目指すは“メイドの働き方改革” 「バーチャルメイドカフェ」開発の背景とは

目指すは“メイドの働き方改革” 「バーチャルメイドカフェ」開発の背景とは

 「長く続けていると、妊娠や出産をきっかけに現場で働けなくなるメイドが出てきます。サービスを立ち上げた背景には、メイドの働き方やキャリアを支える考えがありました」──メイドカフェ「あっとほぉ~むカフェ」を運営するインフィニアの深沢孝樹さん(取締役)は、同社が運営する「バーチャルあっとほぉーむカフェ」についてこう話す。

 バーチャルあっとほぉーむカフェは2020年11月にオープンした、バーチャル空間上のメイドカフェだ。メイドとユーザーは互いにアバター(3Dモデル)を使い、仮想空間上で会話やゲームを行う。VRヘッドセットなどは使わず、操作やコミュニケーションはスマートフォンやタブレット、PCの画面を通して行う。

 利用するには専用サイトにアクセスし、好きなメイドを選択。サービスを受ける時間の長さを選択すると、メイドのアバターがいるルームに入室できる。ルーム内ではメイドとのボイスチャットや、アプリ上のボタンを使ったじゃんけんなど簡単なゲームを楽しめる。

 価格は30分1100円(税込、以下同)から。支払いはクレジットカードかWebMoneyで受け付ける。1つのルームには最大3人までのユーザーが同席できる。1対1でない理由は、いかがわしさをなくし、価格を抑えるためという。

 営業時間は平日が午後7時~午前2時、土日祝が正午~午前2時。メイドはゲーム好きな「恋戌(こいぬ)くろえ」さんや吸血鬼の「月影リリア」さん、魔法少女の「氷川ねむり」さんなど40人が在籍している。

 深沢さんによれば、1月時点では月に250人ほどのユニークユーザーがいたという。男女比は半々で、全体の半分があっとほぉ~むカフェのファンだった。中にはコロナ禍で外出ができず、子育て中の母親が話し相手を求めて利用するケースもあったという。

 メイドとのやりとりをオンラインで楽しめるバーチャルあっとほぉーむカフェ。サービス開始の背景には、コロナ禍であっとほぉ~むカフェの利用客が減ったことがあるという。しかし深沢さんには、それ以外にもいくつかの狙いがあった。

●1.メイドの働き方改革

 1つ目は、従業員であるメイドの働き方改革だ。あっとほぉ~むカフェは秋葉原に2店舗、大阪の日本橋に1店舗を展開しているが、どの店舗でも基本的にアルバイトとしてメイドを雇っている。そのため出産や就職、引っ越しなどのライフイベントを機に、地理的な制約や本業との兼ね合いといった事情で仕事を続けられなくなってしまうメイドも出てくる。

 しかし深沢さんによれば、あっとほぉ~むカフェにはメイド喫茶の仕事が好きな人が多く、長く働きたいという人が多いという。例えばインフィニアの執行役員であるhitomiさんは、結婚や出産を経験しながらも15年近くメイドカフェで働いており“レジェンドメイド”と呼ばれている。

 他の従業員からも「就職してもWワークで続けたい」などの声があり、すでに辞めてしまったメイドに期間限定で復帰してもらうイベントを開催した際は、多くの元メイドが集まるという。

 そこで、バーチャルあっとほぉーむカフェではメイドの雇用形態を業務委託にすることで、本職のある人でも副業として働きやすくしている。メイド側も自宅で働けるため、地方に住んでいても勤務を続けられるという。

●2.アニメ・漫画好きの取り込み

 2つ目は客層の拡大だ。あっとほぉ~むカフェの客層はアイドル好きが多く、アニメ・漫画が好きな人は少ないという。しかし、あっとほぉ~むカフェは秋葉原や大阪の日本橋という、アニメなどを好む人が多い場所で展開している。そのため、こういった層を客として取り込む方法を前々から模索していた。

 「以前からメイドカフェとアニメ的な表現を組み合わせたコンテンツを考えていましたが、技術的な理由でなかなか実現できませんでした。しかし、そのタイミングでバーチャルYouTuberがブームになり、3Dモデルを使った技術や表現が一気に普及しました。そこで、客層を広げる施策として、3Dモデルを使ったバーチャルあっとほぉーむカフェが持ち上がりました」

 アニメ好きや漫画好きを取り込むため、バーチャルあっとほぉーむカフェでは全ての3Dモデルの見た目を2Dイラスト風にした。“中の人”のメイドも、アニメキャラクターのような声で話す“アニメ声”の人を採用した。

 一方で、アニメ好きだけを狙うと女性客やライトユーザーが離れる恐れがあった。そのため、3Dモデルの原案を描くイラストレーターの選出に女性社員の意見を参考にしたり、アニメ声でない話し方のメイドも採用したりして対応しているという。

●3.採用の幅を広げる目的も

 3つ目は、メイドの採用のしやすさだ。あっとほぉ~むカフェには月に200人ほどのメイド希望者が集まる。しかし、このうち実際に採用に至るのは多くて15人ほど。深沢さんは採用の基準についてこう話す。

 「メイドカフェは接客業。トークがうまい、声がかわいいと思っても、身だしなみや愛嬌が基準に満たず採用できない場合があり、惜しいと感じることもありました。一方で、バーチャルの場合はそういった要素を気にせず、話し方や声が良い人を採用できます」

 現実世界での雰囲気を重視しなくていいという理由から、バーチャルあっとほぉーむカフェではメイドの採用をオンラインで行っており、現実世界での顔は一切見ていないという。深沢さんも「バーチャルあっとほぉーむカフェに所属するメイドの(現実世界での)顔はほとんど知らない」という。

●2月から価格変更、今後はユーザーの反応探る

 バーチャルあっとほぉーむカフェは1月までβ版として提供しており、料金も“お試し価格”として半額にしていた。そのため収益は出ておらず、サービスとしては赤字だった。

 しかし2月1日にアップデートを実施し、これまでのサービスに加えてメイドと記念写真を撮影できる機能などを追加。あわせて料金も本来の価格に戻した。今後は新たな価格設定に対するユーザーの反応を確認しつつ、機能の追加を進めていく方針だ。

 「これまではバグなども取り切れておらず、半額でないと申し訳ない状態でした。2月1日のアップデート以降は“β2(ベータツー)版”として正規の価格で提供し(ユーザーの動向が)どうなるか見ていくつもりです。年内には正式版をリリースし、メイドと遊べるゲームの種類を増やす他、リピーターに特典を付与する機能なども追加していく考えです」(深沢さん)

 コロナ禍で対面でのビジネスが難しい状況が続いている。エンターテインメントやイベントの分野でも試行錯誤が続いているが、バーチャルあっとほぉーむカフェはメイドカフェをバーチャル空間に移しただけでなく、オンラインという条件を生かしてメイド自身の働き方や客層の拡大といった新しい価値を生み出そうとしている好例と言えそうだ。

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