蔵静脈血栓症53例が報告されている。
AZワクチン接種直後にCVSTを発症したのは100万人当たり2.2人(MHRA)から5人(EMAの最新集計)とばらつきがある。オープン・ユニバーシティーのケビン・マッコンウェイ名誉教授(応用統計学)は「ワクチンの接種にかかわらず1年間では100万人に2~5人の割合でCVSTは発症する。最近の研究では13~16人という可能性も指摘されている」という。
EMAは「血栓症と血小板減少の同時発生はごくまれであり、ワクチンの全体的なベネフィットは副反応のリスクを上回る」と結論付ける。その一方で「もっともらしい説明の一つは免疫応答だ」として、抗凝固薬ヘパリンで治療された患者に時々見られるヘパリン起因性血小板減少症と似ていると分析している。現時点ではリスク要因を特定できないという。
英予防接種合同委員会(JCVI)は「このごくまれな症状に関する既知のリスクファクターは現時点では存在しない。AZワクチンの1回目接種を受けたことに対する特異体質反応のように見える」と分析し、MHRAも「血栓症と血小板減少の同時発生はコロナ感染者でもワクチンの未接種者にもみられないことに留意することは重要だ」と指摘した。
エコノミークラス症候群など血栓症は誰にでも起こりうる症例だ。しかもコロナに感染すると、血栓症を伴うことは少なくない。筆者の友人である30代の女性はコロナに感染して寝込んだ後、皮膚がかゆくなり、足に小さな血斑がみられた。
女性の場合、避妊のためピルを服用していると、わずかだが血栓症のリスクが高まる。妊娠中・出産後はさらに血栓症になるリスクが高いため、AZワクチンでなくても、接種の際には細心の注意が必要だ。
筆者は、ファイザー製ワクチンを接種する際のスクリーニングで「血液凝固障害か、ワルファリンのような抗凝固剤を服用しているか、筋肉内注射に対する禁忌(普通は適切な療法だが、それが当てはまらない人)があるか」を質問していることが、果たして注射部位に留まる問題なのかずっと気になっていた。
昨年12月、米フロリダ州マイアミ・ビーチの産婦人科医グレゴリー・マイケルさん(当時56歳)が米ファイザー製ワクチンを接種後、副反応で急性免疫性血小板減少症(ITP)を起こし、血小板不足から出血性脳卒中を起こし、息を引き取った。接種者の体質によってはワクチン接種で凝固障害がブーストされることがあるのではないかと不安を覚えた。
AZワクチン接種後に血栓症・血小板減少の同時発生で急死したイギリス国内の19人に関する詳しい状況はまだ分からない。体質や接種時の状況によって血栓が急激に発生し、血小板が足りなくなって出血が止まらず、死んでしまうケースが発生しているとの懸念は払拭されていない。
ワクチン接種による「集団免疫」獲得を目指す戦略は「最大多数の最大幸福」を実現させるものとは言え、そのために犠牲になる人が出ることは、これまで予防接種禍や薬害事件を取材してきた筆者としてはいたたまれない気持ちになる。遺族は最愛の人の急死に悲しさとやりきれなさでいっぱいだろう。
ただ、救いは利害相反を避けるため、MHRAもJCVIも英保健省とは独立して判断し、EMAとも足並みをそろえていることだ。
100%安全とは言い切れないワクチンの接種、しかもパンデミック下における前例のない地球規模の集団予防接種ではこれからも何が起きるか分からない。私たちが日常を取り戻すためには臨床試験や接種によるデータと分析を積み重ねて、手探りで一歩後退二歩前進を続けていくしか道がない。
AZワクチン接種後4日から2週間以内に以下の症状がある場合、直ちに医師の診察を受けるようとMHRAやEMAは呼びかけている。
・呼吸困難
・胸の痛み
・足のむくみ
・持続的な腹痛(腹痛)
・重度で持続的な頭痛やかすみ目などの症状
・注射部位以外の小さな血斑
