和光、戸田、流山「東京駅20km圏」エリアがいま注目される理由、「100km圏」で起きた新幹線通勤ブーム

和光、戸田、流山──「東京駅20km圏」エリアがいま注目される理由

つくばエクスプレス(TX)「流山おおたかの森駅」前広場と巨大ショッピングセンター(筆者撮影。以下同)

■30年前、「100km圏」で起きた“新幹線通勤ブーム”

この3月下旬に国土交通省から公示地価がリリースされ、「全国全用途平均で4年連続上昇」「地方圏の住宅地が27年ぶりにプラスに転じた」と大手メディアは報じた。全国的に「上昇基調」が強まっているかのような印象を受けるが、「既にピークを過ぎている」という声も多く、不動産業界の実感とはほど遠い。

少なくとも、日本全体の地価が底上げされているとは言い難い。現状を象徴的に表すのが、東京都心と地方都市における商業地の最高価格地点の違いだ。昭和と平成の変り目に起きた「平成バブル」のピーク、1991年地価公示のトップは中央区銀座で、1m2当り3850万円。ボトムは鳥取駅前の121万円で、トップとの差は32倍だった。ところが今年は、銀座が5270万円、鳥取が13.4万円。格差は400倍近くに拡大している。

平成から新元号「令和」への変り目である現在もまた“バブル”といわれる。しかし、30年前とはかなり様相が違う。平成バブルでは、地価高騰の勢いが都心から郊外へ、地方へと急速に波及した。サラリーマンが持てるマイホームの対象エリアはどんどん遠隔化し、ついには、新幹線でなければ通勤できない「東京駅から100km圏」まで膨張した。

「東京100km圏」というと、新幹線でいえば東京駅から所要時間50分前後。東海道新幹線なら「三島駅」、上越新幹線の「高崎駅」、東北新幹線の「宇都宮駅」で囲んだ同心円に等しい。それでもマイホームが欲しいと、新幹線定期券「FREX」を使って通勤するサラリーマンも少なくなかった。新幹線通勤ブームはバブル崩壊とともに萎んでいったが……。

■サラリーマンがマイホームを持てるエリアはどこ?

東京都区部の新築マンションの平均価格が7000万円を超えているのに対して、埼玉や千葉の20km圏なら、新築で4000~5000万円、中古なら3000万円台でも購入できる水準だ

現在のサラリーマンが購入できるエリアを探ると、かつての通勤限界点ともいえる「100km圏」まで足を伸ばす必要はない。わずか5分の1程度の「20km圏」でも十分に可能だ。都心までダイレクトに行ける在来線の鉄道路線なら、JR山手線ターミナルまで30分前後で行ける範囲である。そんなエリアの中で、マイホームの立地選びとしては、どこに目を付けている人が多いのだろうか。その答えは、人口や地価の動きに表れている。

全国的に人口減少社会へと進む一方で、東京圏は23年連続転入超過の一人勝ち。都県別では東京都がダントツ1位だが、2位に埼玉県、3位に千葉県と続く。埼玉県の中で人口の自然増加率が高いのは、1位が戸田市(4.4‰)、2位が和光市(4.3‰)である(※)。自然増加率は域内総人口に対する「出生数‐死亡数」の割合。この比率の高さは、子育てファミリー層が増えていることに結び付く。この2つの市がちょうど「20km圏」に当たる。

和光市は、埼玉県内の市区町村別の地価上昇率で第1位(+3.3%。2019年地価公示)。戸田市も2.2%上昇した。戸田市にはJR埼京線の「戸田駅」など、和光市には東武東上線・東京メトロ副都心線・有楽町線の「和光市駅」がある。

両市には、東京都に隣接する利便性だけではない特徴がある。和光市は、本田技術研究所や理研を始めとした研究施設が多数集まるという知の拠点性。戸田市は埼玉県の「地域子育て応援タウン」認定第1号で、「産前産後支援ヘルプサービス」「子どもトワイライトステイ」などの子育て支援サービスが充実している。市町村別の平均年齢の調査では、若い順に1位が戸田市、2位が和光市となっている。

TXとJR武蔵野線が交差する「南流山駅」。近くに「駅前送迎保育ステーション」や「シェアオフィス」などがある

千葉県の「20km圏」で注目度No1.は流山市だろう。同市の人口増加率は2.67%(2017年、総務省)。人口10万人以上の都市の中で、東京都中央区(4.8%)、大阪市北区(2.78%)に次いで全国第3位となる。年少人口(0~14歳)の転入超過数のランキングでも、1位がさいたま市、2位が流山市である(2018年、総務省)。

流山市の地価は、市全域の平均では「+0.3%」と高くないものの、つくばエクスプレス沿線の流山おおたかの森駅、同沿線とJR武蔵野線が接続する南流山駅の周辺では、2%前後の上昇率を記録した地点が複数ある。LIFULL HOME'S総研が調査した「買ってみたい街ランキング(首都圏)」では、2017~19年の3年連続で流山おおたかの森駅がトップ10以内に入った。

同市は、共働き子育て家族への人気の高さでも知られる。市の公式サイトに「母になるなら、流山市」というキャッチフレーズを掲げ、駅前送迎保育ステーションの設置、学童クラブの整備など、「働きながら子育てができる街」づくりを推進した結果だ。PRが成功して子育てファミリーが集まりすぎたのか、最近は一時的に待機児童が増えたり、希望の学校に通えなかったり、という現状は御愛嬌か。

単に子育て環境が良いだけでなく、行政と市民が連携して、共働きママの働く場やコミュニティづくりに力を入れているのも同市の特徴だろう。たとえば、流山在住ママが「コワーキング型のサテライトオフィス」を起ち上げた。提携した企業のリモートオフィス、起業家やフリーランスのシェアオフィスとして活用でき、女性の起業サポートも行う。

都心のオフィスに通わなければならないと、保育園への送り迎えのために「時短勤務」にならざるをえないことも多い。自宅の近くに保育園とリモートオフィスがあれば、子育てしながらフルタイムで勤務できる。「職住近接」は、都心に住まなくても成立するわけだ。

「東京メガループ」の中心沿線、JR武蔵野線の「新三郷駅」前には「ららぽーと」「IKEA」「コストコ」が三つ巴の進出。平日の昼間に撮影したが、子育てファミリーや高齢夫婦を始め、買い物客でごった返していた。同沿線の「越谷レイクタウン駅」には県内最大級のイオンSCもある。わざわざ都心に買い物に出なくても、マンモス量販店が揃うこの界隈であらかた賄ってしまう

「20km圏」を別の角度から説明すると、鉄道でいえば、JR東日本が「東京メガループ」と呼ぶ環状路線群<南武線(横浜線)-武蔵野線-京葉線>と多くのエリアで重なる。車ルートでは、2018年6月に千葉区間が開通した「東京外環自動車道」とも寄り添う。常磐道「流山IC」出口附近にできた「日本最大級の物流タウン」を始め、外環道周辺にはマルチテナント型の物流施設が続々と誕生。働く人やモノが20km圏に集まっている。

人が住み働き、子育てをし、モノが集まる街は、これからも人々を魅了し続ける。

※「‰」は「パーミル(千分率)」。データは、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成30年1月1日現在)」

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