PENTAX K-3 Mark III 開発の現場から 企画背景 ~K-3 Mark IIIに込めた想い~
K-3 Mark IIIが目指したもの
PENTAX K-7からAPS-C最上位機で継承してきた、トップクラスの高性能を小型ボディに凝縮させつつ堅牢性や操作性に優れたボディデザインにする、という基本的な考え方を踏襲しています。基本的なコンセプトとしては継承していますし、PENTAXのAPS-C最上位モデルの代名詞ともいえる「K-3」の名前を受け継ぎ、K-3Mark IIIという名前にしました。
その上で、我々が持てる技術を余すことなく投入し、PENTAXをお使いの方に、APS-C一眼レフカメラの中で最高と思って頂けるようなカメラを目指して開発してきました。
つまり、K-3 IIの単なる後継というよりは、クラスを超えたAPS-Cフラッグシップです。
開発を進めるにあたって「気持ちよく撮影してもらえるカメラ」とはどのようなものか、じっくりと考えました。そこにはやはり光学ファインダーと操作性が重要であり、さらに撮影結果に対しての期待感。つまり得られる写真画質が納得感ある、素晴らしいものであることが欠かせないと考えました。
K-3 Mark IIIは、撮影者自身の眼と手の延長のように扱っていただくために、手になじむ軽快なAPS-Cフォーマットのカメラでありながら、フルサイズに匹敵するような優れた光学ファインダー、より臨場感を感じられるようなディテール再現、色彩表現に優れた画づくりにチャレンジしています。結果として気持ちよく撮影をしながら、想像力を掻き立ててくれるカメラに仕上がったと考えています。
フルサイズに匹敵する光学ファインダー
没入感の得られるファインダーが必要だと考えていました。それにはファインダーを覗き込んだときの視野角が重要です。
我々はAPS-C一眼レフカメラの中で一番を狙うのではなく、フルサイズ一眼レフカメラに匹敵するファインダーを目指して、倍率1.05倍という目標を掲げました。
開発陣には、アイレリーフを犠牲にせず、自然な見え味も確保してこれを実現するという難題にチャレンジしてもらいました。
手の延長のように扱える操作性の追求
被写体と対話するように、撮影に集中していただくために必要な操作性として、「手の延長のように自在に操れるもの」を目指しました。
たとえばファインダーを覗きながら撮影条件に合わせて瞬時に設定ができるスマートファンクションを改良しています。
カスタマイズについてもこれまで以上に自由度の高いことができるようにしました。
さらに、快適に露出設定ができるPENTAX独自のハイパー操作系も一から見直して使い勝手を向上させています。
撮影者の期待に応える高画質
撮影意欲を掻き立てるには、「撮影者の期待に応える高画質」が大事だと思っています。
基本的には画質設計者の感性を大切にしていますが、PENTAXとして培ってきた質感描写、撮った瞬間に手ごたえを感じられる画作り、これらは今回も期待通りに仕上がっていますし、高感度だけにとどまらず低感度域でのディテール再現も向上しております。
最後に
エンジニア全員が細部にまでこだわってつくりあげたK-3 Mark IIIは私が期待していた以上に素晴らしいものになりました。
ファインダーの見え味やシャッターフィーリングなど、スペックには表れない部分でも完成度の高いカメラに仕上がっています。
ぜひお手に取っていただき、このカメラを体感していただけたらと思います。
K-3 Mark IIIの価値を決める高い理想への挑戦
金井:K-3 Mark IIIの光学ファインダーについては、製品の企画段階から特に高い理想を掲げていたと思います。その理想があったからこそ、数年を費やしてチャレンジを続けられた、と。そう思っています。
真田:K-3 Mark IIIにはいくつもの特長がありますが、「光学ファインダー」の性能こそがこの製品の価値を決めるものだ、そう考えていました。
一般常識として、APS-Cモデルのファインダーは、フルサイズモデルのものよりもファインダー像が小さいという事実があります。ファインダー像を大きくする、これはスペックリストに出てくるようなファインダー倍率だけを高めればよいのではなく、様々な課題を解決する必要があります。
高屈折率硝子ペンタプリズムの採用
金井:本来、光学設計とは、相反する要素のバランスを取って成り立たせるものと言えます。ファインダーの倍率を高めることとトレードオフの関係にあるのが、アイレリーフの長さです。フォーカシングスクリーン上に見える像の倍率がいかに高くなっても、撮影者がファインダーに目を押し付けてぐるりと見回さないと視認できないようなものでは意味がありません。
