現代自動車が米ロボット企業を買収したワケ ボストンダイナミクス社の技術で将来へ布石

現代自動車が米ロボット企業を買収したワケ ボストンダイナミクス社の技術で将来へ布石

 2020年12月、現代自動車グループがボストンダイナミクス社の買収を決定した。同社の株式80%を保有し、残り20%をソフトバンクが保有することになる。評価された企業価値は1兆2000億ウォン(約1137億円)に達する。現代自動車にとっては、1997年に起亜(キア)自動車を買収したときに匹敵する買収となる。実質的に売上高がゼロの企業を買収する案件としても、世界的な規模になる。

 今回の買収が何をもたらすのかについては意見が分かれる。投資規模が大きいだけに、将来への懸念がある一方で、将来の事業構想に基づく慎重な決定だという見方もある。果たして、今回の買収が現代自動車の将来に吉と出るか凶と出るか。

ロボット事業の構成比を全体の2割へ

 現代自動車の鄭義宣(チョン・ウィソン)会長は、2019年10月に行った会議で「現代自動車グループの事業構成は、将来的に自動車が50%、UAM(アーバンエアモビリティ)が30%、ロボットが20%となるだろう」と述べた。この会議から1年、鄭会長は自他共に認める世界最高の技術力を持つ企業を得た。

 ボストンダイナミクスはこれまで、動画配信サイトなどを通じて自社の圧倒的な技術力を誇示し、一般にも知られている企業になった。同社が披露してきたロボットは、同産業界の頂点に立つとの称賛さえ受けてきた。

 現代自動車はボストンダイナミクスが保有する製品を通して、世界のロボット市場についてバラ色の予想を掲げる。同グループによれば、2017年に245億ドル(約2兆5284億円)規模のロボット市場は年平均22%の成長を遂げ、2020年には444億ドル(約4兆5820億円)にまで拡大する見通しだ。さらに2025年までには年平均32%の成長を遂げ、同年に1772億ドル(約18兆2870億円)規模にまで拡大する。

 ロボット市場の中でも、現代自動車はとくにどの事業を集中させるのか。2020年444億ドル規模の市場の72.3%が「製造用ロボット」と「物流用ロボット」で占めていると見ている。一方で、サービス用ロボットは27.7%程度と見ているが、これが2025年には46%へと拡大すると現代自動車は予測する。「現代自動車は最終的にサービス会社へ変貌する」とする同グループの方向性と一致する予想だ。

 一方で、中長期的な計画には不安がつきものだ。その最たるものが、ボストンダイナミクスが保有する技術がきちんと商用化できるのかどうかという問題だ。同社自慢の技術が、どのような経済的価値を創出できるのか。同社の2019年の売上高は30億ウォン(約2億8000万円)、当期純損失は1121億ウォン(約106億4500万円)。2020年第3四半期(7~9月)末では、同91億ウォン(約8億6400万円)、同650億ウォン(約61億7300万円)となっている。

 ロボット自体のパフォーマンスは驚くべきものがあるが、そのロボットが動作可能な期間はとても短く、値段も高い。そのため、商用化には遠いとの評価がある。これに加えて、同社がグーグルとソフトバンクの投資を経てきた会社という点で、同社が本当に金を稼げるのか疑問を持つ人もいる。

売上高ゼロ、ロボット技術商用化は可能か

 ところが、このような見方について、専門家や利害関係者らは同意しない。韓国・キウム証券のキム・ミンソン研究員は「現代自動車はグーグルやソフトバンクと比べ、事業において製造・物流の比重が大きい。ボストンダイナミクスの活用度は、2社と比べて高いだろう」と見ている。

 特にボストンダイナミクスは、商用化に向けた段階にすでに入っている。同社のパトリック・フェリー事業開発担当副社長は、アメリカのIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が発行する「IEEEスペクトラム」とのインタビューで、「2018年以降、われわれは商業的な組織へ転換した」と述べ、商用化への意志を明確に打ち出している。

