『マルコメくん』からの脱却…創業160年の老舗企業が「泣ける」アニメCMを制作したワケ

『マルコメくん』からの脱却…創業160年の老舗企業が「泣ける」アニメCMを制作したワケ

 老夫婦の穏やかな日常を描いたマルコメのアニメCMがテレビで放送され、SNSを中心に多くの感動の声が上がっている。家族の絆を温かなタッチのアニメーションで描く同CMシリーズは、2014年にスタートして以来、これまでに8作を公開。90秒という短い尺ながら、短編映画のような奥深いストーリーと良質な作画にはファンも多く、新作のたびに「泣ける」と話題を呼んできた。とくに反響が大きいという今作、そして老舗メーカーであるマルコメがアニメCMを放送する理由を、制作に関わる同社の広報担当者に聞いた。

■動画再生数も「これまでにない速さで伸び」、中国でも話題のアニメCM

 定年退職した夫と、足を悪くして台所に立てなくなった料理好きの妻。海辺の町で静かに寄り添って暮らす老夫婦の日常風景を、叙情的なアニメーションで描いた『料亭の味 液みそシリーズ いつまでも一緒に篇』が公開されたのは、今年1月のこと。SNSでは「互いが互いを支え、愛を共有し、苦難を乗り越えて共に寄り添う。ささやかだけど確かな愛のカタチ…」、「これからも一緒に年を重ねていって、いつか私たちもこんな夫婦になれたらいいな」といった感動の声が数多く上がり、その反響を受けて再び2月25日にオンエアされることになったという。

 これまでも「マルコメの泣けるアニメCM」として話題を呼んできた同シリーズだが、広報担当者によると、「今作は公式YouTubeチャンネルの再生数が180万回、一般ユーザーがアップしたTwitterの動画は1370万回(2月25日現在)と、これまでにない早さで伸びています」とのこと。国内のみならず、中国でも話題になっているとか。

 「大変な時期の中国で話題になるとは、とてもありがたいですね。さらに、1月に初オンエアした直後には、(夫の)道夫役の声優さんから、『まわりからの評判がすごくいいんです。次回のオンエアはいつですか?』とお電話をいただいて。声優さんからこのような連絡を直接いただくのも、今作が初めてのことでした」

■昭和の『マルコメくん』イメージを変えるには? 裏側に老舗企業の課題

 マルコメが創業したのは安政元年、1854年のこと。それから160年以上の長きにわたり、日本の食卓に密着した商品を届けてきた。そんな屈指の老舗味噌メーカーのCMがアニメというと、意外に感じる視聴者もいるのではないだろうか。ではなぜ、6年前にマルコメはアニメCMの制作に踏み切ったのか。それは、その前年に同社が新たに設定した『日本のあたたかさ、未来へ』というスローガンがきっかけだったという。

 「弊社は社員400人程度とそれほど大きな会社ではありませんが、規模の割にはありがたいことに広く認知をいただいています。しかしその認知は、昭和の時代の『マルコメくん』CMのイメージのままでストップしているのではないか? という課題意識もありました」

 マルコメ=安心安全というポジティブなイメージは、幅広い世代に浸透している。しかし、日本人にとって味噌はあまりにも身近なもので、ともすれば「どのメーカーの味噌もそれほど変わらない」と認識されやすい。数多くのメーカーがひしめく中で、これからの生活者に「なんとなく、マルコメがいい」と選んでもらうには? 老舗メーカーが未来を見据えた岐路に立たされたのが、2014年の新CM企画のタイミングだったという。

 「さらに当時、弊社は新商品として『料亭の味』ブランドの徳用袋を開発していました。廉価商品をアピールするCMは、実写で作るとチープな見え方になりがちなこともあります。だけど『料亭の味』の価値は価格ではなく、家族の絆や温もり、そして時代ごとの生活者に寄り添う手軽さとおいしさにあります。その世界観を伝えるにはアニメーションという手法が最適だと考え、上司に掛け合ったんです」

■米アカデミー賞短編アニメ映画賞を受賞した制作会社を起用

 そうした経緯を経て生まれ、長く愛されるようになったアニメCMシリーズ。とくに大きな反響が見られる今作については、「いろいろ理由は考えられますが、まずは作画のクオリティの高さが大きかったと思っています」と担当者。これまで同シリーズの制作を一貫して手掛けてきたのは、米アカデミー賞短編アニメ映画賞を受賞した実績のある映像制作会社・ロボットだ。

 「ロボットさんとは5年間ご一緒してきて、回を重ねるごとにいいものになっていったという自負があります。さらに今作では、ロボットさんが集結してくださったアニメーターの豪華さに、我々も驚いたほどでした」

