世界一稼ぐ9歳のユーチューバーが日本進出 儲かる理由を日本人の父親に聞いた

世界一稼ぐ9歳のユーチューバーが日本進出 儲かる理由を日本人の父親に聞いた

 今回は米国のYouTube活用の一端を紹介する。2018年から20年まで3年連続でYouTuberの収入ランキング1位をキープしている米国のライアン・カジ君(9歳)。なぜそこまで子どもたちを引きつけるコンテンツを生み出せるのか。どのようにしてビジネスを構築し、将来の構想を描いているのか。父親で日本人のシオン・カジ氏が単独インタビューに応じてくれた。

米Sunlight Entertainment代表

15歳の時に家族の仕事の都合で渡米。米コーネル大学でサイエンスエンジニアリングの修士号を取得し、建築家としてキャリアをスタート。高校で理科教師をしていたロアン氏と結婚。2015年にYouTubeチャンネル「ライアンズ・ワールド(Ryan's World)」開設後、急速に再生が伸びるのを見て建築事務所を退職。17年にSunlight Entertainmentを設立し、代表を務める。20年11月、「マンガでわかるYouTuber養成講座 世界一のRyan’s Worldのノウハウ公開!」(講談社)を出版した。妻、ライアンの妹である双子の娘とともに米テキサス州に暮らす。福島県会津若松市出身

Q.ライアン君がYouTuberを始めたきっかけは何だったのですか?

A.ライアンが3歳のときに、キッズYouTuberを見るのが大好きなことに気づきました。そして「僕も動画を撮りたい」と言ってきたのです。おもちゃのレビューをする過程で、カメラの前で自分の考えでものを言ったり表現したりする必要があります。いい影響を与えるのではと考えました。僕の家族は日本と妻の故郷のベトナムにもいます。YouTubeを使えば、こうした世界の家族にもライアンを見せることができると思いました。そして2015年にYouTubeチャンネルを開設しました。

●視聴者が一緒に遊んでいる気分になる

Q.ライアン君がここまで注目された理由をどう分析していますか。

A.当時、ライアンは保育園に行っていたのですが、他の子に比べて自分の考えを説明するのがうまいと思っていました。そしてライアンはカメラの前でも、友達と一緒にいるような自然体でいることができます。視聴者はライアンと遊んでいるような気になれるのではないでしょうか。だから世界の子どもたちに見てもらえる。

Q.YouTubeを始めて軌道に乗ったと思ったのはどの時点ですか?

A.開設してから4カ月後にキッズのチャンネルのトップに入るようになりました。

 ただ、最初にアクセス数が上がってきた時に戸惑いました。コメント欄に意味不明な文字が並んでいたからです。何かのいたずらでないかと。でも、ライアンを見て分かりました。あれぐらいの年の子どもは、適当に文字を入れているのです。小さい子どもたちが実際に見てくれているのだと分かりました。

 そうした後、再生数が前の月の2倍、3倍という状態が続きました。

●世の中の話題を盛り込む

Q.コンテンツの制作で気をつけていること、より多く見てもらうために工夫していることはありますか。

A.ライアンが気づいたことを、自分自身の言葉で表現してもらうようにしています。大人に分からなくても、子どもに分かってもらえることが多いからです。カメラの目線もできるだけ低くしています。

 YouTubeの分析画面を見ていると、「サジェステッドビュー」という関連動画のレコメンドから多くの視聴者が来てくれていることが分かります。ある動画を見ている人に、他の関連のある動画をお勧めするものです。

 これに取り上げてもらえるように、今話題になっていることをコンテンツにうまく取り込んでいます。今世界で何が注目を浴びているのか注意しています。例えば、ビデオゲームの「フォートナイト」が人気のときは、そこで出てくるダンスをまねする動画を作るなどしました。

 またYouTubeは、タイトルやタグ、説明文などでもコンテンツをカテゴライズしているようなので、そうしたものにも注意しています。

Q.イースターエッグを探すコンテンツは20億回以上再生されていることで有名ですが、これまでで印象に残っているものを教えてください。

A.3つあります。まずライアンが化学と物理の変化を身近にある物で説明する「Physical vs Chemical Changes Learning for Kids!!!」です。楽しく学習ができるエデュテイメントに取り組んだものです。

 そして「Ninja Ryan Box Fort Maze Challenge with Bloopers!!!」は段ボールで作った巨大迷路で寸劇をする動画です。頼れるスタッフがいるからこそ作れるセットだったので思い入れがあります。

 3つ目はアニメを通して子どもたちに歯を磨く大切さを教える「Brush Your Teeth Story for Kids!!! | Cartoon Animation for Children!!!」です。私たちのアニメーターが手がけたもので、この作品に出てくるキャラクターがウォルマートなどで商品としても販売されるようになりました。

Q.YouTubeにとっては長く見てもらえるコンテンツの方が広告の挿入場所が多くなります。そうした点を考慮してコンテンツを作るのですか?

A.確かにYouTubeのチャンネルの評価メトリクスとして視聴の長さはあります。ただ、あまりにも長いと離脱率が高まり、逆に不利になります。新しいものは5~10分を目指し、後日そうしたものをまとめて30分から1時間にするようにしています。

●ライアン君の収録は週に3~4時間に

Q.ライアン君はYouTuberと学業をどう両立させているのですか?