きちんとファインダー像全体を見渡すことができ、それでいて大きなファインダー像を得る。この綱引きの関係にある二つの事象を解決するために不可欠となるのが「高屈折率ガラスペンタプリズム」です。
山本:実際にペンタプリズムの開発に着手してみると、特に加工検証の段階で、この試みが我々にとって非常にチャレンジングなものであったと思い知りました。
高屈折率ガラスは非常に硬くて脆い素材です。プリズムの稜線の部分が理想的にエッジの立った状態に仕上げるのに大変な苦労をしました。
当初ペンタプリズム加工の拠点であるベトナム工場で加工開発をスタートしたのですが、そこで200種類を超えるような加工条件をテストしていたと思います。ただそれでもなかなかうまくいきませんでしたね…。
もちろん、国内からベトナム工場にペンタプリズム加工現場を移管したときに、職人たちの熟練の技能はしっかりと継承されています。本来であれば日本の技術者が現地に赴き、共に綿密な検証のサイクルを重ねる必要がありますが、コロナ禍の状況でそれも叶いません。そこで思い切って国内に設備を導入し、一番時間を要する最終の仕上げ加工方法の開発は、我々国内の技術者が中心となって行いました。
例えば、異なるアプローチの加工方法を試してみたり、さらに細かな条件を日夜試行錯誤しました。
優れた光学ファインダーに求められる性能
金井:ファインダーは、像が大きい、ピントが掴みやすい、明るい、そういったわかりやすい性能だけではありません。その他にもゴーストが少ないこと、自然な色合いであること、ファインダー視野外がきちんと黒く締まっていることなども、撮影に没頭していただくために重要なファクターです。
真田:初めて試作機のファインダーを覗いたとき、確かにファインダー像の大きさはよかったのですが、他の部分が理想にはおよばなくて、それらの改善に努めました。
ファインダーを覗いたときの色合いと、視野外をきちんと黒く締めること、そのあたりには特にこだわっています。
例えば、コーティングの工夫はもちろん、反射対策のためにペンタプリズムの形状を何度も見直したりしました。
K-3 Mark IIIでは、多彩なファインダー内情報表示のために透過液晶を採用しています。一般的に透過液晶を採用するとファインダー像は暗くなるというイメージがあると思いますが、このような構造としつつも、様々な工夫によってK-3 II同等以上の明るい視野を実現しています。
最後に
金井:ファインダーの光学設計者としては、高屈折率ガラスペンタプリズムの量産化にこぎつけてくれた山本さんたち加工技術の方々、そして生産現場の方々に感謝しています。
山本:いろいろ大変でしたが、ようやくここまで来たかという実感がありますね。
K-3 Mark IIIをお手に取っていただき、ぜひ、この光学ファインダーを覗いてほしいと思います。
画質設計における大切な価値観
寺内:PENTAXの画質設計に、「写真をつくる」という大切な価値観があります。
宮田:最終的なアウトプットを単にデジタル画像と捉えてしまうと、数値での評価を高めることに意識が向いてしまいがちです。例えばノイズについては強めな処理をかけたほうが、数値評価は高くなります。ノイズと言われているものの中にも写真として残しておいたほうが好ましい情報があり、写真の印象を決める要素ととらえています。
たとえば、ピントが合っているところから、ボケ始めるその輪郭の表現や、ボケている部分のつながりがなめらかで自然に感じられる表現のために、このような情報が活きてきます。
そして、被写体がそこにあるような立体感や、奥行き感、臨場感といった部分の印象を左右します。
つまり写真として必要な情報までもノイズ処理で消してしまい、作画上の機微を失うことがないような画質設計をしています
官能評価を重ねて追い込んだ「感性品質」
寺内:写真画質向上へのこだわりとして、私たちは数値では測れない部分も重視し、 “官能評価”という手法をとっています。
画質設計者自身が様々なシチュエーションで撮影を重ね、多くの撮影データに対して、PENTAXらしい写真であるのはもちろんのこと、撮影者自身の印象や感動が うまく再現されているか繰り返し評価し、追い込んでいくことで「感性品質」と呼べる画質を実現しています。
宮田:写真家の方々のご意見も取り入れていますが、PENTAXらしい「画質設計」においては、この「撮影者」と「設計者」と「評価者」が同一であることが、非常に重要な意味を持つと考えています。
