任天堂の「新卒採用サイト」が就活生から絶賛される理由
この3月1日より、2021年卒学生の就職活動が大々的にスタートした。「超売り手市場」が続く中、企業側はどのように学生を惹きつければいいのか。そのヒントは、SNS上で多くの賞賛を集めている、「任天堂」の採用サイトに詰まっている。
「本当にドキドキワクワクする!」「何というか仕事の全部が詰まってる」「これは…みんな任天堂で働きたくなるやつ」と共感を集めている理由を分析してみた。
総求人数の半分しか学生が来ない
例年、3月から『リクナビ』『マイナビ』など、2021年卒向けの大手就職情報サイトがグランドオープン。合同説明会や各企業の自社説明会が開催されて、就職活動が本格的にスタートする。
しかし、今年は新型コロナウイルスの感染が国内で広がりを見せていることから、各社とも説明会の中止・延期を決定するなど、波紋を呼んでいる。今年の就職活動にどれだけの影響を及ぼすのか、現時点ではまだ不透明だが、それを除いても、すでに企業側は大きな課題に直面している。
リクルートワークス研究所の調査では、2020年3月卒の大学生の求人倍率は1.83倍と、リーマンショック後の2010年以降で2番目の高さ。民間企業の総求人数80.5万人に対して、36.5万人の“人材不足”となっているのだ。
総求人数の約半分しか就職する学生がいない――。そんな「超売り手市場」の中で自社の採用活動を成功に導くために今、会社の魅力をウェブやリアルイベントの場で積極的に発信を行い、他社と差別化する「採用ブランディング」という手法が注目されていることをご存知だろうか。
就活生以外でも読んでいて面白い
その「採用ブランディング」の中で核となる施策が、企業の採用サイトだ。
筆者が前職で採用業務を担当していたとき、入社者全員に採用ツールに関するアンケートを取ったことがある。その100%が採用サイトを閲覧しており、「最も参考になったツールは?」との問いの答えも、やはり採用サイトがトップだった。
そんな企業の採用ブランディングの軸となる採用サイトにおいて、中でも圧倒的な成功事例として今回取り上げたいのが、大手ゲーム会社「任天堂」だ。
SNSでの投稿を調べてみると、例えば下記のようなコメントが並んでいる。
「任天堂の新卒採用情報は毎回見てるけど、本当にドキドキワクワクする!」
「何というか仕事の全部が詰まってる」
「各部門の担当者の人が『こういう考え方で仕事をしています』という記事を書いている。これは…みんな任天堂で働きたくなるやつ」
「この任天堂の採用サイトいい。職種ごとの説明というより物語になっている。ビジネスマンが読んでも勉強になること多い」
この中には就職・転職志望者ではないと思われるユーザーのツイートも含まれていることから、「採用情報を知るためのサイト」としてだけではなく、「読み物」としても評価されているのが特徴だ。
任天堂の知名度の影響はあるとはいえ、このような高い評価を得られている採用向けコンテンツは希有と言ってよい。では、その要因はどこにあるのだろうか。
採用サイトの中でも、最も支持が高かったメインコンテンツ『仕事を読み解くキーワード』にフォーカスして、詳しく検証してみた。
『ゼルダ』であえて「馬」を切り口に
『仕事を読み解くキーワード』は、新卒・中途採用希望者向けに、自社の仕事内容を職種ごとに説明しているページだ。「理工系(ソフト・ハード)」「デザイン系」「サウンド系」などのカテゴリーに分かれており、それぞれの仕事内容が1ページずつで紹介されている。
まず驚かされるのがそのバリエーションの多さ。なんと、59職種がそれぞれ丁寧に紹介されているのだ。仕事紹介の記事として、ここまで幅広く網羅されている採用サイトは珍しい。
しかも、その中には「通訳コーディネート」や「社内システム開発」など、ゲーム開発の“裏方”的な仕事もきちんと掲載されている。まさに「職業に貴賎無し」という印象だ。
加えて、網羅性の高さはそのままに、いたずらに多くの記事を掲載するのでは決してなく、その一つひとつのテーマが面白い。学生が読んでも惹き込まれるエピソードを、巧みに社内から拾ってきている。具体的に筆者が興味を持ったのは、以下の通りだ。
