一見ミニマム、実は3つの顔を持つシステムカメラ 「SIGMA fp」の変幻自在っぷり
SIGMA初のLマウントカメラが発売されたのである。「SIGMA fp」。なんというか、四角くてゴツくてい小さくて可愛くてミニマム。よく分かんないけど、最初の印象がそれだ。
ライカのミラーレス一眼用マウント「Lマウント」を採用する「Lマウントアライアンス」のメンバーはライカとパナソニックとシグマ。パナソニックはまずプロ用のハイエンド機「S1」シリーズを発売した。
シグマは自社開発の「Foveon X3」センサーを搭載した画質番長なLマウントカメラを発売する……予定なのであるが、その前にいきなり他社と同様のベイヤー配列センサーを採用したSIGMA fpを発表したのである。
それがもう実に斬新なカメラだったのだ。
一言でいえばミニマムミラーレスである。
●ミニマムなボディでスナップを撮る
とにかく小さくてミニマム。大きさは112.6(幅)×69.9(高さ)×45.3(奥行き)ミリ。少々厚い以外はコンパクトカメラ並みだ。
ボディはめちゃフラットで上面を見るとアクセサリシューもない。
その代わり、真下プラス左右に三脚穴が付いている。これを使って拡張するのである。
ストラップホールを装着できる他、右手側には外付けハンドグリップが用意されている。
これがまた使いやすい。
fpをスナップカメラとして持ち歩くときは必須だろう。
左手側にはホットシューアダプターを装着することで外付けフラッシュを取り付けられる。
どれも普通に三脚穴なので好きなものを取り付けていい。また、fpの3Dデータは公開されているので、それを使ってオリジナルのアクセサリを作ることも可能だ。
EVFは用意されてないが、別売りのLCDビューファインダーを装着することで背面のモニターをビューファインダーとして使える。
その辺はfpをどう使うか、になるのでとりあえず使ってみようってことで、グリップだけ付けて出動する。
レンズは45mm F2.8(45mm F2.8 DG DN Contemporary)。fpより一足先に発売されたスナップ用の小型レンズでメタリックな鏡筒がなかなかカッコいい。
作例の前にスペックを。
イメージセンサーは35mm判フルサイズ。ボディ内手ブレ補正はなし。
メカシャッターはなくて電子シャッターのみ。このクラスでメカシャッターなしはめちゃ大胆。おかげでシャッター時のショックもないし完全無音だし、レスポンスもいいけど、高速の被写体を撮ったときのローリングシャッター歪みは発生するし、フラッシュ撮影時の同調速度も遅い。メリットとデメリットがある。
まずはいつものガスタンクを。基本、ハイライト部が飛ばないようなセッティングなのかちょっとアンダー目。そこは露出補正なりなんなりをうまく使いたい。
モニターはタッチパネルに対応しているので、タッチAFを使ってsと指定できる他、顔検出・瞳検出にも対応している。
fpで注目すべきは「トーン」と「カラー」に独立したボタンを用意していること。
何をメニューの中に入れ、何を独立したボタンにするかは「カメラからのメッセージ」なのだが、シグマのカメラはいつもメッセージにあふれてるから楽しい。カメラ上で自分のイメージ通りに絵作りをしながら撮ってくれというメッセージなのだ。
TONEは写真の階調を調節する機能。COLORはカラーモード。「スタンダード」や「ビビッド」の他に、青空を強調する「Foveon.Blue」や映画用の「CINE」があるけれども、今回の注目は「ティール&オレンジ」。
これで人物を撮ると、特に曇天下や日陰のような肌色がきれいにでづらい環境下でいい色に撮れる。
「ブラケット撮影」を使うのもいい。カラーモードブラケットを使えば1回のシャッターで最高5つのカラーモードで撮ってくれる。
せっかくなので、ティール&オレンジでみかん。
せっかくなので、サンセットレッドで夕暮れの街。
せっかくなのでモノクロモードも。いい味を出してくれる。
ISO感度はISO6から102400……ISO6?
