【震災10年】住民が震災前の1割に満たない浪江町が目指す「水素の地産地消」

【震災10年】住民が震災前の1割に満たない浪江町が目指す「水素の地産地消」

 震災から10年を迎える福島県で、2050年の「ゼロカーボンシティ」実現を目指す動きが始まった。AERA 2021年3月1日号では、地球環境と地域の再興のために新エネルギー事業に取り組む街を取材した。

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 福島県浪江町。

 かつて原発建設予定地だった東京ドーム5個分に相当する広大な敷地に、約6万8千枚の太陽光パネルがずらりと並ぶ。このパネルで太陽の光を電力に変え、建屋内で水を電気分解し水素を製造する。

「水素という新しいエネルギーで町を再生させたい」

 町産業振興課副主査の渡邉友歩(ゆうほ)さんは、力強く語る。

 町の半分が福島第一原発から20キロ圏内にあり、今も面積の8割近くが帰還困難区域にある。その町が、2050年の「ゼロカーボンシティ」実現を目指し、浪江産水素の地産地消を進める。水素をつくるのが昨年3月、町沿岸部にオープンした世界最大級の水素製造能力を有するプラント「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が整備した。

 毎時1200ノルマル立方メートルの水素の生産が可能で、1日の生産で一般家庭約150世帯の電気を1カ月賄える。すでに昨年8月に開業した「道の駅なみえ」で水素による発電で空調などを補っているほか、水素燃料電池車の公用車採用も決めた。

 いま町が進めているのが、町内のバスやトラック、農機、自転車などに水素エネルギーを供給する「マルチ水素ステーション」の設置だ。いずれは、水素をインフラとする産業団地なども整備したいという。

 町は17年3月に一部地域で避難指示が解除されたが、町内の住民は約1550人と震災前(約2万1千人)の1割にも満たない。それだけに、新産業への期待は大きい。

 福島大学地域創造支援センターの大越正弘教授は、「再生可能エネルギー分野ではいまのところ、地場企業はメンテナンスなど周辺部分への参入がほとんどだ」と話す。

 浪江町の水素ステーションを含め、再生可能エネルギーの開発は大規模な資本と施設を必要とする「装置産業」で、地場の中小企業が活躍する余地は限られていた。ただ、再エネ分野でも「ベンチャー企業」が少しずつ誕生している、と大越教授は指摘する。

「新産業に取り組む企業が今後、県内経済を引っ張る存在になってくれる、と期待しています」

 水素は製造コストが高いなど、水素社会の実現には課題は多い。先の渡邉さんは、水素と浪江の未来をこう語る。

「町の人口がもっと増え、震災前のような明るくハッピーな町にしたい」

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