 アニメーション制作は、繊細な人物の感情表現描写に定評のあるアンサー・スタジオ。また美術監督には、美しい背景描写で評価の高いアニメ工房婆娑羅など、日本のアニメ界を牽引するスタッフが集結。アニメに詳しい人であれば、クレジットを見ただけでもクオリティの高さに納得するだろう。

■“理想の夫婦”であり“老々介護”の現実でもある…リアリティ溢れる物語は実体験から

 一方で、CMで描かれる“老々介護”というタイムリーな時代背景に、胸を締め付けられた人も多いようだ。SNSでは「こんなふうになりたい理想の夫婦」と共感する声もありながら、「自分の親もこんな感じなのかな…」など、郷里の家族に思いを馳せるようなコメントも散見される。

 このように、“CMの中の出来事”ではなく“自分ごと”として重ねて見てしまうのも、同シリーズの魅力の一つ。そのためか、「つい見入ってしまった」とYouTube広告のスキップ率も極めて低い。そうしたリアリティあふれる血の通ったストーリーのベースは、常に「日常に転がっている」と担当者は言う。

 「それこそ、シリーズ1作目の『母と息子篇』は、寮生活していた私自身の学生時代の思い出を、新社会人に置き換えて描いたもの。母親が段ボールで送ってくれる日用品に『こっちでも買えるって…』とつぶやくセリフがありますが、それも実際に私がよく言っていた言葉なんです。個人的な体験ではありますが、一方で“一人暮らしあるある”じゃないですけど、母親への感謝とか、それをストレートに言えない気恥ずかしさとか、誰しも似たような思い出はあるのではないでしょうか。また、今作の『今夜、何食べたい?』というセリフも、私自身が実生活でそう聞かれることの幸せを感じたからこそ、入れた言葉なんです」

 90秒という短尺だけに、盛り込める要素やセリフは少ない。だからこそ、行間からじんわり滲み出る味わい深さが琴線を揺さぶる。まるで短編映画のようなストーリー構成の見事さも、多くの視聴者の心を掴んでいる要因だ。

 「クリエイティブディレクターの方も常々、『登場人物が1人で動き出すまで待つ』と言っていますが、名前はもちろん、これまでの人生など、CMで描写されない要素にもこだわっています。またそれほど多くのセリフが入れられない分、一つ一つの言葉はとても大切にしていて。今作の中に、夫の『いただきますとごちそうさまだけじゃダメなんだなぁ』というモノローグがあり、すごく心に残ると言っていただけるのですが、実際は制作過程で『これはいらないんじゃないか』『いや、この言葉が命なんだ』という攻防があって残ったセリフなんです。こんなふうに、制作に取り掛かるまでのディスカッションには毎回とても長い時間がかかるため、現状は年1本ペースでしか制作ができないんですよ」

■内容によっては議論も、「生活者にいかに語ってもらえるかを大事に」

 広報担当者はアニメCMの良さを「みんなで語りたくなるところにある」という。事実、SNSでは同CMシリーズについてのなごやかな会話から、ストーリーがあまりにもリアルなためか、内容によっては議論が巻き起こることもある。

 「ほとんどがポジティブな反応なのですが、これだけ多様な時代だけに、全員を満足させることはなかなか難しいなと思うことはあります。それでもなんとか、誰が見ても不快にならない、傷つかないものは目指していきたいですね。ただ、たとえネガティブな意見だとしても、語っていただけることが本当にありがたい。ブランド自体をうまく伝えるというよりも、やはり生活者にいかに語ってもらえるかを大事にしています」

 近年の代表的なアニメCMといえば、大成建設や東京ディズニーリゾート、日清食品などがあるが、『料亭の味』シリーズも8作を重ね、確実にその一つに名を連ねつつある。現在は、9作目を制作中とのこと。次はどんなストーリーになるのか、楽しみに待ちたい。

(文:児玉澄子)

シリーズ1作目 料亭の味 たっぷりお徳 母と息子篇

シリーズ2作目 料亭の味 即席生みそ汁 単身赴任篇

シリーズ3作目 料亭の味 カップみそ汁 夜食篇

シリーズ4作目 料亭の味 液みそ 上京篇

シリーズ5作目 料亭の味 無添加 母になれば篇

シリーズ6作目 料亭の味 お徳用あおさ ミソスープ篇

シリーズ7作目 料亭の味 米麦合わせ ふたりでおやすみ篇

シリーズ8作目 料亭の味 液みそ いつまでも一緒に篇

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