基本感度はISO100から25600だが、ISO拡張を使うと下はISO6から始められるのだ。
とりあえずISO 6での撮影に挑戦してみた。側面にある三脚穴を使って、直接縦位置。
なぜISO 6なんて低感度で撮れるのか。実は低感度時は「連写+合成」技を使ってるのだ。おそらくは結果ISO 6相当になるよう超アンダーで複数枚撮って合成することで、ISO 6で撮ったときと同じ露出の絵を作っているのだ。
これ、電子シャッターによる超高速連写のなせる技といっていい。
この技はHDRでも使っている。HDRをオンにして撮ると、一瞬で複数枚撮影してHDR撮影をしてくれるのだ。陽射しを浴びてくつろぐうちの猫を逆光で、ノーマルとHDRの両方で撮り比べてみた。
逆に高感度時の絵はこんな感じ。
デフォルトのISOオートは上限がISO6400に設定されているので、よく使いそうなISO1600とISO6400で。けっこういい感じに感度が上がってるのが分かるかと思う。
さらにISO25600と拡張ISO感度のISO51200
常用ISO感度のISO25600から拡張ISO感度のISO51200になると彩度は落ちるけれども、ディテールはけっこう出てて悪くない。
ISO25600まで上げて手持ちで夜景を撮ってみた。こんな感じだ。
●SIGMA fpは3つの顔を持っていた
さて、使い勝手だけど、上面はシャッターボタンの回りにダイヤル。スライド式電源スイッチ(これは分かりやすくていい)、そしてCINEとSTILLの切替スイッチ。
背面は前述したようにモニターの下にTONEとCOLORの独立したボタンがあるほかは、QSキーやmenu、十字キー兼ホイールだ。
モニターは固定式。
注目はCINEとSTILLの切り替え。シャッターの隣に動画ボタンがあるようにいつでもボタンを押せば動画は撮れる。
でもわざわざ切り替えスイッチがある。それもVIDEOでもMOVIEでもなくCINEである。シネマのシネ(CINE)。
これは映画撮影用カメラを意識しているのだ。だから、外付けSSDに記録したりディレクターズビューファインダー機能があったり動画用RAWデータのCinemaDNGに対応したりしているし、CINEモードにすると画面デザインも登場する用語も全部シネカメラ仕様になる。
ミニマムな構成で3箇所の三脚穴を使ってシステムアップできるのも、シネマ用途と思うと理解できる。シグマは映画用のシネレンズもラインアップしているし。
NetflixやHuluの台頭で本格的なシネマ用途のニーズは広がっていると聞く昨今、モニターやSSDを外部別途装着し、シネマ用レンズを付け、映像用のシステムを組みやすいボディになっているのだ。
しかも、超時間撮影に耐えられるよう、モニターの裏側には放熱用のスリットも用意されているのだ。
いつかfpで撮った映像作品にお目にかかれそうだ。
つまるところ、fpのミニマムなボディは、コンパクトなフルサイズミラーレス一眼であると同時に、業務用のシネマカメラとしても最適化されているのだ。
そして3番目の用途として、レンズを楽しむカメラってのも挙げたい。ボディはとことんシンプルで凝った絵作りが可能で、シグマはレンズメーカーでもあり、純正のマウントアダプターも出している。だから非常にたくさんのレンズを装着できる。望遠レンズを付けるとボディが隠れちゃうけれども、それがいい。手で、あるいは三脚でレンズを支え、ボディはモニター+シャッターのみ、ボディにレンズを付けるというよりレンズにボディを付けるという感覚で使える。
SIGMA fpは小型軽量のスナップカメラ、レンズ主体で凝った撮影を楽しむミニマムカメラ、業務用シネマカメラの3つの顔を持つシステムカメラだったのである。
そして今回使った限りでは、写りもいい。しっかり狙って撮ればそれに答えてくれるクオリティを持っている。
初心者向けではないし単に「小さくて可愛いミラーレス」と思って買うと「あれ?」となるかもしれないし、かなり個性的なので向き不向き得手不得手はあるが、その特徴を分かってる人が手にすれば超強力な武器になり、いろんな作品を撮れるはずだ。
ただモノをみれば得手不得手は抜きにして欲しくなるかも……一見黒くて四角い箱に過ぎないのに……妙に魅力的なのだ。
特にスナップカメラとして見ると、45mm F2.8のレンズがいい。写りはしっかりしてるしけっこう寄れるしコンパクトだし。
fp用として最高なので、他の焦点距離も出してくれないかな、28mmとか35mmとか70mmとか……と思う。出るといいな。