キーデバイスの刷新による画質向上
寺内:特に、今回の新製品であるK-3 Mark IIIでは、イメージセンサー、画像処理エンジン、アクセラレーターユニットという、すべてのキーデバイスを刷新しています。
PENTAXとして追い求めている理想が変わることはありませんが、その理想をどの程度実現できるかは、デバイスの性能向上も欠かすことはできません。
宮田:今回、デバイスが新しくなったことで、低感度域での画質の向上と、最高感度160万の実現が可能になりました。
加えて、感度の上限の追求によって、感度全域においての 画質設計の技術向上にもつながり、よく使われる感度域の画質の美しさ、自然さを向上させる事もできました。
宮田:画像処理エンジンがPRIME Vに変わったことで、より高品位なディテール再現が行えるようになりました。従来のKシリーズのシャープネスの設定では、デフォルトの設定以外に、より繊細に輪郭を強調する「ファインシャープネス」と、さらに微細なディテールまでも浮かび上がらせる「エクストラシャープネス」という設定が存在しました。
K-3 Mark IIIでは、これまで以上に自然に輪郭を強調しつつも、被写体の質感描写を大きく向上させた、理想的なシャープネス処理ができるようになりました。
そのため、従来の「ファインシャープネス」「エクストラシャープネス」の設定をひとつに統合し、新たな「ファインシャープネス」として初期設定に採用しています。
PENTAXの色再現を愉しむ
寺内:PENTAXの高画質を語るうえで「色再現」も欠かせません。
PENTAXが培ってきた独自の色再現が得られるカスタムイメージは、撮影時に感じた印象や、撮影シーンの雰囲気を多彩に表現することができます。
宮田:さらに、カスタムイメージの詳細設定には、彩度・色相・コントラストなど多彩なパラメータがあり、それを組み合わせることで、ありとあらゆる風合いを表現することができます。また、それぞれのパラメータを変更することによって生じる画質の変化に対しても、最適な調整を行っていますので、撮影時の感動を余すことなく表現する、「印象色」をぜひ、存分に愉しんでほしいと思います。
最後に
寺内:繰り返しになりますが、私たちが作っているのは「写真」です。
撮影時の感動や、その場の空気感を、より印象深く再現することで、撮影した写真に対する手応えを感じていただけると思っています。
K-3 Mark IIIで、皆さんの写真体験がより素晴らしいものになることを願っています。
APS-Cフラッグシップモデルに欠かせないもの
安藤:「APS-Cフラッグシップモデル」を名乗るうえで欠かせない要素に、“動体性能”があります。被写体を的確に追従するオートフォーカス性能や、瞬間をものにするための速写性をしっかりと向上させながらも、数値では表れないような快適な撮影体験を得られるようなカメラを目指しました。
関根:まずは動体追従における、オートフォーカスの挙動についてですが、Z軸と呼ばれる奥行き方向への追従性と、X-Y軸と呼ばれる、平面方向の動きに分けられます。
Z軸の追従は、被写体の動きを予測して、フォーカスレンズを先に動かしておく必要があります。K-3 Mark IIIでは、予測の元情報となる測距履歴を、従来より多く残すようにし、また近似計算のアルゴリズムも改良したことで、予測の精度が向上しました。
高速連写に対応した動体追従の実現
真田:K-3 Mark IIIはこれまでのKシリーズの中でも最速となる、秒間約12コマの高速連写を可能としました。高速連写を行うには、より短い時間でミラーの駆動と制動を行う必要が出てきます。これは一眼レフカメラの機構上、オートフォーカスの測距ができるのはミラーが下りている状態の僅かな時間に限られるためです。
この時間を少しでも多く稼いであげることが、高速連写時の動体追従における、メカ設計者の腕の見せどころ、ということになります。
安藤:マウント部を覗くとまず目に入るのは、ハーフミラー構造のメインミラーです。AFモジュールに光を導くのは、そのメインミラーの背後にある「サブミラー」と呼ばれるものです。このサブミラーのミラーバウンドを効率よく抑えるために、新設計のスロープ構造を採用しました。さらに、メインミラーを大幅に軽量化することでもミラー全体のバウンド対策をしています。
これらが大きく寄与し、オートフォーカスを開始するための制動待ちの時間を大幅に短縮し、ミラーダウン後の即測距を可能にしています。
真田:これまでのKシリーズのカメラでは、AF.C撮影時にはAF.Sでの最高速に対して連写のコマ速が落ち込んでしまう点に不満の声をいただいていたのも事実です。
