AIが人間を孤独から解放する? ゲームAI開発者が語る未来「人間中心の社会が変わっていく」
人間と同等の知能や外見を持つアンドロイドが実現したら、人間にどのような影響をもたらすのか。そんなテーマを描いた実験的な作品が、2018年に発売されて話題になったプレイステーション4向けソフト「Detroit: Become Human」(以下、Detroit)だ。アンドロイドと人間が共生する社会で、プレイヤーはアンドロイドの視点で人間たちと接し、物語を進めていく。
Detroitファンを公言するスクウェア・エニックス リードAIリサーチャーの三宅陽一郎さんは、「AIの本を10冊読むより、Detroitを1回プレイするほうがAIについて理解できる」と主張する。作中のアンドロイドは「アンドロイドだから」という理由で人間たちから差別を受けたり、暴行されたりする。三宅さんに限らず、多くのプレイヤーが衝撃を受けたはずだ。
Detroitは私たちに何を訴えようとしたのか。また、アンドロイドと人間が共生する未来では何が起きるのか。9月13日に日本科学未来館で開催されたトークイベントに、Detroitの脚本とディレクターを務めた仏Quantic Dreamのデヴィッド・ケイジCEO、三宅さん、筑波大学システム情報系の大澤博隆助教が登壇し、AIと人間の未来について議論した。
●「これはSFではなく、人間の歴史だ」
まずは、Detroitのストーリーを見ていこう。
2038年、デトロイト...。人工知能やロボット工学が高度に発展を遂げた、アンドロイド産業の都。人間と同等の外見、知性を兼ね備え、様々な労働や作業を人間に代わって担うようになったアンドロイドは、社会にとって不可欠な存在となり、人類はかつてない豊かさを手にいれた。しかし、その一方で、職を奪われた人々による反アンドロイド感情が高まるなど、社会には新たな軋轢と緊張が生まれはじめる。 そんな中、奇妙な個体が発見される。「変異体」と名付けられたそのアンドロイドたちは、あたかも自らの意志を持つかのように行動しはじめたのだった。
SFではよく見られるテーマだが、Detroitは実写のようなグラフィックとプレイヤーの感情を大きく揺さぶる物語、膨大なシナリオ分岐を備えるシステムなどによって、世界中で話題になった。
デヴィッドCEOは「SFを作ろうとしたわけではない。(作中で登場する)こういう技術があったらどんな世界になるかを想像しようとした。アンドロイドを間に置いて人間社会を考えようとした」と説明する。作中に登場するアンドロイドは人間っぽくなるよう、細かい調整を重ねたという。人間そっくりのアンドロイドを前にして人間は何を思うのか? というのは、Detroitが投げかける問いの1つだ。
Detroitの世界でアンドロイドは「便利な道具」とみなされ、参政権や基本的人権などは持たない。例えば、電車やバスなどの公共交通機関では、アンドロイド専用の乗り場と立ち乗りスペースが設けられている。現実でもこうした人種差別の歴史はあった。デヴィッドCEO自身、「Detroitでは人間の歴史を描いた」と語った。
「新しい知性を持つ種族が出てきたときに、われわれ人間はどういう立場を取るだろうか」とデヴィッドCEOは聴衆に問いかける。しょせん機械だと思うのか、人間の立ち場を揺るがす脅威と感じるのか、それとも人間と同じような態度で接するのか。人によってその振る舞いは大きく変わるだろう。作中に登場する人間たちの態度もさまざまだ。
大澤助教も、こうしたバス車内のシーンなどに感銘を受けたと話す。「(犬型ロボットの)aiboにさえ人間は感情が動いてしまう。高度AIが実現したら、人間はものすごく影響を受けるはず。(AIを備えたロボットに関する)倫理基準や社会的コンセンサスなどはあったほうがいいだろう」(大澤助教)
●人間を孤独や争いから救う? AIが持つ可能性
では、高度に発展したAIは人間にどのような影響を及ぼすのだろうか。
ゲームAI開発者の三宅さんは、「AIがこれまでの技術と違うのは、人と人の関係性を変える可能性を持っていること。AIが人と人の間で生じる摩擦を除去してくれる」と話す。どういうことなのか。
三宅さんは、AIが間に割って入ることで、SNS上での言い争いも緩和できるのではないかと考える。今でもSNS上には多くのbotがいるが、知らない間にbotが人間のけんかを仲裁してくれるようになったりするのかもしれない。裏を返せば、争いを激化させたり、差別や偏見を助長したりといった使い方もできてしまうだろう。
いずれにせよ、AIが担う役割は増えてくるはずだ。「SFの世界では、AIだけと会話する生活を送る人間も案外幸せに暮らしていたりするが、(その世界で生きる人は)何かを失っている。人間は摩擦しながら生きていく部分があるが、AIはその摩擦を人間ほどうまく吸収できない」と三宅さん。「将来、SNS中毒みたいにAI中毒みたいなものが出てくるのかもしれない」と、AIはもろ刃の剣であると指摘する。
●AIは「人間の知能を相対化する」
三宅さんは、AI開発やゲームというメディアが持つ可能性についても語った。
「AIを作る面白さは、人間の知能を相対化できること。人間は最も高い知能を持つ生命として孤独な存在で、対等な視点を望んでおり、それがAI研究を進めるドライブにもなっている。AIの作り手としては、最終的にはAIは人の手から離れて生命体として自律してほしい。人間中心の社会を相対化できれば、社会のデザインも変わってくるだろう」(三宅さん)
人間と同等の高度なAIを望みながら、同時に恐れも抱いているという三宅さん。自身も「FINAL FANTASY XV」にAIを搭載するキャラクターを実装するなど、ゲームというメディアを通してAIと人間が出会う場を作っている。
「デジタルゲームは、AIと人間が出会うメディア。(プレイヤーに)AIとの出会いを与えることで、人間の“知能感”が変わるような体験をしてもらいたい」(三宅さん)
