緊急事態宣言でも休めないコンビニ加盟店、新型コロナと「命がけの戦い」ルポ

緊急事態宣言でも休めないコンビニ加盟店、新型コロナと「命がけの戦い」ルポ

 新型コロナの感染爆発を防ぐために出された緊急事態宣言は、娯楽施設など休止、休業を要請・指示されている業態だけでなく、社会生活の維持に必要なため「休業を求めない」とされた業界にも影響を与えている。その1つが全国に5万5460店(2月現在、日本フランチャイズチェーン協会調べ)あるコンビニだ。

 コンビニは多数のアルバイトを交代で勤務させ、毎日900人前後の客が訪れ、納品も頻繁な街のホットスポットだ。便利な反面、商品や釣銭の受け渡し、飛沫による感染リスクがつきまとう。

感染の恐怖に加え「補償」も無いコンビニ……

 安倍首相は4月7日の記者会見で「食品など生活必需品の製造・加工、物流、小売店の皆さんには、営業をしっかり継続してもらう」と述べた。大手コンビニ各社も、「コンビニは社会インフラなので、可能な限り営業を継続する」との方針だが、現場には不安が渦巻いている。

 コンビニオーナーとして、「社会インフラ」としての責務と自分や従業員、来店する消費者の命の両方をどう守るか。苦しみながらも、時には本部に先んじて現場で新型コロナ対策を打ち出している、加盟店の苦悩と戦いを追った。

 首相会見に先立つ7日午前中、日本労働弁護団の呼びかけで行われた緊急会議で、コンビニ加盟店ユニオンの酒井孝典執行委員長は「不安は2つある。売り上げの低下とスタッフやオーナーの感染だ。すでに感染者が出ている店もあるが、閉店や再開の基準も(国にも本部にも)明確でなく、補償もない。売り上げが半分になった地域もある」と窮状を訴えた。

 実際、大手3チェーンだけで16店が店長、従業員の感染のため休業した(4月9日現在、各社発表から算出。うち4店は消毒、従業員の経過観察を経て既に再開)。

 アルバイトの感染が分かると感染者が入院するだけでなく店もいったん閉め、オーナー店長や他のアルバイトも「濃厚接触者」ということで、自宅で経過を見ることになる。

 「以前は業者に消毒を頼んでいましたが、商品がダメになってしまうので、今は店で必要な消毒を実施しています」と酒井さんは説明する。消毒後は2日ほどで店を開けられるが、店長も他のアルバイトも濃厚接触者だと2週間ほど自宅で経過を見る必要があるため、「人繰りがつかないのですぐに再開できないことが多い」(酒井さん)という。弁当、おにぎり、サンドイッチ、サラダなど販売期限がすぐにくる商品は廃棄するほかなく、閉店中は売り上げも立たない。そうした損失は加盟店が被る。

加盟店、本部待たず自発的な感染対策

 どのコンビニも感染防止に力を入れているが、本部からの指示は当初、手洗いの励行とマスク着用くらいで、店長やアルバイトが使うマスクも品薄でなかなか仕入れられなかった。加盟店関係者によると、首都圏のファミリーマートでは最近、アイリスオーヤマのマスク、お徳用大容量タイプ(60枚入り)が入ってきた。ローソンも「緊急事態宣言が出た地域に優先的にマスクが仕入れられるようにする」と加盟店に通知したという(費用は加盟店持ち)。

 本部にも行政にも頼りきれない中、加盟店の間では自発的な工夫で感染防止を図る試みも広がりつつある。 

 東京都内のあるローソンでは7日、天井から透明のビニールシートをつるし、レジと来店客とを区切った。シートの下が開いていて、商品とお釣りはそこを通すが、咳やくしゃみの飛沫は遮られる。

 同店の店長Aさんは、「本部からの指示ではありません。他店でやっているのをTwitterで知り、ホームセンターで透明のテーブルクロスを買ってきました。『素手でお釣りを渡さないで』と言われたスタッフもいたので、お客様への(感染予防の)アピールにもなると思って。本部社員は、シートを見て苦笑していました」と話す。

