三菱自、ゴーン改革の拡大路線で背負った代償 欧州縮小で東南アジアに「一極集中」の賭け
「メガマーケットでの拡大戦略に無理があった。当社の規模では全方位の拡大戦略を採り続けるのは現実的ではない」
三菱自動車の加藤隆雄CEO(最高経営責任者)は7月27日の電話会見で、欧米など世界の主要市場でのシェア拡大を狙った戦略の失敗を率直に認めた。
同日発表した2020年4~6月期の販売台数は前年同期比53%減の13.9万台。営業損益は533億円の赤字(前年同期は39億円の黒字)に転落した。これまで未定としていた今年度の業績見通しも明らかにし、売上高は1兆4800億円(前期比35%減)、営業損益は1400億円の赤字(前期は128億円の黒字)、減損損失の計上などで最終損益は3600億円の赤字(同258億円の赤字)を見込む。
あわせて公表した中期経営計画には、一部の国内工場閉鎖や欧州への新型車投入の凍結など固定費削減を軸としたリストラ策を盛り込んだ。新型コロナウイルスの感染拡大による販売減も重なって業績が急速に悪化する中、今後は主力の東南アジアへ経営資源を集中投下して業績回復への道筋をつける構えだ。
販売台数は増加も、収益力は低下
三菱自の拡大路線は、2016年の燃費不正問題による業績不振を受け、日産自動車からの出資を受け入れて傘下入りしたことに始まる。仏ルノーを含む3社の会長を兼務したカルロス・ゴーン氏の下、主力の東南アジアを強化しつつ、アメリカや欧州、中国といった巨大市場をターゲットとした販売拡大戦略に打って出た。2017年度から始まった前回の中計では、3カ年で販売台数を40%増、売上高を30%増とするかなり野心的な目標を掲げた。
2016年度に92万台だった販売台数は2018年度には124万台まで増加、売上高は2兆5000億円の目標を1年前倒しで達成した。しかし、売り上げの伸びが利益に結びついてこなかった。
2019年度の研究開発費は2016年度比で47%増、人件費は16%増、減価償却費は61%増。積極投資の結果、固定費が当初の見込み以上に膨張して収益を圧迫した。営業利益率は目標だった6%に遠く及ばず、4%台にとどまった。2018年の後半からは世界の自動車需要に陰りが見え始め、三菱自の販売拡大にもブレーキがかかると、収益悪化に拍車がかかった。
三菱自の地域別の収益構造はいびつで、東南アジア以外ではほとんど稼げていない。実際、三菱ブランドが浸透して販売シェアが高い東南アジアでは2019年度に600億円超の営業黒字を確保した一方、主要市場である北米や欧州、日本では100億~200億円程度の赤字を計上した。
欧米は現地工場を持たないために価格競争力が弱く、北米などではブランド力の乏しさを補うための値引き販売の費用増加が収益を押し下げた。競合他社に比べて少ない経営資源を不採算地域にも分散させた結果、「主力のASEAN向けの投資資源が不足」(加藤CEO)するといった悪循環に陥った。
環境規制が重荷、欧州から段階的に撤退へ
そうした失敗を踏まえ、主力の東南アジアに経営資源をさらに集中させる。新中計では、現地ディーラーの新規出店を強化するほか、SUVやピックアップトラックなどの新型車を相次いで投入する計画を示した。ベトナムでは新工場の建設も検討する。そうした施策によって、タイ、インドネシアなど東南アジア主要4カ国の合計シェアを現在の10.6%から11.4%に引き上げる構えだ。
その原資は、不採算事業の縮小や人件費の抑制で賄う。ターゲットになったのが欧州だ。新型車の投入を凍結するほか、広告宣伝費を大幅に削減して東南アジアに振り向ける。今後は現行モデルの販売とアフターサービスは当面継続するが、段階的に販売を終了していく。最終的には販売から撤退することが濃厚だ。