K-3 Mark IIIでは、AF.Sでの秒間約12コマのコマ速に対して、AF.Cでも約11コマを確保することができています。
連写速度アップと動体追従性の向上の関係性
関根:連写のコマ速が上がることは、オートフォーカスの追従性向上にもつながります。連写がゆっくりしているほうが、ひとコマずつしっかりと測距を行う時間を確保できるようにも捉えられますが、コマ速が遅いとコマ間の被写体の移動量が大きくなり、今度は動体予測の精度が低くなる可能性があります。
連写のコマ速が早くなることによって、より密に被写体の動きを測距し、予測精度を高めることができるのです。
また、これまでは動体撮影が難しかったようなレンズでも、アルゴリズムを見直すことで大幅にフォーカス精度を高めています。
AFモジュールとAEセンサーの刷新
関根:K-3 Mark IIIではAFモジュールとしてSAFOX 13を搭載し、測距点が101点に増えたとともに、ファインダー上でのカバーエリアも大きく拡がりました。
これにより、X-Y軸の動きをする被写体を撮影した際に、被写体を見失うことなく捕まえることができるようになりました。測距点が増えると演算をするうえでの負荷も高まりますが、PRIME Vの処理能力の恩恵で、測距点ごとの演算スピードを向上させています。
また、AEセンサーがこれまでの約8.6万画素のRGBセンサーに対し、約30.7万画素のRGBIrセンサーとなりました。センサー解像度の向上によって、AEセンサー上で顔や瞳を認識したうえで、測距点を選択させています。
さらに、ディープラーニングを用いることができる領域が拡大し、被写体の色情報だけでなく形状などの情報も認識することが可能となり、複数の測距点を連携させた追従性も大きく向上しています。
ミラーボックス内の光学系、制御・駆動系の大幅な見直し
安藤:測距エリアを拡大するために大型のAFモジュールを搭載していますが、拡大した測距エリアをカバーする光束を得るためにはサブミラーも大型化する必要があり、それに伴い、メインミラーやフォーカシングスクリーンの配置までも見直しをおこなっています。
真田:つまり、一眼レフカメラの機構を設計するうえで根幹となる、ミラーボックス内の光路を、全面的に新設計しています。それにより、このコンパクトなボディに快適な撮影性能を凝縮させることができました。ミラーボックス内の光路シミュレーションには、交換レンズ設計者の知見も借り、これらの課題を解決しています。
安藤:高速連写を実現するために、駆動系や制御系の大幅な見直しも行っています。
真田;原理試作を行った時点で、パワーのあるモーターで動かせば秒間12コマの実現が可能なことは分かりました。しかし、ただ速く動かすだけではなく、ミラーバウンドを最適化するにはモーターの応答性が鍵であると考えました。
安藤:そこで、応答性の高いコアレスモーターを新たに採用しました。さらに、コアレスモーターの応答性を活かすために、それぞれの駆動系が今どのような位置、状態にあるのかをパルス信号で検知することが可能なフォトインタラプターをミラーやシャッター駆動系に採用しています。
これまでは、制御の基点を細分化することが難しい構造でした。K-3 Mark IIIでは、制御の基点を約1000ポイントに細分化し、常にモーターの状況を監視できる構造としました。
それにより、モーターの回転数とミラーバウンドの関係性を把握し、それらがマッチした最適なポイントを見つけて緻密に制御することができました。
最後に
安藤:設計だけでなく、チューニングや評価にはとてつもなく苦労をしましたが、APS-Cフラッグシップを名乗るにふさわしい、Kシリーズ史上最高の動作レスポンスを実現することができたと思います。
K-3 Mark IIIをいろんなシチュエーションに連れ出していただきたいです。確かな違いを感じてもらえると思います。
光学ファインダーを覗いたままの操作性にこだわる
稲塚:光学ファインダーを覗き、想像力を膨らましながら自分だけの画を追い込んでいただけることが、PENTAXの一眼レフカメラの持ち味であると考えています。
K-3 Mark IIIの操作系について特にこだわっているのが、撮影中にファインダーから目を離さずに多くの操作、設定が完結できることです。
さらに、カメラのグリップを握った際に自然に指の掛かる場所に、撮影中に触れる必要のある操作部材を配置することで、意識せずに体の一部のようにカメラを操っていただける製品を目指しました。
