26歳で「年商1億」を達成した大工の意外な副業 若手が少なく後継者不足が問題になっている

26歳で「年商1億」を達成した大工の意外な副業 若手が少なく後継者不足が問題になっている

 大工不足が深刻化している。国土交通省の発表した調査資料「建設業及び建設工事従事者の現状」によれば、建設業就業者数の2016年の平均は492万人で、1997年のピーク時平均から約28%も減少している。 そのうえ高齢化も深刻だ。同資料によれば建設業就業者は、55歳以上が約34%を占めるのに比べて、29歳以下の若手は約11%しかおらず、後継者不足となっている。

 大工を目指す若者はますます減るとの予測もあるが、その理由には見習い期間の長さや仕事の厳しさに対して、収入が低いことがある。大工の1日の賃金は平均で1.5万円、平均的な生涯賃金も1.5億ほどと、世の平均を下回っている。

 しかしそれはあくまで平均の話。「大工は稼げる」という人もいる。それが工務店DDD inc.代表で、”リノベーションの匠”として「TVチャンピオン」にも出場した手槌真吾さん(41歳)だ。実際に手槌さんは、大工として23歳で独立し、3年後の26歳の頃にすでに年商にして1億円を達成している。

 なぜ稼げる大工と稼げない大工の差が出てくるのだろうか。手槌さんの今までの歩みから、他の業種にも通じる「成功の法則」を探った。

大工は実は大きな伸びしろがある職業

 手槌さんは大工でありながら、現場監督、施主とのやり取り、そして時には設計やデザインもこなす。それが高収入のポイントの1つだ。

 「大工さんだけだと大きく稼ぐのは難しい。でも現場監督と営業マンを兼任する”工務店”になることで、収入は2倍、3倍になります。大工さんは、腕の良い人でも日当2万5000円あたりが上限なんですよ。そこには経費も含まれますから、収入はかなり厳しい。僕の場合は工務店を経営して、大工プラスアルファとして付加価値をつけることで、若いうちに年商1億を達成できたのだと思います」(手槌さん)

 大工は長い間現場にいるので、現場監督を兼任しやすい。それができれば工務店として発注者から直接受注できる。さらに営業マンも自らが兼ねることでクライアントからの細かな要望にも直接対応ができ、仕上がりの評判が良ければ受注が増える……という好循環が生まれる。

 需要が高いのに収入が低い仕事の特徴は、1つの案件に対して関わるプレーヤーが多すぎること。そして、プレーヤー間での賃金の不均衡が大きいことだ。だとすれば、1人で多くの分野を兼ねることができれば、収入増が狙えるはずだ。

 「年齢が上の大工さんたちは、職人気質で大工一本という人が多い。そこは変化が必要なところかもしれません。『現場監督や営業もできる"スーパー大工”になれば、チャンスが広がるし稼げるようになるよ』と、若い子を育てるときには伝えています」(手槌さん)

営業力アップの秘訣は副業にあり?

 多くの分野を兼ねれば収入がアップすることは、他の業種にもいえる。とはいえわかってはいても、なかなか難しいのが実情だ。大工の場合なら、「建設現場での経験が役立つ現場監督はまだしも、営業は畑違いだ」という声も、当然あるだろう。

 多くの分野で個人事業主が課題に感じるのが、いかにして自分を売り込むかということ。営業が弱いがゆえに仕事が立ち行かない例は多い。

 手槌さんは事業の武器となる営業の”飛び道具”を持っていた。それが「意外な副業」だ。

 「本業のほかにも軸を持っていたほうがよいと思ったのは、20代の経験からです。23歳で独立した頃に仕事が増えたきっかけが、音楽をやっていたこと。僕は中学生から20代まで、ずっと趣味で音楽をやっていて、特に20代の頃に組んでいたアフリカン・ジャズ・ファンクのバンドは、地元姫路では知られた存在でした。

 イベントやライブをするなかで知り合ったショップや美容室のオーナーに、大工仕事を頼まれるようになり、工務店としての仕事も順調に増えていったのです。その経験があったので、東京で独立するときにも、人脈が広がるような副業を持ってみようと思いました」(手槌さん)

 手槌さんは兵庫県の姫路市で若き工務店経営者として成功した後に、いったんキャリアを白紙に戻し、30歳のときに東京で再スタートする。その際の副業として手槌さんが着手したのは、大家としてシェアハウスを運営することだ。

 拠点を東京に移したのには理由がある。実は姫路にいた頃、工務店経営者として成功した手槌さんは、株やFXの取引に没頭した。しかし思うように成果があがらず、わずか1年で数千万の貯金だけでなく、姫路での仕事の人脈も失ったのだ。

 「投資に熱中していた頃、工務店を休業して投資の情報が集まる東京に移り住みました。当時は姫路出身の同級生たちとシェアハウスをしていたんです。そこには東京大学に通う学生がいたり、政治家の秘書がいたり、バーテンダーもいたり。ときどき行う飲み会が面白かったですね。そこから人間関係が広がり、東京での人脈もできました。