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・『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の馬の動きのプログラミング
・『Splatoon(スプラトゥーン)』のオリジナルなフォントデザイン
・『Nintendo Switch Lite』内部の基盤設計
・『どうぶつの森 ポケットキャンプ』の海外版の法務チェック
・『ヨッシーのあみぐるみ(毛糸で編まれたぬいぐるみ)』の生産技術
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大ヒットした『ゼルダの伝説』のプログラミングを取りあげる切り口も、主人公のリンクではなく馬! パッと見の派手さを追求するのではなく、「そこを取り上げるのか!」という良い意味での意外性と、仕事のオリジナリティが伝えられるエピソードを丁寧にチョイスしている。
筆者自身は、ゲーム会社の採用担当を務めていたこともあるが、正直、この“目利き力”には感服した。また、おそらく人事と現場の開発スタッフとの関係性が良好だからこそ、このようなネタを掘り起こせているのだと考えている。
「盛らない」社員の声が好感を呼ぶ
次に目を惹いたのは、個々の記事のストーリーだ。59記事と数が多いのに、1本1本が丁寧に作成されて読ませる内容になっている。SNSの投稿を見ても、この記事の内容が就活生たちの好感を呼んでいるのは明らかだ。
その好感を生み出しているポイントの一つは、良いことばかりを伝えないこと。「ウチの会社の仕事はビッグプロジェクトばかりで刺激的です!」「若くても仕事の裁量は大きく、何でも任されて成長できます!」と、背伸びをしながら声高に伝える採用サイトとは、真逆のスタンスで制作されている。
どのエピソードを読んでも、仕事上の壁や難しさが描かれており、それらを真摯に乗り越えるプロセスの中で、「任天堂ならでは」の仕事の誇りや哲学が感じられる文章になっている。
例えば、以下のようなものがそうだ。
「初めはいろんな可能性を試してみたくて、さまざまなジャンルの曲を作ってニューヨークに似た街のステージを遊びながら流してみたのですが、どれもなかなかしっくりきませんでした。(中略)その後も繰り返しゲームをプレイしながら幾度も調整した結果、『Jump Up, Super Star! 』という曲が完成したのです。」(『スーパーマリオ オデッセイ』の作曲・編曲職)
「私たちの対応次第で、お客様の気持ちが離れていくのを見ていられないんです。強くそう思うのは、幼稚園児の頃からファミコンなどの任天堂ゲーム機で育ち、私自身が任天堂のことを大好きだからなんですね。」(サービス運営職)
※いずれも、任天堂の採用サイトより引用
採用活動は、まだまだ人が主役
このように、公式サイトに掲載されているエピソードが、社員の等身大の目線で描かれている。任天堂の採用担当者は、採用成功に留まらず、入社後に本人が気持ち良く働けることをゴールに設定しているという印象を受けた。
だからこそ、「入社前から仕事のリアルを見せて、そこでの思いや哲学に共感してもらいたい」というスタンスで制作されているのではないだろうか。
昨今の採用コミュニケーションの鉄則は、「盛ったらバレるし、逆効果」。任天堂の採用サイトのように、等身大の仕事内容や、それに対する社員の思いを丁寧に見せることが大切だ。「等身大で素を見せる採用活動」は、このSNS全盛の時代では、好感度を生み出す大きなポイントだと感じている。
ただし、採用競合との戦いが激化する中では、何らかの呼び込めるフックが無ければ、学生との接点が得られない。そこには採用担当者の「企画の切り口」が必要になる。
その切り口を見出すために、クリエイティブやマーケティングの特別な能力が無くても問題はない。現場社員との接点を多く持って、「ここはウチの会社らしいな」「あ、ここは面白いな、学生に伝えたいな」と感じられたことがあれば、そのまま打ち出せば良いと筆者は思う。生で感じたものは、生で伝わり、そのスタンスこそが共感につながるのだ。
AI技術による効率化が採用領域でも始まりつつあると言われる今日。それでも、学生とのコミュニケーションのシーンにおいては、まだまだ人が主役だ。