測距点レバーの採用
真田:K-3 Mark IIIでは、APS-Cフラッグシップモデルを名乗るにふさわしい性能とするために、AF測距点数、カバーエリアの拡大をしつつ、追従性能なども大きく向上させています。それらを最大限活用いただくために、Kシリーズで初めて、測距点操作の専用レバーを採用しています。
これまでは十字キーが測距点移動と、ホワイトバランスやカスタムイメージといった設定を兼ねていましたが、今回、より直感的な操作が可能となりました。
測距点レバーは専用の操作部材としていますので、背面液晶にメニュー表示中などでも入力を行うことで撮影状態にすぐさま復帰できます。
稲塚:メニュー操作に関しては、従来のKシリーズ同様に、十字キーと前後のダイヤル、さらに今回新たに採用したタッチパネルでの操作を可能としました。これにより、ファインダー撮影中の操作と、画像再生、編集などの操作系をはっきりと役割分担させることができたと考えています。
スマートファンクションの進化
稲塚:K-3 Mark IIIの操作系のもう一つの特長は、「スマートファンクション」の機能選択を、ボタン化したことです。従来はもともと用意されているいくつかの機能の中から任意のものを選択して、設定ダイヤルで変更をするというものでした。
機能選択をボタン化することで、22種類という豊富な候補の中から自分好みのものを最大5種類あらかじめ登録して、電子ダイヤルで瞬時に呼び出すことができるようになっています。
真田:撮影に集中していただくために、この新たな「スマートファンクションボタン」の配置は、撮影中に右手の人差し指が届く一等地に配置する必要があるため、位置調整には非常に苦労しました。ISOボタンや露出補正ボタンとも異なる触感となるように形状や突出量などにもこだわっています。
「感性品質」の追い込み
稲塚:快適な撮影感覚が得られるようグリップや、ボタンのレイアウト・形状についても「感性品質」と呼べる追い込みを行っています。
実は、ある機種を開発する頃から、多くの社員の手の大きさやカメラの構え方、ファインダーの覗き方といった特徴をデータベース化しています。その中から特にこだわりの強い10名のメンバーを厳選し、モックアップを使って、グリップやボタンレイアウトなどの検証を行っています。
真田:この利点は短いサイクルで非常にスピーディーに、試作と検証、フィードバックを繰り返せることにあります。もちろん、写真好きが多い社内での、さらに濃いメンバーですからその意見の妥当性については自信を持っています。
一見感覚的ともいえる指摘は、私を含めた専任の担当者が要因を分析したうえで、改善方法を導き出して、モックアップを削って追い込んでいくわけです。
地道ですが、最終的には全員が納得を得られるところに持っていくことができました。これは我々にしかできないアプローチで妥協なき最大公約数にたどり着く手法であると考えています。
軽快な撮影感覚を目指して
真田:メカの駆動時間自体も短縮し、さらに従来機種で発生していた内部駆動部材の衝突音を抑えるための対策を加えることで、シャッター音の中に含まれるノイズを低減しました。
結果的にとても切れの良いシャッター感覚となっています。
稲塚:縦位置用のバッテリーグリップでも「リーフスイッチ」を採用しており、ボディと同様の操作感になるように調整を重ねています。このバッテリーグリップにはスマートファンクションや測距点レバーも搭載しており、これまでにない充実した機能と高い操作性を実現しました。
これにより、横位置も縦位置も同じ感覚で操作ができるようになっています。
最後に
稲塚:これまでのPENTAX製品でこだわりぬいてきた部分を、このK-3 Mark IIIではさらにブラッシュアップできたと自信を持っています。
グリップを握り、そしてシャッターを切ってみてください。心地よさを感じていただけると思います。
利用シーンに合わせた操作性への挑戦
高橋:K-3 Mark IIIでは、これまでPENTAXが大事にしてきた使いやすさをより発展させるために、利用シーンに合わせた操作性をあらためて見直し、GUIデザインやボタンレイアウトも刷新しました。
従来からKシリーズの特長として、「ワンハンドオペレーション」へのこだわりがあります。
左手はレンズに添えたまま、右手であらゆる設定が完結できるようなものを目指してきましたが、K-3 Mark IIIでは背面液晶に目線を動かさずにファインダーを覗いたままそれが行えるように使い勝手を向上させました。
大幅に自由度が向上した「スマートファンクション」