欧州では2019年度に21.5万台を販売。世界販売(112万台)のおよそ2割を占め、地域別では東南アジアに次ぐ販売台数だった。にもかかわらず事業再編の対象になったのは、欧州で強化が進む環境規制が背景にある。2021年から新車の二酸化炭素排出量を走行1キロメートル当たり平均で95グラム以下にしなければならない規制が導入され、未達成のメーカーには罰金が科される。
東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストの試算によれば、三菱自は現状では規制を達成できず、年間200億~300億円程度の罰金を支払うことになる。規制が始まれば、ただでさえ低収益のところに、さらに重荷がのしかかる。規制は今後もさらに強化されていく予定で、三菱自は規制への対応にかかる開発費用の負担に見合う収益を上げられないと判断したようだ。
ホームマーケットの日本も聖域ではない。生産子会社の「パジェロ製造」(岐阜県)が運営する完成車工場を2021年上期にも閉鎖。輸出向けのみに続けてきた大型スポーツ用多目的車(SUV)「パジェロ」の生産は終了、「アウトランダー」などほかの車種は岡崎製作所(愛知県)に生産を移管する。自動車工場の稼働率の採算ラインは一般的に8割前後と言われるが、工場閉鎖によって国内工場全体の稼働率を2022年度には83%(2019年度は76%)まで引き上げる見通しだ。
一方、欧州と同程度の赤字を出している北米については大胆なリストラ策を打ち出さなかった。固定費の抑制を進めれば採算ラインまで引き上げることが可能だと三菱自は説明する。
だが、三菱自がラインナップに並べるSUVは北米で競争が最も激しい車種セグメントだ。明確な成長戦略を見出せていない中、固定費削減ばかりで収益改善を実現しようとするシナリオは困難だと言わざるをえない。東海東京調査センターの杉浦氏も「北米になぜ手をつけないのか理解できない。撤退によるディーラーからの訴訟リスクなど、何らか理由があるのかもしれない」と指摘する。
PHV技術に社運かけるが・・・
技術面ではプラグインハイブリッド車(PHV)に社運をかける。PHVを環境対応車の主軸に据える考えで、新型車を今年度から相次いで投入する計画だ。
ただ、PHVの販売拡大には課題も多い。世界のPHV販売は56万台(2019年、国際エネルギー機関調べ)と、現状の市場はそれほど大きくない。
加えて、国内で販売するSUVの「アウトランダーPHEV」は主力グレードで車両価格400万円台からと、決して安くはない。東南アジア各国の所得水準を考慮すると、販売台数の拡大には疑問符も付く。トヨタ自動車など競合大手もPHVを開発・投入しており、先行者利益は小さくなっている。
しかも、PHV技術の成否は、日産、ルノーと組む3社アライアンス内での立ち位置にも影響を与えかねない。今年5月に公表された3社アライアンスの中期計画では、特定の領域で強みを持つ1社が「リーダー」として、3社全体の技術や車両の開発を主導する枠組みを導入。三菱自はPHVのリーダーの役割を担うことになった。
三菱自も競合他社と同様、CASEと呼ばれる次世代技術への投資負担が年々増加。2019年度の研究開発費は2016年度比47%増の1309億円にまで膨らんだ。しかし、トヨタやフォルクスワーゲン(VW)など業界のトップランナーが1兆円を超える開発費を投入する中で、販売台数が10分の1程度の三菱自が単独で次世代技術の開発を幅広く続けることは難しい。
そのため、自動運転や電気自動車(EV)、コネクティッドなど主要な次世代技術の開発には一定の見切りをつけ、日産とルノーに大きく依存せざるをえないのが現実だ。3社アライアンスは、“建前上”は対等かつ「ウィンウィン(双方に利益がある)」の精神を原則とする。そこで、三菱自がPHV技術での競争力を確保し、アライアンスに対して目に見える形での貢献をしていかなければ、事業規模が小さい三菱自はアライアンス内での存在意義が問われかねない。
