注射器、人物の顔…いまや世界“共通言語”となった日本発「emoji」の際立つ進化〈AERA〉

注射器、人物の顔…いまや世界“共通言語”となった日本発「emoji」の際立つ進化〈AERA〉

 笑ったり泣いたり走ったり。メッセージのやりとりでアクセントになる絵文字。異なる言語でも理解しあえる「emoji」は、社会の変化に適応してきた。AERA2021年3月8日号の記事を紹介する。

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 尖った針先から、赤いしずくが1滴、2滴とこぼれおちる。注射器をかたどったそんな絵文字に、小さな変化が起きた。

 アップルが開発者向けに公開したiPhoneなどで使われるiOS14.5(ベータ版)では、絵文字もアップデート。顔の表情や建物など多種多様な絵文字の中で、注射器のデザインが変わった。筒部分にあたるシリンジから赤色が消えたのだ。

 背景には、新型コロナウイルスの感染拡大がある。

「血液を取り除くことで、ワクチン接種も表現できる」

 世界中で使われている絵文字の検索サイト「エモジペディア」は、サイト内でそうアナウンスした。注射器の絵文字といえば献血などの印象が強く、「血」や「静脈」といった単語と一緒に使われることが多かったが、新型コロナ感染拡大以降、「ワクチン」や「ファイザー」といった言葉とともに使われるようになったという。シリンジが透明になれば、より柔軟に絵文字が使えるようになる。今回のアップデートには、そんな狙いが込められている。

■いまや世界の共通言語

 社会の動きに合わせて絵文字が変化したのは、今回に限ったことではない。

 たとえば、2015年リリースのiOS8.3では、人物の絵文字に5種類のスキントーン(肌色)を導入。翌16年には、銃の絵文字がおもちゃの水鉄砲に。その後も介助犬や車椅子に乗る人、同性カップルなど、多様性を表現してきた。

 日本発の絵文字は、いまや世界の「共通言語」のような使われ方に進化している。言葉が通じあえなくても、伝えたいことは何となくイメージできる。先のiOSに限らずチャットツールなどでも絵文字は使える。

「絵文字をデザインするにあたり、デザイナーには様々な葛藤がありました」

 そう明かすのは、ビジネスチャットツール「Slack(スラック)」を提供するスラック ジャパンのシニアプロダクトマーケティングマネージャーの伊藤哲志さんだ。スラックでも、コミュニケーションの円滑化や仕事の効率化を狙い、様々な絵文字が導入されている。世界的にリモートワークが進んだ20年には、パソコンのキーボード上を歩く猫やソーシャルディスタンス、通信障害などを表すユニークな絵文字を追加した。

 そのスラックが最初に絵文字の人物のスキントーンを6種類から選べるようにアップデートしたのは、15年7月のこと。

「アフリカ系アメリカ人のデザイナーが、映画などでもインクルージョン(多様性の受容)の反映が当たり前になっていないことに違和感を持っていました。スラックとしても、それらが当たり前であってほしいという願いがあります」(伊藤さん)

■人種も性別もなかった

 今の絵文字の“原点”には、日本中を席巻した「iモード」の開発がある。iモードの絵文字生みの親でドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇(しげたか)さん(48)は、当時を振り返る。

「iモードは250字しか送れないサービスだったので、文字量が少ないなかで特色を出したかった。絵文字を入れることで、会話のとげとげしさがなくなったり、コミュニケーションがとりやすくなりました」

 泣き顔や笑い顔、ひらめきを意味する電球など176種類の絵文字をデザイン。12ドット×12ドットの制約の中で、現在からみれば表現できる量が比較にならないほど少ない。しかしテクノロジーの進化に伴い、今では多様性を映し出す鑑にもなった。栗田さんが続ける。

「私が手掛けた顔の表情には、人種も性別もありませんでした。絵に近づけたことで、多様化が進んでいった。今後も世相を取り入れた新しい絵文字はどんどん追加されていくと思います」

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