高橋:K-1で搭載していた「スマートファンクション」は、よく使う機能の設定を、機能ダイヤルと設定ダイヤルという2つのダイヤルを使って行う操作系でしたが、設定したい機能はダイヤルに印字された中からしか選択できませんでした。
K-3 Mark IIIではボタンとダイヤルによる操作系に変更し、ファインダー内に、機能と設定値の表示を追加することで、ファインダーから目を離さずに、完結できる操作系となりました。
機能の選択をボタンにしたことで、22種類の中から、最大5つまでの機能を自由に選んで登録していただけます。登録する機能をひとつに絞ることで、たとえば露出補正専用のダイヤルとしても使うことができます。さらに設定値自体についても絞り込むことができます。
たとえば機能がカスタムイメージであれば13種類の中から「あざやか」と「フラット」など、よく使う選択肢だけで使っていただくこともできます。
タッチパネル液晶モニターの採用
高橋:また、GUIのわかりやすい変更としては、背面液晶にタッチパネルを採用したことがあります。
撮影中には、カメラが撮影者の「目と手の延長」となるようにボタンやレバーを操作し、撮影中以外のメニュー操作や画像編集などは、タッチパネルでより直感的に素早く操作できるものを目指しています。
INFOボタンで呼び出すコントロールパネルで、直接アイコンをタッチして変更ができるのも、タッチパネル化の利点です。
メニュー画面デザインの刷新
松下:Kシリーズとして初めてのタッチパネル採用に際して、タッチ操作と親和性の高いメニューデザインを再考する必要がありました。その結果、K-3 Mark IIIでは従来とは異なり縦スクロールを行う操作系となっています。
メニュー画面のページ送りが、横方向から縦方向に変わったことで、一瞬戸惑うかもしれませんが、従来通り十字キーや、前後の電子ダイヤルで設定を行う際にも違和感なく操作を行えるように考慮しました。
メニュー画面をタッチパネル化することによって、「静止画設定メニュー」や「カスタマイズメニュー」といった大分類を、ダイレクトに切り替えることができるようになっています
また、指でどんどんスクロールして、瞬時に目的の項目を探すこともできます。
情報量が格段に増えた高解像モニター
松下:タッチパネル化に加え、今回は液晶画面の解像度自体も上がって、載せられる情報量が格段に増えました。
それによって、各画面は操作性だけでなく、情報の一覧性が大幅に向上するようなデザインに刷新しています。
画面表示のデザインについても、これまでのKシリーズユーザーの方に馴染みのあるアイコンや配色としつつ、トレンドも取り入れて洗練させました。
さらに自由度が高まったカスタマイズ
高橋:スマートファンクションのところでも触れましたが、今回は操作系や機能のカスタマイズについては、かなり自由度を高めています。
ボタン周りは、初期設定でも多くの方に使いやすいよう配慮していますが、撮影者や、撮影シーンごとに最も使いやすい状態というのは異なる場合があります。
そのため、K-3 Mark IIIでは機能の割り当てを変更できる「Fxボタン」を2か所から10か所に一気に拡大し、選べる候補も29種類としました。
これにより、ほかのカメラと併用するときでも、操作性が統一できるようになっています。
それらの設定状況が一目でわかるように、「ステータススクリーン」にはFxボタンに登録している機能も表示させるようにしました。
たとえばユーザーモードで、個別にボタン配置を変更しているような場合でも、一目で把握することが可能です。
また登録するときには、ボタンの位置を見ながら行えるように、設定中のGUIにもこだわりました。
あえて設定や操作系をカスタマイズする方には、強いこだわりがあると思います。
色々な撮影シーンや嗜好を、撮影者の頭になって考え、“カスタマイズの先のカスタマイズ”と言えるようなところにまでこだわり尽くしています。
ワンハンドオペレーションの追求 新「ハイパー操作系」
高橋:ファインダーから目を離さず、瞬時に露出モードが切り替えられる、PENTAX伝統の「ハイパー操作系」も、「ワンハンドオペレーション」を追求したもののひとつです。
ハイパー操作系をもっと使っていただくために、これまで活用されていない方の潜在的なニーズを探り、動作の基点がPモードに限られていたところに着目しました。
そこで、K-3 Mark IIIではPモードをはじめ、各AEモードを基点とした動作にも設定できます。
例えばAvモードを基点とし、TAvモードやMモードまで露出モードの垣根を超えた制御を可能としました。これらを総称して「Advanced」モードと名付けました。