 ボストンダイナミクスが最近開発しているロボットを見ると、そのトレンドがはっきりとしてきた。人間に似せたヒューマノイド型ロボット「アトラス」(Atlas)とは違い、同社の「ピック」(Pic)と「ハンドル」(Handle)が持つ機能はその方向性が明確だ。2019年に登場したピックは、モノを持ち上げ動かすことができる物流用ロボットであり、ハンドルもまた車輪がついており直接モノを持ち上げて目的地まで自律的に移動する機能に特化している。ボストンダイナミクスがそれまで開発した技術力を実際の産業現場に適用するようになったのだという評価だ。

 商用化を狙うボストンダイナミクスからすれば、世界でも有力な完成車メーカーである現代自動車の能力は絶対的に必要だ。同グループは完成車業界の中でも、大量生産と費用効率の面でトップクラスの能力を持つ。前出のフェリー副社長は「製造、建設、物流などわれわれが目標とする多くの産業を理解しているパートナーと手を組めば、われわれの製品を向上させられる」と述べた。これは、ロボット量産にとっては、現代自動車の製造力がとても有益だということだ。

 ロボットを定義すれば、「ある作業や創作を自動的に行う機械装置」だ。自律走行車は基本的にロボットに近い。このような観点から、現代自動車がボストンダイナミクスを買収したことで得られる効果がはっきりしてくる。

 現代自動車の将来の事業構想の8割が自律走行とUAM事業の高度化だ。ボストンダイナミクスが保有する核心的な技術を振り返れば、大きく認知、制御、IoT、人工知能(AI)に分けられる。これは現代自動車の自律走行やUAMにも該当する。あらゆる環境の変化を正確に認知して、正確な判断を下し、それによる精密な駆動ができることが要だ。現代自動車はボストンダイナミクスの技術力を持って技術的な進歩を遂げられることを狙っている。

 現代自動車の関係者は「ボストンダイナミクスには体系的なロボット研究システムやロボット分野での優秀な人材やノウハウなどがある。これらを現代自動車が保有しているグローバルな事業力と結合することでシナジーが最大化されることに加え、先端技術のリーディングカンパニーとしてのブランドイメージまで向上できる」と期待する。

鄭会長が228億円の私財で投資も

 もちろん、ボストンダイナミクスとどれだけシナジーを発揮できるかは不透明だ。閉鎖的とされているボストンダイナミクスの企業文化に、現代自動車がその技術に対してどれだけ接近できるかという疑問も湧く。韓国・ハナ金融投資のソン・ソンジェ研究員は「技術中心の企業である特性上、その技術を担う主要人材が残ることが肝心。買収後の統合過程を見守る必要がある」と指摘する。

 現代自動車が買収しても、ボストンダイナミクスは独自の経営を行うとの見方が支配的だ。ただ、フェリー副社長は「現代自動車はわれわれとともに多様な方向性を共有する優秀で才能のあるロボティクスチームを持っている。自律走行と関連した多くのことが、自社製品の自動化と関連したDNAを共有できる」と述べている。

 シナジーは将来の事業領域にだけ限られているわけではない。前出のソン研究員は「中長期的には、認知、判断、制御技術を活用できる現代自動車と主要グループ会社の現代モービスにとって肯定的な効果をもたらすだろう。現代グロービスには短期的にいち早いシナジー効果が生じそうだ」と説明する。今回の買収で10%の買収資金を供出する物流企業・現代グロービスは、物流自動化に向けて一歩踏み出せる。現代グロービスは2020年8月に韓国のロボット企業と事業提携で合意するなど、物流自動化に大きな関心を示してきた。

 今回の買収が大きく注目されているのは、鄭会長が個人マネーで資金を投入していることがある。鄭会長はボストンダイナミクスの買収に私財2400億ウォン(約228億円)を投入、株式の20%を持つ。業界では、鄭会長の株式買い入れが「自信の表れ」との声がある。ボストンダイナミクスが成功すれば、鄭会長は自分の経営能力を立証するのと同時に、安定的な会社支配力を持つようになるためだ。

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