ニコン「D6」レビュー ド“s”な使い心地にヒタヒタと迫る“EOSの影”

ニコン「D6」レビュー ド“s”な使い心地にヒタヒタと迫る“EOSの影”

いよいよ販売が始まった、ニコンのフルサイズ一眼レフカメラ「D6」。デジタルカメラの頂点ともいえる高性能シリーズの最新モデルを、500mmの超望遠レンズ「AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR」1本で落合カメラマンにレビューしてもらいました。

明確な進化を感じさせるオートフォーカスまわり

派手さはないがクソ真面目。D4やD5を使ってきたユーザーにこそググッと刺さるデキの良さ。やっとお目見えしてくれたニコン「D6」を使ってみて、まずはそんな「盤石の進化」を感じることになった。

グループエリアAFの選択パターンが17種に増えるなど、利便性の向上が著しいAF関連に進化の痕跡が明確だ。なかでも「オートエリアAF(測距点自動選択AF)」の動作と3D-トラッキングAFが互いに歩み寄るようなカタチで、被写体捕捉に係る確実性と合焦精度のさらなる向上を果たしているところが印象的。オートエリアAFでは、被写体を認識・追従する(撮影者が撮りたい思っているモノに自動で測距点を重ね追従させる)能力がさらに向上し、また3D-トラッキングAFが複数エリアの連携で被写体を追いかけるという新たな形態を見せるようになっているからだ。

個人的には、連写中などに被写体を逃したときのリカバリー操作に舌打ちをするのがイヤなので、どのカメラを使うときにもトラッキング系のAF動作とは一歩引いた関係で居続けている。そして、その反動なのか何なのか、測距点自動選択AFの動作を当該カメラのAF能力を推し量るための重要な指標にしているのが現状だ。そんな中、D6のAFは高度に洗練されているとの印象に終始し、満足度は95%に達した。撮影者は被写体をフレームに収めることに注力するだけで、ピントの方はD6が全部やってくれる(ピント合わせに関しカメラの機嫌を伺う必要がまったくない)と思っていても不都合は生じないであろう上々の仕上がりなのだ。

強いていえば、オートエリアAF時の振る舞いに「至近優先」が強すぎる傾向が変わらずに残っているところが、個人的にはチョイとばかりのマイナスポイント。でも、そんなものは「それが基本的な動作だからね」と片付けることも難しくはない。

ついにEOSが逆転したと感じる部分も

しかし一方、競合機であるキヤノン「EOS-1D X Mark III」との比較では、測距点自動選択AF時の気の効き具合はEOSの方が勝っているのと印象だ。AFに関し、かつて見られていた「D5>EOS-1D X Mark II」の関係は、「D6 vs EOS-1D X Mark III」では逆転したと判断すべきかもしれない。ライブビュー(LV)撮影時の使い勝手(AF動作を含む)を鑑みるならば、宿命のライバル同士が見せる互いの関係性に変化が訪れているとの受け止め方はより強固なものとなる。さりげなく衝撃的な現状だ。

連写速度は、D5比2コマ/秒向上の最高約14コマ/秒を達成。それでありながら、連写設定中の1コマ撮りも確実にできるシャッターボタン周りのセッティングが見事だ。しかし、こちらが14コマ/秒の実現に対し慎重な対応を進めている間に、あちらは16コマ/秒になっていた。明確に「仕事の道具」として存在している一眼レフカメラの優劣を秒間コマ速だけが決めるわけではないことは百も承知も、今回ライバルは、その「数字」を達成するためにメカ部分を徹底的に磨いてきている(ように感じられた)ところがちょっとヤバい。EOSのMark IIIは、歴代もっとも上質なレリーズ感触を身につけているからだ。

これは、いうまでもなく、これまで明らかに優位に立っていた「官能面」でもニコンがキヤノンに差を詰められているということ。しかも、繰り返しになるが、それに加えてLV時のAFに見られる“新しさ”がライバルには明確だ。

「6」の名に見合う進化が欲しかった

D6に関しては、その姿が明らかになる前から誰もが「D780と同じようにミラーレス機並みのLV時AF動作が可能であるはず」との期待を抱いていた(と思う)。D780が先に世に出てしまったから致し方のない流れであったとはいえ、D6の実態を知ったときに落胆がなかったといえば嘘になる。「そんなもの一眼レフには必要ない」とは、正論ではあるけれど、そこが現代の一眼レフが持ち得るほぼ唯一の「新たに明確な進化を与えられるポイント」であるのも確か。ここでD6に感じることになったそこはかとない物足りなさを効率よく擁護しうる言葉は、残念ながら持ち合わせてはいない。

要するに、かつての感覚を引っ張り出すなら「D6」ではなく「D5s」の方がしっくりきそうなド“s”な「D6」なのである。一眼レフとしての仕上がりはものすごくいい。実際に撮ってみれば、繊細でヌケの良い仕上がりと素性の良い超高感度画質から、有効画素数が2082万画素キープであることの必然性にもすんなり納得できる。だから、D4ユーザーなら四の五の言わずに“買い”だ。AFに細かな不満を抱いていたD5ユーザーのアナタも“買い”である。無論、いうまでもなく堅牢性や耐久性にはお墨付きなのだから。

でも、いかんせん総合的な進化の歩幅が小さかった。「s」の付くマイチェン機ではないというならば、D4やD5ユーザー以外をも漏れなくバッチリ納得させ得る何かが欲しかった。それがホンネだ。このD6のありようを想定内と捉えるか期待外れと切り捨てるかは、受け取る側の考え方次第。さて、アナタならどうする?

落合憲弘(おちあいのりひろ)

 「○○のテーマで原稿の依頼が来たんだよねぇ~」「今度○○社にインタビューにいくからさ……」「やっぱり自分で所有して使ってみないとダメっしょ!」などなどなど、新たなカメラやレンズを購入するための自分に対するイイワケを並べ続けて幾星霜。ふと、自分に騙されやすくなっている自分に気づくが、それも一興とばかりに今日も騙されたフリを続ける牡牛座のB型。2020年カメラグランプリ外部選考委員。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