京アニ放火、遅れる被害者氏名公表 識者「警察は国民を意識か」「扱いはメディアが判断を」

京アニ放火、遅れる被害者氏名公表 識者「警察は国民を意識か」「扱いはメディアが判断を」

 京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」(京アニ、本社・京都府宇治市)の第1スタジオであった放火殺人事件は8月1日で発生から2週間。京都府警は亡くなった35人の身元特定を終えたが、いまだに氏名など身元の公表には至っていない。府警が遺族らの心情に配慮し、公表の内容や時期、方法などを多角的に検討してきたためだが、こうした異例ともいえる対応を専門家らはどう見るのか。

 府警は事件が発生した7月18日以降、家族からDNAサンプルの提供を受けるなどして身元の特定作業を実施。1カ所で多くの人が犠牲となったことや、年齢層が20~30代に集中していることなどから慎重に作業を進め、25日までに34人について身元を特定した。27日に亡くなった男性についても同様で、31日の時点で、ほぼすべての遺体を遺族に引き渡している。

 ただ、この段階に至っても犠牲者の氏名公表はまだ実現していない。「一番配慮しないといけないのは遺族」(府警幹部)という考えから、公表の時期をいつにするかや、全員そろって公表するのかどうかなどについて、府警が慎重に検討している点が大きい。

 一般的に殺人事件では、警察は事件の重大性や社会的反響を考慮し、被害者の身元を明らかにしている。刑事部門での勤務経験が長い、ある警察OBは「遺族の意向や捜査への支障を考慮して匿名発表とするケースはあるが、基本的には容疑者、被害者ともに速やかに身元を公表することを前提に動いている」と話す。

 例えば犯人が逃走中の事件では、被害者の身元を公表することで犯人の特定につながる情報がもたらされることもあるからで、元警視庁成城署長で殺人事件被害者遺族の会「宙(そら)の会」特別参与、土田猛氏も「公表に慎重な姿勢を取っているのは、すでに容疑者の身柄が拘束されていることが大きい」とする。

 一方、災害時の個人情報保護に詳しい新潟大の鈴木正朝(まさとも)教授は「洪水や地震などの広域災害時は、生存確認のための実名公表が必要」とした上で、「今回のように被害者が一つの企業の社員らという事件では、メディアスクラム(集団的過熱取材)を考え、警察が実名公表を控えるというのはあり得る」と予測する。

 報道で被害実態を明らかにして事実を伝えることは重要だが、特に今回は世間の関心が高いため「実名公表によってメディアが遺族に取材に行くことを国民がどう捉えるかを、警察は意識しているのではないか」とみる。

 一方、羽衣国際大の浮田哲(うきだてつ)教授(メディア論)は「インターネット社会では被害者の名前が公表されないままだと、被害に遭っていない人が被害者として挙げられるなど誤った情報が流れる可能性もある」と実名公表がなされなかった際の影響を危惧する。

 さらに「警察が公表基準を明らかにしないまま情報をコントロールするのは危険。基本的に警察は情報を出すべきで、扱い方は各メディアが判断すべきだ」と指摘した上で、「当然メディア側も被害者感情に配慮する必要があり、警察とメディアが協議していく必要がある」と述べ、メディア側の対応も重要だとの見方を示した。

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接点浮上も動機見えず 京アニ、事件から2週間

 京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオで起きた放火殺人事件で、逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41)の自宅から、同社制作の人気アニメのサイン色紙が押収されていたことが、捜査関係者への取材で判明した。青葉容疑者はこの作品の「聖地」と呼ばれる場所を事件直前にうろついたり、同社に小説を応募したりしていたとみられる。1日で事件から2週間を迎え、容疑者と同社の接点が明らかになってきたが、詳しい動機は不明のままだ。

 青葉容疑者は先月18日午前10時半ごろ、スタジオ玄関から侵入した直後にガソリンをまいて放火した疑いが持たれている。事件直後に身柄を確保される際、「(同社が)小説をパクりやがって」と叫んだが、当初は同社との関わりが分からなかった。

 京都府警は同26日、さいたま市にある容疑者宅の捜索で、同社制作のアニメ作品や関連グッズ、原稿用紙などを押収。この頃、青葉容疑者と同姓同名で住所・連絡先が一致する人物が、同社に小説を応募していたことも情報提供され、ようやく接点が浮上した。

 捜査関係者によると、応募小説の内容は同社が制作する作品と似たジャンルで、小説の体を成していたというが、1次審査で落選している。

 またインターネット上の掲示板で昨年9~11月、「(同社に)原稿を落とされた」「爆発物もって京アニに突っ込む」などと記された投稿も確認された。記載者の経歴などから、府警は青葉容疑者が投稿したとの見方を強めている。同社のホームページ(HP)にも同時期、特定社員への殺害予告や社への脅迫が200回ほど書き込まれており、府警が関連を調べている。

 一方、青葉容疑者が事件直前、同社制作の人気アニメ「響け!ユーフォニアム」に絡み、ファンの間で「聖地」と呼ばれているJR宇治駅周辺をうろつく姿が、複数の防犯カメラに映っていた。この作品のサイン色紙も押収されており、作品へのこだわりがうかがえる。

 容疑者と同社とのつながりが次第に分かってきたが、青葉容疑者は重篤で予断を許さない状況だ。回復まで1年以上かかるとの見方もある。このため、府警は押収物のパソコンやスマートフォンなどの通信機器の解析に力を入れ、動機解明へつなげたい考えだ。

 府警によると、1日現在、やけどなどで負傷した10人が入院。中には重篤な状態の被害者もいる。【小田中大、福富智、添島香苗】

京アニ励ます聖地に「いつもあなたのそばにある」

京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオで35人が死亡した放火殺人事件は1日、発生から2週間を迎えた。「聖地」と呼ばれる作品ゆかりの地に、大勢のファンが足を運び、この日も祈りをささげた。

「いつもあなたのそばにある」-。13年に放送されたテレビアニメ「たまこまーけっと」のモデルとなった京都市上京区の出町桝形(ますがた)商店街のアーケードには「いつもあなたのそばにある」と書かれた看板がある。同商店街を「聖地」として訪れるファンの要望で作中に登場する看板を“逆輸入”した。

スタッフの案内役となった当時の桝形事業協同組合理事長で、鮮魚店を営む井上淳さん(73)は「魚のさばき方、掃除の仕方、日常の細かいことを1つ1つ、丁寧に取材をされていった」と振り返った。事件後、井上さんが店先に置くファンの交流ノートには「ただただ祈っています」などの励ましの言葉が続々と寄せられている。アーケードには事件後、「私たちは皆さまが描いてきたとおりの人情と絆とで、変わらずここにいます」と記した手書きのメッセージをつり下げた。井上さんは「何もできないけど、京アニさんに寄り添うことはできる」と話した。

青葉容疑者は7月15日に京都入り。その後、京都府宇治市の防犯カメラに青葉容疑者の姿が映っていた。宇治市内には同社の人気アニメ「響け!ユーフォニアム」の舞台となった複数の場所があり、「聖地巡礼」ではないかとの見方もある。京アニとの「接点」は浮上してきたが、入院先の病院で治療を受けており、取り調べのめどはたっていない。【松浦隆司】

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