 複数の関係者によると、飛沫感染防止のためのビニールシート設置は一部のセブンイレブンで始まり、他店にも広がった。

 4月8日、セブンは全国、ローソンは緊急事態宣言が出た7都府県で、レジカウンターにビニールシート(間仕切り)を設置するなどの感染防止策を発表した(フランチャイズ加盟店に推奨)。ファミリーマートでも一部地域でビニールシート設置を始めた。現場での創意工夫が本部の施策に取り入れられた格好だ。

トイレ・イートインの「自主閉鎖」も

 千葉県内のあるファミリーマートでは、感染予防のためにトイレとイートインを自主的に閉鎖した。オーナーのBさんは、「トイレは密閉空間で感染を防ぐのは難しいでしょう。近くに公衆トイレもあるので。イートインも、高校生たちが集まる場になっていたので密集、密接を避けるため閉じました。お店の前にはベンチを置いていますが」と説明する。

 トイレを閉鎖するコンビニは少しずつ増えている。Aさんの店でもトイレを閉め、3日前からイートインコーナーも夜間閉鎖にした。ただ、他店からは「トイレをクローズにしたところお客様から『トイレ閉めるなら店も閉めろ』と言われた」と、Bさんは聞いた。来店客の理解度にはまだ温度差があるようだ。

 Bさんの店では、正面のドアを雨の日以外は開けっぱなしにし、換気扇もフル回転で換気に努め、レジなどは小まめにアルコール消毒している。ごみ捨ての際は使い捨ての手袋着用を徹底。「お店に滞在する時間を短くするため、アルバイトには『終わったら早く帰れ、早く(も)来るな』と言っています」とBさんは言う。

 加盟店関係者によると、ファミリーマートでは4月7日から700円以上購入した客に、箱に入ったくじを引いてもらうキャンペーンを本部が計画していた。不特定多数の人が箱に手を入れかき回すことになる。感染リスクを懸念したBさんは「当店では実施しない」と本部に伝えた。SNS上でも批判を浴び、ファミリーマート本部は6日、くじ中止を加盟店に対して緊急連絡したという。

 Bさんの店を取材したのは夕方。「いつもだったら今頃は高校生で混むんですが、学校も休みなので」とBさんが呟いた。

 緊急事態宣言で経済活動が収縮するなかでも近所のコンビニは開いていて、生活に必要なものがいつでも買える安心感は大きい。そんな私たちの、社会の期待に応えるために、日販(毎日の売り上げ)が落ち込む中でも、感染防止と営業継続の両立にコンビニの現場は知恵を絞っている。

「リスク背負うコンビニに行政の支援を」

 国や自治体に望むことを聞いてみると、Aさんはこう話した。「小池(百合子)都知事は休業要請に応えた事業者に(感染拡大防止)協力金を払うことを検討しているそうですが、リスクを背負って店を開けているコンビニには何もない。こういう事態なので店を開け続けたいとは思うのですが、何の支援もないと、私たちって何なのかなと感じてしまいます」。

 コンビニ加盟店ユニオンの酒井さんも、「政府は中小企業向けの貸し付けを案内していますが、コンビニはもともと借金(いわゆるオープンアカウント)を抱えているので、怖くてこれ以上借り入れできません。何とか給付型支援を英断してほしい」と語る。

 4月5日、高知県内のファミリーマートで店長と従業員2人の感染が分かった。店長は15日連続で勤務していた。感染とは直接関係ないかもしれないが、過労でなかったか気にかかる。

 協力工場や物流も感染リスクから無縁ではない。大手コンビニ関係者は「協力工場が感染で止まることもありえます。近隣の協力工場から品物を回すにしても、東日本大震災の時のように一部商品の欠品は避けられないでしょう」と心配する。

 コンビニが店を開け棚にたくさんの商品が並ぶ。そんな「当たり前」は、加盟店オーナーやアルバイト、サプライチェーンのぎりぎりの努力で維持されている。

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