最後に
高橋:この場では伝えきれないほど、様々なことができますので、さらに細かい応用方法や、色々なこだわりに関しては、PENTAX officialサイトの「PENTAXを使い倒せ!」でも継続的にお伝えしていきたいと思います。
機能・操作性と信頼性の両立
カメラは一般的に、構成部品が増えるほどに強度や信頼性を保つことは難しくなると言われています。
K-1、K-1 Mark IIでは機能性、操作性向上のためにこれまでのKシリーズの中でも最も多い操作部材を設けましたが、強度や、防塵・防滴性能を担保するために細かなところまでこだわって高い信頼性を実現しています。
K-3 Mark IIIにおいては、測距点レバーを新設したうえで、同等の操作性、信頼性を維持しながら、K-3シリーズのサイズに落とし込むことに苦労しました。
小型堅牢ボディ実現への道のり
カメラの堅牢性を高めるために、外装カバーをすべてマグネシウムにすることを目指しました。
軍艦部が金属になることで、これまでK-1やKPではペンタ部に配置していた無線のアンテナを他の場所に移させなければなりません。
さらに、高倍率実現のために大きくなったペンタプリズムや、情報量を大幅に充実させた表示パネルなどを小型ボディに収める必要があります。
そのために、従来機種に対して配置の工夫や、非常に細かな内部構造の見直しまでも求められました。
移動させた無線アンテナはどこに行ったかというと、グリップ内に仕込みました。無線アンテナは、通信性能を確保するためにできるだけ張り出した部分に配置する必要があるためです。
しかしながら、グリップにはバッテリー室があり、バッテリーによる通信阻害も回避する必要があります。バッテリーとアンテナの距離を取ったうえでグリップの握り心地を損なわないようにする工夫も重ねています。
リーフスイッチの採用
これまでのKシリーズのAPS-Cモデルは小型化を優先してシャッターボタンに「タクタイルスイッチ」を採用していましたが、K-3 Mark IIIでは軽快なシャッター感覚を得るために、645シリーズやK-1で搭載している「リーフスイッチ」を採用しています。
リーフスイッチはクリック感のない軽快な押し心地を得られるだけでなく、耐久性の向上にも寄与しています。
K-1で評価の高かったシャッター感覚を実現するためにK-1の構成をそのまま採用できれば良かったのですが、それだとK-3 Mark IIIの目指す小型ボディでは納まりきりません。
それを回避するために、内部構造を工夫することでレリーズユニットの高さを約3mm抑えることができました。これにより、肩の部分を大幅に低くすることができ、外観デザインにも大きく貢献しています。
新開発のシャッター駆動系と、シャッターユニットを採用することで30万回の耐久回数を実現しており、シャッターボタンも同様の耐久回数をクリアしています。
最後に
カメラの要求性能を実現しつつ、外観寸法を抑え、なおかつ耐久性、防塵・防滴性能を満たすために、担当者には数多くの無理な要求を突き付けました。
力業の部分はありましたが、各担当者は前向きにそれぞれの課題を解決し、結果的に、とても良い製品が完成したと実感しています。
ペンタ部の造形はカメラの“顔”
一眼レフカメラのスタイリングにおいてもっとも印象的な要素はそのカメラの「顔」ともいえるペンタ部の造形であると考えています。
昔から、一眼レフカメラのデザインの基本形は、四角いボディに三角形の頭頂部があるという印象があります。特に、K-1シリーズやKPでは、ペンタ部の存在感を主張するようなスタイリングとなっています。
K-3 Mark IIIは、光学ファインダーにもこだわったモデルではありますが、ペンタ部とボディ、グリップのバランスを重視し、凝縮された雰囲気を出しながらも、重々しく感じさせず、「軽やかさ・スピード感」を感じさせるようなかたちを目指しました。
今までのカメラでは、内蔵フラッシュやスーパーインポーズといったペンタ部の内部構成によって、PENTAXロゴ面が少し前にせり出すような形状となっています。K-3 Mark IIIではファインダーまわりの内部構成が見直されたことで、よりボディとの一体感を感じるようなスタイルにまとめることができました。
K-1のようにペンタ部を強調するようなスタイルであれば、マウントまわりからペンタ部につながる面を拡げて傾斜をなだらかにすることで、ボディの高さを抑えつつも頭頂部を尖らせることができますが、そうするとフェイスのボリューム感まで強調してしまいます。
