「1話6分」ハリウッドにスマホ専用映画の革命
映画の都ハリウッドを中心に、米国でスマートフォン向けの短編映像の製作が熱を帯びている。スマホで動画を見る若者らの習慣にあわせた10分以内の作品を配信し、移動中などちょっとした空き時間の視聴需要を狙う。有名監督の参入も予定され、投資は過熱気味だ。「ネットフリックス」などの動画配信サービスが先行する中、モバイル・ファーストの新ビジネスは次なるブームとなるのか。【ロサンゼルス特派員・福永方人】
◇新アプリに集まる巨額投資
最も注目を集めているのが、スマホ向け短編作品の配信に特化したハリウッドの新会社「Quibi」(クイビ)だ。名称は軽食を意味する「Quick Bite」の略。サービス開始は来年4月であるにもかかわらず、既にディズニーやワーナーといった大手ハリウッドスタジオなどから10億ドル(約1080億円)の投資を集め、グーグルなどの大企業と計1億ドルの広告契約を結んでいる。
配信作品はオリジナルのドラマやコメディー、ドキュメンタリーのほか、ニュースやスポーツ番組など多岐にわたり、スマホのアプリを通じて視聴する。1話の長さは6~10分。「GenerationZ」と呼ばれる1990年代半ば以降に生まれた若者が1日に連続してスマホを見る時間は平均で6分半という調査結果に基づいている。視聴料は、広告が表示される設定で月5ドル(約540円)、非表示の場合は月8ドルという。
創業者は米アニメ製作会社、ドリームワークス・アニメーションの元最高経営責任者(CEO)、ジェフリー・カッツェンバーグ氏。80~90年代にディズニーのプロデューサーとして「美女と野獣」「ライオンキング」など数々のヒット作を生み出し、第2次黄金期を築いたことでも知られる。CEOは米IT大手、ヒューレット・パッカードのCEOなどを歴任した女性のメグ・ホイットマン氏が務める。敏腕の2人がタッグを組んでいることも、クイビに熱い視線が注がれる理由だ。
◇スピルバーグ監督ら巨匠も参戦
米メディアによると、クイビは豊富な資金力を武器に巨匠監督や有名俳優を巻き込み、製作準備を進める。1年目で約7000作品の配信を目指し、一部は既に撮影中だ。スティーブン・スピルバーグ監督が手がける夜間限定配信のホラー系作品や、2018年に「シェイプ・オブ・ウォーター」で米アカデミー賞の作品賞などを受賞したギレルモ・デル・トロ監督によるモダンなゾンビストーリーも予定されている。米人気映画「アベンジャーズ」シリーズなどで知られる俳優のドン・チードル氏はSFドラマに出演する。米NBCテレビや英BBC放送、米スポーツ専門局ESPNもニュース番組を提供するという。
一方、日本でも人気の写真・動画共有サービス「スナップチャット」は昨年秋から、スマホ画面に対応した縦型のオリジナル作品の配信を始めた。1話5分程度で、人気ドラマ「デッドガールズ・ディテクティブ・エージェンシー」は世界で1400万人以上が視聴したとされる。他にも、近くサービスを始める予定の「フィクト」は、ベストセラー小説などを基にした1話10分前後の動画を配信し、視聴者の選択が物語の展開に反映される機能も加える。
◇あふれる動画サービス 差別化が鍵
ただ、こうした短編動画ビジネスがどこまで成功するかは不透明だ。人気作の多いネットフリックスや「アマゾン・プライム・ビデオ」などの有料配信動画はスマホでも視聴可能なほか、短い映像は無料の動画投稿サイト「ユーチューブ」や各種ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にもあふれている。
米調査会社フォレスター・リサーチの主席アナリスト、ジェームズ・マキベイ氏は「人々はスマホで長い映像も一時停止したりしながら楽しんでいる。動画サービスは飽和状態で新たな成功は容易ではなく、クイビは市場を読み誤っている」と指摘した上で、「利用者の興味や生活環境などにあわせた短編動画が自動配信されるターゲティングのような機能を確立できれば、大きなチャンスがあるだろう」と見る。
懐疑的な見方に対し、ホイットマン氏は米メディアのインタビューで「スマホ用に最適化されたハリウッド映画レベルの短編映像の配信はこれまでなかった。私たちはネットフリックスの競合ではなく、新たな選択肢を提供する」と自信を見せている。
ますます過熱するインターネット時代の映像ビジネス。来春以降の動きから目が離せない。
