なぜ子どもに「水害後の清掃をさせるべきでない」のか。医師に意見を聞いた

なぜ子どもに「水害後の清掃をさせるべきでない」のか。医師に意見を聞いた

九州で豪雨が続き、浸水被害などが広がっています。河川から溢れ出した土などを含んだ濁流が家屋や街中にも流れ込み、天候が落ち着いた被災地域では、泥かきなどの片付け作業が始まっています。その中で、子どもが片付け作業を手伝うことについて、医師らから「感染症の危険性などもある」との指摘がなされています。

今回の豪雨でも、小学生などの子どもも水害後の片付けを手伝う様子が報道され、その姿に勇気づけられた人々も多くいる一方で、子どもの体を考えると「リスクが高い」といいます。

佐久総合病院佐久医療センターの小児科医長、坂本昌彦さんに話を聞きました。【 BuzzFeed Japan / 冨田すみれ子】

坂本さんは、子どもが水害後の片付けを手伝うリスクについて、こう指摘しました。

「子どもに関しては、大人とは別の特徴があり、まず体が成長過程にあるため、有害物質にさらされると大人より大きな影響を受けます。免疫システムがまだ不十分で、様々な病気に対する感染リスクも高いです」

「また背が低いため、地表の汚泥から舞い上がる有害物質を大人より吸い込みやすく、呼吸回数も大人よりも多いため、災害時には成人より多くの有害な化学物質を吸い込みやすいです」

破傷風など感染症の危険性

水害後の片付けでのリスクは、様々な汚染物質が混じった水や泥、そしてそのような状況でのケガの危険性にあります。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、洪水などが発生した後の水について「人や家畜の排泄物(下水が溢れた場合)、家庭や医療機関、工場から出た有害廃棄物(農薬や工業廃棄物)など病気に繋がる可能性のある汚染物質のほか、木材やがれきなどケガの原因となるもの、ネズミなどの動物が含まれている可能性がある」としています。

これらの汚水にさらされると、「ケガによる感染症(破傷風含む)、皮膚の湿疹、大腸菌やサルモネラ感染症などの感染性胃腸炎にかかる可能性」があります。

坂本さんは他にも、子どもは「好奇心から様々なモノを触りたがるため、大人なら近づかないような危ないものにも直接触れようとする」「体重あたりの体表面積が大きいため、外気温の影響を受けやすく低体温にもなりやすい」などの理由で、水害後の片付けをするのはリスクが高いと指摘しました。

アメリカ小児科学会も、「子ども、そしてできる限り10代も水害後の清掃には関わるべきでない」とし、「清掃されていない場所には、子どもは近づけないようにすべき」と呼びかけています。

「子どもの頑張る姿は元気を与えてくれるけど…」

水害が発生するたびに、子どもが泥かきなどの片付けをする様子が「美談」として報道されますが、坂本さんはこのように指摘します。

「現場では何から取りかかればいいのか途方に暮れるような状況の中、手伝ってくれる人は一人でも多ければよいのは確かです。また、暗い報道内容の中で、みんなで一斉に復興に立ち向かうとき、子どもたちが頑張っている姿は周りに元気を与えてくれるのは確かです。したがって、それを報道し、みんなに伝えたいという気持ちも理解できます」

「ただ、今まで述べたようなリスクが数多くあることを考えると、小児科医としては見過ごすことはできません。またこのようなリスクがあると分かれば、掃除をさせないでおこう、そのような話を美談にしてはいけない、ということも多くの方が理解されると思います」

坂本さんは「汚泥の掃除以外にも子どもができることはたくさんあります」として、家の中の危険でない箇所の片付けや、より小さな子どもの遊び相手など、子どもが安全にできる手伝いを探すことを提案します。

何歳ごろから片付けを手伝っていい?

浸水被害が甚大な多くの被災地域では、片付けの人手が足りません。何歳くらいから、大人と一緒に片付けを手伝っていいのでしょうか?

坂本さんは「なかなかクリアカットにお伝えすることは難しい」とした上で「やはり小学生までは難しいと思います。中学生もできれば避けてほしいと考えています」と話しました。

坂本さんによると、小児科では「中学卒業まで」が対象で、「高校生以降」は内科を受診します。

アメリカ小児科学会は、「10代まで」のリスクは高いとしていると説明した上で、高校生以上についてはこのように話しました。

「高校生以上は大人に準じて対応することを考えると高校生以上は防御した上でお手伝いは問題ないかも知れません。高校生以上であっても健康リスクがあることは念頭に置いて対応するのがよいかと思います」

大人が清掃する際も、ケガ・感染症対策をした服装を

高校生以上の片付け手伝いや、大人が水害後の清掃にあたる際にも、感染症やケガを避けるために服装に注意が必要です。

長袖、長ズボンを着用し、丈夫な手袋、底の厚い靴を着用することで、ケガや感染症などを防ぎます。

また、マスクやゴーグルを着用して、首にはタオルを巻きます。

災害後、避難生活などで気をつけるべき病気は?

現在、新型コロナウイルスが流行していますが、災害時に流行する病気や感染症について、坂本さんは時期別にこのようなものがあると指摘します。

<発災直後> ケガなどから起こる感染症

<発生1週間前後> 汚染された水や食べ物を介しての感染症(細菌性胃腸炎など)

<数週間後> 避難所など密集した場所での呼吸器感染症、上気道炎、気管支炎など。麻疹が流行することも。

坂本さんは、子育て世代向けの小児医療啓発プロジェクト「教えて!ドクタープロジェクト」の責任者を務めていて、フライヤーやウェブサイト、アプリなどで、情報を発信しています。

災害時や災害後の感染症対策についても、このフライヤーに注意点などがまとめられています。

坂本さんは、避難生活などで気をつけるべき病気について「災害時に珍しい病気が流行するのではなく、日頃からよくある感染症が流行します」と説明。予防については、こう指摘しました。

「これらの感染症の流行を防ぐには新型コロナウイルス感染症対策の手洗い、消毒は有効です。ただし、胃腸炎のウイルス(ノロウイルスなど)にはアルコール消毒は無効である点に注意が必要です」

フライヤーでは、災害時に特に流行しやすく事前にワクチン接種歴を確認しておく病気として、麻疹、風疹、水痘、百日咳、破傷風などを挙げ、「日頃のワクチン接種が、実は災害対策になります」としています。

坂本さんは、その点について、このように呼びかけました。

「麻疹や水痘などの空気感染症は感染力が極めて強く、栄養状態や衛生状態がより悪化する避難所などでは、ワクチン接種率が低い場合に爆発的に流行する可能性があります」

「百日咳(3種混合、4種混合に含まれます)も流行しやすいですし、ケガの際には破傷風(破傷風トキソイドという予防接種で予防します)にも注意が必要です。日頃のワクチン接種は実は災害時の感染症対策になることを知っておいてほしいと思います」

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