K-3 Mark IIIは、APS-Cフラッグシップモデルとして動体性能やレスポンスの向上も重視しているため、ボリュームは抑えながらも、ペンタ部側面の稜線が後ろ上がりに流れるようなラインとし、躍動感を演出しています。
ペンタプリズムと接眼光学系をイメージさせる形状としながらも、全体としてまとまりを感じられるように、細部にわたり調整をしています。
特にペンタ部で一番苦労しているのは、ホットシューまわりのデザインをどうまとめるかでした。ホットシューが配置される高さは内部構造である程度決まってしまうので、ペンタ部の外装デザインでどのように調和させるかがポイントです。ホットシューと外装を切り離して考えてしまうと、ホットシューだけが無粋に突き出したような見た目になってしまいがちです。この辺りもじっくり眺めていただくと、複雑な面構成によって成り立たせているのが伝わるのではないかと思います。
究極の形に至るための、PENTAX独自のプロセス
実は、PENTAX一眼レフのデザイン作業で、最も緻密な調整を求められているのが、グリップの造形です。外観デザインで一番最後に形状が確定するのはいつも決まってグリップ性・操作性にかかわる部分です。
それは「“ある集団”が納得するレベルのものを作り上げれば、ユーザーの皆さんにも満足していただけるものとなる」そう信じ、ひたすら改良を続けているからです。
「ある集団」というのは、私とメカ設計者の間で勝手に「グリップ十勇士」と呼んでいる、社内にいる、撮影スタイルにこだわりの強いカメラ愛好家たちのことです。彼らの様々な意見を参考にしながら、光造形のモックアップをつくって何度も評価を繰り返しました。
十勇士からのフィードバックは、撮影スタイルに由来するもの、他製品の事例を参考にしたもの、感覚的な意見など多岐にわたりますが、集約すると「良い」「許せる」「気になる」「痛い」に分類できます。
そして、この「許せる」と「気になる」の境目こそが、修正ラインであると私は捉えています。
例えば、「痛い」という指摘の代表例としては、背面右下にあるカドの部分。
製品を見たときにあまり意識はされない部分だとは思いますが、ここがわずかでも「痛い」と感じると、それは撮影中に強いストレスとなります。
「痛い」という声のあがった箇所は、なるべくなめらかな面に構成することが重要です。
実際には645シリーズの握り心地の良さも参考にして面取りを行っています。
十勇士が何気なく口にした「気になる」への対応、実はここも重要です。
「気になる」に起因する箇所をメカ設計者と追求し、わずか0.05mm未満といったレベルの削りを加えた箇所もあります。
グリップ性の向上については、ここが、撮影者とカメラの身体的接触が一番大きい部分となりますので、握ったときのここちよさが全体の印象、さらには愛着にまで大きく影響すると考えています。
操作性を最優先した部材配置
PENTAXのカメラのデザインは、見た目よりも撮影中の操作性を常に優先しているため、操作部材の配置は、おのずと収めるべき場所が決まってきます。
しかしながら、これもごくわずかな位置や、形状の違いによって操作感や指掛かりの印象が 大きく変わってきます。今回も、試作と評価を繰り返しながら、数え切れないほどに調整をしています。
さらに、今回K-3 Mark IIIに対応した専用のバッテリーグリップD-BG8には、カメラ本体同様に測距点レバーやスマートファンクションといった操作部材も追加しています。
縦位置の握り心地と操作感が、本体操作と違和感がないように、ボタン同士の位置関係や、指からボタンへの距離感の調整は、試行錯誤を重ねています。
もちろん、バッテリーグリップ自体を大きくしてしまえば、ボタンレイアウトの自由度は増します。
でも、ボタンレイアウトのためにサイズ感を度外視することで、ボディに装着したときのバランスや一体感、格好良さまでも損なわれ、愛着も湧きづらいですよね。
カメラ本体形状からそのまま自然につながるようなデザインであること、程よいサイズ感であることは、バッテリーグリップに欠かせないポイントと考えています。
最後に
普段の生活では気にもならないようなちょっとした寸法の違いが、身体の延長のように扱われることもあるカメラのグリップ・操作感の良し悪しにおいては、大きな意味を成します。
実際の製品では細かい差異が感じにくくなるであろうラバー製の部品でも試作段階で多数のモックを作製し評価する.そこにも時間と手間をかけていることが精密機器としてカメラをつくリ続ける、私たちのこだわりです。