A.普通に学校に通っています。今はゲームやプログラミングが非常に好きです。実はライアンの収録は週に3~4時間と、撮影時間をできる限り少なくしています。僕や妻が出演するコンテンツも増やしています。彼の学業や生活に大きな影響が出ないようにしているのです。

 これらを実現するため17年に、制作会社を私と妻で立ち上げました。専門のスタッフを雇ってチームを作り、撮影や編集のプロセスを効率化しています。

Q.コアの視聴者をどのようにセグメンテーションしているのですか。

A.3~7歳の年齢層を想定し、それに合うコンテンツを作っています。最初は寸劇のようなものが多かったのですが、ライアンの成長に応じて変化してきています。

 今一番力を入れているのが楽しく学べるエデュテイメントです。特に今年は新型コロナウイルスの影響で学校にリモートからアクセスしている子どもたちが増えています。いつもの友達と遊べないので孤独感を抱いています。

 そこで子どもでもできる工作や科学の実験を、家で学べるような動画にして提供しています。ライアンと一緒に学んでもらって、動画を見た後に実際に自分で手を動かしてみる。動画を親も見る家庭もあるし、そうでなければ子どもがパパ、ママと一緒にやりたいと頼むようになる。

 こうしたことに取り組むのは、妻が高校で化学を教えていたり、僕が工作が好きだったりしたからです。アクセス数を追い求めるのではなく、子どもたちにインスピレーションを持ってもらいたいと思っています。動画を見た後にタブレットを置いて自分で手を動かしてもらいたいのです。

●編集チームを設立、9割はYouTube外に

Q.日々のコンテンツを考案するのは大変ではありませんか?

A.YouTubeは専門チームで動いていて、それで生み出した時間を他で活用しています。実は90%以上がYouTubeの外での活動です。ライアンズ・ワールドのブランディングをしたり、コンテンツを制作したりしています。(メディア企業の)ニコロディオンでは、制作したコンテンツがシーズン3まで出ています。

●200社以上と契約し、1000以上の商品

Q.企業とのライセンスなどのビジネスはどう進めているのですか。

A.17年に設立した制作会社は、ライアンズ・ワールドの知的財産(IP)も管理しています。その会社を通して、おもちゃメーカーとブランドのライセンシー提携をしています。今まではYouTuberはメーカーの製品を宣伝する存在でしたが、僕たちが商品開発をし始めてから変わってきています。商品をYouTuberに宣伝してもらうのではYouTuberを消費してしまう。今ではYouTuberが広告塔でなくブランドと見てもらえているのではないでしょうか。

 これは米大手スーパーのターゲットだけで売られているものですが、ライアンズ・ワールドの商品として出しています。世界中で様々な商品を出し、100社以上と契約しています。ポケモンなどのキャラクタービジネスと同じです。

 ライアンズ・ワールドとして200社以上とライセンス契約を結び、世界中でおもちゃだけでなく、アパレルやアクセサリー、生活用品、家具など1000以上の商品を展開しています。

●バーチャルキャラクターも活用

Q.IPはどのように活用しているのですか。

A.コンテンツにはライアンだけでなくキャラクターも登場させます。アニメーターのチームがいて、ペンギンやパンダなどのキャラクターを作って、それらキャラクターのチャンネルも制作しています。日本でいうバーチャルYouTuberのようなものです。

 キャラクターの活用も効率的にできるようにしています。モーションキャプチャーで演者の動きをカメラで撮影し、それにアニメーターの作ったモデルをシンクロさせています。これでコンテンツを週3、4本スピーディーに作れるようにしています。そしてこのキャラクターもフィギュアや人形として商品になります。

 レベルは違いますが、ディズニーのように象徴になるキャラクターを活用することで、ライアンズ・ワールドの世界観を広げています。

Q.米フォーブスの推定収入ランキングでは18年から3年連続1位をキープしています。収入の数字はYouTubeの収入だけですか?それともおもちゃなどのラインセンスを含めたものですか?

A.両方を含みます。ライアンが手がけている9つのチャンネルに関連したライアン個人としての収入です。

 ただYouTubeからの収入は減っています。というのも20年に入って、米連邦取引委員会(FTC)がYouTubeに対して子どものデータを収集してはいけないという方針を出しました。子ども向けのチャンネルではターゲティングができなくなり、YouTubeからの収入は半分以下に減りました。

 前々からこうなると思っていました。そこでYouTube以外からも収益を得られるようにIP会社を作ったのです。

●ライアンがやめたければやめられる

Q.ライアン君が大きくなるとコンテンツを変えないといけないですね。

A.そうです。1~2年前にそれに気づいてゲーミングチャンネルを作りました。ライアンが興味を持ち始めたので将来もできるようなチャンネルを作ったのです。ライアンズ・ワールドでも教育系を増やしたのは、ライアンが興味を持っているからです。

 仮にライアンがYouTuberをやめたいと言っても、すぐにやめられます。ライアンが映画やテレビをやりたいというかもしれません。そのときのため、アマゾンのコンテンツ制作などにプロデューサーとして関わっています。僕たちも準備しています。

 YouTubeのチャンネルはライアンズ・ワールドのほか、家族やキャラクター、スタッフなどが出演するものもあり合計9つあります。

Q.日本ではどのようにビジネスを展開していく考えですか?

A.20年11月に日本でYouTuberのノウハウ本を出版しました。次にライアンズ・ワールドのアニメを考えています。「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」を手がけるシンエイ動画と、米アマゾン・ドット・コムで配信するコンテンツを制作しています。これを日本語に吹き替えして日本で提供していく。日本のおもちゃ業界とは今のところ計画はありません。

 これらは日本人の僕だからこそできると思っています。米国では日本の子ども向けアニメがあまり知られていません。そうしたものを橋渡ししたい。日本のアニメーターが米国で活躍することにもつなげたいです。

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