 トレーダーとして失敗したときに、一番後悔をしたのは姫路で築いてきた人脈を失ったこと。だから東京で工務店として開業するときに、今度は自分でシェアハウスを運営してみようと思ったのです。人のつながりがビジネスには大切ですし、工務店の仕事には駐車場や作業場が必要なので、大きな家を借りて、そこをシェアハウスにすればちょうどいいと思いました」(手槌さん)

営業力が実績にも結びついていく

 手槌さんのシェアハウスは2軒。世田谷の古い一軒家を借りて、内装に自ら手を入れて転貸している。

 「相場よりも家賃を下げていても、利益は出ています。住み手はFacebookなど、人のつながりから。僕自身には、できればクリエイティブな人に住んでほしいという気持ちがあり、実際そういう住人が多いです。よくパーティーやバーベキューをしていて、そこでの人間関係が仕事につながることもあります」(手槌さん)

 仕事には人脈が必要。それも同じ業界のつながりばかりではなく、異業種のつながりが仕事の幅を広げる。意外な副業を持つ効能を手槌さんは経験的に知っているのだ。

 次なる手槌さんの野望は、工務店を経営しながら、不動産業に進出することだ。

 「この前、うちの会社に宅地建物取引士の資格を持っている人が入ったので、ゆくゆくは不動産を取得して、自分でリノベーションして売りに出すようなこともしたいと思っています。

 手始めに自分の家族のために中古マンションを買って、リノベーションしたんです。完成時には内覧会もやりました。5年後をメドにここを売るか貸すかして、新しい物件を買いたいですね。新しい物件を買ったら、またリノベーションして内覧会をして……ということをすれば、自社のアピールにもなるかなと。いってみれば、事業も兼ねた”住み移り”です」(手槌さん)

 2019年12月に賃貸住宅から移り住んだ自宅は、手槌さんが自分でデザインし、今までに培ってきた工法を駆使してリノベーションした。

 インテリアの曲線的なあしらいや、鎧兜のような壁板の貼り方、中国から直輸入したテラゾータイルという鉱石を埋め込んだような人工タイルのアクセントが目を惹く。特徴的な内装で、内覧会の評価も上々だった。

ショップの施工・設営も手掛ける

 手槌さんは住宅のリノベーションだけでなく、デザイン性の高いショップやイベント会場の施工・設営なども手掛ける。手槌さんの技術力は業界内でも有名で、イレギュラーな設計にも対応できることに定評がある。

 「たとえば天井や窓枠などのアール(曲線)はレアな施工なので、経験のない工務店は嫌がるのですが、僕は率先してやっています。

 そのとき大変でもイレギュラー案件に対応して乗り越えれば、希少な技術を獲得できる。建築家やデザイナーの意を酌むための勉強もおこたりません。海外の建築やインテリア雑誌には目を通してますね」(手槌さん)

 営業が仕事に結びつくのは、技術があってこそ。フットワーク軽く事業を広げる根本に、大工としての技術がある。

 充実したキャリアを築いている手槌さんに、今後の大工のあり方や現在の課題についてきいた。

 「大工さんの世界で、後継者不足は深刻な問題です。だから僕のところでも、意識して若い人を育てようとしてますね。その際は将来的に建築のことなら何でもこなせる”スーパー大工”になってもらうことを目標にしています。だから僕の会社には営業マン、現場監督、事務員はいません。職人自らがエンドユーザーと折衝したほうが、無駄な工程を省いてお客様に喜んでいただけますし、ビジネス的にも成長の可能性があると思っているからです。

 僕らの世代が身をもって『若くても成功でき、工務店としての仕事を長く軌道に乗せてゆける』という道筋を示せれば、大工さんを志望する若者も増えてくると思うんです」(手槌さん)

 2020年まではオリンピックの予定もあり大型の都市開発が多く行われてきた。とはいえ人口が減少の一途をたどる日本では、新築物件の着工件数は減っていくだろう。

「守備範囲」を広げることで稼いでいく

 野村総合研究所の予測データでは、2030年度の新設住宅着工戸数は2018年度の95万戸から63万戸に減少するとのこと。一方で、リフォーム市場は6兆~7兆円台で横ばいが続く見通しだ。中古住宅の売り上げも堅調な今、小回りの利く工務店は将来的に活路がありそうだ。

 リフォームの工事はクライアントが個人のことも多く、1対1の細やかな対応が求められる。それには技術一本の単能工よりも、さまざまな役割をこなす多能工のほうがフィットする。

 今後の消費者ニーズに順応するためにも、大工という仕事が”稼げる仕事”として新しいステージに進化するためにも、技術の継承に加えて守備範囲を広げることが必要となってくるのかもしれない。

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