マスク着用時のパニック発作に注意…息苦しく過呼吸に
今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」
「子どもたちに歯肉炎、虫歯が明らかに増えてきた」と、友人の歯科医たちから聞くようになりました。マスクの着用による弊害です。これが長期にわたると歯並びの悪化を引き起こし、鼻疾患や近視の増加につながる恐れがあります。
マスクが高性能になるほど、編み目が細かくなり、気道の抵抗を高めてしまい、息苦しく感じます。いきおい、楽な口呼吸になってしまうのは仕方がありませんが、それにより起こる副作用にも注意を払う必要があります。今回は、マスクによる弊害を精神的な面から考えていきます。
過呼吸になると脳血流が低下してボーッとする
突然の呼吸困難に驚き、息が吸えなくなり、「このまま息ができずに死ぬかもしれない」という恐怖が襲ってきて、しまいに気が遠くなる感じがして、救急外来に駆け込んだり、救急車を要請したりという状態が過換気症候群。これが慢性的に経過すると、パニック障害と診断されることがあります。ストレスが原因とも言われますが、もちろんそれだけじゃない場合も。
マスクで息苦しくなり、ボーッとするという症状を経験したことがある人は半数以上に上ります(ロッテ調べ)。これは脳温の上昇も原因になりますが、息苦しさから過呼吸気味になってしまうことも要因の一つです。
スマホを常にいじっていると巻き肩になり、背中を丸めがちです。これでは浅い呼吸を繰り返すことになります。浅い呼吸の難点は、血中の二酸化炭素が減ってしまうこと。血液はpH7.4前後になるよう厳密に保たれていますが、この主役が二酸化炭素です。
血中の二酸化炭素は大事
地球温暖化では厄介者の二酸化炭素も、人体にとっては減るといろいろな機能がうまく働かなくなってしまうのです。過換気症候群でも血中の二酸化炭素が減ってしまうことにより、血液はよりアルカリ性に傾き、筋肉の動きをコントロールできなくなってしまいます。
過呼吸は脳血流を減らすという研究もあります。少し濃い目の二酸化炭素を吸わせた人と、呼吸回数を1分間に30回にした人を比べると、後者の人では中大脳動脈という脳に栄養を行き渡らせる大きな動脈が収縮しています。これが、過呼吸によってめまい感がしたり、気が遠くなったりする感じを引き起す原因です。
成人の呼吸回数 1分間15回を超えたら多い
マスクにより息苦しさを感じて、浅く速い呼吸を繰り返した結果、脳への血流が減り、ボーッとするという症状が出ることもあるでしょう。常にマスクを着用する新生活様式では、人の表情がうかがえず、コミュニケーションがとりづらい、ソーシャルディスタンスが気になり、人混みが怖い、などコロナ禍で新たなストレスが発生します。知らず知らずのうちに体をこわばらせて、浅く速い呼吸になっていないかチェックすることも必要です。普通、人の呼吸は、成人だと1分間に10~13回程度、これが15回を超えるようだと多いと思ってください。たとえ多かったとしても、呼吸回数を減らすように訓練することで、減らすことができますから心配不要です。
疲れ、不安感、うつ、呼吸苦に苦しんでいた40代男性
鼻呼吸は横隔膜を動かし、ゆったりと深い腹式呼吸になります。口呼吸は浅く速い呼吸になります。鼻呼吸の気道抵抗は、横隔膜を動かすことにも一役買っているのです。腹式呼吸になるには、まず鼻呼吸に変えていくことです。
40代の男性Mさんは、受診する2年ほど前から極度の疲れや不安感、うつ症状、のどのつまり感などで苦しんでいました。いろいろ調べてみますが、特に大きな異常はなく、自律神経失調症の診断が下りましたが、有効な治療もなく、呼吸苦や動悸(どうき)を訴えては、たびたび夜間の救急外来を受診していました。「息が止まってしまうのではないか」という恐怖に襲われて、夜が来るのが怖いほどです。肩こりや頭痛といった不定愁訴とされる症状もあり、本人は死の恐怖におびえながらも内科的検査では異常がないため、家族も途方に暮れてしまいました。受診をしても変わらないと思いながらも、苦しんでいるときには医療機関へ駆け込まざるを得ません。
鼻呼吸に変えて症状改善 救急外来への受診もなくなった
Mさんが知人の紹介で私のところへ受診した時には、典型的なパニック障害と診断しました。まずは、薬物療法よりも鼻呼吸、腹式呼吸を心がけるため、あいうべ体操と寝ているときにも口を閉じて鼻呼吸できるように口テープを実践してもらいました。もちろん、マスクをしているときも口を閉じて鼻呼吸が基本です。最初はちょっと苦しく感じるかもしれませんが、徐々に慣れてきます。
その効果はすぐに表れました。1か月後にはけんたい感、肩こりがとれ、息苦しさも改善、2か月後には少し息苦しさを残すものの、救急外来への受診もなくなりました。半年もすると、うまくゆっくりと呼吸ができるようになり、通院を終えることができました。受診してからは一度も救急外来を受診することがありませんでした。
マスク着用で何となく体調が悪くなったと感じている人は、1分間の呼吸回数を数えてみると過呼吸になっているかもしれません。呼吸数のコントロール、これも上流医療です。
今井 一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長、相田歯科耳鼻科内科統括医長
1995年、山口大学医学部卒、同大学救急医学講座入局。福岡徳洲会病院麻酔科、飯塚病院漢方診療科医長、山口大学総合診療部助手などを経て2006年、博多駅近くに「みらいクリニック」開業。日本東洋医学会認定漢方専門医 、認定NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長、日本加圧医療学会理事、息育指導士、日本靴医学会会員。
健康雑誌や女性誌などに寄稿多数。全国紙、地方紙でも取り組みが紹介される。「ジョブチューン」(TBS系)、「林修の今でしょ!講座」(テレビ朝日系)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「ニュースウオッチ9」(NHK)、「おはよう日本」(同)などテレビやラジオの出演多数。一般から専門家向けまで幅広く講演活動を行い、難しいことを分かりやすく伝える手法は定評がある。
近著に「足腰が20歳若返る足指のばし」(かんき出版)、「はないきおばけとくちいきおばけ」(PHP研究所)、「ゆびのば姿勢学」(少年写真新聞社)、「なるほど呼吸学」(同)。そのほか、「免疫を高めて病気を治す口の体操『あいうべ』」(マキノ出版)、「鼻呼吸なら薬はいらない」(新潮社)、「加圧トレーニングの理論と実践」(講談社)、「薬を使わずにリウマチを治す5つのステップ」(コスモの本)など多数。
